メンテナンスルームは基地の最深部、地下のある一角にあった。そこは通常の
戦闘員や怪人などといった一般の改造人間が立ち入ることのない、ZXや美帆
らパーフェクトサイボーグのための専用区画であった。ゼティマはこの区画に
技術者や科学者を集めて作業に従事させていた。そこには、白い全身スーツの
科学技術専門員、通称「白戦闘員」に混じって彼らを指揮する一人の女性の
姿があった。男勝りの口調でその場にいた白戦闘員に指示を飛ばし、ある時は
自分が実際に器具を手に見本を示している。
「先生、コイツを診てやってほしいんだけど。」
「だぁれ?」
信田の声に振り返ったその女性は一見科学者らしからぬ風貌であったが、
風貌信田が声をかけるまでは的確に指示を出しながら作業を指揮していた。
「あぁ、お前か。で、どうした?」
まるでたった今信田の存在に気づいたかのごとき口ぶりであったが、信田
は特に腹を立てる様子もない。彼女〜夏まゆみはいつもそうなのだ。そんな
彼女に信田はZXを引き合わせる。顔を隠していたジャケットを取り、ZX
は初めてまゆみの前に姿を見せた。
「うちにこんな子いたっけ?」
あっけらかんと言い放つまゆみに、一瞬唖然とした表情を浮かべる
信田、そしてZX。
「うそだって。気にするな」
そう言って舌を出して笑うまゆみ。実は彼女は二人の執刀後にこの部署
に配置され、信田〜タイガーロイドのメンテナンスを受け持ったことは
あるものの、二人の改造には直接携わってはいなかった。しかし、配置の
後に必要な資料はあらかた手に入れ、手元に持っていたので二人の素性に
ついても大筋で知っているのだ。
まゆみは信田を返すと、ZXを伴って専用のメンテナンスポッドがある
部屋へと向かう。その途中、彼女はZXに戦いのこと、ダメージに関する
ことを聞く。それは医師が患者に問診するように続けられたが、まゆみは
やがてZXの電子頭脳に起こった「奇跡」とも言うべき現象を知ることに
なる。ちょうど二人がメンテナンスルームへとたどり着き、ポッドに身を
横たえたZXが格納庫で起こった出来事を語った時のことだった。
二人がたどり着いたのは科学者たちが「レベル4」と呼ぶ脳改造を行う
区画だった。そこにこれから使用する器具、脳改造専用のメンテナンス
ポッドが配置されている。それは人間一人が身を横たえて入ることの
できる大きなカプセル状の機器で、入ると同時に主として頭部へと機器が
自動的に配置されて脳改造、および電子頭脳のメンテナンスを行ったり
するものである。
ZXがその中にその身を横たえると、当然のごとく脳改造のための
さまざまな機器が自動的に作動してその姿を現し、彼女の頭脳に連結
されていく。だが、まゆみはすぐには作業を開始しなかった。ZXの
ダメージの詳細を知りたくなったのだ。彼女の任務よりも、科学者と
しての好奇心のほうが勝ってしまったまゆみはその時の様子を根掘り
葉掘り聞き出していく。
「それで、あんたはその直後どうなったの?」
「声を聞いた・・・女の声だった。『マコト』って」
電子頭脳に走るノイズ、そしてその直後に聞いた謎の声。何者かが
呼ぶその名は「マコト」。ZXの言葉にまゆみは驚き、そのあまりに
身体の震えすら覚えた。肌があわ立つほどの衝撃は、彼女にある言葉
を引き出させた。
『なんて事なの・・・奇跡だわ。それが本当ならこの子は』
彼女の知る範囲において、脳改造に干渉するほどの強いノイズ
というものは存在しないものだった。そして、そのことはまゆみに
「本来ならあり得ないこと」を想起させる。脳改造からの脱却と
いう、奇跡。翻れば、完全な脳改造を終了して人間性を取り戻した
例などというのは皆無であった。