インターミッション 「あいつの名は仮面ライダー」
世界征服をもくろむ悪の秘密結社、ゼティマ。これまで数々の計画を
仮面ライダーに阻まれてきたこともあって、その行動は日を増すごとに
大胆、かつ凶悪になりつつあった。そして彼らは将来改造人間の素体と
なるべき健康な子供を集めるため、白昼堂々と幼稚園バスをジャックする
暴挙にでたのだ。
「このバスは我々ゼティマが乗っ取った・・・ってコラ!そこのチビ、
泣くんじゃない!!」
車内にあふれる子供たちの鳴き声。これがデスターの犯行ならば今頃
アジトは魔神ゴーラがはき出すダイヤであふれんばかりなのだろうが、
今回の作戦を担当したのはゼティマ正規軍の怪人「ウニデーモン」。
体表に生えた鋭いトゲ、そして頭の角。虎縞の腰巻きを履いたその姿は
昔話の鬼の様にも見えるが、彼はウニの改造人間である。
「俺はこんな事のために日本に来たんじゃないぞ、クソッ!」
一人悪態をつく改造人間。バスを乗っ取ったのは彼とゼティマの秘密
工作員「アリコマンド」の一団だったが、彼らもまた子供たちの扱いに
苦慮していた。アリコマンドの一人が、小さな女の子と共にウニデーモン
の前に歩みでた。
「ウニデーモン様、この女の子がトイレに行きたいと・・・」
「そんな事この俺が知るか!!」
怒鳴りつけた直後、眉間に痛みが走るウニデーモン。もっとも改造人間に
偏頭痛というものがあるのかどうかは、定かではなかったが。
「そういや前にもこんな事なかったっけ?」
風を切って走るスクーター、そしてそれを駆る少女は一人呟く。視線を
落とすと、計器類のそばにある液晶パネルにメールの着信を示す表示が
あった。そのそばにあるスイッチを押すと、メールの本文が表示される
仕組みになっている。少女は持ち合わせた超感覚で事件を察知し、さらに
その詳細をメールで知ったのだ。
『ヤグチサンエ ヨウチエンバスジャック ハッセイ ツジ』
「矢口さん『え』じゃなくて『へ』だろぉ・・・小学生かよ」
そう言ってメールの誤字に一人ツッこむ矢口真里。彼女は改造人間で
あり、仮面ライダーV3として人類の自由のために戦っている。しかし
アルバイト帰りの彼女は生化学研究所からマシンを乗り換える暇もない
まま、ジャックされた幼稚園バスを追っているのだ。愛機「ハリケーン」
ならバスの追跡など造作もないことだが、スクーターのスピードなど
たかが知れている。いざとなればV3に変身し、ホッパーを使って捜索
することも考えたが、今はとにかくバスを見失わないよう、可能な限り
全力で追跡しようと真里はスクーターを飛ばす。やがてスクーターは
街を抜けて郊外へ至り、そして人里離れた山奥へと向かう。おそらく
目指すはゼティマの前線基地であろう。
程なくしてバスは前線基地のある、とある山の中にたどり着いた。
基地の施設は巧妙にカムフラージュされており、一目見ただけでは
そこに建物や施設があるなどとは、誰も思いはしないだろう。しかし
バスが鬱そうと茂る木立の前に停車するや木々は次々と消失し、代わり
に無骨な鉄の門が姿を現す。高度な科学力が可能にしたホログラムが
この基地を人目から隠していたのだ。
「こんな山奥にまで基地を作っていたなんて・・・ゼティマめ」
幼稚園バスが門の向こうに消えていく様を見届けた真里は、再び
ホログラムによって隠された秘密基地の入り口近くを入念に捜索して
いたのだが・・・。
「ちくしょー!オイラ捕まっちまったよ」
それは真里が基地の入り口近くまで接近した、数分後のことだった。