程なくして、地下の暗闇から帰還した悪魔元帥。そんな彼を待っていた
のは黒髪の妖艶な女だった。彼女は元帥の幕僚の一人、諜報活動などを
得意とする「魔女参謀」である。
「三神官のところでございますか?」
「さすがに鋭いな。いかにもその通りよ。用件など聞かずともいつもの
こと。それこそバカの一つ覚えのようにな」
「『運命の娘はまだか』、でごさいましょう?」
もう何度もおなじようなやりとりがあったのだろう。魔女参謀は皮肉
混じりの言葉を笑みと共に言う。悪魔元帥もまた、彼らとのやりとりには
心底辟易している。だからこそ彼は伝承の内容にかかわらず、独自で
世紀王候補を擁立しようと考えたのだ。
「伝承などに拘っておる場合ではない。あの小娘どもを根絶やしに
せねば組織の安泰はないのだ。二万年余、確かに敵らしい敵は我らには
いなかった。それが今はどうだ?」
「小娘どものせいで我らの計画は狂うてばかり。歯がゆうございますね」
「確かに大首領様の御身は第一。だが来るべき時に、主を迎えようにも
城も民もなければ何とする。そこをあの者達は判っておらんのだ。愚かな
ことだがな」
そう言って元帥は三神官をさんざんに扱き下ろす。そして彼は魔女参謀
にこれから連れられてくる一人の脱走者のことを告げた。
「夕べ儂は幽霊博士に必殺の策を授けておいた。まもなくZX達が
一人の女を連れてくるが、その者を餌にライダーどもをおびき寄せて
抹殺する。だが、それだけでは足らぬ」
「と、申しますと?」
「ZXの記憶が戻るやも知れんのだ。科学者共は強烈な電気ショックが
原因だろうと分析しておるが、もしそうならやっかいな娘が二人おる」
元帥の言う二人とは圭織となつみ、つまりスーパー1とストロンガーの
事である。スーパー1のエレキハンドはZXに記憶を戻すきっかけを与えた
直接の原因であり、一方のストロンガーは電気人間である。この二人が
戦いに参戦するとなれば、ZXを正面に立たせるのは少々躊躇われる
ところだ。元帥の言葉に、魔女参謀は何かを察したか怪しげな笑みと共に
言った。
「その小娘を消せ、と仰せですね?」
元帥の意を察した魔女参謀は、自ら策をもって圭織となつみの二人を抹殺
しようと行動を開始しようとした。と、その時である。
「話は聞かせて貰ったぞ」
不意に聞こえてきた男の声。あたりを見回すと、部屋の入り口の影に
何者かの影があった。マントのようなものに身を包み、大きな三角形
の兜をかぶったシルエットは、二人のよく知るある男の名を想起させた。
「人の話を立ち聞きとは趣味が悪い・・・地獄大使!」
腰につり下げた鞭を素早く手に取り、人影に向かって一撃放つ魔女参謀。
しかし、その影に放たれた鞭は彼女の手に思いも寄らぬ感触を与える。
人影に向かって吸い込まれるように放たれた鞭は直後影に向かって
ぐいぐいと引き込まれて行くではないか。なんと魔女参謀の鞭は命中する
寸前、その影によって受け止められていたのだ。
「なっ・・・まさか私の鞭を?!」
驚きの声を挙げる魔女参謀。そして影は遂にその正体を現す。
「そうか、声まで似ておるか・・・全く忌々しい限りよ」
そして謎の人影は二人の目の前に姿を現した。目の前に現れた男は
どう見ても地獄大使そのものだった。男は掴み取った鞭の先端を手放し
自らの名を名乗る。見覚えのある顔、そして聞き覚えのある声。しかし
その名前は、およそ聞き覚えのないものだった。
「我が名は『暗闇大使』。闇からの使いよ。それより悪魔元帥、小娘の
始末、儂に任せてはもらえぬか?」
「暗闇大使だと?聞かぬ名だが・・・」
「ならば以後、見知りおくがよい。それより儂に任すのか、任さん
のか・・・どちらだ?」
自信たっぷりの笑みを見せる暗闇大使を目の前にして、元帥の胸中に
ある確信めいた思いがよぎる。この男はやる、そんな思いが口をついて
出る。
「それほどまで言うのならやってみせよ、暗闇大使とやら」
悪魔元帥の言葉に、暗闇大使は邪悪な笑みを浮かべて答えた。
「フフフ・・・朗報を期待しておけ」
そのころ、週末のにぎわいを見せる夜の繁華街。喧噪ときらびやかな
ネオンが通りを彩り、行き交う人々はそれぞれに思い思いの夜を過ごす。
スナック帰りの会社員の一団が、歩道で立ち話をしている。その脇を
カラオケに向かう若者達が横切る。出勤途中と思われる、金髪の若い女。
どこかのパブの外人ダンサー達が連れだって通りを歩く。その側で客待ち
のタクシーが車道を占有する中を、厳つい高級セダンがゆっくりと
走り抜けていく。
そんな夜の街で、人混みの中を行く一人の男の姿があった。その
おぼつかない足取りは一見すると深酒のすぎた酔っぱらいにしか
見えず、行き交う人々もそれほど気には止めなかった。やがて、男は
たまたまそばを通りかかった柄の悪い男の肩に、急にしがみついた。
「なっ、何すんだコラ!放せ!!」
しがみつかれた柄の悪い男は、身なりに違わぬ野太い声を挙げて
その男の腕を払いのけようとする。そして、そんな二人の視線が
合ったその時。
「ばっ・・・化け物・・・ばけっ、ばけけけけけけぇぇぇぇ」
ろれつの回らぬ叫び声と共に、しがみついてきた男の顔が急激に
土気色に変色すると次の瞬間、あろう事か男はまるで砂か灰のように
あっという間に崩れ去ってしまったのだ。そして先ほどまで男の身体
だったと思われる大量の粉末が、男の着ていたスーツをすっかり
灰色にしてしまった。