一方そのころ、加護生化学研究所では少女たちが圭織と圭の容態を見守って
いた。あれから半日近くが経過したが、なお二人の意識は戻らなかった。
なつみはその間中、ポッドの中で眠る二人の姿を見つめていた。何も事情を
知らぬ者がみれば、二人が直面している生命の危機など想像もできないだろうが
間違いなく二人は後一日と十数時間で死ぬかもしれないのである。
「ごめんね・・・なっちのせいで」
そう言って、なつみは静かにその手をポッドのキャノピーに添える。眠る友の
姿に、戦いへの決意を強くした瞬間である。と、その時だ。
『コンコン・・・』
「えっ?」
強化ガラスの向こうから聞こえた小さな音。それは意識を取り戻した圭が、
ポッドの中からガラスを叩く音だった。その音に気づいたなつみはポッドの
中をのぞき込むと、圭がキャノピーの自動ロックのあたりを指さしてなにやら
訴えているように見えた。その仕草の意味を理解し、たなつみはすぐさま
ポッドの周囲を見回してコンソールを探し当てると、ロックを解除して
ポッドを開いた。意識が戻ったからといって体力の戻っていない圭のポッドを
開くことがよいことなのかどうか、そんなことを判断している暇はなつみには
なかった。
やがてゆっくりと開く強化ガラスのキャノピーの向こうから姿を見せたのは、
少し疲れたような表情を見せながら体を起こした圭の姿だった。
「誰のせいでもないって。そこまで気にする事じゃないよ」
「無理しちゃだめだよ、圭ちゃん!まだ休んでなきゃだめだって」
ポッドから出て立ち上がろうとする圭の肩に手を添え、再び横になるよう
促すなつみ。圭はそんななつみの言葉に気丈に笑顔で答えると、彼女の肩に
添えられたなつみの手に、そっと自らの手を重ねて言う。
「あのね、こんな時になんだけどさ、これだけは聞いて欲しいんだ」
「何・・・何なの?急にあらたまって」
突然の圭の言葉に不思議そうな表情を見せるなつみ。やがて圭はそんな彼女
を諭すように優しく語り始める。
「自分の仲間とか絆、っていうの?そういうのもっと大事にしなきゃ
ダメだよ。今のなっちのこと判ってくれるの、きっとみんなだけだよ。
それをもっと大事にしようよ」
「うん。でもさぁ、圭織だって・・・」
「まぁ圭織も言い過ぎっちゃそうだけど・・・でもやっぱり自分の悪い
ところは改めなきゃ。今度の事が片づいたらさ、二人でよく話してみたら
いいよ・・・」
と言いかけたところで突然咳き込む圭。肺に進入した鱗粉が呼吸を妨げた
のだろうか。やがて咳が収まり、落ち着きを取り戻したところで圭は再び
言葉を続けることができるようになった。
「それとね、裕ちゃんがいなくなったのは間違いなくゼティマの仕業
だよ。私たちを襲った奴らの仲間が攫ったって。でもね、絶対一人で
戦おうなんて思っちゃだめだからね?みんながついてるんだから・・・
私と圭織は一緒には行けないけどさ」
「うん・・・」
圭の大きな目がなつみの顔を見つめている。その視線には戦いの時に見せる
野獣のような鋭さとは違う、暖かさと優しさが宿っている。この瞳を裏切る
事はできない、となつみは感じていた。
程なくして、自分の言葉が伝わったと感じた圭は自らの意志で再び身を横たえて
しばしの眠りにつく。やがて、ポッドに起きた異変を知った他の少女が駆けつけたが
そのころには圭はすっかり眠ってしまっていた。駆けつけた少女たちになつみは
圭が意識を取り戻したことと、彼女の言葉を伝えた。その言葉に少女たちは、戦い
に向けての決意を新たにする。そして、その中にはひとみと梨華によって見いだされた
新たなる仲間、新垣里沙の姿もあった。かくして、少女たちにとって激動の一日が
終わろうとしていた。タイムリミットはあと1日。