今晩の予定でしたが、多少進めます!
>>153から
「毒うつぼ」の操るうつぼは嵐の身体に絡みつき、締め上げようとするが、
嵐は慌て怯むことなく、絡みついたうつぼを引き剥がして「毒うつぼ」に投げ返した。
と同時に、嵐は背の刀―名を「ハヤカゼ」と言う―を抜き放ち、「毒うつぼ」に斬り掛かる。
だがそこへ、卑劣にも血車党の下忍たちが十人程「毒うつぼ」の前に現われ、嵐を遮った。
彼らはかつてユキを血祭りに上げた時のように、嵐に一斉攻撃を仕掛けてきた。
しかし化身忍者・嵐となって蘇った今のユキは、もうあの頃のユキではない。
化身手術によって得た「人智を超える力」を存分に発揮し、次々襲い来る凶刃の雨を掻い潜る。
やがて、嵐は優勢に立った。そして・・・!
「嵐・旋風斬り!!」
ハヤカゼを携えた右手、そして左手を水平に構え、十字のような形を取るや、
嵐は両脚の親指の爪先を軸にして(前述にもあるが、嵐の手足は人間のそれと
鳥の脚を融合させたような形状をしている)、刃の方向に向かってその身をまるで
独楽か竜巻の如く勢いよく回転させ、下忍たちに肉薄していった。
突然のことに当惑した彼らは、皆反撃の隙を与えられぬまま一人残らず無残な屍を晒していった。
かつてのユキも、手も足も出ぬまま生死の境を彷徨ったのだから、彼らにとっては
因果応報と言えるだろう。
かくして邪魔者を蹴散らした嵐は、改めて「毒うつぼ」と対峙する。
「毒うつぼ」もまた、下忍の刀を拾って構えた。
静かな中にも凄まじいまでの殺気を漲らせ、二人は睨み合う。
程無くして、周囲に激しい剣戟の音が響き渡った。
嵐・「毒うつぼ」、両者共に駆け出し、互いの刃を打ち合わせていたのだ。
一進一退の攻防。斬り結ぶこと数十回。両者は互いに譲らず、凄絶な斬り合いを展開した。
だが、谷一族の確かな口伝の記憶による化身手術によって造られた嵐と、
奪った秘伝の書を頼りに俄仕込みの手術で造り上げた血車化身忍者とでは格が違う。
徐々に嵐は、戦いを自分に有利になるよう進めていった。そして「毒うつぼ」の僅かな隙を突き、
止めの一太刀を浴びせんと上段の構えを取る!
だが、「毒うつぼ」も負けてはいない。嵐が刀を上段に振り被った瞬間を狙っていたのか、
突如大きく口を開け、そこから何やら怪しい煙を噴き出したのだ!
咄嗟に煙をかわす嵐。彼女にかわされた煙は、そのままその背後にあった血車党の下忍の亡骸に降りかかった。
次の瞬間・・・・・・!
下忍の亡骸がドロドロに溶け落ち、骨も残さず蒸発したではないか!!
「毒うつぼ」の口からの煙には、人体を溶かす猛毒が含まれていたのだ!!
接近戦は不利と読んだ嵐は、「毒うつぼ」との間に一定の距離を取る。
慎重に攻撃の機会を窺う嵐。形勢は、瞬く間に逆転した。
二人の位置から遠く離れた大木の影では、この戦況を見ていた骸丸がほくそ笑んでいる。
嵐は「毒うつぼ」の毒煙攻撃をかわすのに精一杯で、なかなか反撃の糸口を見出せないでいた。
だが、劣勢に追い遣られつつも嵐は冷静に「毒うつぼ」の様子を常に観察していた。
見ると、「毒うつぼ」は毒煙を吐く際に頭上の触角を注意しながら動かしているようだ。
どうやら触角を動かすことによって煙の量や毒の濃度を調節しているらしい。
嵐は「毒うつぼ」の弱点を看破した。あの触角を断ち切れば「毒うつぼ」は自分で煙を調節出来ずに
自滅するのではないか、と・・・。
そして嵐は勝負に出た。
「忍法・羽隠れ!!」
術の名を高らかに宣言し、人差し指を立てた右手を天にかざす嵐。
瞬間、彼女の身体から、化身の過程同様に無数の鳥の羽が噴き出し、縦横無尽かつ
規則正しく飛び回りながら「毒うつぼ」の視界を遮った。
嵐のこの目くらましに「毒うつぼ」は怯み、狂ったように刀を闇雲に振り回すが、
彼は完全に嵐を見失っていた。
一方、当の嵐は、敵の出鼻を挫いた隙に上空高く舞い上がり、間髪入れず急降下した。
一瞬の出来事に大木の陰に潜んでいた骸丸は慌て、「毒うつぼ」に撤退の指示を出そうとしたが時既に遅し。
無論、そのような悪あがきを嵐は許しはしない。うろたえる敵を無視して急降下中の彼女は、
眼前に迫る「毒うつぼ」の触角目掛けて正義の刃を振るった!!
