「わぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「なぁ〜っち!っをい!!なぁ〜っち!っをい!!」
「ののたぁぁぁぁぁぁん!!」
ヲタどもの、届きもしない声援を背に
私たちは下手へとはけていく
「みんな!この勢いで、アンコールも頑張ろう!」
メンバーに激励を送る。
「ねぇなっち…」
圭織が肩を叩いてきた。
「ん?どうしたの?」
「私…歌えないよ…」
「ど、どうして!?さっきまで元気だったじゃん?」
「声が…」
「どうせほとんど口パクなんだから、声なんて出なくても…
さ、金づる達が待ってるよ?行こう!」
「う、うん…でも…ヤッパリこんなの刺さったままじゃ恥かしいから…」
「え?」
急にあたりが暗くなったので、圭織の方を向きかえった。
「なっち…抜いて…」
鼻の脇からダラりと、窓枠をぶら下げて、
湧き水のように血を流し続けていて…
一生忘れられないだろう、あの場面だった…。
『ガキィィィ』
ドアの開く音で、目が覚めた。
一瞬自分がどこにいるのか分からなくなったが
すぐにあの絶望感は来てくれた。
うぅ…事故だ…
「紺野…足は…?」
矢口の声だ。
「はい。だいぶよくなって…」
「あれ…?そこに寝てるの…なっち?
なっちじゃん!!」
体を+激しく+ゆすって、矢口は私を起こして来た。
もう起きていたわけだから、私はすんなりと目を開ける。
「なっち…無事でよかった…。」
手を私の首に絡めて、抱き付いてくる。
人のぬくもり…安心感。
「矢口も…よかったぁ」
しばらくそうして、抱きしめあっていると
急に矢口が真剣な顔になり、紺野の方に
顔を向けた。
「紺野…やっぱりあっちも、ふさがれてた。…」
「・・・」
落胆混じりのため息をつく二人を見て、
大体予想はついていたものの、確認の意味もこめて
尋ねてみた。
「ねぇ…ふ、塞がれてるって…
出口…が?」
紺野がうなだれて、矢口が頷いた。
最悪だ・・・!
本当に最悪だ・・・
出口が・・・無い?ただ長いトンネルだと…
だから光が届いてないんだと思ってたのに…
「い、生き埋めじゃない・・・」
「なっち・・・」
頭を抱える私を矢口が
心配そうに覗き込んできた。
可愛らしい、アイドルの顔だ・・・。
そうだ!!!私たちはアイドルなのだ!
しかもそこいらのB級とかとは訳が違う、
トップアイドルなのだ!
「救助…救助が来てくれるはずよ…
この新幹線だって…ダイヤで動いてるんだから…
すぐにでも助けが助けに来てくれるはず・・・」
「うん…うん。そうだよ!すぐにでも・・・」
「事故が起きて、もうすぐ多分10時間…
どうして誰も…」
紺野が、私の考えと、矢口の慰めを打ち消すような
言葉を放ち、うつむいたまま続けた。
「…誰も来ない…死んじゃうんだ…
私たち…全員…。」
「紺野・・・」
疲れてるんだ…
こんな暗いばっかりのとこで、足を怪我して…
疲れてるんだ…
「紺野、ちょっと眠りな…。
大丈夫。助けは必ず来るよ。大丈夫。」
半ば自分にも言い聞かせるように、
紺野の前髪を撫で下ろした。
例の鈍い音がを鳴らして扉が開き、
小川が帰ってきた。
「おかえり。何か変わったことはあった・・・?」
矢口がたずねる。
「いえ・・・あ、でも…
着れそうな服を…持ってきました。。。」
そういえば、汗やらで服がべとべとだ。
「うっわサンキュー!着替えたかったんだよね〜!」
無理やり作った笑顔で矢口が、小川の持ってきたスポーツバックから
女性ものの服を一式つかみ出し、私のほうに投げてきた。
女性スタッフの物だろう…
取りあえず私は、それが遺品であることを覚悟した・・・。