「うおおっ?」
ライダーののは後ろから突き飛ばされた。
「うわっ!」
ストロンガーはいきなり足をすくわれ転倒した。
カメレオン男はいやらしい攻撃をしつこく仕掛けてくる。
幸いにしてパワーは無い。
一方的に攻撃は受けるがほとんどダメージは無かった。
突然、カメレオン男の攻撃が止んだ。
「どこへ行った?」
あたりを見回すライダーののとストロンガー。
「しまった!」
いつの間にか男の姿が消えていることに気が付いた。
「ソニンさん!」
男の叫び声がした。ちょうどカメレオン男が男を連れて工場の奥へ行こうとしているところだった。
「待て!」
追おうとするライダーののとストロンガー。しかしその前にカニカブラーが立ちはだかった。
「どけ!」
「このぉ!」
しかしカニカブラーの硬い甲羅はライダーの攻撃にすらもビクともしない。
「ソニンさん!我々の力は、技術は所詮こんな程度です!」
「黙れ!」
カメレオン男が口を塞ごうとするが、男はその手を押しのけて続けた。
「我々に協力して下さい!我々は本気で、命がけでこの国を守りたいのです!
どうか私の代わりに研究所の部下達を導いてやって下さい!」
「で、でも私には何も記憶が・・・」
ベルスター、いやソニンは返答に困った。自分に一体何が出来るのか・・
「あなたなら大丈夫です!・・・頼みましたよ。」
「貴様いいかげんに・・・」
カメレオン男が手で男の顔を覆った。
「フン、貴様らに協力するぐらいなら・・・」
その時、轟音と共に男の体が爆発した。
「あっ!」
「・・・自爆した?」
男の体は粉微塵に吹き飛び、カメレオン男だけがその場に倒れていた。
ベルスターとライダーののは呆然とその様子を見ていた。
「うっ・・・」
ストロンガーは思わず目を伏せた。友人の死を思い出したのかもしれない・・
「ちっ!」
カニカブラーはそのスキを突いて3人に泡を吹いた。
「うわあ!」
「なんなのれすか?これは?」
泡が顔面に張り付き視界がさえぎられる。しかもなかなか剥がれない。
「4人対2人じゃ分が悪いか・・」
カニカブラーはそう言って後ろを振り返った。
「ハカイダー様、失敗です。引き上げましょう・・」
見るとカゲスターとハカイダーが何か話していた。
「姉ちゃん・・姉ちゃんなの?どうしてそんな姿に・・・」
信じられないといった様子でハカイダーに話しかけるカゲスター
「『姉ちゃん』?・・・お前は誰だ?」
「ユウキだよ!弟のユウキだよ!姉ちゃん!」
「弟?ユウキ?・・・」
「『ユウキ』・・・ううっ!」
ハカイダーは突然頭を抱えて苦しみ始めた。
「やっぱり!・・・姉ちゃんなんだろ?姉ちゃん!」
「貴様!何をしている!」
背後からカニカブラーが大きなハサミでなぎはらった。
カゲスターは真横にすっ飛び、工場の壁に叩きつけられた。
「ハカイダー様!大丈夫ですか?」
「ぐうう・・・」
ハカイダーは頭を抱えたまま膝を付き、座り込んでしまった。
「邪魔をするなー!」
カゲスターは立ち上がり猛然とカニカブラーに向かって行った。
「フン・・・・」
カニカブラーはカゲスターのパンチを胸の甲羅で軽く受け止める・・・つもりだった。
「ガコォン!」
ものすごい衝撃音が工場内に響いた。
「うおぉぉ・・・」
カニカブラーは2、3歩後退し、うめき声を上げた。
「貴様・・いったい・・」
さっきとはまるでパワーが違う。
カゲスターは次々とカニカブラーにパンチを浴びせる。
そのたびに凄まじい激突音が響く。
カニカブラーは反撃するが、軽く受け止められてしまう。
さっきは一撃でふっとばしたはずの相手である・・・
べスルターはその様子を、やっと剥がれかけた泡の下から見ていた。
「強い・・・」
これがカゲスターの本来の力なのか?・・・
「ミシィ!ベキッ!」
だんだんパンチの音が鈍くなっていく。カニカブラーの甲羅にヒビが入ってきたのだ。
