1 :
チーズ ◆WfCHeesEN6 :
03/02/27 00:59 ID:w+7tHOOb
インターコンチネンタル王者
一,モーヲタ(個人・団体)の話題をメインに扱うスレも禁止です。 一.スレッドの立て逃げは駄目です。 あと 5. 掲示板・スレッドの趣旨とは違う投稿
4 :
ごま●とう ◆B4jNHKGOTo :03/02/27 01:03 ID:mmCUWQT4
ヒトイネ
5 :
チーズ :03/02/27 01:03 ID:w+7tHOOb
で、どうすんの?
7 :
チーズ :03/02/27 01:06 ID:w+7tHOOb
どーしましょー。 っつーか誰か来いやぁ!!!!うんこが!!
8 :
なっちまん :03/02/27 01:10 ID:ol+y4qdM
喧嘩する奴いたら喧嘩したいから来てくれ
9 :
なっちまん :03/02/27 01:11 ID:ol+y4qdM
羊かよ!!!!しかも喧嘩じゃねーのかよ!!! こねーよ誰もw
10 :
名無し募集中。。。 :03/02/27 16:39 ID:OVRolZLz
10
11げtズサー
8. URL表記・リンク
宣伝・罠・実行リンク
明らかに宣伝を目的としたリンクは、宣伝掲示板以外では削除します。
また
>>3 にも該当してるのでdat落ちまで放置にご協力お願いします。
はなじぶー
************************* *** RPG小説「魔神召喚」 *** ************************* →START CONTINUE
――プロローグ―― ザアアアァッ。 静かに打ち寄せる波に足先を濡らしながら、なつみは風に揺れる髪を そっと撫で付けるように押さえた。 視線の先、水平線にうっすらと浮かぶ大陸は、今日も濃い霧に包まれている。 この名も無い小さな島に生まれ育ったなつみは、毎日この海岸を散歩しながら、 見知らぬその土地の生活を想像しては、想いを馳せるのだった。 (あの大陸の中心に位置する、世界を統一してる帝国……はぁ、憧れるべ。 きっと、街並みも、そこを歩く人達もみんな綺麗で素適なんだべなぁ……) なつみは頭の中で、絵本に出てくるようなお城のような街並みを、 貴族のような煌びやかな服をまとい、さっそうと歩く人々を思い描いていた。 (なっちもこんな何も無い田舎じゃなくて、あっちに生まれたかったべさ) なつみはつまらなそうに海水をパシャッと蹴り上げると、水平線から 視線を外し、ため息をついて歩き出した。 (ん? 何だベ? あれ……) 砂浜をゆっくりと歩いていると、十数メートル先の岩場に何か黒い塊を見つけた。 「……人、だべか……?」 目を凝らして見ると、それは黒いローブをまとった人間のようだった。 なつみは慌てて駆け出した。 近くでよく見ると、それは少女だった。 金髪の、随分と小柄な少女。裾の長いローブが身体を覆い隠しているが、 おそらく背丈は150センチもないだろう。 「ちょっとあんた! しっかりするべさ!」 なつみはしゃがみこんで少女を抱き起こし、肩を揺さぶった。
「……ぅ……」 やがて少女の瞼がゆっくりと開き、やや焦点の合わない瞳が、 少女を覗きこむなつみを捉える。 「ここ……は?」 衰弱しきった、かすれた声。 「なっちの住む島の海岸だべ。あんた、島の人間じゃないべな?」 意識を取り戻した少女に安堵の笑みを浮かべるなつみの言葉に、少女は 視線を水平線の方へ向ける。 「……ひょっとして、あんた大陸の人だべか?」 なつみが問うと、少女は微かにうなずき、 「私は……」 口を開きかけるが、再び意識が途切れたのか、なつみの胸に寄りかかる様に 倒れこむ。 「わっ!」 慌てて少女を抱きとめるなつみ。 意識の無い少女をそっと砂浜に横たえると、 「ちょ、ちょっとまってて! 今、人を呼んでくるべさ!」 言って、急いで村へ向かって走っていった。
―― 一章 ―― 「……何を言って……!」 「……ことが、我が……」 「……なのかって……!」 薄暗い部屋に怒声が響く。 帝国の中心部にそびえ立つ、王城の一室。 石造りの壁にかかった松明の明りが、ぼんやりと二人を照らしている。 黒いローブをまとった金髪の少女と、冷たい目をした長身の女性。 「……正気じゃないわ!」 吐き捨てる金髪の少女を長身の女性が冷ややかに見下ろし、指を鳴らした。 それを合図に、部屋に数人の騎士が雪崩れ込んでくる。 「……残念だわ、真里。あなたならわかってくれると思ったのに……」 「っ! ふっ……ざけんなよカオリ! オイラがそんな事に手を貸すわけ ないだろっっ!」 金髪の少女――真里が吼える。 「そう。なら……死んでもらうわ」 長身の女性――カオリの言葉に、騎士達がじりじりと真里ににじり寄る。 背後は壁。逃げ場は無い。真里の頬をひとすじの汗が落ちる。 (……絶体絶命ってやつだな……しょうがない。やるしかないか……)
真里は握り締めていた拳を開くと、頭上に振りかざし高らかに呪文の詠唱を 始めた。 その内容を聞き、カオリの顔色が変わる。 「! 空間転移だと!? い、いかんっ! 殺せっっ!!」 「おせえよっ!!」 飛びかかって来た騎士達の剣が振り下ろされる瞬間、真里の身体が僅かに ゆがみ、轟音と共に弾けた。 呪文の余波が消え、再び静寂が訪れた部屋の中にはすでに真里の姿は無く、 残ったのは壁に剣を叩きつけた状態で呆然とする騎士達と、真里を逃して しまった事への怒りに顔をゆがめるカオリだけだった。 「くっ……ええい! 奴の魔力では遠くへの転移は不可能なはずだ! まだ近くにいるぞ、探せっっ!!」 カオリが怒鳴り、騎士達は城内へ散って行く。 部屋に一人残ったカオリは、こぶしを震わせ歯軋りした。 「くそっ! 油断したわね。まさかこんな事になるなんて……」 忌々しげに床に唾をはき、誰もいない空間を睨みつける。 「いいわ……。こうなったらどこまでも逃げなさい。必ず追い詰めて…… 殺してやる!」
微かに聞こえてくる城内の喧騒に、「へっ、ざまぁ」と口を歪めながら、 真里は城壁に身体を預け、倒れそうになるのを堪えていた。 空間転移の魔法は、通常のそれとは比べ物にならないほどの体力と精神力を 消費するのはもちろんのこと、身体そのものに架かる負荷も尋常ではない。 熟練した魔法の使い手ですら、下手をすると命を落しかねないのだ。 まして身体的成長が平均よりも未熟な真里など、身体が消滅しなかった だけでも奇跡といえる。 (はは……でもやっべぇなぁ。こんな所にいちゃ、すぐ見つかっちまう。 もっと……遠くに逃げないと……) 頭では解っていても、身体が言う事をきかない。 一歩足を進めるだけで身体が引き裂かれそうな激痛に襲われる。 (あ……やば……意識、とび……そ……) よろけた真里の身体が、支えを失った人形のように崩れ落ちる。 その時、真里は視界の端に黒い人影を見つけた。 倒れた真里の耳に、ゆっくりと誰かが近づいてくる足音が聞こえる。 (みつ……かった?……へへ、ここ……ま……で……かよ……) 足音が側にたどり着く前に、真里の意識は闇の中へと沈んで行った――。
ハッと真里は目を見開いた。 煤で汚れた、板張りの天井が見える。 窓から指す日の光と、鳥の鳴き声。 急な状況の変化に、しばし思考回路が停止する。 「あー! 起きたっ?」 不意に聞こえた声に、ビクッと身体が跳ねる。 「っ! ぁぅ……」 その瞬間、身体を痛みが走り、思わずうめき声が漏れる。 「あ! 駄目だよ、まだ動いちゃ!」 声の主が慌てて近寄って来て、真里の身体をベッドに押し付ける。 (……誰?……帝国の兵士じゃ無い、な……) 「いやー、でも意識戻ってよかったー。海岸で目覚ましたと思ったら またすぐ倒れちゃった倒れちゃった時は、なっちヒヤヒヤしたべさ」 そう言って笑う彼女をじっと見ていると、彼女は「ん?」と不思議そうな 顔をした。 「あ、あれ……? ひょっとして覚えてない? 海岸で倒れてた事」 (海岸……? 私……王城から逃げ出して……そんで倒れて……あれ?) 真里は混乱していた。 私が海岸で倒れてた? どうやら所々記憶が飛んでいるようだ。
「あー、あの、さ。ここ、どこ?」 真里が恐る恐る聞くと、彼女はさらに不思議そうな顔をした後、破顔し、 「なーにいってんの。さっきもいったべ。ここは、なっちの住んでる島。 んで、今あんたが寝てるのは、なっちの部屋のベッド。って、やっぱ 覚えてないんだべか?」 (島? ってことは、ここは帝国はおろか、大陸ですらない、って事?) 自分が何故こんな所にいるのかは解らないが、とりあえず助かった、 と言う事なのだろうか? 痛みに顔を歪めながら、真里はゆっくりと上体を起こす。 「……あなたが助けてくれたんだ? ありがとう。ええっと、なっちさん、 だっけ?」 「うん。ホントはなつみっていうんだけど、なっちでいいべ。みんな そう呼んでるし」 なつみはそう言うと、楽しげに目をきらきらさせて、 「で、あんたは?」 「あ、えと、矢口。矢口真里」 真里は戸惑いながら答えた。
なつみはふんふんと大げさに頷くと、しばらく何か考える様に腕を組み、 うなった。 やがてポンと手をたたき、 「真里だから、マリリン!」 「はぁ?」 真里はいきなりの事に素で声を上げてしまった。 「あれ? だめかなぁ。マリリンって可愛くない?」 「……却下」 「う〜ん、じゃぁマリー!」 「……普通に真里って呼んでよ」 真里がげんなりと答えると、なつみはちぇっと唇をとがらせ、 「可愛いのにな〜」としばらくぶつぶつ言っていた。 (変な奴。……まぁ、でも悪い子じゃなさそう、かな?) そんななつみを見ながら、真里はこっそり苦笑した。 コンコン。 ドアをノックする音に真里となつみが振り向くと、開いたままのドアに 一人の女性がもたれかかっていた。
「よ。意識戻ったみたいやね」 「あ、みっちゃん。ゴメン、報告行くの忘れてた」 なつみがぺろっと舌を出すと、みっちゃんと呼ばれた女性は「ええよ」と 手を振り、真里の方へ視線を移した。 「そない警戒せんといて。あたしは平家みちよ。この村で、まぁ村長みたいな ことやってん」 みっちゃんが真里をここまで運んでくれたんだよ、となつみが耳打ちする。 真里がぺこりと頭を下げると、平家はニコリと笑い、 「なっち。ちょっとこの子の手当てするから、タライにお湯沸かして来て くれへん?」 「りょーかーい」 なつみが立ち上がり、部屋から出て行くと、入れ替わりに平家がベッド横の 椅子に腰を下ろす。 「……さて、と」 なつみの足音が聞こえなくなったのを確かめて、平家は真里をじっと見つめる。 「……で、何で帝国の宮廷魔術師さんが、あないな所で倒れてたん?」 「!」
