炎の中に立つ謎の敵。それはまるで西洋の騎士のような甲冑姿だった。しかし、
顔面のひさしの部分から覗くのは異様なほど巨大な眼球。この奇妙な姿をした者は
まさしくシャドウの差し向けた刺客だった。
「お前はシャドウが差し向けた破壊ロボットか!サンライズビームの直撃を
かわしたところを見ると相当の手練れじゃな?」
「冥土の土産に教えてやろう。俺は『シャドウナイト』。ゼティマに仕え
シャドウを統べる者だ」
そう言ってシャドウナイトは炎をものともせず二人の元へと近寄ってくる。
そんな彼を遮ってゼロワン達が行く手を阻むが、シャドウナイトは目から発する
眼力光線で次々とゼロワンを破壊する。まいは和尚の手を引き敵の手から
逃れようとしたのだが、彼はその手を振り払う。
「まい!儂に構わず行け!!妹たちを救うのじゃ!」
「でも・・・和尚は・・・」
「儂の事は良い!事態は一刻を争うのじゃぞ!?急ぐのじゃ、まい!!」
炎の中で叫ぶ風天和尚。それでもまいは和尚を救おうと炎の中へと飛び込もう
とした。だが、寺の梁が焼け落ちて二人を分かつと、やがて彼の姿は逆巻く炎の
中に消えていった。和尚を置いていくわけには行かなかったが、ここまで炎の
勢いが強いともう彼を救い出す事は出来そうにない。炎と煙をかいくぐって
池のある裏庭へと飛び出したまいは燃える本堂に背を向け、ダブルマシンに
またがるとエンジンを始動した。
『ブロロロロロ・・・』
「ハッ、もしや逃げられたか?!」
外から聞こえたエンジン音に、シャドウナイトが振り返る。彼のそばでは
未だ活動を続けるゼロワンが、額からサンライズビームを放ち寺を徹底的に
破壊していた。辺り構わずビームを放ち、味方に誤爆しようとも一向に
動じないその姿は、どちらが破壊者なのか判らなくなるような光景である。
その壮絶な修羅場の中シャドウナイトが辺りを見渡すと、まいだけでなく
風天和尚の姿もまた既になかった。
「風天和尚・・・小賢しい真似をしてくれるわ!」
そう言うや、シャドウナイトは主を失ってなおビームを放ち続ける人造人間に
裏拳一閃、頭部を吹き飛ばして完全に破壊した。
「あの人造人間を放っておいては、後に災いを残す事となろう。室蘭や函館
の件もある。禍根はあくまで絶つべし、だ」
やがて本堂の壁を蹴り破って外に出たシャドウナイト。彼はダブルマシンが
走り去って行ったと思われる方向をしばらく見つめていた。
燃える木菟寺を後にして、まいはただひたすら走り続ける。風天和尚が
示した目指すべき場所は「加護生化学研究所」。心に刻み込んだ戦うべき敵の
名は「シャドウ」、そして「ゼティマ」。ダブルマシンを駆ってまいは南を
目指す。まいはまだ知らない。自分が立ち向かうべき悪の巨大さを。彼女が
出会うであろう、同じ運命の元に集いし少女達の事を。
しかし、まいは何者も恐れない。苦悩や葛藤を心に持たない彼女は、同時に
悪と戦う事を躊躇したりはしない。たとえ妹達を案じる心がプログラムの産物、
人によって作られ与えられた心であったとしても、抱き続ける今がそれを確かな
ものに変えていく。それを「成長」と呼ぶならば、風天和尚が見届けたかった
のはまさしく、まいが経験を重ね成長していく姿ではなかったか。
(ひとみ、梨華。必ず行くから待っていてね。悪のある所必ず現れ、悪の
行われる所必ず行く。それが私・・・)
「キカイダー01!」
長い髪を風になびかせた少女の声が、北の青い空に吸い込まれていった。
第36話 「走れ、まい!妹たちの許へ」 終