34 :
名無し天狗:
「・・・・・・!?何事じゃ!?」
弘繁に声を掛けたのは、彼の生き残った家臣の一人であった。
「“例の場所”は危険にござりまする。また彼奴らが襲って来て探り出されるやもしれませぬ故、
隠し場所をお変えになられた方が得策かと存じますれば…。」
家臣のこの提案に、弘繁は暫し思案した。
「・・・うむ、相わかった。いずれは感付かれる隠し場所じゃ。
ここは別の、誰にも知られぬような場所に移しておくのも彼奴らを欺く一つの手・・・。」
血車党の再度の来襲を懸念した弘繁は、家臣の提案を採って例の地下迷路に向かった。
その迷路の路面に、化身忍者誕生の法を記した密書が眠っているのである。
やがて、床の間の掛け軸の前に辿り着いた一行。ユキも弘繁護衛のために同行している。
掛け軸を外し、弘繁にしかわからない壁板と出入り口の蓋の継ぎ目を、彼は丹念にこじ開けていく。
そして遂に出入り口が開いた。一行は予め用意した龕燈(がんどう。現代の懐中電灯にあたる)で
内部を照らしながらゆっくりと入っていった。
35 :
名無し天狗:03/03/20 01:01 ID:3g+V55t4
「殿・・・この地下迷路に密書がござるのは承知致しておりまするが、
一体いずこに・・・?」
「ここじゃよ。」
家臣の問い掛けに笑顔で応ずる弘繁は、入り口を潜ってすぐの路面に脇差の切っ先を突き入れた。
そして、入り口の時同様丹念に床板を開ける。
やがて、袱紗に包まれた一つの巻物が姿を現わした。巻物には例によって封印が成されている。
「さて・・・どこに移せばよいものやら・・・。」
弘繁は改めて次なる隠し場所を思案する。その彼に、同行の孝雄と厳実が提案する。
孝雄いわく
「庭先の石燈篭の下などはいかがにござりましょうや。」
厳実いわく
「いやいや、それではかえって危のうござる。
殿、床の間の鷹の剥製の中などはいかがにござりましょうや。
あそこならば、いかな血車党とて気付きますまい。」
そう言ったやりとりが続く中、ユキだけは黙したまま、弘繁に提言した家臣の動きを
注意深く凝視していた。
家臣は何やら、挙動不審のようだ。まさか・・・!
ユキは一抹の不安を感じていた。やがて・・・
「殿、そして方々、ご懸念には及びませぬ。新たなる隠し場所ならば、
既にそれがしがよき場所を見付け出しましてござりまする。
それがしにしかわからぬ場所にござりますれば、殿、まずはその一巻、
まことに僭越にはござりまするが、それがしがお預かり致しまする・・・。」
「何じゃ…それならばそうと早う申せ。して、いずこに・・・?」
密書を家臣に預けつつ、弘繁は彼に期待を込めて問い掛けた。
36 :
名無し天狗:03/03/20 01:39 ID:3g+V55t4
だが、その弘繁への返事は・・・・・・!
「その場所とは・・・血車党にござる!!!」
冷笑と共に家臣は、そう言うが早いか腰の脇差を抜き、弘繁に斬り掛かった!!
弘繁の頭上に迫る凶刃!!
突然の謀叛に孝雄や厳実は主君の眼前に走る!!
だが、彼らより一瞬早く謀叛を察知したユキが風の如く素早く飛び出し、
背負っていた刀を抜くや脇差を遮った!!
「おのれ、よくも殿に・・・血迷うたか!!」
ユキは家臣を鋭く睨み付け、怒りと怨みを込めてそう言い放った。
やがて二人は、激しく剣戟の火花を散らす。
孝雄も厳実も、程なくユキの加勢に入った。
一方、当の弘繁は、家臣の突然の造反に当惑の色を隠せずにいた。
「何故じゃ・・・何故あの者は突如余に歯向かい、密書を敵に渡そうなどと・・・
もしや!?」
37 :
名無し天狗:03/03/20 02:18 ID:3g+V55t4
「気付くのがいささか遅すぎたようにござるな、五木殿!」
家臣は弘繁に嘲りの一言を吐き捨てると共に、裃・袴などの着衣を脱ぎ払った!
そこにいるのは、最早家臣などではなく・・・・・・驚いたことに、血車党の下忍であったとは!!
迂闊であった・・・・・・。
弘繁は右の拳を強く握り締め、身を右へ捩じらせつつガックリとうな垂れて己が不覚を悔やんだが
最早後の祭りであった。遣る方無さに顔が歪む。
その弘繁を連れて逃れるよう孝雄らに頼み、ユキは血車党の下忍を追う。
「血車党め・・・まさかあの騒ぎのあと下忍を一人、家臣の中に紛れさせていたとはな・・・。
しかも密書の在り処も知っていたところを見ると、余程入念に探り続けていたに違いあるまい。
殿のお身の回りの警護を預かっておきながら・・・まだまだ修行が足らぬぞ、ユキ。」
ユキもまた己の未熟さを痛感していた。だが、後悔は先に立たず。
この上はどうあっても密書を取り返す。人一倍責任感の強いユキは、命に代えても秘密を守ろうと
更に速さを増して、逃げる下忍に肉薄する!!