「とどめだ!・・カゲパンチ!」
「グアアァァ・・・」
ついにカニカブラーはがっくりと膝を付き、その場に倒れこんだ。
カゲスターは振り返ってハカイダーの方を見た。
「姉ちゃ・・」
「危ない!」
ベルスターが叫んだ。
ハカイダーがこちらに銃を向けていた。
弾丸が発射される。
カゲスターはギリギリのところでそれをかわすと少し距離を取った。
「姉ちゃん?・・・」
さっきとはハカイダーの様子が違う。無言で2発目が発射された。
「ふう、ヒヤヒヤさせよって・・・」
プロフェッサー・ギルはホッとした表情でモニターを見ていた。
「『肉親の声』というのはなかなか厄介なものじゃわい」
手元には「緊急用」と書かれたスイッチがあり、それが「ON」になっていた。
「悪魔の笛」を応用した強力な電波で服従回路<イエッサー>を作動させ遠隔操作していたのである。
カゲスターはハカイダーの攻撃を避けながら違和感を感じていた。
動きが単調なのだ。まるで出来の悪い機械のような・・・
「ひょっとして・・」
カゲスターは一気に距離を詰めた。
マントを外しハカイダーの頭からすっぽりと被せた。
「カゲスター・電波遮断幕!」
そして後ろへ回り込み、両腕でハカイダーを抱きかかえた。
「姉ちゃん!・・・俺だよ!ユウキだよ!」
カゲスターは背後からハカイダーに語りかけた。
「う・・・ううう・・・うああああ!!」
ハカイダーはマントの中で再びうめき声を上げ、苦しみ始めた。
「姉ちゃん!」
「ユウキ?・・ユウキ・・・ユウキ・・・・・」
「そうだよ!」
ハカイダーの中で、今まで決して思い出せなかった幼い頃の記憶が少しだけ甦ってきた。
自分が友達と遊んでいる。
公園だろうか?景色はぼんやりとしてよく分からない。
友達の顔もピントがずれたようにはっきりしない。・・・
自分の後ろに小さい影がある。
あれは誰だろう・・・。
そして、自分はいったい誰なのだろうか・・
「う、くそっ・・・」
カニカブラーが目を覚まし、むっくりと起き上がった。
甲羅のヒビはすっかり元通りになっていた。
カニカブラーはゆっくりとカゲスターに近づいていく。
「あれを見てくらさい!」
「なんて奴!」
ライダーののとストロンガーは驚いた様子で言った。
「気を付けて!」
ベルスターが叫んだ。
まだ3人は視界が完全に回復していない。
それを見たカゲスターはハカイダーを腕から放し、カニカブラーに向かう。
ハカイダーはマントに包まれたまま倒れこみ、そのまま動かなかった。
再びカゲスターとカニカブラーが対峙する。
結果は同じだった。カゲスターが一方的に追い詰める。
「でも、一体どうして・・・」
ベルスターはカゲスターの変わりように驚いていた。
ユウキも今まで手を抜いていた訳ではない。必死に闘って来た。
しかし、少なからず迷いがあった。
それが今、姉と出合ったことでその迷いが吹っ切れたのである。
一方ハカイダーはマントの中で記憶の壁と戦っていた。
霞のようにぼんやりしていた記憶が、ユウキの声のせいか一部分だけはっきりして来た。
いつも自分の後ろにいた影のような人物。
その影は自分のことを「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と呼ぶ。
「お姉ちゃんのことは僕が・・・」
影がしゃべる。ユウキの顔だけがはっきりして来た。自分にそっくりな、
まるで生き写しの・・弟。
気が付くとマントの中でいつの間にか変身が解け、後藤真希の姿になっていた。
そうだ、自分には弟がいた。弟の名前は・・・・
「ユウキ、また生意気言って・・・」
記憶の中の幼い自分が弟に話し掛けた・・・
「ユウキ・・・ユウキなの?」
真希は立ち上がってマントを払いのけ、カゲスターに向かって叫んだ。
「ユウキ!」
突然の懐かしい姉の声にカゲスターは驚いて振り向いた。
