ユウキの死から1年後
ソニンは靖国神社の境内にいた。
制服姿に身を包み、同じ制服を着た一人の男性を連れていた。
自衛隊とも警察とも違う、黒っぽい制服だった。
本殿を参拝した後、通常あまり人の訪れない裏庭へ向かった。
そこにはまだ新しい、小さな碑があった。
碑には20数個の「印」がある他は何も描かれていない。周りには何の説明書きもない。
その存在を気にする人は誰もいなかった。
ソニンはその前で静かに目をつむり、手を合わせた。
「まだ24歳だったのに・・」
碑に刻まれた真新しい印を見ながらソニンが言った。
「うちの隊員の中では年長の方ですけどね・・・」
後ろにいた若い男が言った。
「26人目か・・・こんなに死なせてしまって。」
「・・・・しかし、この26人の犠牲で数千、いや数万の人が助かったのかも知れません」
「実験中の犠牲者も居るのよ。どっちにしろ私は天国には行けないわね・・・」
「・・・・・」
若い男は黙り込んだ。
参拝を終え、神社の参道を歩くソニンに男が話しかけた。
「そういえば3等陸佐への昇進が決まったそうで・・ おめでとうございます。史上最年少の佐官ですね」
「私は陸自の人間じゃないわよ。『首都特別守備隊』の『隊長』。これが私の階級よ」
「守備隊のほとんどは陸自の出身ですし・・なにより今回、守備隊が実質『大隊相当』になったのですよ。
大隊長と言えば陸自の2等陸佐クラスです。」
「小隊が4つしかない『中隊』なのにね・・・」
ソニンはそう言って笑った。
「それでも国内最強の部隊です」
男は自嘲気味にそう言った。
「最強・・・か」
ユウキの死の後、ソニンはしばらく中澤たちの家に身を寄せていた。
ユウキの葬儀は親戚が出したが、ソニンは葬式に顔を出さなかった。
全員と何日も話をした。
ソニンもユウキも含め、みんなZETIMAに家族や友人を殺されていた。
そして彼女達のほとんどが改造人間だという事実にソニンは驚いた。
中には「野生児」もいたが・・・
ソニンは安倍と辻からカゲスターの最期の様子を聞いた。
ハカイダーとカゲスターが姉弟だったことに全員が衝撃を受けた。
あまりに酷い運命だった。
仲の良い弟でもためらいなく殺す程の洗脳とは・・・ひとみと梨華は別の不安を感じていた。
ソニンは加護とは特に熱心に何度も話し合った。
お互いに技術を教えあい、特にソニンは積極的に自分の技術を加護に伝えた。
まるで自分の研究を加護に託そうかとしているようだった。
そしてしばらくしてソニンは中澤の家から姿を消した。
中澤の家を出たソニンは、まずユウキの墓に行った。
その後、一人で工場に向かった。
狙いはハカイダーである。
うまく彼女を連れ出せれば、加護のところで記憶が戻るかもしれない。
パワーが「あの日」から徐々に落ちていた。行くなら今しかない。
もしダメなら刺し違えても倒す。彼女をユウキの傍へ連れて行く・・
決死の覚悟で単身敵のアジトに向かうソニンだったが・・・
工場はもぬけの空だった。
ソニンは扉をこじ開け、コンクリートの壁を破壊し、壁という壁、床という床を穴だらけにしたが、
抜け道どころか手がかり一つ見つけられなかった。
結局見つかったのはあの時無くした使い捨てカメラと、研究所長のものと思われるバッチだけだった。
地盤沈下して崩壊した工場で一人佇むソニン。そこへ数台の車が乗り込んできた。
車からは見覚えのある男達が降りて来た。