46 :
名無し天狗:
数刻前・・・
ユキは化身忍者誕生の秘伝書を奪って逃げた血車党の下忍を追っていた。
野を越え、林を越え、山を越え、谷を越え、川を越え、手裏剣や忍術の応酬と共に
繰り広げられる追跡劇。血車党下忍が隠れ身で抵抗すれば、ユキもまた奇襲で応戦する。
やがて、江戸を離れて秩父の山奥に下忍を追い詰めたユキは、好機到来とばかりに次なる術の構えを取った。
だが・・・!
「ハッハッハッハッハ……よくぞ来た五木の女狐、
見上げた執念じゃ、褒めてつかわすぞ!」
聞き覚えのある忌わしき声にハッとなり、辺りを見回すユキ。
その彼女の視界に現われたのは・・・!!
「!貴様は・・・あの時の髑髏顔の忍者!!」
「ククク…血車党の骸丸と覚えてもらおうか。
飛んで火に入る夏の虫、最早袋の鼠と覚悟せぃ!!者共、出ろぉ!!!」
崖の上に現われた骸丸の一声に、周辺の至るところに隠れ潜んでいた
大勢の血車党下忍が一斉に姿を現わした!
彼らは弓矢、短銃、爆裂弾、毒手裏剣、果ては大砲までも携え、
ユキの行動範囲を前後・左右・上下・川の中や地面の下に至るまで
隈なく取り囲んでいた。
しかも彼らは皆遠巻きに攻めるのみならず、
至近距離との二段構えでユキを仕留めようと狙っていたのだ!!
万事休す。これまで優勢に立っていたユキは、忽ち劣勢に追い遣られてしまった・・・・・・。
だが、ユキは決して最期まで希望を捨てなかった。
47 :
名無し天狗:03/03/21 23:22 ID:S9p+4zVh
「それー、掛かれぇ!!」
骸丸の号令一下、血車党の下忍たちは思い思いの武器や術でユキに一斉攻撃を仕掛けた。
邸内同様に回避を繰り返すユキであったが、今回は勝手が違い、ほぼ同時に攻撃が矢継ぎ早にユキを襲う。
ユキは防戦一方がやっとであった。
だが、血車党は彼女に反撃の余裕を決して与えない。
情け容赦なく雨あられと降り注ぐ矢・銃弾・爆裂弾・毒手裏剣・そして砲弾・・・・・・
それでもユキは持てる力を振り絞って回避に次ぐ回避を繰り返して、
密書を奪った下忍への接近を試みる。
しかし、血車党が勿論それを許す訳など無く、更に攻撃の手を強めていく。
やがてユキは、目指す密書に一歩も近づけぬまま血だるまと化した。
動きはすっかり鈍り、立っていることもままならず片膝をつくユキ・・・。
着衣もあちこちが焼け落ち、傷と痣と血にまみれた肌が覗く。
息も乱れ、遂には戦うことはおろか、身動き一つ取れぬほど困憊していた。
48 :
名無し天狗:03/03/21 23:46 ID:S9p+4zVh
・・・無念なれど、ここは一時退くより他に無し。
絶望の渕に立たされたユキに遺された道は、最早それしか残されていなかった。
だが、十重二十重に周囲を血車党に包囲された中をいかに脱するか・・・・・・。
ユキは思案の末、一か八かの賭けに出た。それは・・・
“微塵隠れ”。
だが、大量の爆薬を使い、自爆と見せかけて戦線離脱するこの忍法は、今のユキには危険すぎる。
されどユキには迷っている暇などない。ユキは、万に一つの生還の可能性に賭けた!!
ドゴオオオォォォォ・・・・・・ン!!!
激しい轟音!噴き上がる爆炎!!もうもうと立ち込める噴煙!!
血車党は忽ち大混乱に陥った!!
「ええい、うろたえるな!落ち着いてじっくり捜せ!
見つけ出して今度こそあの女狐の息の根を止めるのだ!!」
骸丸は事態の収拾をすると共に、下忍らに探索を命じた。
だが、煙に撒かれたこの状態で人一人を捜し出すと言うのは困難である。
混乱は更に激化し、遂には同士討ちを始めてしまう有様であった。
49 :
名無し天狗:03/03/22 00:05 ID:UFbR8cij
暫くして、煙が晴れたそのあとには、既にユキの姿はなく、
その代わり、同士討ちで相次いで命を落とした下忍らの屍が累々としていた。
「おのれ小癪な・・・だが、まぁよい。あの様子ではどうせ長くは持つまい。
それに、我ら念願の“化身忍者誕生の秘伝書”も手に入った。
者共、引き揚げるぞ!!」
勝利の悦に入った骸丸は、生き残った下忍らを引き連れて意気揚々と撤退した。
・・・そして、血車党撤退より二刻後・・・
辛うじて死を免れたユキが、爆心地の下から這い出て来た。
命が助かったとは言え、全身隈なく重傷を負った彼女は、最早死人も同様であった。
が、“忍び”としての使命感が、彼女の身体を突き動かしたのだ。
かくしてユキは負傷した身体に鞭打って、事の次第を告げ、密書奪回の失敗を弘繁に伝えるために
江戸の五木邸に向かったのであった。
そして最後の力を振り絞って五木邸に辿り着き、門番に助けを求めようとした時に力尽き倒れた、
と言うのである。
50 :
名無し天狗:03/03/22 00:43 ID:UFbR8cij
「そうであったか・・・・・・いや、そちはよく働いた。大儀であった。
今はただ、身体をいたわるがよい。」
弘繁は、ユキにねぎらいの言葉を掛けたのち、家臣らを一堂に集めて評定を始めた。
無論、密書奪回の次なる手段についてである。
家臣らはあの手この手の策を練っては議論を交わすが、決定的な意見はなかなか出て来ず、
無常なまでに時が流れた。
そんな中、一人の老いた兵法者が五木邸を訪れた。
門番はすかさず彼を制する。
「待たれい!お主、血車の手の者か!?」
「案ずるな、わしは怪しいものではない!ここの主殿に逢いに来ただけじゃ。」
「・・・殿に、お目通りを願いたいと?」
「然様。貴公らの主殿にこうお伝えすればおわかりになろう。
失礼ながら、お耳を拝借・・・・・・。」
門番にそっと用件を耳打ちする老兵法者。
その彼の伝言を聞いた途端、門番は驚きの余り狼狽した。
「ハハハハハ・・・そう慌て召されずともよいではござらぬか。
さ、主殿にお取次ぎ願おうかの。」
老兵法者は、門番のうろたえる様を楽しむかのごとく笑いながら対面の許可を求めた。