にやりと笑みを貼りつかせた平家を、真里は緊張した顔で見た。 「知ってたんですか」 「アホ。あんたの着とるその黒いローブみりゃ解るわ。胸元に入っとる、 その金糸の刺繍。魔力がこもっとる。宮廷魔術師に任命される時に授かった モンやろ?」 平家を見つめる真里の瞳に、驚きの色が浮かぶ。 確かに彼女の言う通り、その刺繍にはいくつかの魔力を込めているが、普通の 人が見ても単なるデザインの一部としか見えないはずだ。それを一目で見抜くとは……。 「あなたは、一体……」 「言ったやろ?」 平家はちちち、と指を振ると、 「あたしはみっちゃん。ただのこの村の村長や」 ニカッと笑った。 「で? あたしの質問には答えてくれへんの?」 平家の言葉に、真里はしばし押し黙った。考えを口にする為に頭の中を 整理しているのだ。 やがて、ぽつりと口を開く。 「……帝国の王城から逃げて……気づいたらここにいたんです」 なつみは平家に言われた通り、湯を沸かしていたが、不意にゴロゴロと 空が鳴り、窓の外を見る。 先程まであんなに晴れていたのに、何時の間にか空は薄暗い雨雲に覆われ、 今にも降り出しそうだ。 「なんだベ〜。今日は一日晴れそうだったから、洗濯しようと思ってたのに」 そうこう言っているうちに、ポツポツと水滴が窓を打ちだし、それはすぐに 滝のような豪雨となった。 「ひゃ〜、すっごいわ、こりゃ」 どしゃ降りの雨をぽかんと口をあけて見上げるなつみ。 彼女は気づかなかった。その雨の向こう、雨雲に点々と霞む幾つかの黒い影が 飛来してくる事に。
「逃げて来た? なんでや。何があったん?」 真里は唇をぐっと噛み締め、搾り出すようにうめく。 「帝国は……皇帝後藤は、悪魔に魂を売ったんです……」 「なんやて? どういうこっちゃ、それ!」 平家が身を乗り出す。 真剣な表情になった平家を見つめ、真里はためらいがちに続ける。 「……最近、帝国の支配に各地で不満の声が上がってるんです」 「らしいなぁ。詳しくはしらんけど、帝国も随分無茶やっとるみたいやし。 大陸では反乱組織まで結成されつつあるらしいし」 「ええ。オイラも……皇帝の命で何度かそういった組織と対峙しました」 真里の瞳に後悔の色が落ち、薄らと涙が滲む。 「でも、反意は日に日に強まり、反乱軍の一斉蜂起が近いと考えた皇帝は、 ある計画を実行しようとしました」 「計画?」 真里は頷く。 「それは……魔神召喚」 「なっ! なんやてぇっ!?」 平家は思わず叫んだ。 魔神。それは太古より魔物の住まう魔界を支配する、邪なる神々。 身体的能力、精神力共に人間など遥かに凌駕する事に加え、恐るべきは その内なる魔力を持って操る「魔法」。 真里を含め、人間の魔術師が扱う魔法とは、呪文の詠唱と僅かな魔力を使い、 魔界に住む魔神達と契約を結ぶ事で、その力の一部を借り受け効果を 発揮するのである。 つまり、魔神そのものをこの世界に呼び出し操れば、その力は人間の使う 魔法など比べ物にならない威力ということだ。だが――
「魔神の召喚なんて、できる訳あらへん」 平家の言葉に、真里も頷いた。 その力の一部を借りる事にすら多大な素養を必要とするのである。 使役などできようはずもない。 それどころか、下手に呼び出そうものなら、その力の向く対象が術者自身に なる事も充分ありえる。 「それでオイラは反対したんだ。そんなことしたら滅ぶのは帝国だって。 そしたら、殺されそうになった。だから逃げたんだ」 王城から逃げた時の事を思い出し、真里は呟いた。 「でも、早く計画を止めないと。下手したら帝国だけじゃない、この世界すら 消えて無くなっちゃうかもしれないんだ」 平家は深くため息をつくと、黙って俯く真里の頭をポンポンと叩いた。 「そないな事があったんか……。でもま、とりあえず何も考えんと、まずは 体を治せや。何をするんにも、そないな体じゃ何もできへんで」 真里はうんうんと頭を縦に振ると、ずずっと鼻をすすった。 「よし! ほならクスリ塗ろうか。みっちゃん特製の薬草をブレンドした 特攻薬やでぇ。どんな怪我や病気もすぐ治るし」 平家が腕を曲げて力こぶをつくる真似をすると、真里もクスッと笑った。 「そういやなっちはどないしたんやろ? クスリ塗る前に体ふかんと いかんのに、お湯まだかいな?」 平家が呟き、ドアの方を眺めながら椅子の背もたれに寄りかかる。 と、その時―― 「きゃああああぁぁっっっ!」 キッチンの方から、なつみの叫び声が上がった。
「なんや!?」 平家は慌てて立ち上がった。 「真里! あんたはここにいろ! ええな!」 言い残し、キッチンに向かって走る。 キッチンに飛び込んだ平家が見たものは、壁際で包丁を握り締めたまま震えて いるなつみと、それを囲む様に立つ翼の生えた子鬼のような三体の魔物。 ガラスの砕け散った窓からは激しい雨が振り込み、テーブルを濡らしていた。 「やだああっ! くんな、あっちいけ!」 なつみは泣きそうになりながら手に持った包丁をでたらめに振りまわす。 「なっち!」 「あ、みっちゃん! 助けてぇ」 平家に気づいたなつみが振り向く。 「! なっち危ないっ!」 スキを見せたなつみに、一匹の魔物が襲いかかる。 「きゃああっ!」 なつみが頭を抱えた瞬間――。 ズガアァッッ! 襲いかかった魔物に雷光が走り、一瞬にして炭化させる。 「!?」 驚いて後ろを振り返ると、手をかざした姿勢のまま肩で息をしている真里がいた。 「アホっ! あんたは寝てろって……」 平家の制止を無視して、真里は一歩前に出た。 「みっちゃんさん、ここはオイラにまかせて、早くなっちを……」 苦痛に顔を歪ませながら、魔物達を睨みつける真里。 その時、窓からさらに三匹の魔物が飛び込んで来た。
「くっ!」 うめいて真里は再び手をかざす。 と、その手を平家がそっとつかむ。 「? みっちゃんさん?」 眉をひそめ平家を見上げる真里。 平家はニヤリと笑うと、 「せやから無理すんなって。あたしにまかせとき」 言って左手にしていた腕輪を外すと、「ほい」と真里に放る。 「あんたらさっきから好き勝手してくれるなぁっ! この代償は高くつくでぇっ!」 声を上げると、呪文の詠唱を始める。 「魔法!?」 真里もなつみも、驚いて平家を見る。 平家は詠唱を続けながら二人にウインクすると、魔物達を睨み、 「死ねアホンダラアァッッ!」 収束した魔力を一気に放つ。 ドゴオオッッッ! 轟音と共に火柱があがる。 魔物達は凄まじい炎に包まれ、耳障りな断末魔を叫びながら、焼け焦げていく。 「ななななな……」 なつみの視線は平家と灰になってゆく魔物を交互に行き来する。 「……みっちゃんさん……あんた、何者?」 真里もその情景に呆然としながら、平家を見つめる。 「いったやろ?」 真里の視線をさらりと流し、再びニヤリと笑った。 「ただの、この村の村長や」
「これでよしっと」 あの後、三人はなつみの部屋に戻り、真里の治療をした。 体に薬草を塗りたくり、包帯を巻く平家と真里の横で、なつみはずっと一人で 騒いでいた。 「なんなの? なんなのー?」 「なにがやねん」 包帯の余りをクスリ箱にしまいながら、平家が五月蝿そうになつみを見た。 「あの化け物! 真里! みっちゃん!」 一人ぎゃーぎゃーわめくなつみに、平家は「落ちつけ」と椅子を差し出した。 魔物。魔法。何もしらないなつみが騒ぐのは無理のない事だ。 どうにか説明を終える頃には、すでに日が落ちていた。 「……ふ〜ん。じゃぁ、真里って帝国の魔術師なんだ」 なつみが感心したように呟く。 もっとも、なつみには魔術師というものが「すごい力を使える人」程度にしか 理解できていなかったが。 「で、みっちゃんも魔術師だったんだ〜。なっち、全然そんな事しらなかったよ」 なつみの言葉に平家は、「昔とったきねづかっちゅーやつや」と言葉を濁した。 その点は真里も納得がいかなかった。 目の前で見たさっきの魔法。 その威力は、帝国の宮廷魔術師であった自分をはるかに超えていた。 (あれはちょっと魔術を習得してるとかいうレベルじゃない。一体……)
だが、真里はそれ以上考える事をやめた。 何度問い詰めても、平家はのらりくらりと質問をかわし、けして答えようと しないからだ。 「でもさ〜」 なつみが首をひねる。 「さっきの化け物……魔物? がいきなり現れたってことは、もうその帝国の計画は 実行されたって事?」 「いや……」 なつみの言葉に真里は首を振る。 「さっきの奴ら、おそらく魔界の住人の中でも最下級のレベルだよ。召喚ってのは かなり難しい魔術だから、最初のうちは低レベルの魔物召喚から始めてみたんじゃ ないかな」 「え……それじゃあ、慣れればもっと強い魔物も呼べるって事?」 なつみの問いに真里は沈痛な表情で頷いた。 「確かに魔神の召喚なんて人間には不可能だよ。でも、ある程度の魔物までなら、 過去に召喚に成功した例が無いわけじゃない」 「そして召喚術師が経験を積めば積むほど、つまり時間が経つほど状況は悪化 するってわけやな」 平家も神妙な面持ちで相槌をうつ。
「ともかく、帝国がそないやばいモンを使い出したっちゅうことが大問題やな。 こない辺境の島にまで魔物が現れたっちゅうことは、大陸はもっとえらい事に なっとるんちゃう?」 平家の言葉に、真里も同意だ。 おそらく大陸中で罪も無い人々が魔物に襲われ、その命を落としている ことだろう。 「何とかならないのかなぁ」 なつみも眉をひそめ、腕組みをして唸っている。 「……方法は、一つ」 真里はぎゅっと拳を握り締める。 「召喚魔術師を倒す。そうすれば、術師に呼ばれた魔物は魔界へ送還されるはず」 「そういえば、真里が帝国の一番偉い魔術師だったんでしょ? 誰が魔物を召喚 してるんだべ?」 なつみの疑問に、真里は苦笑を浮かべる。 「えーっと。わかりやすくいうと、召喚魔術は『魔術』って呼ばれてるけど、 オイラが使う、いわゆる『魔法』とは別物なんだ。オイラも多少使えなくはないけど、 召喚魔術を中心に習得した術師が、他にいる」 「誰や? それ」 平家の問いに、真里の脳裏に長身の女の顔が浮かぶ。 真里を見下ろす、氷のような冷たい瞳。 「オイラを殺そうとした女……。帝国宰相、カオリ」
あの日以来、島に魔物が現れる事はなかったが、大陸中には魔物が跋扈し、 世界は恐怖と絶望に包まれていた。 そして、一週間後――。 「ほんまにもう行くんか?」 海岸の船着場に浮かぶ小船を前に、平家は無駄と知りながら口を開いた。 「まだ体も完全に治ったわけやないやろ。もう少しだけ養生したほうが……」 「オイラがやらなきゃ」 真里は平家の言葉をさえぎるように言った。 「あの時、殺されそうになって逃げちゃったけど、さ。後藤皇帝と宰相カオリの 暴虐を止めるのは、宮廷魔術師のオイラの役目だと思うんだ」 真里は決意の目で平家を見やった。 「……そか」 その瞳に宿る意思に平家は微笑むと、スッと右手を差し出した。 「まぁやばくなったらいつでも逃げ帰ってくるんやで。みっちゃんはいつでも あんたの味方やし。決して一人で戦ってるなんて思ったらあかんで」 「……ありがと」 真里は照れ笑いをしながら、その右手を力強く握り返す。 「そうそう! 一人じゃなくて二人だべさっ!」
