「あ、ゴメン、そうねぇ〜やっぱり名前かなぁ〜?弘明さんなんてねぇ〜」
「あ〜弘明さんっていうんだぁ〜」全員がヒューヒュー言いながらはやし立
てる中、なつみが「で、本当のところ結婚する気なの?」と聞くと
「まだ、わかんないよ、お見合いで一回逢って、お家にお伺いするのに電話
でちょっと話しただけだし。」
「へぇ〜いきなり家にいくなら結婚する気十分ってことじゃない」
「圭織ぃ〜まあ、でも、迷っているのは確かなんだけどね」
「なにを迷ってるの?やっぱり、私たちより大きい娘がいるから?」
・・・そう、その娘の事が気になっているの・・・
「そうかもね、亜依ちゃん達の相手だけでも大変だからね」
「へ〜んだ、もっと困らして結婚できないようにしちゃうぞぉ〜!」
「コラ!あいぼん!ゴメンね、裕ちゃんもうそろそろ次の現場行かなくちゃ
いけないの、お家に行った話はまた聞かせてね。みんな、さあ行くわよ〜
!」「は〜い!リーダー」と一斉に返事すると「裕ちゃんお幸せに〜」「頑
張ってねぇ〜」とそれぞれが一声を裕子にかけながら次の仕事に向かって
いった。
つづく
残された裕子は小さなため息をつくと、あの娘達が弘明さんの子供であった
らどんなに幸せだったんだろうか、いつも私の事を楽しませてくれる・・・
私を癒してくれる・・・でも、あの娘は私を・・・
でも、それが事実だとして私はそれを受け入れることができるの?
彼女が望むなら・・・ううん、違う私の望みを彼女が受け入れてくれるの?
本当にそれが私の望み?
わからない・・・
平凡がいい・・・
平凡って何?
自分を隠す事?でも、それはあの時からの私・・・
離婚してからの私・・・そのままでいいの?
つづく
お見合いから一週間たった土曜日の午後、裕子は藤本家に向かう電車に乗り
ながらもいまだに訪問することを迷っていた。
職場であるテレビ局のある駅を通り過ぎ、郊外に向かう私鉄へと乗り換える
駅のホームにあるベンチに座り小さな声で「ここじゃなくてもまだ引き返せ
るんだから」とつぶやくとやってきた急行電車に乗り込んだ。
つり革を握りふと顔を上げると男性週刊誌の中吊り広告が目に飛び込んでき
た、そこには美貴とよく似た目をしたモデルがボンデージウェアに身を包
み、まるで獲物を捕らえたライオンのように裕子を見据えていた。
「・・・み・き・さ・ま・・・」
裕子の頭の中から引き返すという選択肢が消え去ろうとしていた。
つづく