「ギャアアアアアァァァ・・・・・・!!!!」
この世の物とは思えぬ身の毛もよだつような恐ろしい悲鳴を上げ、頭頂部を押さえて
蹲り、苦悶からその場に転げ回る「毒うつぼ」。その彼のすぐ傍には、
嵐の一閃によって削ぎ落とされた彼自身の二本の触角が落ちていた。
苦しみ、よろけながらも「毒うつぼ」はなおも立ち上がるが、最早万策は尽き果てていた。
改めて撤退の指示を出す骸丸に従い、彼は再起を図るべく戦線を離脱した。
触角を失ったとは言え、化身忍者としての能力はすべて死んだわけではなかった。
「毒うつぼ」は骸丸に連れられ、死に物狂いで全力疾走する。
「・・・!?逃がさんぞ!!」
もうこれ以上の犠牲は出したくない。許すまじ血車党!
嵐は逃げる敵を一喝するや、天まで届けよと口笛を吹いた。
程無くして、現代の競馬の競走馬のような覆面を被った一頭の馬が嵐の下に馳せ参じて来た。
現代の速度に換算して時速五百キロで疾走したであろうこの馬こそ、谷の鬼十が嵐=ユキを
助ける伴侶として彼女に与えた忍馬・ハヤブサオーである。
嵐はハヤブサオーの背に跨ると、逃げる「毒うつぼ」と骸丸の後を全速力で猛追した。
間も無く嵐は彼らに追いついた。驚いた骸丸は、命惜しさから「毒うつぼ」を残して早々に退散。
この時点で、「毒うつぼ」の命運は決した。
ハヤブサオーから降りた嵐に、玉砕覚悟で猛然と突っ込む「毒うつぼ」。
彼に残された、最後の決死の抵抗であった。
だが、嵐は動じない。今ならば容易に倒せる、その自信が彼女にはあったからだ。
やがて嵐はハヤカゼを構えると、明鏡止水の心境でゆっくりと刃をかざしていく。
その先には、西に僅かに傾きかけた太陽が彼女に加勢するかの如く暖かくも強い光を放っている。
やがて、その日の光がハヤカゼの刃を介して「毒うつぼ」の両眼を強く、鋭く射抜いた!!
「・・・・・・!!!」
強烈な日の光をまともに受け、「毒うつぼ」はまたも怯んだ。そこへ今度は嵐が「毒うつぼ」に突進する!!
そして・・・・・・!!
「秘剣!影うつし!!」
嵐は必殺の名を叫び、擦れ違い様に破邪顕正の一太刀を「毒うつぼ」に浴びせた!!
斬られた「毒うつぼ」は痛みを感じなかった。
そればかりか彼は、自分の身に何が起きたのかわからぬまま、斬られたことも気づかず
反撃に転じようとするが、嵐の方へ振り返ったその瞬間、へその辺りを境に上半身がぐらつき、
そのまま大地へと転げ落ち、残った下半身もその場に崩れるようにして倒れた。
そして、醜い屍と化した「毒うつぼ」は、ジュクジュクと不気味な音を立てながら溶け、
遂には完全に消滅した。
変身忍者嵐=ユキは、その初陣を見事な勝利で飾ったのだ。
だが、勝利の余韻に浸る彼女の頭上に、他ならぬあの骸丸の声が響く。
「おのれ嵐!今回はこのくらいにしておいてやるが、これで済んだと思うなよ!!
化身忍者誕生の秘伝書は、既に我ら血車党の手の内にあることを努々忘れぬことだ!!
これからももっともっと強力な化身忍者を造り出し、必ずや貴様と、貴様に関る者全ての
息の根を止めてやる!!首を洗って待つがよい!!!」
その憎々しげな声に、新たなる闘志を燃やす嵐=ユキであった。
翌日・・・・・・
ユキは五木家に帰還し、血車党の江戸侵略阻止を報告すると共に、秘伝書奪還までの間
暫く藩を離れる旨を告げた。
初めは多少の当惑を見せていた藩主・弘繁であったが、ユキの「秘伝の書を取り戻し、
必ず戻って参ります。」と言う誓いを耳にし、快く彼女を送り出したのであった。
くノ一ユキ・・・変身忍者嵐の真の戦いの火蓋は、ここに切って落とされた。
だが、彼女自身、そして血車党にとっても、「運命を大きく左右する事態」が待ち受けていようことを
まだこの時の彼女たちは知らない・・・・・・。
第34話「むかし むかし・・・」ようやく完!!
色々とトラブルがございましたが、やっと「嵐」初登場編終了でございます。
皆様、ご迷惑をお掛けして大変申し訳ございませんでした。この場を借りて
心よりお詫び申し上げます。
また暫くは読み手に戻りますが、嵐と中沢軍団、血車党とゼティマのそれぞれの
合流話も、またいいのが思いついたら筆を執らせて頂きます。
では、長い間本当にありがとうございました!!