突然の明るい声に、平家と真里は驚いて振り向いた。 そこには、パンパンにふくれたリュックを背負ったなつみがいた。 「なっち! 今朝から姿みえんと思うとったら、あんた何しとん? ていうか 何やねん、そのカッコ」 驚く平家になつみはヘヘっと笑い、 「なっちも真里と一緒にいくべさ!」 「「はぁっ!?」」 平家と真里の驚きの声が重なった。 「何アホなことゆうてん。真里が向かう帝国には魔物がうようよおんねんで。 なっちがついていっても足手まといやて」 「だったら、尚更だよ」 「はぁ?」 わけがわからないといった表情の平家をよそに、なつみは急に真剣な眼差しで 答える。 「そりゃ、なっちがいても魔物との戦いには何の役にもたたないけど、だからって そんな危険な場所に真里一人行かせるわけにはいかないべさ」 「なっち……」 感動からか、潤んだ瞳でなつみを見る真里。 だが平家はなつみの真意を見抜いていた。 (……こいつ、単に憧れの帝国に行きたいだけちゃうか……) 平家のジト目に気づかないのか、はたまた無視しているのか、なつみは真里の 肩に手を置き、 「さ、いくべ」 ニッコリ笑った。
「……まぁ、そこまで言うなら、もう何もいわんけどな」 平家は嘆息すると、足元に置いておいた小袋をなつみに差し出す。 「なに? みっちゃん」 不思議そうに袋を受け取るなつみ。 「みっちゃん特製特効薬や。真里に渡そう思うとったんけど、あんたに渡しとく。 真里が怪我した時にコレ塗ってやるくらいならあんたにもできるやろ」 そこまで役立たずかな〜、と唇をとがらせながら、なつみ。そんななつみを 無視し、平家は真里に向き合い、 「こんな子やけど、よろしくしたってな」 「うん。まかせといて」 真里はまだぶつぶつ言っているなつみをちらりと見て、微笑んだ。 「さて! それじゃいきますか!」 元気に声を上げ、真里となつみが小船に乗り込む。 「んじゃ、出発するべさ!」 なつみがゆっくりと船を漕ぎだす。 やがてするすると海面を滑るように船はスピードを上げていく。 真里は島を振り返り、小さくなって行く平家に向かって大きく手を振った。 「真里、しっかりつかまってるべ。大陸までノンストップだべさ!」 「おうよ! なっち、よろしくっ!」 二人は頷き合うと、前方に霞む大陸の影を睨んだ。 (カオリ……あんたは間違ってる。止めてみせるよ……絶対に!) 真里はきゅっと唇を噛むと、小さなこぶしを硬く握り締めた。 ―― 一章 出会い ―― 完
―― ニ章 帝国の騎士 ―― 王城の薄暗い廊下を、高橋愛は顔をしかめて歩いていた。 歩を進めるたびに、ガシャガシャと鎧の擦れあう音が、冷えた大理石の廊下に 響き渡る。 (一体陛下は何を考えておられる!?) 二日前、反乱軍の鎮圧の為騎士団を引き連れて帝国をたった愛は、敵陣に 着く前に再び王城に呼び戻されたのだった。 (最近大陸各地に出没する正体不明の魔物。宮廷魔術師殿の突然の失踪。そして 今度はわけのわからない帰還命令……私の知らない所で何が起こっている?) やがて眼前に黒い大扉が見えてくる。 愛が足を止めると、扉の前に立つ二人の騎士が、無表情に会釈をした。 「帝国騎士団長高橋愛、参りました」 愛の凛とした声に、扉が軋みを上げゆっくりと開いていった。 開ききった扉をくぐり、愛は正面に向かって一礼し、膝をつく。 赤い絨毯が敷かれた、謁見の間。 だが愛の視線の先に居るべき皇帝後藤の姿は見えない。 主人不在の椅子の左には、宰相飯田圭織が厳かに佇んでいる。 右に居るべき宮廷魔術師、矢口真里の姿はやはり無い。 「ごくろう。楽にせよ」 カオリの言葉に、愛は立ち上がり、不動の姿勢をとる。 謁見の間に二人だけという奇妙さを愛は不審に思った。 失踪した真里は別としても、本来ならば皇帝後藤の他、十数人の近衛騎士が 部屋の左右に並んでいるはずである。 そんな愛を無視し、カオリは静かに口を開いた。 「騎士団長、高橋愛」 「はっ!」 名を呼ばれ、愛は緊張して返事を返す。 「そなたに使命を与える。北の国境にある関所に赴き、警護の任に就け」
「なっ!?」 カオリの突然の言葉に、愛は耳を疑った。 自分は騎士団の団長である。戦の際には軍を率いて出陣する事はあっても、 本来はこの王城を守護すべき存在だ。 ましてや北に位置するのは小国と幾つかの農村のみ。騎士団長である自分が わざわざ出向いてまで国境を固める必要など微塵もない。これではまるで 左遷ではないか! 「不服か?」 カオリの声に、愛は胸の内を叫びそうになるのを堪え、 「し、しかし……おそれながら私は皇帝陛下より、この王城の守護と各地の 反乱組織の鎮圧を命じられている身です。たとえ宰相殿の言葉と言えど、 その命、聞く事は出来ません」 怒りに震えそうになる声を必死で抑える愛。 だがそんな愛の心を見透かす様にカオリは微笑を浮かべ、 「これは、その皇帝陛下のお言葉だ」 冷たく言い放つ。 「!」 愛は信じられないといった表情で目を見開いた。 心臓が早鐘を打ち、目の前が暗くなる。 (何故!? 一体、何が起こったというのだ! 私は……) 震える頬を伝い落ちた冷たい汗が、赤い絨毯に吸い込まれ、消えた。
愛が退室すると、カオリはゆっくりと玉座に腰を下ろす。 と同時に柱の影から灰色のローブをまとった少女が姿を表した。 「あ〜あ、愛ちゃん可哀相。顔、真っ青になってましたよ。同情しちゃうな〜」 少女はクスクスと笑いながら、カオリの前に歩いて来る。 「ふん。心にも無い事を言うな、新垣」 カオリは少女――新垣を一瞥し、笑みを浮かべた。 「そんな事より、何故ここにいる? お前には高橋に代わり、魔物達を率いて 反乱軍を壊滅せよとの任を与えたはずだぞ」 カオリの言葉に新垣は大げさに肩をすくめ、 「そうそう、その事で報告しに来たんですよ」 「報告?」 カオリの眉がピクリと動く。 「ええ。中立国である西の都がどうやら密かに反乱軍と手を結んだようです」 「……確かか?」 カオリの声に微かに怒気が混じる。 「はい。それで、西の都に攻め入ってもいいものか、指示を仰ぎに戻ってきました」 カオリは顔の前で手を組むと、虚空を睨みつけた。 (西の都……小国ながら王女保田の指揮の下、我が帝国に匹敵する軍事力を有する国。 あそこが手を貸しているとなると、新垣の魔物軍では太刀打ちできないか……) カオリは立ち上がり、忌々しげに拳を握る。 (……まぁいい。元より新垣は捨て駒だ。こいつが時間を稼いでいる間に魔神の 召喚を終えれば、帝国の勝利は確実だ)
「新垣」 「は」 カオリが名を呼ぶと、新垣はわざとらしく恭しい礼をとる。 「西の都殲滅を許可する。存分に暴れて来い」 「かしこまりました」 新垣は一礼すると部屋の出口へ向かい、思い出した様に振り返る。 「そうそう、飯田宰相。この任務を果たした暁には私を宮廷魔術師に任命する件、 忘れてませんよね?」 「ああ、もちろんだ」 その返事を聞いて満足げに部屋を出て行く新垣を、カオリは冷たい眼差しで見送った。 (馬鹿が。魔術師団の一部隊長ふぜいが真里の代わりだと? 笑わせる。駒は駒らしく、 せいぜい一人でも多くの反乱軍を道連れにして死ねばいい) カオリは視線を窓の外に向けた。 (真里……。魔物達を使ってこれだけ探しても見つからないが……私にはわかる。 貴様は必ず生きている、とな。そして私を倒そうと企んでいるのだろう?) 彼女の考えを肯定するかのように、遠くから獣の咆哮が響く。 カオリは踵を返すと、玉座の奥にある、皇帝の私室へ続く通路に歩を進めた。 「……貴様は私が殺す。それまで……誰にも殺されるなよ」 呟いたカオリの口が楽しげに歪む。 その口から漏れる狂気に満ちた笑い声が、足音と共にゆっくりと闇に消えていった。
「ぎゃあああぁぁぁーーっっ!!」 「どぅえぇぁうあーーっっ!!」 二人の叫び声が、荒れ狂う海に木霊する。 なつみと真里を乗せた小船が、波に弾かれ宙を舞う。 「何でこんなに荒れてんだよーーっ!」 傾いた船の縁にしがみつき絶叫する真里の後ろを、なつみがゴロゴロと 転がっている。 島を出発してから一日。 順調に大陸に向かっていた二人を、突然の嵐が襲っていた。 雨こそ降っていないものの、激しくうねる高波の飛沫で二人の体は ずぶ濡れだった。 「真里ー! 魔法で波止めてーーっ!」 「無茶言うなアホーーっっ!」 叫ぶ度に口に海水が入り、咳き込む真里。 顔を歪めて唾を吐いていると、なつみの体が真里を押し潰した。 「ぐぇっ! なっち、重い〜〜っ!!」 「ごっごめん真里」 慌てて退こうとなつみ。その顔が恐怖に引きつる。 「真……真里」 「なんだよぉっ! 早くどけって」 真里の叫びを無視して、なつみが震える手で遠くを指差す。 「ん?」 つられて真里もその指先を見やり、 「うげぇぇっっ!」 振りかかる飛沫を拭いながら、目を丸くした。 二人の視線の先、高波のさらに向こうから、ゴゴゴゴゴとまるで地震の ような重低音とともに、高さ7メートルほどの津波が迫ってきていた。 その勢いは凄まじく、見る間に眼前にまで押し寄せてきた。 「「ぎゃーーーーーーっっっっ!!」」 成すすべも無く絶叫する二人を、津波は無慈悲に飲み込んでいった――。
愛はふらふらとした足取りで、騎士団の兵舎へ向かっていた。 行き交う騎士達の視線を苦痛に感じ、愛はその空気から逃げる様に団長室へ 入った。 「愛ちゃん……」 部屋に入ると、ソファーに腰を下ろしていた少女が振り向いた。 愛と同じ板金鎧に身を包み、左肩には帝国騎士団副団長の印が刻まれている。 「麻琴……」 少女――麻琴がそっと立ち上がる。 「愛ちゃん。話聞いたよ」 麻琴はうつむき加減に呟く。 「……麻琴が気にすることじゃない。宰相……いや、皇帝陛下の命だ」 愛は腰に差した剣を鞘ごと抜く。 騎士団長の証である一振りの剣。前団長より譲り受けた物だ。 それを麻琴に差し出す。 「麻琴。この国を……頼む」 「愛ちゃん?」 麻琴は驚いた目で愛を見つめた。 「愛ちゃん……。愛ちゃんは別に団長を解任されたわけじゃ……」 麻琴の言葉を手で制する愛。その顔に僅かに笑みがこぼれる。
「勘違いするな、麻琴。私はちゃんと帰って来るよ。これはその約束の証代わりだ。 麻琴に……持っててほしいんだ」 麻琴のいるこの場所に。愛の目がそう語っているのを悟り、麻琴は無言で剣を 受け取る。 「だが……気をつけろ、麻琴。飯田宰相はどこか変わられてしまった。この国を 中心に何かが起ころうとしている」 真剣な顔で語る愛に、麻琴も頷く。 「安心して、愛ちゃん。何が起こってもこの国、いえ、愛ちゃんの戻ってくる この騎士団は私が守るから」 剣を握り締める手に力を込めて、麻琴が言う。 そして二人はそっと抱き合い、誓いのキスを交わした。
