第39話 「決戦!地獄の罠を打ち破れ!」
前回のあらすじ
自らの記憶を渇望するパーフェクトサイボーグZXこと小川麻琴。ゼティマ
が自分に記憶を与えることはないと知った彼女は、それでも失われた記憶を手
に入れるために敢えて再びゼティマの尖兵となることを選ぶ。そんな彼女は
奥多摩のホテル跡地でタイガーロイドこと信田美帆と合流。囚われの身となった
裕子と共に基地へと帰還する。
一方、ゼティマ基地では悪魔元帥が組織最古参の幹部「三神官」と対峙して
いた。伝承に基づき大首領の後継者「世紀王」となるべき娘を捜そうとする
三神官に対し、元帥は二人のパーフェクトサイボーグを世紀王にすると言い放つ。
やがて、帰還した元帥を待っていたのは暗闇大使と名乗る謎の幹部だった。
暗闇大使はZXに記憶を取り戻させるきっかけとなった、電気の力を使う圭織と
なつみの二人を始末すると豪語し、元帥も彼の自信を買い作戦実行を命じる。
一方、夜の街で突如人間が砂のように崩れて消滅してしまう事件が発生する。
しかし、人々はまだこの怪現象の存在さえも知らなかった
裕子が帰らないことに不安を抱くあさ美はそのことを少女達に告げるが、
真剣に取り合ってもらえない。やがてそれが元になったか、なつみと圭織が朝から
けんかを始めてしまう。居合わせた圭はけんかを仲裁し、ひとまず圭織を連れて
裕子を捜しに早朝の街を走る。その途中、自分たちの仲間の誰一人が欠けても
いけないことに気づいた二人は、強い焦燥感に駆られつつも生化学研究所に
向かってマシンを走らせた。
やがて二人は敵の刺客ドクガロイドと遭遇。ドクガロイドが毒鱗粉を放つと、
圭織と圭はその毒に冒されてしまった。敵の存在を察知したなつみがその場に
駆けつけた頃には、圭織と圭は手も足も出せないまま倒れ伏していた。
ドクガロイドはなつみに二日後に奥多摩のホテル跡に来いとだけ言い残し、悠然と
その場を去っていったのである。
体力を消耗し、遂に意識を失ってしまった圭織と圭。そんな二人と共に、
その場に取り残されたなつみは一人自らの不明を恥じた。
「二人の話をもっとまじめに聞けとけば、圭織も圭ちゃんも・・・全部
なっちが悪いんだ・・・」
だがいつまでも悔やんでなどいられない。彼女がいくら悔いてみたところで
二人をむしばむ毒が消えるわけでもない。事態は一刻を争う。なつみは急いで
止めておいたカブトローのところまで走ると、搭載している無線機で助けを
呼ぶ。早鐘のごとく高鳴る鼓動と喉の渇き、かつて味わったことの無いような
焦燥感、不安と戦いながら彼女は必死に自分たちの居場所を知らせた。やがて
それから間もなくして仲間達が駆けつけ、意識を失った二人とマシンを回収し
帰途についた。
痛みもひきまして、今日から復帰いたします。続きはまた明日、ということで。
圭織と圭はすぐさまストレッチャーに乗せられ、あわただしくライフステージ
に搬送される。電話で呼び出されたミカも駆けつけ、二人の到着を待っていた
亜依とともにライフステージの奥へと消えた。
それから2時間が経過した頃のこと。二人のメディカルチェックが終了した
ことを告げる、少女の声が聞こえた。
「一応一通り終わったから、みんなちょっと来てもらえる?」
声の主は亜依だった。彼女の言葉に従い、居合わせた少女達はライフステージ
の一角にあるメンテナンスポッドの周りに集る。ポッドの中に視線を移すと、
そこには青い検査服を着た−着せられたと言うべきか−圭織と圭の姿があった。
衣類や皮膚に付着した毒鱗粉を洗浄した後、この服に着替えさせたのだろう。
「皆サン、ちょっとこれを見てくれませんか?」
ミカに促されて少女達は目の前にあるモニタを見る。そこには二人の身体を
スキャンした画像が映し出されていた。
「今二人はどうなってるの・・・?」
なつみが駆けつけた頃、二人はすでにその毒鱗粉によってやられていた。
二人が意識を失い、生死の境をさまよっていることになつみは責任を感じて
いた。彼女の重い口調に何かを察したか、亜依がなつみの肩を軽くたたいて
言う。
「大丈夫。絶対助かります、二人とも」
しかしそんな亜依の言葉に、うつむいたままなつみは答えることが出来ない。
そして次の瞬間、思い詰めたような表情でライフステージのドアを開けると
一人部屋の外へと出て行ってしまった。
「安倍さんっ!」
亜依はなつみを引き留めようとしたのだが、小さな手が彼女の肩を掴む。
それは真里だった。そして真里は自分に任せて欲しいといった表情で亜依
と視線を交わすと、なつみの後を追って駆けていった。
思い詰めたようななつみの表情を思い出しながら、真里は走る。無茶を
しなければいいが、そんな思いと共に一刻も早くなつみに追いつこうと
息を弾ませる。そしてようやく追いついたそのとき、なつみは格納庫の中で
一人カブトローを駆って飛び出そうとしていた。
「一人でどこ行くのさ?」
真里の言葉にも、なつみは振り向こうとはしない。そればかりか小脇に
抱えていたヘルメットをおもむろにかぶると、エンジンを始動させて今にも
研究所から出て行こうとしていたのだ。
「誰のせいとか、誰の責任とか・・・そんなの考えるのよそうよ。二人が
聞いたら、きっと悲しむと思う」
「でも・・・」
「一人で行って何になるのさ。今のなっちじゃ勝てないよ。強いとか弱い
とかそんなんじゃなくてさ、今みたいな気持ちのままじゃ敵の思うつぼだよ」
「誰が悪いって言ったらアイツらだよ。だからさ、おいら達で助けよ?」
ヘルメットを取り、真里の言葉に黙って頷くなつみ。目にうっすらと浮かぶ
涙を払って、二人は仲間達の待つライフステージへと戻っていった。