一方の幽霊博士は卑屈な笑みを浮かべてさらに恐ろしいことを言ってのける。
「小娘狩りは今も継続中じゃ。三人以外は目星もついとる。だが何しろ数が
数だからのぉ、骨の折れる話よ。以前蝙蝠男に命じていた分は邪魔が入ったり
無関係な小娘を殺してしまったこともあるが・・・誤差は予定の範疇よ」
と、ここで一つ補足をしておかなければならない。少なくともまゆみが加護
博士らとともに「育てていた」のはごくわずかな人数である。20000人と
いうのはあくまでも彼女たちの眼鏡にかなうか否かをはかるべく、ふるいに
かけられたサンプル数にすぎない。言うなれば20000人の少女達は同じ
一つのオーディションを受験したようなものである。
しかし幽霊博士にとっては予選だろうが最終選考だろうがオーディションを
受けたことが問題なのであって、その候補者ともいうべき少女達全員が殺戮の
対象なのである。
この事態に至った原因は、加護博士の手からサンプルとなった少女達のデータ
が根こそぎ奪われてしまったことにある。リストを強奪したゼティマは日本侵略
のための工作を進める一方で、こうした少女達を次々と殺していたのである。
蝙蝠男によって引き起こされた連続少女吸血殺人事件もその一環であった。
「蝙蝠男の事件なら聞いたことがあるぞ。無差別吸血殺人事件として当時
ニュースになったが・・・あいかわらず惨いことをする連中だ、お前達は!」
怒りに肩を震わせて叫ぶまゆみに対して、幽霊博士は悪びれる様子もなく平然と
言った。
「それだけではない、加護と言う男は口の堅いやつでな。それならと孫娘を
標的にしたこともあったが、まさかあのような形でよみがえってくるとは
思わなんだ・・・我らが築いたクローン技術まで流出しておったとはのぉ」
「先生のお孫さんまで狙ったのか、お前らはっ!この人でなしめ!!」
真里がかつて連れ去られた吸血殺人事件、そして希美が改造人間となるきっかけ
となったあの火事も、ある一つの目的のために引き起こされたものだった。しかし、
この悪の秘密結社はなぜそこまでこれらの少女達を執拗に標的にしていたのか。
その答えは、幽霊博士自身がまゆみへの詰問という形で提示した。
「あの小娘どものうちの誰かが2つの『ギア』を持っているに違いない。加護か
つんくめが送りつけたに決まっておるわい!」
「先生やつんく君まで手にかけて・・・そこまでしてあれが欲しいのか」
「いかにも・・・あれは新世界の王にこそ相応しい。しかし他者の手に渡れば、
その者は世紀王、ひいては創世王の敵となるであろう。何者がキングストーンを
継承するかは知らぬが、その時にギアが敵の手にあっては困るのじゃよ」
そして、ひとしきり話し終えたところで幽霊博士は一つ息をついて言った。
「さて、もうおしゃべりはいいじゃろう。夏まゆみ、儂はお前さんを買って
おったが・・・残念な事じゃ」