重い城門が、ゆっくりと開いていく。 数人の従者を従えてその門をくぐって行く愛の姿を王城のテラスから眺めながら、 新垣は微笑んだ。 (フフフ。いくらお偉い職にあっても、先が見えなきゃやっていけないって事よね。 真面目でお堅いあなたは、今の帝国に必要ないって事かしら。さようなら、騎士団長さん) 新垣は手に持ったグラスに残ったワインを一息に飲み込むと、手向けとばかりに空の グラスを放り、側に控えた巨大な有翼の魔獣の手綱を握った。 「さて、と。それじゃあ私も行きますかね」 言って魔獣の背に飛び乗る。 魔獣は羽ばたき、王城の上空を旋回すると、咆哮を上げ西に向かって飛んだ。 帝国領を抜ける辺りにさしかかるにつれ、新垣の周りに魔物達が集まってくる。 翼を持つものは新垣の周囲を固める様に飛び、翼を持たないものは先陣をきるかの ように地上を駆け抜ける。 それはまるで空と地上を埋め尽くす、黒い土石流のようだ。 風に長い黒髪と灰色のローブをはためかせながら、新垣は満足げに頷くと、魔獣の背に 立って右手を正面にかざし声を上げる。 「目標は西の都壊滅! ゆけーっ!」 新垣の声に呼応し魔物達の上げる雄叫びが、薄暗い空に響き渡っていった。
(飯田宰相はどこか変わられてしまった。この国を中心に何かが起ころうとしている) 騎士団兵舎の団長室で一人、麻琴は先程の愛の言葉を思い出していた。 (確かに……) 麻琴は天井を向き目をふせた。 体を預けた椅子が軋み、耳障りな音を立てる。 (以前より横暴な政略は何度となくあったが、最近の帝国上層部はどこか狂っている。 それに……大陸各地に出没する化物達を操っているのは帝国だとの噂も流れている 事だし……) 麻琴は思いついたように立ち上がり、愛から預かった剣を腰に差し部屋を出た。 そう、馬鹿馬鹿しいただの噂だと、愛には報告していなかった。 だが噂が本当だったとしたら? (以前矢口様に聞いた事がある。私達の住む世界とは異なる世界、魔界。そして その世界に住む魔物の事を) 兵舎を出ると、渡り廊下の先にある王城を見上げる。 (大陸に出没する化物が話に聞いた魔物だとしたら。そして、それを呼び出したのが 飯田宰相だとしたら……) 麻琴は緊張に顔を強張らせて、ゆっくりと城内に向かう。 (もしもこの仮説が正しいのなら、辻褄は合う。正義感溢れる愛ちゃんは宰相にとって 邪魔な存在だろう。だから帝国から追い出された……) 階段を昇り謁見の間へ向かう麻琴。無意識にその歩みは早足になる。 (確かめなければ) 麻琴は廊下の先に見えてきた謁見の間の扉を睨み、ごくりと喉を鳴らした。
近づいてくる麻琴に気づき、扉の前に立つ二人の騎士が道をふさぐ。 「これは副団長殿。何用でございますか?」 言葉こそ丁寧ながら、その目は上司であるはずの麻琴を見下しているかのようだ。 「飯田宰相に用事だ。こちらにいらっしゃるのだろう?」 麻琴の言葉に騎士は返事もせず、ただ立ちふさがっている。 「……いらっしゃるのだろう? そこを通してもらおう」 もう一度言う麻琴。その鋭い眼光に、騎士は多少怯んだものの、動こうとしない。 と、その時、 「いいんじゃないですか〜?」 扉の向こうから、どこか場にそぐわない明るい声がした。 その声に二人の騎士はビクリと体を震わせ、麻琴の前から退いた。 (何だ? 今の声……、聞いた事がない。何者だ?) 謁見の間に入れる程の身分にある者ならばほとんど見知っているはずの麻琴は、 怪訝な顔をしながら扉を開いた。
扉をくぐると、中央に一人の少女がいた。 均整の取れたやや薄黒い四肢。 軽くカールした茶色い長髪から覗く顔には笑みがこぼれている。 人間離れした美貌。だが―― (何だ……この感覚) 麻琴の身体を冷たい汗が流れる。 目の前に立つ美女。だがその笑顔とはうらはらに、その身体から禍禍しい 気配を感じる。 「貴様は……誰だ?」 麻琴が搾り出す様に問いかける。 その声は緊張に掠れ、震えている。 ――いや、震えているのは麻琴自身か。 そんな麻琴を楽しそうに眺めながら、美女が口を開く。 「初めまして、副団長さん。チャーミー石川で〜す」 クスクスと笑いながら美女――石川がからかう様に答える。 普段ならそのふざけた態度に激昂し剣を抜く麻琴だが、石川から発せられる 異様な気配に押され、身動きできない。 すると石川は皇帝の私室へ続く通路を指差した。 「飯田さんなら奥にいらっしゃいますよ。一緒に行きますか?」 そして麻琴の返事も待たずに奥へ進む。 麻琴は眉をひそめながらも無言で石川の後に続いた。
通路を歩きながら、石川は「そうだ」と思い出したように手を打ち、振り返った。 「行くのはいいんですけど、飯田さん今儀式の最中なんで、多分お話できないと 思いますけど、よろしいですか?」 (儀式?) 石川の言葉に麻琴の心臓がドクンと大きく跳ね上がる。 (……まさか、魔物の召喚儀式……? やはり噂は本当なの?) 麻琴の心臓が早鐘を打つ。 「あ、こっちです」 皇帝の私室の間近まで来た時、急に石川が足を止め横を向いた。 何もない大理石の壁に石川が手を触れると、軽い振動と共に壁が動き、薄暗い 口を開ける。 (隠し通路!?) 驚く麻琴を促し、石川は微笑を浮かべた。 麻琴が通路を覗くと、そこには点々と松明が灯された下り階段が続いていた。 「……この先に、宰相が?」 「ええ。あと後藤皇帝もいらっしゃいますよ」 「陛下が?」 「はい。後藤皇帝には儀式の『協力』をして頂いてます」 どこか含みのある笑顔の石川に麻琴は何かひっかかった。 (協力……? 宰相が矢口様と並ぶ優れた術師ということは聞いているが、陛下は 生粋の武人のはずだが……) 石川と並んで階段を下る麻琴。 地の底まで続くのではないかという長い階段を進むうちに、周囲に得体の知れない 気配が満ちてくるのがわかった。 (この気配……先程からこの石川というヤツから感じる物と同じだ) 麻琴がちらりと横の石川を見ると、彼女は「何か?」という感じで首を傾げた。
やがて階段が終わり、奥から呪文のような低い声が聞こえてくる。 数メートル程の短い通路の先に、鉄の扉。 (あの先で宰相が儀式を?) 麻琴は恐る恐る近づき、ゆっくりと扉を押し開けた。 「!!」 扉の隙間から噴き出した、先程までとは比べ物にならないほどの禍禍しい気配に 顔をしかめた麻琴は、部屋の様子を見て絶句した。 円形のドーム状の広間の中央に、背を向けたまま呪文を詠唱するカオリがいた。 その周りを覆う様に描かれた、魔法陣。 そして――カオリの目の前に設置された祭壇に裸で横たわる後藤がいた。 「へい……か?」 麻琴は震えながら、おぼつかない足取りで魔法陣に近づき、信じられないと いうように首を振った。 目を閉じ、軽く組んだ手を腹の上に置いたまま、身動ぎしない後藤。 ――その胸には、松明の光りを受け鈍く光る銀色の剣が生えていた。
「陛下―――――っっ!!」 叫び、走り寄る麻琴。 その足が魔法陣に触れた瞬間、麻琴の身体が弾き飛ばされる。 「っ!」 「ほらほらぁ、飯田さん儀式の最中なんだから、邪魔しちゃだめですよ」 倒れたまま石川を睨みつける麻琴。 「何を……! それにあれは……陛下がっ……!」 「……生贄だよ……」 突然聞こえた声に、取り乱していた麻琴は驚いて周りを見る。 だが自分と石川、そしてこちらには目もくれず儀式を続けるカオリの他には 誰もいない。 「だっ誰!?」 麻琴は膝立ちになり声を上げる。 すると、松明に照らされ伸びた麻琴の影が微かに揺らめき、膨らみ始める。 それは徐々に立体的になり、やがて人の形を取っていく。 「!」 立ち上がった影がゆっくりと闇の衣を脱ぎ捨てると、そこには中性的な 美女が立っていた。 「よっすぃー、いたんだ」 石川を見て軽く笑うと、美女は麻琴に軽く会釈し、名乗った。 「はじめまして。吉澤ひとみです」
「……生贄ってどういうこと……?」 呆然としながら問う麻琴に、吉澤は肩をすくめるジェスチャーをした。 「どうもこうも、そのままの意味だよ」 そう言って笑うと、人差し指を立て、教え子に講義するかのように語り出す。 「いいかい? 飯田宰相はこの短期間に召喚術師として大変成長した。そう、それこそ 私や梨華ちゃんのような、魔界の住人でも高位に位置する者達すら呼べるほどにね」 言われて麻琴は吉澤と石川を交互に見た。 (やはり……こいつらから感じる禍禍しい気配は魔物のそれか) 「だが、人間として召喚魔術を極めたといっても、単独の力で魔神を召喚するのは 不可能だ。……だが」 吉澤はちらりと祭壇の上の後藤を見る。 「……この世界に具現化するのは無理でも、生贄を使いその身体に魔神を憑依させる事ならば ……不可能ではない」 「っ!!」 ニヤリと笑う吉澤。 「もっとも、成功する確率は低いが、ね」 麻琴は振り返り、背を向けているカオリを睨み、愛から預かった剣を抜いた。 (そんなことはさせない! この儀式、宰相を斬ってでも止める!) それを見て吉澤が口を開く。 「君の考えは解るよ。術者を殺せば当然儀式は失敗する。だが、さっき身をもって 体験しただろう? 飯田宰相を覆う魔法陣はあらゆる邪魔者を弾き返す。……まぁ、 あの魔法陣を作っているのは私だが、ね」
その言葉に麻琴は吉澤を見やり、 「ならば、貴様を斬れば宰相に手が届くわけだな」 「ま、そうだね。でもそれこそ不可能だよ。君が私を倒せるわけがないからね」 吉澤は楽しそうに笑いながら手を振る。 「っ! なめるなっっ!!」 叫びと同時に振るった麻琴の剣が空を斬る。 「おっと、危ないなぁ」 何時の間にか目の前から消えた吉澤が、石川の影の中から出現する。 石川を背後から抱き寄せ、絡み合う二人。 「ねぇ梨華ちゃん。私殺されそうだよ。どうしよう?」 笑いあう二人を睨みつけ、再び剣を構える麻琴。 「ちょっとよっすぃー。これじゃあたしまで斬られちゃうじゃない〜。離れてよ〜」 「あ、ひどいなぁ。私を見捨てる気?」 小馬鹿にしたそのやり取りに麻琴は怒りに震え走り出す。 「う〜ん、梨華ちゃん。彼女、本気だよ。このままじゃ殺されちゃうね」 「そおねぇ。じゃ、殺される前に殺しちゃう?」 眼前に迫る麻琴が剣を振りかぶる。 その切っ先が二人に触れる瞬間――、 ドシュッ! 何かが潰れるような鈍い音と共に、麻琴の両腕が剣を握ったまま千切れ、宙を舞った。 「っっ! っあぁああーーーっっ!!」 崩れ落ち、傷口から激しく噴き出す血に麻琴は絶叫した。 麻痺して痛みこそ感じないものの、大量に噴き出す血に意識は朦朧としていく。 「あ〜あ、可哀相。よっすぃー。ちゃんと止めさしてあげなよ」 「オーケイ」
