それから1年・・・
ソニンは最初政府専属の警備員として、たった一人で戦い始めた。
半年ほどして、研究所で強化された隊員を加えて「守備隊」が組織された。
守備隊の隊長は最初は陸自の幹部クラスが就任したが、次々暗殺され、
結局ソニンが隊長に抜擢されることになった。
「・・・それで『Z』の様子は?」
神社の参道でソニンが若い隊員に聞いた。
「情報どおりこちらに向かっています。大した怪人はいないようです」
「今夜には来るわね・・・わかったわ。今夜は私が直接指揮します」
「来て頂けるのですか?」
男が明るい声を上げた
「第4小隊は今日が初陣でしょ。それとも迷惑だった?」
「とんでもない!隊員たちも喜びます」
「一番喜んでいるのはあなたじゃないの?『副隊長』」
ソニンはいたずらっぽくそう言って笑った。
「いえ・・その・・・」
副隊長と呼ばれている「第1小隊長」は顔を赤らめて黙り込んでしまった。
大きな体に似合わず純情そうだ。ソニンに好意を抱いているらしい。
ソニンの方もこの男を憎からず思っているようだった。
2人の間にちょっと妙な空気が流れ始めた。ソニンはあわてて口調を変えて言った。
「守備隊の『掟』は分かってるわよね」
「・・・はい!」
守備隊の入隊条件の一つに「天涯孤独であること」というのがある。
改造(強化)を受けるため、任務があまりに危険なため、そして機密保持のため、
隊員は入隊の時に戸籍を抹消され、死亡したことになる。
そして外界との接触は一切閉ざされる。
もちろん恋人を作る事など厳禁である。
結果として守備隊にはZETIMAに家族を殺された自衛隊員が志願する事が多い。
警察からは志願者は少なかった。
事件を揉み消す側なので嫌われるのは仕方がないのだ・・・
守備隊に志願した隊員は研究所で強化され、隊に配属される。
強化のレベルは様々だが、小隊長クラスは怪人で言えば中の下程度。平隊員は下級怪人か戦闘員よりちょっと上のレベルである。
小隊はそれぞれ10人前後で、守備隊全体で50人に満たない。
「最強」と言う割には弱すぎる。
まだ発足してわずか半年だが・・
「それに・・私には時間が無いの」
今度はつぶやくようにソニンが言った。
「はい・・・・」
『副隊長』は伏し目がちに返事をした。
動物実験を続けていて新たに分かった事がある。
ソニンの技術で強化されたマウスは長生きできなかった。寿命が短くなっているのである。
平均で3分の1。長くて半分。
特にソニンのように無茶な強化をした人間がどれだけ生きられるか、見当もつかない。
「(あと10年か、それとも5年か・・・)」
ソニンには寄り道をしている時間はなかった。