「ここからが・・・よく思い出せない・・」
実験の後から病院(政府の研究所)までの間の記憶がはっきりしない。
音のない、短い映像だけが細切れに浮かび上がってくる。
これを元に想像するしかない・・・
実験後、自分は牢獄に入れられた。
幹部が自分に対して怒鳴っている。何を言っているか分からない、
おそらく研究資料を処分したことについてだろう。
拷問も受けたが強化された体には効かなかったらしい。
薬物による記憶回復処理も行われたが効果が無かったようだ。
そして暴れ回る。とにかく暴れ回る。
手を焼いた幹部が対怪人用の銃が向ける。しかし別の幹部がそれを制止する。
研究資料を処分した今、あの技術はソニンしか知らない。おかげで殺されはしなかったようだ。
しかし怪人の扱いに慣れているゼティマをもってしてもソニンには手を焼いた。
そしてついに放り出された。
必要ないと捨てられたのか、記憶が戻ったら連れ戻す気だったのか。それは分からない。
ここまで思い出したが、何か大事なことを忘れている。
「・・・そうだ!家族は?人質になっていた家族は・・・」
脳裏に両親・姉・兄の顔が浮かんだ。
そのとき突然また記憶の一部がフラッシュバックのように甦ってきた。
ソニンの前に連れ出される兄。
兄を指差し、何事か自分に語りかける幹部。
何を言っているか大体想像がつく。
「・・・いやだ・・」
自分の記憶から目をそらそうとする。しかし次から次へと思い出してしまう。
拷問を受け、苦痛に歪む兄の顔。
「やめて・・嘘よ・・・」
大きな音と共にバタリと倒れる兄。
自分はそんな兄をおそらく無表情で見ている。
「やめて・・・やめて・・・」
続いて姉が、そして父が・・・
恐怖に震え、自分に助けを求め、悲鳴を上げ倒れていく。
「いや・・こんなのいや・・」
最後に母が連れられてきた。
母は自分の姿を見ると戦闘員の手を振り払い、泣きながら抱きついてきた。
何を言っているのか分からない。だかきっと
「自分は死んでもいい、この子だけは助けて」
と言っているのだ。
戦闘員が母を引き離そうとする。しかし母は人間とは思えない力でソニンにしがみつく。
そして自分はそんな母を・・・力任せにふりほどいた・・・
母は壁に叩きつけられそのまま動かなかった。
幹部はそんな自分を睨みつけ何か一言言い残し、去っていった。
「いやああああああああ!!」
ソニンは警備室の中で狂ったように声を上げた
どうして急に記憶が甦ったのか・・・
思い当たるのはストロンガーの電撃である。
自分は電流を体に流す事で強化し、記憶を無くした。
逆に強力な電流を受ける事で記憶が戻る事も有り得る。
ベルスターとソニンは一心同体である。ベルスターが受けたダメージはソニンに伝わる。
これはカゲスターも同じだ。
もちろん100%伝わる訳ではない。怪人の攻撃を生身の人間が受けたらひとたまりも無い。
何割か何%か、とにかくダメージは低く伝わる。
しかしカゲスターやベルスターが耐え切れない程のダメージを受けたとしたら、
本人も無事では済まない。
警備室の隅で、ソニンは膝を抱え泣き続けていた。
「どうして・・どうして思い出してしまったの・・」
「思い出せないまま死んでしまえば良かった・・・」
「自分が余計なことをしなければ父さんも母さんも・・・なのに自分一人だけ行き残って・・」
「もう生きていても仕方が無い・・」
「・・・ユウキ」
ソニンの脳裏にユウキの顔が浮かんだ。
「そうか、ユウキも家族を殺されて一人・・・」
「いけない!」
突然ソニンは立ち上がり、部屋に転がっていたインスタントカメラを拾い上げた。
「ユウキはまだ中に残って闘ってるんだ、助けに行かないと!」
ソニンは自分に向けてフラッシュを光らせた。
「影よ、伸びろー!」
「こっちかな?」
梨華とひとみが走って工場の敷地に入ってきた。
数キロ手前で故障したサイドマシーンを放置して、
わずかな音を探知しながらやっとここまで走って来たのだった。
「あの建物から聞こえるわ!」
「待って!」
工場に向かって走り出そうとした梨華をひとみが制止した。
工場の扉の前に人がいた。ソニンだった。
「ゼティマの人間か?」
「・・・違うみたいだけど」
ソニンはカメラを持ったままフラフラと歩いていた。
時折立ち止まると足元の影に何かブツブツとつぶやき、そしてまた歩き出し工場の中に消えて行った。
「・・・行こう」
梨華とひとみはソニンの後を追ってそっと歩き出した。
「開けるのれす!」
ライダーののは工場の奥の扉に手をかけ、力任せに開けようとしていた。
しかしビクともしない。
「どきなさいよ!」
ストロンガーはカニカブラーに攻撃を仕掛けるが、相変わらず堅い甲羅に跳ね返されていた。
「くそっ・・」
一旦距離を取ったストロンガーがふと扉の方を見るとそこにソニンが立っていた。
「あなたは?・・・」
ストロンガーが声を掛けようとすると、奥からライダーののが言った。
「さっき走ってた女の人れす!」
ソニンは無表情で歩いていた。手にはカメラを持っている。
よく見るとよほど強く押したのか、カメラのシャッターのあたりが大きく変形していた。
「ひょっとしてさっきのミニスカートの人は、あなた?・・・」
ソニンは黙ってうなずくとカニカブラーに向かって歩き出した。
念のため数メートル手前で立ち止まった。なにしろ電撃を受けて以来体の調子がおかしい。
記憶は戻った、しかし変身出来なくなった。ひょっとしてパワーも無くなっているかも知れない・・・
立ち止まったソニンは辺りを見回した。しかしカゲスターの姿がない・・・嫌な予感がした。
「カゲスターは?」
カニカブラーに話しかけた
「誰だそれは?あの赤い奴か?奴なら・・・」
カニカブラーはハカイダーのバイクのあった方をちらりと見て言った。
「・・・死んだよ、ハカイダー様に撃たれてな。」
ソニンはカッと頭に血が上った。拳を振り上げ「思い切り」カニカブラーに殴りかかった。
パンチを繰り出す途中、急に腕が重くなった。拳が何かに押さえられるようだ。
「えいっ」と力を入れると、ようやくフッと軽くなった。
そしてその拳はカニカブラーに触れることはなかった。