吉澤は石川の体を離すと、ゆっくりと麻琴に近づく。 「ごめんね。だけど君が悪いんだよ。梨華ちゃんについてわざわざこんな所まで来ちゃった 君が、ね」 その言葉に石川は「なによ〜、あたしの所為?」と頬を膨らませたが、すでに麻琴には その声も届いていなかった。 「それじゃ、ばいばい」 吉澤が手を振り上げ、ささやいた。 (愛ちゃん……ごめん……約束やぶっちゃった……ね……) 薄れゆく意識のなかひとすじの涙を流した麻琴の首に、吉澤の手が振り下ろされる。 軽い衝撃に、麻琴の首が宙を舞った。 不意に馬を止め、愛は王城の方角に振り向いた。 そのまましばらく、遠く霞む王城の影を見つめる。 「団長、どうかなさいましたか?」 お供の騎士が不思議そうに尋ねる。 「……いや、何でも無い」 愛は首を振り、馬首を返した。 (……麻琴……) もう彼女には二度と会えないのではないか。愛はそんな嫌な気がして、顔を歪めた。 ポツポツと降り出した雨が、愛の体に冷たく染み渡っていった。 ―― 二章 帝国の騎士 ―― 完
―― 三章 反乱軍 ―― 波の音が聞こえる。 指の先に触れる砂の感触。 「……生きてる」 ぽつりと呟く。 眩しい太陽の光に、真里は薄らと目を開けた。 その視界に、二つの影があった。 影は寝そべった真里を覗きこむように眺めていたが、真里と目が合うと驚いた ように後ずさった。 「うわっ、死体が動いたのれす」 「あほっ! 生きとるやん」 眩しさに目が慣れてきた真里は、二つの影を見つめる (なんだぁ? ……双子?) 影はよく似た二人の少女だった。 髪型こそ違うものの、年の頃も体型もそっくりである。 「ねぇ」 「「うわっ!」」 真里が声をかけると、二人は飛び跳ねた。 (なんだよ、そんな驚かなくても……) そう思って真里が体を起こすと、視界を黒いものが遮った。 「あれ? なんだこれ?」 払いのけると、それは真里の頭を覆うようにかぶさったわかめだった。 (……なるほど。こりゃ死体と間違えるわ) 真里は苦笑し、頭を振って絡みついたわかめを振り落とした。 「おおっ! わかめ星人が脱皮しおったで!」 「怖いのれすっ! ののはまさに今、未知の生命体と遭遇してしまっているのれす!」 「あほかぁぁっっ!!」 思わず叫ぶ真里。
「オイラは人間だっつーの! ったく」 立ち上がり、抱き合って震えている二人を睨む。 「あああ、あいぼん! やばいのれす! わかめ星人が戦闘態勢にはいったのれす!」 「だ、大丈夫や、のの! うちがついとる! うちら二人が揃えば怖いもんなしや!」 そう言いつつ、じりじりと後退する二人。 (……なんだかなぁ……) 真里は呆れて思わずため息をついた。 「何騒いでるの? 何かあった?」 その時、不意に後ろで声が上がった。 「あっ! 市井さん」 助かったとばかりの二人の視線を追い振りかえると、そこには気を失ったなつみを 抱えた女がいた。 「なっち!」 真里の言葉に市井と呼ばれた女は、抱えたなつみをちらりと見やった。 「あんたの知り合い?」 「そう……」 頷こうとした瞬間、後ろに居た二人の少女の声が真里の声をかき消した。 「おわっ! こんどはブタ星人やっ! 一体どうなっとんねん!」 「ブタさんれすか!? 食べられますかね?」 「……ええっと……」 はしゃぐ二人に市井は頭を抱え、手をひらひらと振った。 真里はその光景に何と言っていいのかわからず、ただ立ちすくんでいた。
「あんた、帝国の魔術師でしょ?」 砂浜に円陣を組んで座ると、市井が唐突に言った。 「……元、だよ。今はカオリ……帝国宰相の考えについていけなくて離反した」 真里が答えると、市井は「なるほどね」とあまり興味なさそうに呟いた。 「あたしは市井紗耶香。反乱軍の、まぁ斬り込み隊長みたいなもんかな。こっちは」 市井は二人の少女を指差し、 「加護亜依と辻希美」 (双子じゃなかったんだ……) 真里はしげしげと二人を見つめる。 すると考えている事がわかったのか、加護が口を開く。 「別に双子ちゃうで。まぁ、姉妹みたいなもんやけど」 「この子達も反乱軍なの?」 真里の疑問に市井は首を振った。 「いや。この子達は違うよ。帝国の侵略時に潰された孤児院の子供達。行き場を失った 人達が、今反乱軍の本拠地になってる西の都に集まって来てるんだ」 「ああ、それで……」 市井の言葉で、真里はさっき加護が言った「姉妹みたいなもん」の意味が解った。 納得して頷く真里に、市井が話を続ける。 「で、最近ぼちぼち帝国の侵攻が激化してきてるんで、何人かが定期的に都の周りを 見まわりしてんの。それで今日あんたたちを発見したってわけ」 「じゃあ、ここは大陸の……」 「そ。西の海岸」
真里はため息をつき、天を仰いだ。 真里となつみの出会った島は、大陸の南に位置する。 そして南から上陸すれば、大陸の中心にある帝国まですぐだったのだが、ここからだと 馬を使っても結構な距離がある。 少しでも時間が惜しい真里にとっては手痛い遠回りだ。 「……まぁ、でも命があっただけでもよかったのかな」 「まぁね。あの嵐の中生きて大陸にたどりつけただけでも幸運なんじゃない?」 真里の事情を聞いた市井は、笑って相槌を打つ。 「それに、あんた自分一人で宰相を撃つ気だったみたいだけど、帝国行く前にあたしらに 会えて良かったと思うよ」 「え?」 眉をひそめる真里に、市井は真面目な顔をした。 「今、帝国はやばい状態になってる。潜入してるスパイからの情報によると、宰相は 魔物達の軍勢を組織し、騎士団に代わって王城の警護と侵略を開始したらしい」 「なっ! じゃあ、帝国はもう魔物の巣窟になったってこと?」 頷く市井に真里は唇をかんだ。 「それと……これはまだ噂の段階なんだけど、宰相はついに魔神の召喚儀式を始めたって……」 「!!」 市井の言葉に、真里は驚愕した。 (そんな……。早すぎる。オイラがいない間にカオリはそこまで計画を進めていたなんて……) 脳裏にカオリが浮かぶ。 真里の予想では、カオリが召喚術師としてそこまで力をつけるには、まだ時間がかかるはずだった。 否、たとえ力をつけたとしても、魔神の召喚は不可能。そう思っていた。 (だけど、あのカオリが何の算段もなしにそんな事するはずない。……何か、魔神を 召喚する方法を、少なくとも儀式を成功させる可能性のある何かを思いついたんだ……)
真里は焦りに拳を握り締めた。 (何か……方法はないか? 儀式を止められなくても、その邪魔をして時間を稼がないと……) 「っ! そうだ!」 真里は思いついて市井を振り向いた。 「帝国にスパイが潜入してるって言ったよね!? 今すぐその人に連絡とれる?」 市井は真里の剣幕に驚きながらも、頷いた。 「とれなくはないけど……どうするの?」 「騎士団の団長と副団長に伝えて欲しいの! オイラが行くまで、何とかしてカオリの 儀式を邪魔してくれって!」 真里の頭に二人の騎士の顔が浮かんだ。 高橋と小川。あの二人なら、こちらの味方になってくれる! だが、真里の言葉を聞いて市井は力無く首を振った。 「無理。その二人なら、もう帝国にはいない」 「……え?」 「騎士団長の高橋なら、北の国境へ追いやられた。副団長の小川はその日から消息不明」 落胆する真里をよそに市井は「さて」と立ち上がると、再びなつみを抱えた。 「んじゃ、いこっか」 「へ? どこに?」 「とりあえず西の都に戻るよ。あんたもついてきな」 言うと、何時の間にか輪を離れて砂浜で砂遊びをしていた辻と加護を呼ぶ。 「ほらー、あんたたちも戻るよ」 そして開いた片手を真里に差し出す。 「こんな状況だからね。あんたも少しでも仲間がいた方がいいっしょ? 元帝国の人間とはいえ、 優秀な魔術師さんなら、あたしらにとっても味方に欲しい所だし、ね」 そう言って市井は笑顔でウインクした。
視線の先に西の都がせまる。 空と地上を進む黒い軍勢は、その勢いをますます上げていた。 新垣は不敵な笑みを浮かべ、手を上げた。 それを合図に取り囲む様に飛んでいた魔物達が散開する。 「いけっ! 帝国に刃向かう愚民どもは皆殺しだーっ!」 新垣の声に魔物達は奇声を上げ、街へ突入していく。 そして新垣も自ら操る魔物の手綱を引くと、高度を落としていった。 西の都は王女保田率いる自由国家である。 帝国の介入を受けず、独自の軍事力を有しながら開国以来中立を守ってきた 大陸唯一の国だ。 「王女保田かぁ。数年前に一度会った事あるけど、オイラの事覚えてるかなぁ?」 都の市街地を歩きながら、真里は頭の上で手を組んだ。 街の中は、おそらく難民であろう人の群れでごった返していた。 「大丈夫でしょ。あの人はああ見えて頭のきれる方だし、記憶力もいい。今まで 帝国が手出しできなかったのも、単純に軍事力が互角ってだけじゃなく、 戦略家としても優秀なあの人がいたからこそだし」 市井は心配無用とばかりに手を振る。 「あたし達がまだ個別に帝国に対するクーデターを画策してた時も、保田さんは 真っ先に裏から手を回して反乱軍を組織してたしね。大陸に魔物が出没し始めた時、 それが帝国の仕業だっていち早く気づいたあの人は、すでに行動を開始してた。 そんなすごい人だからあたしもこの人についていこうって、反乱軍に参加 したんだけどね」
「それで、保田さんは今は表立って帝国に敵対を?」 「うん。今まで中立を守ってたがゆえに表立った行動はできなかったんだけど、 帝国が魔物達を操ってるって確証ができたから、ついに先日国を上げて帝国に 敵対する決意をしたんだ」 真里はそうなんだ、と頷くと、小さくガッツポーズをした。 (軍事力では帝国とも互角と言われていた西の都が動いた……か。これならカオリが 魔物の軍勢を組織しても充分渡り合える。これでオイラはカオリだけを目標に すればなんとかなる……) 真里は魔物達に阻まれ時間を稼がれる間にカオリの儀式が完成してしまう事だけが 不安だった。 だが魔物を反乱軍がひきうけてくれれば、自分は単独でカオリだけを狙う事ができる。 そうすればロスしてしまった時間が少しは取り戻せるはずだ。 (カオリが魔神召喚の儀式を始めたとはいえ、儀式を完成させるにはまだ時間が 必要なはず……。保田王女にすぐに反乱軍を動かしてもらえれば、勝機はまだ 充分にある……) その時、真里達の進む方角で、爆発音と共に人々の悲鳴が響き渡った。 「っ! なんだぁ?」 市井は真里と目を合わせると、担いでいたなつみを辻と加護に受け渡す。 「あんたらはここでまってな! ちょっと様子を見てくる!」 言って市井と真里は頷き合い、騒ぎの方向へ駆け出していった。
