闇の中、声が途切れた。
カオリは無言で立ち上がり、台座の上に横たわる真希を見つめる。
すでに生命活動を休止して数日経ったはずのその身体は腐敗もせず、
恐ろしいほど美しいままその形を保っていた。
胸に生える銀の剣が鈍く光を放ち、まるで鼓動の様に微かに上下する。
透き通る白い肌にはほんのりと赤みがさし始め、何も知らない者が見れば、
それはただ眠りについているだけだと思うだろう。
「……あとはただ待つのみ、か……」
カオリは無表情に呟いた。
何処からか感じる強大な瘴気は次第にその色を濃くし、室内を圧迫していった。
「雷よっ!!」
魔力を開放した真里の周囲に無数の雷球が具現化し、石川をめがけ飛来する。
その表面が石川の肌に触れた瞬間、勢い良く爆ぜる。
だが、光の渦から石川が飛び出し、鎌を薙ぐ。
「っ!」
銀の光が微かに真里の頬をかすめ、一筋の血が流れた。
「真里っ!!」
悲鳴にも似たなつみの声に返す余裕もなく、石川の斬撃をかわしながら、
真里は歯軋りした。
(くそっ! やっぱ詠唱無しの魔法じゃ肌を焦がす程度かよっ!)
鋭さを増す攻撃に、徐々に追い詰められて行く焦りが生まれる。
ガッ!
「っ!?」
不意に何かに足を取られ、真里の身体が傾く。
「ちぃっ!」
それは先程石川に切り捨てられた兵士の半身だった。
石川の斬撃の凄まじさに、周囲への注意がそれていたのだ。
「終わりよっ!!」
一瞬の隙を見逃さず振り下ろした石川の鎌が、真里の頭上に迫る。
(だめっだ!! 避けられないっ!)
「真里――っ!!」
思わず目をつぶり叫ぶなつみ。
ドゴォッ!!
ぶつかり合うような轟音。
石川の鎌が真里の体を両断した――そんな場面を想像し、ジワリと涙の浮かんだ
眼を恐る恐る開いたなつみの視界には、衝撃に吹き飛ぶ石川の姿が映っていた。
「……ぇ?」
視線をそのまま移動させる。
よろけた状態の真里の傍らに立つ、もう一つの人影。
「っ!」
ザッと態勢を立て直して地に立った石川が、人影を睨む。
「……なによ、あんた。邪魔する気?」
「……邪魔なのはあなたです」
冷たい中に微かに怒気をはらんだ声で石川の視線を受け流し、振り向く。
その顔に、呆然としていた真里の表情が、驚きのそれに変わった。
「っ! おっ、お前……紺野……か?」
真里の狼狽ぶりが可笑しかったのか、紺野が目で微かに微笑む。
「お久しぶりです、矢口さん」