ホログラムに消えた秘密基地の入り口。侵入の手がかりを求めて、
手探りであちこちを調べて回る真里の姿は一見すると確かに不審な印象を
与えたことだろう。しかし、その姿を発見したのは以外にも基地の中の者
たちではなく、基地の外にいた一人の改造人間だった。
「おぜうさん・・・何してるっパ?」
「悪いヤツの秘密基地を探してるっパ・・・って、え?!」
背中越しに聞こえる、聞き覚えのない声。思わず振り返ると、そこに
いたのは円盤のようなものに乗った、ザンバラ髪のカッパだった。
「ややっ!お前は矢口真里っパね?ここで何をしてるっパ?!」
真里の姿を見つけたこのカッパ、実はゼティマの改造人間である。
その名も「オカッパ法師」。カッパの力を持つ怪人なのだ。
「ああっ、もう見つかったか!こうなったら・・・変ッ身!」
かけ声と共に腰に現れたベルトに輝くダブルタイフーン。このまま
変身の構えを完成させればV3に変身できるのだが、その時だ。
「そうはさせないっパよ!くらえ、『カッパ巻き』!!」
V3、と真里が言いかけたその時、全身に巻き付いたのは真っ黒く
太い帯のようなものだった。それはまるで意志があるかのごとく、
真里の体を締め上げ、その力を奪っていく。
「ちくしょー!なんだコレ?!」
「抵抗しても無駄っパよ。その海苔は滅多なことでは切れたり
しないっパ。ワシと一緒に来てもらおうか」
かくして囚われの身となった真里は、オカッパ法師に連れられて
秘密基地の中へと連行された。と、そこに待っていたのはバスジャック
実行犯ウニデーモンだった。しかし、二人の姿にはまだ気づいていない
ようで、基地の中にいたアリコマンドに何かの指示をしている。真里を
拘束したオカッパ法師は、異変に気づかぬウニデーモンの頭を小突いて
こう言い放つ。
「ウニデーモン、貴様何やってるっパ!基地の周囲をとんでもない
ヤツが嗅ぎ回ってたっパよ」
「これはオカッパ法師、待たせてすまなかった。で、どうした?」
基地の周囲に発生した小さな異変、しかしこういう事を見逃すと計画の
破綻につながる。オカッパ法師は捕らえた真里をウニデーモンの前に
突き出した。
「どうしたもこうしたも、こいつを見るっパ」
「貴様は矢口真里!なぜここが判った!?」
「此奴のこと、バスの後を付けてここまで来たに違いないっパ。ワシの
カッパ巻きでどうにか動きを封じておるが・・・うかつだったっパね」
こうして真里は海苔巻きにされたまま、子供たちと一緒に牢獄の中に
投じられた。このままでは、彼女がゼティマの改造人間たちによって処刑
されるのも時間の問題だ。
幼稚園児や保母らが投獄された牢の中に新たに放り込まれる小柄な
少女の姿。その姿をみた子供たちはまたもすすり泣く。すべての望みが
潰えたかに思えたその時だった。
「・・・ヴオオオオオーン・・・」
微かにであるが、どこからか聞こえてくる爆音。それは間違いなく
ライダーマシンの爆音であった。真里の超聴覚がその音を捉えると、
彼女は子供たちにこう言った。
「ねぇみんな、外から何か聞こえない?」
そんな彼女の言葉に、一人の男の子が目を真っ赤にしたまま、鼻を
ひくつかせながら言う。
「何にも聞こえないよ。こんなところには誰も来てくれないよ」
そんな男の子の言葉に、真里は優しく語りかける。
「ねぇ君、聞こえない?ほら、あのマシンの爆音が!」
「えっ?」
するとどうだろう、その男の子の耳にも気のせいかライダーマシンの
爆音が聞こえるような気がしてきた。大地のとどろきと、風のうなりを
伴って聞こえるその爆音は、マシンを駆る戦士の熱い血潮の高鳴りの
ごとく子供達の心に響いていた。
秘密基地を目指して走るライダーマシン。それはスカイライダー、
紺野あさ美の駆る「スカイターボ」だった。真里からの連絡が途絶えた
ため、その身を案じた彼女は新垣里沙とともにその姿を探していたのだ。
「里沙ちゃん、ホントにこっちでいいの?」
「絶対大丈夫だって。声が聞こえるの。誰かが呼んでる、私たちのこと」
自由の戦士イナズマンとして超能力に目覚めた里沙は、真里と子供達の声を
感知してとらわれている場所を探り出していた。彼女の言葉に確かな手応えを
感じたあさ美は、スカイターボのアクセルを全開にすると、走りながら変身の
構えを取る。
「スカイ、変身!!」
振り落とされないように必死にすがりつく里沙の身体をも包み込む激しい閃光。
そして、その中から現れたのはスカイライダーの姿だった。疾走するマシンは
街を、そして山を駆け抜けて秘密基地のすぐそばまでたどり着いた。
「里沙ちゃん、石とかいっぱい当たって痛いかも知れないけど我慢してね?」
「え?うそ、何?!」
スカイライダー〜あさ美の突然の言葉に訳がわからない里沙。しかし、そんな
少女のとまどいを余所に仮面ライダーは愛機の前輪を勢いよく持ち上げ、所謂
「ウイリー走行」の状態になった。
「しっかり掴まっててね・・・『ライダーブレイク』!」
「キャーッ!!」
「みんな伏せて!!」
外で何が起ころうとしているのか、それを瞬時に察知した囚われの真里は園児
たちを床に伏せさせると、自らもまた姿勢を低くしてその瞬間に備える。そして
次の瞬間、鉄格子で隔てられた牢獄前の壁に亀裂が走ると轟音と共に砕け散った。
前輪の超振動発生装置「HVG」で発生させた超振動であらゆるものを打ち砕く
体当たり技「ライダーブレイク」で壁をぶち破ったのだ。
崩れ落ちる瓦礫と舞い上がる砂塵の彼方から姿を現したのは、まさしく愛機を
駆って子供たちを救いにやってきたヒーローだった。その姿に、子供たちの歓声
が上がる。
「お姉ちゃん、あれが仮面ライダー?!」
「そう、あいつが仮面ライダー!」
真里の言葉に大きく頷いて答える仮面ライダー。そして里沙をその場に残すと
スカイライダーは車体を翻して、怪人たちの姿を追う。真里もまた、里沙の念力
の助けを借りて海苔巻きから脱出すると、後を任せてスカイライダーの後を追った。
「おのれ仮面ライダーめ!またも我らの邪魔をする気か」
基地の外で新たな作戦行動を開始しようとした矢先、二人の姿を認めた怪人
たちが叫ぶ。その声に応じてアリコマンドたちが周囲を取り囲む。スカイターボ
から降りて身構えるスカイライダー、そしてカッパ巻きから脱出した真里もまた
鋭い視線で敵の機先を制する。ここにライダーと怪人たちの戦いの火ぶたが
切って落とされた。