「あっはっは! 殺せ殺せーっ!」 新垣の指揮の元、魔物達が逃げ惑う群集を次々に引き裂いていく。 中には果敢に武器をもって立ち向かう者もいるが、何の修練も積んでいない者達と 魔界の生き物とでは戦闘能力に差がありすぎる。 一人、また一人と生命を奪われ、肉塊となって地に伏してゆくその情景はまるで 地獄絵図だった。 人の波をかき分け辿り着いた市井と真里は、そのむせ返る血の臭いに顔を歪めた。 おびただしい血に染まった路上の魔物達が、新たな獲物の出現に歓喜の雄叫びを 上げ押し寄せてくる。 「こいつらっ!」 怒りの眼差しでそれを睨みつけながら、市井が剣を抜き魔物の一匹に斬りかかる。 「あたしが前衛を務める! サポートお願いっ!」 「わかった!」 市井の声に真里が呪文の詠唱を始める。 その時、不意に飛んできた火球が真里をかすめ爆発した。 「!!」 「あれ? 惜しい惜しい」 慌てて真里が振り向くと、そこには邪悪な笑みで佇む新垣の姿があった。
「お前っ! 新垣か!?」 「久しぶりですね、矢口さん。やっぱり生きてたんですね」 笑みを浮かべたままゆっくりと近づいてくる新垣。 「……お前がやったのか? これ」 新垣を睨みつけたまま問う真里に、新垣はクスクスと笑い、 「やったのは魔物達ですけどね。ま、指揮してるのは私です」 「っ! てめえっ!」 「やだなぁ、怒らないでくださいよ。命令したのは宰相様なんですから。それに」 わざとらしく肩をすくめる新垣。 「帝国を捨てて逃げ出した矢口さんにはどうこう言われる筋合いないですから」 真里は歯軋りして構えると、新垣に向けて魔力を収束させ、 「だからってこんな事して良い訳ないだろうがあっっ!」 叫び声と共に魔力を開放する。 瞬間、新垣を中心に魔物数体を巻き込み、轟音と共に空間が爆発した。 弾け飛ぶ魔物の残骸。 だが砂煙が晴れると、そこには笑みを浮かべたままの新垣がいた。
「なっ!」 唖然とする真里に新垣が口を開く。 「本来詠唱を伴う事で威力を発揮する魔術を、己の魔力のみで発動させ、詠唱による タイムラグを無くす……普通の人間にはほぼ不可能といっていい技術です。さすがは 元帝国一の魔術師ですね」 言いながら、じりじりと真里との間合いを詰める。 「でもその分威力は通常より劣る……。普通の人間や低レベルの魔物相手ならそれでも 効果はありますが、今の私には効きません」 新垣は数歩の距離まで近づくと不意に立ち止まり、灰色のローブの胸元をはだけた。 「っ! お前、それ……」 それを見て真里は絶句した。 新垣の控えめな乳房の間、丁度心臓の辺りに肌と同化し脈打つ拳大の肉塊が 貼りついている。 「……魔族との……融合……」 「はい。あ、もちろん低俗な魔物なんかじゃありませんよ」 新垣の唇の端がニィッと歪む。 「『魔人』との、融合です」
(あのガキ……あれが指揮官か! あいつさえ倒せば……) 対峙する新垣と真里を横目に見ながら、市井は剣を振り続けた。 だが、斬っても斬っても次々と襲ってくる魔物達に、なかなか新垣へ向かう事ができない。 (くそっ! これじゃいつまでたっても) 焦った瞬間、市井の足が魔物の死体に取られ、バランスを崩す。 「! しまっ……」 前のめりに倒れそうになった市井を、魔物の鉤爪が襲う。 (やられるっ!) 思わず身をすくめ目をつぶる市井。 だが鉤爪が市井の身体に触れようかというまさにその時、魔物の体がビクリと痙攣して 動きが止まった。 そのまま口から紫色の血を吐き崩れ落ちる魔物の背中に、数本の長槍が突き刺さっていた。 「遅くなってごめん。大丈夫だった?」 魔物の後ろに立つその姿を見て、市井は安堵のため息をついた。 「ったく、遅いよ圭ちゃん」 そこには、武装した軍隊と共に立つ、西の都王女・保田の姿があった。 「ここが敵の主力みたいだね」 周囲でこちらを威嚇している魔物達をぐるりと見渡し、保田が手に持った采配用の鉄扇を振るう。 「行けっ!」 「オオオオッッ!」 保田の号令の元、それぞれの獲物を持った兵達が、魔物の群れに突撃する。
その勢いに圧され、じりじりと後退する戦線を見やり、保田が市井に近づいてくる。 「悪かったね。至る所で出没した魔物の退治と市民の城内への誘導をしてたら時間かかっちゃった」 そう言ってやや離れた所で真里と睨み合う新垣を見る。 「……今回の襲撃、やけに統率が取れてると思ったら、帝国の魔術師が指揮をとってたってわけね。 しかもあの邪気、魔物の力を取り込んでる……?」 「ああ。それと、あっちの金髪……」 市井が口を開くと、保田はそれを手で制し、 「知ってる。帝国の宮廷魔術師矢口だね。相変わらずあの小さい身体に見合わないすごい プレッシャーだけど……」 視線を真里から新垣に移した保田の頬を、冷たい汗が流れ落ちる。 「あの指揮官の余裕は何? あの矢口の気を平然と受け流してる……」 「さっきちょこっと二人の会話が聞こえたけど……『まじん』がどうとか」 「!?」 市井の言葉に保田の顔が青ざめる。 「まさか……」 その時、新垣の身体が膨張し、辺りをどす黒い邪気の風が吹き荒れた。 「なっ、何!?」 「まずいっ! あいつ、魔人との融合体だ! 紗耶香、矢口の援護を」 保田の叫びに、新垣に向かおうとする市井。 だがその足が意思とは関係無しに動かない。 (なっ……足が! ……このあたしが、恐怖で動けない!?) 愕然とする市井の視線の先で、新垣の身体が変貌していく。 倍以上に膨れ上がった身体から生える黒い翼。腹が裂け、鋭い牙が並んだ巨大な口が生まれる。 その姿はまさに魔と呼ぶに相応しい異形の生き物だった。
その変貌を間近で見ていた真里も、何も出来ずに佇んでいた。 肌を焼くような強烈な邪気に顔を歪ませる。 「ふふ、どうしました? 矢口さん。顔が青いですよ」 邪悪に歪んだ新垣の口から、くぐもった声が漏れる。 「新垣……なんでそこまでして……」 真里がうめく。 (人を捨ててまで魔人と融合して……そこまでして帝国に、カオリに従おうっていうの?) そんな真里を新垣は見下ろし、口を開く。 「……矢口さん、才能のあるあなたには解らないでしょうね。私みたいな人間の気持ちは」 「……え?」 「私は……貴族である父の権力で、才能も無いのに魔術師団に入れられた。身体も小さく力の ない私には、騎士になるのは無理だったから……」 新垣の目がすっと細まる。 「ホントは嫌だったけど父の期待に応える為に必死で勉強して、才能がなくとも努力で何とか 一部隊長にまで上り詰めた。でもね……周りからは陰口を叩かれたわ。私自身の才能じゃない、 父の権力のおかげだってね」 その話は当時すでに魔術師団を束ねる宮廷魔術師になっていた真里も聞いた事があった。 実際、当時の新垣以上の実力を持つ術師も団員の中にいたが、部隊長等役職の任命は皇帝自身が 行う為、表立って不平を並べる者はいなかったが。 「でもね。父は満足しなかった。事あるごとに私をしかったわ。『さっさと宮廷魔術師の地位に 上り詰めろ。矢口を超えてみせろ』ってね。そんなの無理に決まってるのにね。持って生まれた 才能が違うんだから」
徐々に新垣のプレッシャーに押され、真里はじりじりと後ずさる。 「いつしか私は矢口さんを超える力を欲するようになった。だから矢口さんが帝国から逃げた後、 宰相から魔人との融合を持ちかけられた時は狂喜したわ。これで矢口さんを超えられるかも、 ってね」 「! お前……そんな事の為に人を捨てたってのかよ!?」 「そんな事ってなによっ!」 新垣が身体を震わせ、叫ぶ。 「正直、私は帝国の大陸支配も何も興味ないわっ! 宰相が何をしようが関係ない! 私は、 あんたを超えられればどうなってもいいのよっっ!!」 怒声と共に、新垣が大地を蹴る。 「!」 一瞬のうちに間合いを詰め振るった腕が、真里を弾き飛ばす。 「がっ!」 激しく地面に叩きつけられ、激痛に声にならない叫びを上げる真里。 すかさず突き出した新垣の腕の周りに、邪気と混ざり合った幾つもの紫色の炎球が出現する。 「死ねええっっ!!」 膨大な邪気を伴う魔力を開放する。 地に伏せ血反吐に咳き込む真里に、放たれた灼熱の業火が降り注ぐ。 ドゴオオオッッッ!! 鉄をも溶かすような凄まじい熱気と共に、真里を中心とした大爆発が起こった――。 ―― 三章 反乱軍 ―― 完
―― 四章 覚醒 ―― 湿った石畳の通路に腐臭がただよっている。 左右に並んだ牢の中で、朽ち果てた死体が腐乱して悪臭を放っているのだ。 帝国王城の地下牢。 その殆どが死体の放置所となっている。 そんな中を一人の僧衣を纏った少女が歩いている。 帝国の僧兵団長をも務める、司教紺野あさ美。 彼女の手には、今やたった一人となった囚人の為の食事の乗った盆があった。 本来このような雑務をするような身分ではないが、邪気の満ちたこの空間は常人には 歩く事すら困難であり、また紺野自身がこの役目を買って出たのだった。 (それにしても……) 歩きながら紺野は顔をしかめる。 (このどす黒い邪気。日に日に濃くなっている……。宰相の儀式の影響が、帝国中に 広まっているのね……) やがて通路が終わり、扉に突き当たる。 この先に、日に一回紺野が足を運ぶ理由がある。 紺野は盆を床に置くと、重々しい扉をゆっくりと開いた。
そこはやや広めの正方形の部屋だ。 四方を囲む石壁にはあらゆる術を施した封印の魔術文字が刻み込まれている。 床には体の自由を奪う束縛の魔方陣。 その中央に、瞑想するかのように目を閉じ胡座をかいた女性が居る。 「……中澤さん。生きてますか?」 「……死にそうな程腹はへっとるけど、な」 紺野の言葉に女性――中澤が目を閉じたまま口を開く。 ここ数日毎日繰り返されている会話に、紺野は安堵の笑みを漏らした。 「食事を持って来ました。質素な物で申し訳ないんですが」 紺野が盆を中澤の前に置く。 だがいつもなら飢えた動物の様にすぐに食事に向かう中澤が、今日はピクリとも動かない。 「……中澤さん?」 紺野がしゃがみ込み、心配そうに覗きこむと、中澤の双眸が薄く開く。 「矢口が……」 中澤の口から漏れた言葉に、紺野が反応する。 「矢口の気が……弾けおった」 「……死んだ……って、事ですか……?」 呆然とする紺野を見て、中澤は首を振る。 「わからん。この忌々しい封印の所為で力が使えへんからな。だけど……感じたんや。 矢口の気が、西の方角で散ったのを、な」 「西……西の都? 矢口さんが、あそこに……?」 俯く紺野に、中澤は顔をゆがめた。 「……こうなるんは解ってたわ。あの子の性格からして、必ず大陸に戻ってくることは、な。 折角あんたが助けてくれたんも、無駄になってもうたかもな」 紺野は軽く唇をかみ、あの日の事を思い出していた。
