「それで、前からお聞きしたかったのですが。」
しばらくの沈黙の後「副隊長」がソニンに尋ねた
「何?」
「小隊が取り逃がしたり、撤退した後の怪人はやはり隊長が?・・」
「うーん・・・私の手に負える怪人はね。残りは彼女達が・・・」
「彼女?」
「あ・・・本当は機密事項なんだけど・・」
ソニンは「副隊長」にライダー達の話をした
ソニンは政府の仕事をするようになってから、非公式に何度も中澤たちと接触した。
政府の下で一緒に戦おうと呼びかけた。
しかし彼女達は「自分達の闘いはあくまで私闘」という理由で拒み続けた。
政府の仕事をすれば経済的な苦労はなくなる。
しかし代わりに自由もなくなる。下手をすると政府にいいように使われる可能性もあるのだ。
ソニンもそれを分かっていた。無理強いは出来なかった。
そのかわり給料のほとんどを毎月、匿名で中澤に送金している。
遠慮なく使ってもらっているのか、それともいずれ突っ返されるかは分からない。
そして情報も出来る限り提供している。本当は違法なのだが。
「そうですか。そんな噂を耳にしたことはありましたが・・・私は正直言いいますと、
今の待遇に不満を持っていました。」
「破格の給料をもらってるでしょ?そりゃ使う機会は無いけど・・・」
「お金の面ではありません。ただ誰にも知られず影のように戦うことが悔しいのです」
「名誉が欲しいの?」
「いいえ。無名のまま死んでいく部下達が不憫だったのです。しかし目が覚めました」
「目が覚めた?」
「我々の戦いは記録に残ります。勝つことが出来ればいずれは評価される時が来るかも知れません。
しかし彼女達は何の見返りも無いのに、そしてそれが語り継がれる事も無いのに、
ただ正義のために命を投げ出しているのですね・・・」
「そうね・・でもきっと彼女達は伝説として人々の心に残る気がする・・・
でも誰にも知られることなく、『Z』と戦って散って行った無名の戦士はきっと他にいくらでもいるわ・・・」
ソニンはそう言って首から下げたロケットを握りしめた。
「副隊長」はその様子を黙って見ていた。
ロケットの中は「弟」の写真だと聞いている。
ソニンが工場で拾ったカメラのフィルムを現像したものだ。
そしてソニンの胸には同じ場所で拾った初代研究所長のバッチが付けられていた。
2人は人目を避けるように裏口から外にでた。
門の側には2台の黒い高級乗用車が停まっていた。
1台の方から男が降りてきてソニンに声をかけた。
「所長!所長が設計した、新しい実験設備ですが・・」
首都特別守備隊々長兼『Z』対策研究本部付第2研究所長
これが現在のソニンの正式な肩書である。
第2研究所は元々あった研究所とは別に、ソニンのために新しく作られた。
守備隊の仕事をする見返りに、自由に研究をさせてもらっている。
「・・ようやく完成しました。先ほど試運転が終わったところです」
「わかったわ。明日行きます。いつものように最初に私が実験台になりますから・・・」
ソニンはストロンガーの電撃を受けた後、一時的にパワーが上がった。
しかしその後じわじわとパワーが下がり続けている。原因はわからない。
これは誰にも秘密にしていた。
自ら装置の実験台になり、ちょっとずつ強化することで何とか今のパワーを維持していた
「今夜にでも動かせます、是非今すぐ見に来てくださいよ」
研究員が声を弾ませながら言った。
「残念ですが隊長殿は今夜出撃です。これからブリーフィングがあるので
守備隊本部に向かわなければいけません」
「副隊長」が遮るように間に入って言った。
「じゃあ本部までうちの車でお送りします。車の中で施設の説明をしましょう・・」
「駄目駄目!本部に行く時はうちの車を使うことに決まってるんだから」
「なんだよ!いつもそっちの車ばっかりじゃないか!うちの所長でもあるんだぞ。
たまにはこっちに譲ってくれてもいいだろ!」
「隊長殿は好きでこっちの車に乗ってるんだよ!」
「じゃあ直接聞いてみようじゃないか!」
「所長!・・・」
「隊長!・・・」
「お先っ!」
ソニンは2人の会話を尻目に、本部に向かって走り出した。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
研究員があわてて車で追いかける。
「隊長ぉ!『最高機密事項』が派手に走り回らないで下さぁい!」
猛スピードで走るソニンの後を2台の黒い高級自動車が追いかけて行った。
ソニンは走りながら考えていた。
自分には3つ目標がある。
1つはゼティマの壊滅。
1つは真希の記憶を甦らせ、ユウキの最期を伝えること。
1つは・・・自分の手でカゲスターとベルスターを作りだすこと。
残された時間は少ないかも知れない。
しかしいつの日か自分が「カゲスター部隊」と「ベルスター部隊」を率いてゼティマを壊滅させる事を夢見ている。
「やるぞぉ!」
ソニンはさらにスピードを上げ、東京の街の中に消えて行った。
東京某所。地下深く。
ここに1年前に引っ越して来たゼティマの研究所がある。
急な移転だったため一時研究が中断していたが、今は何事も無かったように研究を続けている。
ここにハカイダー・真希がやって来た。
体のメンテナンスのためであった。
ボディのメンテナンスと、頭脳・・記憶のメンテナンスを行う。
ゼティマにとって都合の悪い記憶は「封印」される。
何日かに一度行われる、いつものことであった。
研究所の場所が変わっても、やることは何も変わらない。
記憶のメンテナンスの時、脳につながる端子を抜き差しする。
このとき一瞬昔の記憶が甦る。
真希はいつもこれを楽しみにしていた。
これも何も変わらない。
ただ、「あの日」以来メンテナンスの後必ず涙を流すようになった。
真希にはその理由がわからなかった。
なにか悲しい事でもあったのだろうか。しかしそれが何なのかはわからない。
メンテナンスが終わり、バイクに乗り研究所を後にする。
バイクを運転しながらふと考える
「自分は何のために生まれて来たのだろう・・・」
しかしこれを考え始めるといつも同じ結論に行き着く。
「ハカイダー、殺す!」
取り憑かれたような目をしたまま、真希の運転するバイクは東京の雑踏に消えて行った。
〜終わり〜