見ると姉が昔のままの姿で、泣きそうな顔をしてこちらを見ている。
「姉ちゃん!」
「グォォ!」
カニカブラーはチャンスとばかりにハサミを振り上げる。
「邪魔だぁ!」
カゲスターは振り向きざまカニカブラーに強烈なパンチを見舞った。
その一撃で、カニカブラーは十数メートル後ろに吹っ飛んで倒れた。
胸に大きな穴が空いていた
「今だ!」
倒れたカニカブラーに対し、ストロンガーとベルスターは同時に動いた。
「エレクトリックファイアー!」
ストロンガーの必殺技が衝撃波となって地面を走る。
ところが衝撃波がカニカブラーに到達する直前、間に割り込む人影があった。
「これで終わりよ!ベルトマホーク!」
カニカブラーにトドメを刺そうと走りこんだベルスターだった。
「危ない!」
ストロンガーが声を上げる。
その声に振り向くベルスター。そこにエレクトリックファイアーが直撃した。
「きゃああああ!」
強力な電気ショックを受けたベルスターは悲鳴を残し、まるで煙のように姿を消した。
「き、消えた?」
目の前で起きたことを呆然と見つめるライダーののとストロンガー。
そこへ銃声が響いた。
銃声の方を見るとカゲスターが脇腹を押さえて立っていた。
カゲスターは真希の姿を見た後、振り返ってカニカブラーを倒した。
しかし再度振り返った時、目の前に立っていたのは真希ではなくハカイダーであった。
「ね・・姉ちゃん。」
ハカイダーの足元にはカゲスターのマント、「電波遮断幕」が落ちていた。
真希がマントから顔を出した瞬間、再び強力な電波がハカイダーを操っていた。
「あの電波を遮るとは・・・しかしもう安心じゃわい」
プロフェッサー・ギルはモニターを見ながらホッとした様子でつぶやいた。
「トドメを刺せ・・」
もう一発銃声が響いた。今度は弾丸がカゲスターの右胸を直撃した。
「ぐうっ・・姉ちゃん」
カゲスターはよろよろとハカイダーに近づく。
ハカイダーは無言で銃を向けさらに引き金を引く・・
「しまった、弾切れか!」
プロフェッサー・ギルがモニターの前で叫んだ。
ハカイダーは空になった銃の引き金を繰り返し引き続ける。
電波による操作はあまり複雑な動きは出来ないようだ。
慌ててプログラムを切り替えようとするギル。
しかしそれより早くカゲスターはハカイダーに抱きつき、マントを拾い上げると頭から被った。
マントの中でもがく2人。
しばらくすると2人とも動かなくなった。
マントの中では再び変身の解けた真希にカゲスターが抱きついていた。
「姉ちゃん・・・痛いよ・・」
真希は目の前のカゲスターの姿に驚いたが、さっきの事を思い出して話しかけた。
「ユウキ?あなたはユウキなの?」
「そうだよ・・姉ちゃん・・」
「これは・・私がやったの?私がユウキを撃ったの?」
「・・丈夫だよ・・・大丈夫だよ・・」
「教えてユウキ!あなたは私の弟でしょ?私は・・・いったい誰なの?」
「姉ちゃん・・・姉ちゃんは」
「私はどうしたらいいの?教えて、ユウキ!」
「大丈夫だよ、姉ちゃんのことは・・・」
「ユウキ!しっかりして!」
「姉ちゃんのことは俺が守・・・・」
そこでカゲスターの言葉は途切れた。
「ユウキ?・・」
次第にカゲスターの体の影が薄くなっていく・・
「待って、行かないで!私を一人にしないで!お願い、ユウキ!」
カゲスターの体が消え、同時に2人を包んでいたマントも消えた。
「うっ・・・」
マントが消えた瞬間真希は、一瞬苦しそうな顔を見せた。
しかしすぐ無表情になると立ち上がり、工場の奥へ歩き出した。
「待つのれす!」
それを見たライダーののとストロンガーが駆け出した。
「グァァ!!」
そこへ復活したカニカブラーが立ち塞がった。
「まだ生きていたのれすか?」
「あんた、しつこいわよ!」
真希は振り向きもせず工場の奥に姿を消した。
ザ・カゲスター 〜東京進出編〜 後編 完
つづく