王城で騒ぎがあったあの日、紺野は城壁の外で倒れていた真里を発見した。 何が起こったのかはすぐに察しがついた。 前前から地下牢の中澤と交流があった紺野は、中澤からこれから帝国に起こるであろう 事を知らされていた。 急いで真里を茂みに隠すと、中澤に報告しに行った。 そして、中澤の助言通り真里を南の海岸へ運ぶと、小船に乗せて海に流した。 上手く潮流に乗れば、船は南の孤島につくはずだった。 そして実際真里は南の孤島に辿り着いたのだが……。 「ったく、おとなしくみっちゃんの元で暮らしとけばええのに……」 解ってはいても、つい中澤の口から苛ついた言葉が漏れる。 「でも、なんで矢口さん西の都なんかに行ったんでしょう? 宰相を止める為に大陸に 戻ってくるなら、直接この帝国に来る方が近道なのに……」 「さあ。なんや事情でもあったんやろ。それより……」 「解ってます。矢口さんの生死を確かめて来てくれ、ですね?」 紺野が頷くと、中澤はニッと笑った。 「ああ。すまんけど頼まれてくれるか?」 「はい!」 紺野は立ち上がり、部屋を出ようとした。 その時、不意に闇から声が響いた。 「その必要はないね」 ハッとして二人が扉の方を向くと、そこには吉澤と石川の姿があった。 「必要はないって、どういうことや!」 中澤が吼えると、吉澤は肩をすくめ微笑した。 「これから私達二人も西の都に行って、魔人の力を覚醒させた新垣と共に生き残りの 人間達を皆殺しにしてくるからさ」
ズウウウゥン……。 通りの向こうで起こった爆発に、不安そうな表情で避難をしていた人々の間に、 ざわめきが起こった。 軍人と反乱軍の人達に誘導されながら、辻と加護の二人と一緒に避難所へ向かって いたなつみも、そちらを振り返る。 「ねぇっ! あっちって、真里達が向かった方じゃないの?」 「そやけど……だ、大丈夫や! 矢口さんてごっつい魔術師なんやろ? 市井さんも 一緒やし……。そや、きっとアレ敵を倒したんやって!」 不安そうな表情をしつつもなつみの手を引く加護。 「だけど……」 爆発の起こった方角を何度も振りかえり、なつみは唇を噛み締めた。 (そうだよね。……真里は帝国の偉い魔術師だし、加護ちゃんが言ってたけど、 その市井さんて人も凄腕の剣士だっていうし……きっとさっきの爆発は真里の 魔法で敵を吹き飛ばしたんだよね……) 必死でそう信じ込もうとするなつみ。 だが、胸の奥でどんどんと嫌な予感が膨れ上がる。 「……真里っ!」 なつみは意を決したように叫ぶと、加護の手を振りほどき、人の波に逆らって 元来た方へと走り出した。 「あっ! ちょっとー!」 加護と辻が慌てて振り返るが、なつみの姿はすぐに人ごみに紛れて見えなく なってしまった。
(真里! 真里っ!) 嫌な予感を振り払う様に頭を振りながら、なつみは心の中で親友の名を 叫びながら走った。 急な運動に心臓が早鐘を打つ。 苦しくなる呼吸に胸を押さえて瓦礫だらけの角を曲がる。 そしてなつみは見た。 周囲の建物が吹き飛び、開けた空間に佇む巨大な化物。 それを遠巻きに取り囲んだまま立ちすくむ兵士達。 そして、その中心に倒れたままピクリとも動かない真里の姿を――。 「死ん……だ?」 震える声で呟く市井に、保田は「いや」と真里の方を向いたまま指差す。 視線を追って真里を見ると、その小さい体を覆う黒いローブが、所々青白く 光っている。 市井が目を細めて凝視すると、それはローブに縫いこまれた刺繍が光っている ようだった。 「魔術文字……。おそらく、魔術による攻撃から身を守る為の、ね。だけど……」 倒れたまま動かない真里を見て、保田はゴクリと喉をならす。 「どうやらあの化物の攻撃を全て防ぐ事は出来なかったみたいね。何とか生きてる みたいだけど……もう一撃くらったらやばい」 新垣がゆっくりと動き始めた。
「まずい! 止めを刺す気だ」 じりじりと新垣を取り囲んだ兵士達が後ずさる。 「紗耶香! 兵士達と共に左右から攻撃を! 矢口は私が」 「わかった!」 震える足を叩き、新垣の側面へ向かって走り出す市井。 (あの化物の意識は矢口に向いてる。なんとか不意を討てば……) 新垣の腕が上がり、再びその周りに魔力が収束して行く。 「真里――――っ!!」 その時、倒れている真里に向かってなつみが走って来た。 「なっ! 何? あの子、避難したんじゃなかったの!?」 走ってくるなつみに気を取られた瞬間、新垣の腕から炎球が放たれた。 「! っきゃあああぁぁ―――っっ!!」 二度目の爆発。 (――終わった) 心の中で呟き、紗耶香は目をつぶった。 爆風が髪をなびかせる。 (間に合わなかった――あたしの行動が遅れたばっかりに、矢口とあの少女が――) だが、やがてそれが収まり、ゆっくりと目を開いた紗耶香は自分の目を疑った。 そこには、光り輝く薄白い球体に覆われた、真里の体を抱きかかえ呆然としている なつみの姿があった。
なつみは無我夢中で真里の元へ走っていた。 ぐったりと地べたに横たわり、身動きしない真里。 (真里っ! 真里っっ!!) なつみが真里を抱き起こそうとしゃがみこんで手を伸ばした時、すでに眼前には 新垣の放った炎球が迫っていた。 「! っきゃあああぁぁ―――っっ!!」 思わず叫び声を上げるなつみ。 その瞬間、なつみの視界が白く弾けた――。 何も無い、白い世界。 見渡す限りの白の中に、なつみはしゃがみこんでいた。 (え? 何? 何だべさ、コレ) 差し伸べた手の先に、真里の姿はない。 目の前に迫っていた炎球もない。 自分の他に何も無い、白い空間。 「……ひょっとして、なっち死んだの? コレって死後の世界ってヤツだべか?」 ふらりと立ち上がるなつみ。
その時、目の前に微かな煌きと共に白いローブを纏った人が現れた。 「……え?」 それは、なつみだった。 「……なっちが、二人……?」 なつみはぽかんとした顔で目の前の自分を見つめた。 「……やっぱなっち死んじまったんだべか……」 『いいえ』 「え?」 ローブを纏ったなつみが口を開いた。 『ここはあなたの心の中の世界』 「心の……中?」 なつみの呟きにローブを纏ったなつみはゆっくりと頷いた。 『私はあなたの中に生きるもう一人のなつみ』 そう言ってローブをするりと脱ぐ。 「っ!」 なつみは目を見開いた。 ローブの下から現れた裸体の後ろには、白く輝く翼が生えていた。
「な……なにそれ? 翼が……」 『遥か昔、この地上は神の使わした天使達の住む世界だった』 ふわりと翼が揺れ動く。 『やがて神は天に上り、地上に残った天使達は翼を失い人間となった。だが、人として 生きるようになった人間の遺伝子の中には、我ら天使の力が今もなお生きている』 「天……使? 人間が?」 『そう。だが今を生きる人間達はその力を使う事はできない。私も、あなたの中で永遠に 眠り続けているはずだった』 「じゃ、じゃあなんであんたは目覚めたんだべか……?」 なつみが疑問を口にすると、天使のなつみはふっと微笑を浮かべた。 『あなたの、大切な人を思う気持ちが強かったから……かな?』 言って手を軽く振ると、白い空間に真里の姿が浮かんだ。 「! 真里!」 『あなたがこの娘を大切に思っている事は、強く心の中に響いていた』 天使のなつみがすっと手を差し出す。 『さぁ、あなたの望みは何?』 「望み?」 『そう。あなたが今強く望んでいる事を言葉にして。そうする事で私はあなたの力に なれる』
「……なっち、昔っからどんくさくて何の力も無い、何もできない子だったけど……」 なつみは真剣な眼差しで天使のなつみを見た。 「……真里を救いたい。ホントになっちに眠ってた力があるなら、真里の助けに なりたい!」 『了解』 にっこりと笑って天使のなつみの手がなつみの額に触れる。 ふっと浮くような感覚と共に白い世界が急激に波打ち、次の瞬間なつみの視界に 迫る炎球が映った。 「!」 なつみはとっさに念じた。 (お願いっ! なっちと真里を守ってっ!!) なつみの体が薄く輝く。 ドゴオオオッッッッ!! 爆発音が辺りに響き渡った。 だが炎はなつみと真里を覆う白い薄膜を避けるように左右に割れ流れてゆく。 「……すごい……」 なつみは無意識に真里の体を抱きかかえたまま、呆然と呟いた。
薄い光に包まれた二人を見て、新垣は驚愕した。 「まさか……覚醒天使……!?」 全ての人間の体内には等しく祖である天使の遺伝子が存在する事は新垣も 知識として知っている。 だがその力を覚醒させる事が出来た者は、歴史を振り返っても数えるほど しか存在しない。 ゆえに半ばそれは伝説やおとぎばなしの類の、いわゆる現実味のない夢物語 としての認識しかなかったのだが。 そんな動揺する新垣を見て、紗耶香は剣を握りなおし、静かに間合いをつめた。 紗耶香もなつみの力に一瞬我を忘れて佇んでいたが、 (あの化物もあちらに気を取られているようだな。先程までの殺気が薄れている。 ……今がチャンスだ!) 紗耶香が地を蹴り、新垣に襲いかかる。 「もらったあぁぁっっ!!」 「!」 ドッ!! 紗耶香の振り下ろした剣が新垣の右腕を切り落とす。 「っあああぁぁーーー!!」 肩口から噴き出すどす黒い血と共に、新垣の絶叫が響き渡った。 「今だ! 私に続けーっ!」 剣を振り上げ叫ぶ紗耶香の声に呼応して、それまで遠巻きに立ちすくんでいた 兵達が雄叫びを上げ新垣に躍りかかる。
その様子を眼の端に、なつみは真里の肩をゆすった。 「真里っ! 起きてっっ!!」 「完全に意識を失っている。そんなんじゃ起きないよ。癒しの力を使え、覚醒天使」 「え?」 聞き覚えの無い声になつみが顔を上げると、そこにはまだ信じられないといった 表情の保田がいた。 「覚醒……天使??」 「正直未だ信じられないが……先程の力は天使の伝承通りだ。あんたは内なる天使の 力に目覚めたのだろう?」 「え? あ、うん。なんか、さっき何時の間にか白い空間にいて、そこにはなっちが いて……力をくれるとかなんとか……」 「私も実物を見るのは初めてだけどね。あんたが本当に伝承通りの覚醒天使なら、 矢口の意識を呼び覚ます癒しの力も使えるはずだ」 なつみはきょとんとして保田をじっと見つめた。 「……ひょっとして真里の知り合いだべか?」 保田は「ああ」と思い出したように頭をかき、 「紹介が遅れたね。私は保田圭。この国の統治者だ。矢口とは数年前に一度だけ 会った事がある」
「せあぁぁっっ!」 ギィンッッ! 市井の鋭い斬撃が新垣の左手の鉤爪とぶつかり合い耳障りな音をたてる。 「っちぃっ!」 「なめるなぁぁっ!」 新垣の振るった鉤爪を紙一重で避ける市井。 避けそこなった兵士達が数人、紙屑のように切り裂かれる。 「邪魔なんだよぉっっ!!」 新垣の周囲に瞬時に魔力球が出現し、次の瞬間勢い良く弾け、躍り掛かっていた 兵士達が悲鳴と共に消滅する。 なつみの覚醒による動揺から立ち直りつつある新垣に、市井達は圧され始めていた。 鋭い槍のように新垣の体内から放射された触手を後ろに飛んでかわしながら、市井は 冷たい汗を振り払った。 (くっ! やはりあたし達だけじゃこいつに止めを刺すのは無理か!?) 新垣に注意を払いながら横目で真里達の方を見やる。 (まだかよっ! 早く……!)
