二人がようやくライフステージに戻ったことで、安堵の表情を見せる少女たち。
それは亜依も同じだった。ミカと顔を見合わせて、互いに一瞬笑みを浮かべたが
すぐに二人の顔はまた険しさを帯びたものとなった。
「実は二人の肺に入り込んだ鱗粉よりも、ナノマシンの方が問題なんです」
「肺に入った毒鱗粉はそんなに量は多くないねん。これ見てんか?」
そう言って亜依は、二人の気管、そして肺のスキャン画像をモニタに表示
させる。少女たちの目がモニタに釘付けになる中、ミカが画面中の紫色に染まった
部分を図示しながら言う。
「この紫色の部分は、毒性を持つ異物が侵入したことを示すものです」
彼女のこの説明で、少女たちはそれが肺に取り込まれた毒鱗粉であることを容易に
理解した。それは肺の面積と比べると2割程度の分布でしかなく、確かに亜依の
言葉通り、取り込まれた量はそう多くないようであった。だが、ミカはナノマシン
こそが問題であるとつげた。それははたしてどういうことなのか。
「次にこれを見てください」
ミカが示した新たな画像、それは二人の体内において変身エネルギーを司る
ベルトの周囲と人工心臓、そして電子頭脳のスキャン画像である。
「点滅してるご飯粒くらいの点があると思います。それが敵のナノマシンです」
ミカの言葉通り、示された各部において集中的にとりついている光る点がある
のが少女たちにもはっきりわかった。
「左の方が量が多いですけど?」
そう言って愛が画像を指さして言う。よく見ると、二点の画像のうち左側に表示
されたものの方が明らかに点滅している点、つまりナノマシンが多いのである。
「それは保田さんの方やな。二人の位置関係にもよるんやろうけど、飯田さんを
かばった可能性もあるなぁ・・・おばちゃんらしいっちゃそうなんやろうけど」
亜依の一言がなつみの胸にまたも突き刺さる。一瞬画像から目を背けてしまったが
再び視線をあげて目の前の事実と対峙する。しかし判らないのはナノマシンの効力
だ。ドクガロイドは「変身しようとすればエネルギーを放出して死に至る」という
ようなことを言っていたようだったな、となつみは思い返していた。本当にそんな
ことがあり得るのだろうか、そう考えていたその時、彼女の横で不意に声がする。
それは真里だった。
「これが一体どうなるって言うのさ?」
画像を見ただけでは理解できない点も多いのはやむを得ない話だ。そんな真里の
言葉に亜依が答えて言う。
「改造人間の変身エネルギーを勝手に放出させたり、体内から破壊したりする
やっかいな代物ですわ。しかも無理に取り除こうとすれば・・・」
「ナノマシンは自動的に起動して、目的を遂行します。つまり、二人の身体を
内部から破壊するんです。画像をさらに拡大して立体的に詳しく調べてみたん
ですが、このナノマシンは時限式になっているみたいなんです」
恐るべき事実に今ひとつピンと来ないといった様子の少女たち。しかし、二人が
告げたのはあまりにも過酷な現実であった。その言葉の意味を最も早く理解した
のはあさ美だった。
「それって・・・体の中に時限爆弾が入ってるのと同じじゃないですか」
「平たく言えば、そういうことやな」
眉間にしわを寄せ、深刻な面持ちを崩さぬまま亜依は頷いて言った。
「安倍さんに言った『2日』の期限、それがナノマシンのタイムリミットと
言って間違いないでしょうネ」
約束の日までの時間は、ドクガロイドが仕掛けた死へのカウントダウンだった
のだ。少女たちの心に敵への怒りが燃え上がる。そこへミカがこう付け加える。
「ゼティマが人を操る時に使う技術の一つに、コントロール電波を受信する
装置を対象に取り付けるというものがあるんですが、その装置は怪人が発する
電波を受信して始めて機能するんです。多分その技術がこれにも・・・」
「ということは、どういうことなんれしょう?」
小首を傾げながら、何とも緊張感のない口調で希美が言う。そんな彼女の
言葉にため息一つついて真里が言った。
「わかんないかなぁ・・・つまり、怪人を倒せは装置は動かないってこと
でしょ?」
真里はそう言って亜依とミカの方を見る。そして、確信とともに力強い調子で
言った。
「だったらやるべきことは一つだよ。おいら達の力で、敵の改造人間を
やっつける。それが二人を助ける手だてだよ。そして、裕ちゃんもね!」
真里の言葉に力強く頷く少女たち。彼女たち思いは決まった。仲間の命を救う
ため、少女たちはあえて死地へと赴く決意を固めたのだ。