そして翌日。今日も中澤家に平穏な朝が訪れる。ただ一ついつもと
違っていたのは、そこに裕子の姿がなかったことだった。だが少女達は
彼女が敵の手に落ちたなど思ってもいなかった。生化学研究所にこもって
自室で調べられなかった資料を調べているに違いない、とそう思っていた。
事実、裕子は最近一人で生化学研究所へ向かうことが多かった。日を増して
過酷になっていく少女達の戦いに少しでも力を貸すことが出来れば、そんな
思いで彼女は、脱走の際に持ち出した様々な資料を分析するなどの地道な
作業に、一人従事していたのだ。
「結局帰ってきませんでしたね・・・」
焼き上がったばかりのトーストを片手にあさ美が呟く。そのとたん、
コーヒーメーカーから立ち上るコーヒーの香りとはあまりに不釣り合いな
重苦しい空気が朝の食卓に漂う。
「紺野ぉ、そんなに心配しなくても大丈夫だって。このところなんか
ずっと調べものしてるみたいだからさぁ、夕べもそうだったんだよ」
真里のそんな言葉にも、あさ美の表情は曇ったままだ。
「私、なんだか悪い予感がするんです・・・」
そう言うと、あさ美は食べかけていたトーストを置き、やおら立ち上がる
とリビングから飛び出そうとした。が、入り口でなつみと鉢合わせになって
しまった。あわてて飛び出そうとしたあさ美は、真里に言ったのと同じように
不安な気持ちを打ち明けたのだが、
「どうせまた調べものにきまってるって」
なんとも気楽な答えが返ってきた。もうこうなったら自分一人でも捜しに
行こう、そんなあさ美の姿を見かけて、食料調達から帰ったばかりの圭が
声をかける。今朝は不猟だったのか、手ぶらでの帰宅だった。
「どうしたの?浮かない顔して。話だったら聞いてあげるからさ」
そんな圭の言葉に、あさ美は裕子が何も告げずに帰ってこない事への不安を
話す。
「調べものかも知れないけど・・・でも何の連絡も無いのはおかしいよ」
「ですよね?だから私、探しに行こうと思ってたんです」
そんな二人のやりとりに、パトロールの準備を終えて姿を見せた圭織が
加わる。洗面所にいた彼女は、二人の会話の一部始終を聞いていて、
それならと裕子の捜索を提案する。
「それなら今から探しに行こ?この時間はカオリとなっちの順番でしょ」
そう言いながら圭織はなつみの方を見やるが、当のなつみはと言えばまだ
パジャマ姿のままだった。
「はぁ?!ちょっとまってよ」
その口調には、明らかな怒りの色が滲んでいた。