「……まずいな」 保田も市井達が圧され始めているのを見て焦りの色を浮かべた。 「あの化物、徐々に本来の力を発揮しつつある。今この場で魔族の力を得たあいつを 倒せるのは矢口の詠唱魔法だけだ」 保田は唇を噛み締め、 「覚醒天使! 早く矢口の癒しを」 「なっちだべ!」 「じゃあなっち! 早くっ!」 「っていっても、どうすれば……」 なつみはおろおろしながら、眠った様に動かない真里の顔をみつめた。 「私には天使の力の使い方はわからない。……さっきあの化物の魔法を防いだのは どうやった?」 「あれは……真里を助けてって……無我夢中で祈って……」 「それだ! 助けたい者の事を思って強く念じてみろ!」 なつみは頷くと真里の手を握って目を閉じた。 (お願いっ! もう一人のなっち……真里を目覚めさせてっ!) 強く祈りを繰り返すなつみ。 その胸の奥が徐々に熱くなり、やがてぼんやりとなつみの体が白く輝き出す。 その光りが握った手を通して真里の体を包み込む。 (真里っ……!) 「……ぅ……」 「「!!」」 真里の口から微かに漏れたうめきになつみと保田はハッと真里を見る。 「……なっ……ち?」 「真里!」 淡く輝く真里の目がうっすらと開き、ぼんやりとした瞳がなつみの視線と絡み合う。 「……あれ? オイラ……??」 「真里っ! よかった……よかった〜」 なつみは涙を流しながら真里を抱きしめた。
「! そうだ! 新垣……新垣はっ!?」 「あたっ!」 がばっと飛び起きた真里に振りほどかれ、ごすっと地面で頭を打つなつみ。 「あ……わりぃ、なっち」 「なにすんだべ真里―っ! さんざん心配かけといてコレかいっっ!」 「あ、いやだからゴメンって」 「あー、いいかしら? お二人さん」 苦笑いしつつ、怒るなつみとそれをしずめようとする真里の間に入る保田。 「あ、あれ? 保田……王女?」 「久しぶりね、矢口。でも挨拶は一先ず後にして……」 くいっと後ろを指差す保田。 「あの化物、今はなんとかうちの兵達で抑えてるけど、止めを刺せるのはあなたしか いないの。……お願いできるかしら?」 見ると、幾つもの傷を負いながらも、新垣の攻撃は激しさを増している。 「……まかせて。さっきは新垣が魔族の力を得ていたなんて思わなかったから油断した けど……。今度はきっちりと止めを刺すよ」 真里は真剣な表情で頷き、新垣を睨み付けて構えた。 「王女となっちは下がってて」 言われるより早く保田はまだぶつくさ言っているなつみを引きずるようにその場から 後退した。 「……なっち」 「なんだべ?」 背で受けたふてくされた返事に真里は苦笑し、 「……さっきはありがと。なっちの声、ちゃんと届いたよ」 「あ……うん」 一瞬きょとんと真里を振り返ったなつみは、ころっと笑顔に戻り、 「さっさと片付けてくるべ! 真里!」 「おうっ!」 すぐに機嫌を直すなつみの単純さに真里は微笑み、 「さーて、いきますか!」 すっと手をかざし、呪文の詠唱を始めた。
「っぁぁっっ!」 「くっ!」 新垣が放つ無数の触手を切り払いながら、市井はじりじりと後退した。 その時、ゴロゴロという雷の遠鳴りと共に、空を暗雲が覆っていった。 「!? なんだ?」 横目で真里達の方を見ると、そこには祈る様に天に手をかざし呪文の詠唱を 続ける真里の姿があった。 (復活しやがったか! ったく、またせやがって) 思わず笑みがこぼれる。 それを見た新垣も真里達の方へ視線を向ける。 「! しまった! 詠唱魔法かっ!?」 市井に腕を落とされ、怒りに我を忘れて真里にとどめを刺す事を後回しに してしまったがゆえに起こった致命的ミスだ。 (くそっ! 私は馬鹿か! 向こうには覚醒天使がいるんだ。矢口さんが復活 するのは解っていたはずなのにっ!) 新垣は鉤爪を振るい市井を牽制すると、身を翻し真里に向かって飛んだ。 「おおあああぁあっっ!!」 周囲に出現した無数の魔力のかたまりが、レーザーのような光りの帯となって 次々に真里目掛けて放たれる。 だがそれも真里の後ろで念じたなつみの作り出した障壁にことごとくぶつかり、 はじけて霧散してしまう。 「真里の邪魔はさせないべっ!」 「っ! このアマアアァァッッ!!」 真里に向かい飛行する新垣が、怒声を上げた。 その時、それをかき消すかのように、轟音と共に暗雲から雷が真里に降り注いだ。
「っ!」 その勢いに弾かれ地面に転がった新垣を睨み、真里は詠唱を続けた。 「雷を司る魔神デオヴォリークよ……汝に与えられし風光、我が力と混じりて 地礫を疾けよ……」 詠唱により魔界から召喚した雷が、真里の身体を包み薄紫色に輝く。 「……終わりだ、新垣」 バチバチと放電する右手を新垣に向け、真里が力を解放する。 「降魔雷光陣っっ!!」 キンッ! 一瞬、空気の割れたような音が響くと、新垣の周囲を覆うように雷の帯が煌き、 ズガガアアアッッッ!! 「っがああああぁぁぁああっっっ!!」 凄まじい轟音と紫の光と共に、新垣の身体を幾千もの雷が走り抜けた。 やがて新垣の絶叫が小さくなるにつれ、光もその輝きを失ってゆく。 「……あ……っ……」 炭化した新垣の身体がボロボロと崩れ、風にその欠片が削られる。 ぐらり。 力なく新垣の身体が傾き、ズズゥンと音をたてて地に倒れた。
「……やった……」 その光景にゴクリと喉を鳴らす市井。 やがて沈黙していた兵達の間にざわめきが立ち、それは徐々に広がっていく。 保田が腕を振り上げ、高らかに宣言する。 「諸君! 魔族を率いし敵将は討ち滅ぼした! 我々の勝利だっ!」 「ぉおおお――――――っ!!」 市街中に歓声があがった。 「よし! 軽傷の兵達は魔物達の残党を追撃しろっ! 一匹たりとも逃すな!」 保田の声に兵達は雄叫びと共に剣を天に掲げ、散り散りに撤退を始めていた魔物達に 向かっていった。 「……っ……」 「!」 兵達が去ると同時に、伏した新垣の体がピクリと動く。 緊張に剣を構える市井を、真里が手で制した。 「……私は……」 ブルブルと震えながらゆっくりと体を起こす新垣。 その炭化した体は、すでに原型をとどめていない。 「……私は……負けない……矢口さんを……超えて……みせ……」 「……新垣……あんた……」
這いずり近寄ろうとする新垣を、真里は複雑な面持ちで見つめた。 かつては自分の指揮していた魔術師団の一部隊長。 父の期待に応え、自分を超える為、たったそれだけの為に人間である事を捨て、 魔人との融合などという邪法に身を委ねた少女。 最早塵となって死を迎えようとしている彼女に、真里はどんな思いを抱けば いいのか解らなかった。 「でも……」 ふっと新垣の表情が安らいだ気がした。 「はは……やっぱり矢口さんは……すごいです……。結局……超えられなかった…… いや、超えるとか超えないとか、そんな事に……こだわった時点で……すでに……」 「新垣……あんたは、オイラを超えたよ。……一対一の闘いだったら……オイラの 負けだった……」 泣いているような、笑っているような複雑な表情の真里を見て、新垣は一瞬驚いた後、 笑みを浮かべた。 「ありがとう……ございま……」 ドンッ!! その言葉を遮り、突如飛来した黒い魔力の槍が新垣を貫いた。 「……ぁ……」 そのまま新垣は崩れ去り、風に溶けて消えた。 「なっ!!」 真里達は驚き槍の飛んできた方向を振り仰いだ。
「はーい、お疲れー」 パチパチと馬鹿にしたような拍手と共に、空中に開いた黒い穴から、二人の少女が 姿を現した。 「っなんだおまえらっ!」 怒鳴る市井に二人はニヤリと笑い、ふわりと地上に降り立った。 「お初にお目にかかります、吉澤ひとみと……」 「チャーミー石川こと、石川梨華で〜っす」 わざとらしく恭しい礼をし、真里を見る。 「……この気配……魔人……?」 「そ。新垣みたいな中途半端な融合体じゃなく、純正の、ね」 吉澤はクスッと笑うと、髪をかきあげ言った。 「いやー、それにしても流石は元帝国宮廷魔術師だけの事はありますね。まさか 人間の身であそこまで強力な魔術を使えるとは思いませんでしたよ。ちょっと計算が 狂っちゃったかなー?」 「そうだよね。しかも……」 石川はちらりとなつみを睨みつけ、 「忌々しい天使の力を持つやつまでいるみたいだし?」 石川の殺意の篭った視線になつみはブルッと震え、真里の体に隠れるように袖を ぎゅっと握る。
「……ま、いっか」 吉澤は軽くため息をつき、 「ホントは新垣と共にこの国の人間を皆殺しにする為に来たんだけど、気が変わった」 バサッと吉澤がマントを振ると、再び黒い穴が出現する。 「あんた達、どうせ帝国に来る気でしょ? 私達帝国で待ってる事にするわ。たった今 一戦したばっかで疲れてる奴殺っても面白くないし」 黒い穴から漏れる闇が、吉澤と石川を包み、同化していく。 「じゃあね。帝国でまた会いましょう」 「グッチャー♪」 「っ! まて!」 ハッと正体を取り戻した市井がとっさに飛びかかり、剣を振るう。 だが一瞬早く闇は消え失せ、市井の剣はむなしく空を斬った。 「……真里……」 二人が消えるまでじっと黙り込んで睨み付けていた真里を、なつみが呼ぶ。 「……純正の魔人……。矢口、勝てるのか?」 保田も厳しい表情で真里の肩に手を置く。 「……わからない……。今のオイラじゃ……勝てないかもしれない……」 真里の顔を冷たい汗が流れる。 対峙した時から感じていたプレッシャー。 殺気を抑えてなお圧倒的な威圧感。 (新垣とは比べ物にならない邪気。……あれが真の魔人……) 初めて出会った真の異界の住人に、真里はかつて味わった事のない恐怖を感じていた。 (オイラに……倒せるのか……?) 心の中で再び自問する。 押し黙り立ち尽くす真里の体を、冷たい風が吹き抜けていった――。 ―― 四章 覚醒 ―― 完
―― 五章 帝国潜入 ―― 「……報告は以上です」 「……うむ。ごくろう」 兵士から自軍の現状を聞いて保田は苦い顔をした。 西の都王城、謁見の間。 新垣率いる魔軍の侵攻から四半刻。 すでに日は暮れ、室内には王女保田、反乱軍隊長市井、そして真里の他、 数名の兵士がいるのみである。 「……作戦の変更をしなければならないな……」 被害は西の都正規軍千の内半数が戦死、重軽傷者多数。 戦える者はごく僅かである。 予定では魔に魂を売った帝国宰相を撃つという大義名分の元、全軍を率いて 帝国に攻め入るはずだった。 だが、先手を打たれ新垣等の襲撃をうけたことで、自軍の立て直しを余儀なく されてしまった。 「だけど、あたしらには時間がない。帝国が万一にも魔神の召喚を実現させて しまったら……」 市井の言葉に室内は重い空気に包まれた。
「……オイラが行くよ」 沈黙を打ち破る様に真里が呟いた。 「元々一人でカオリを倒しに行くつもりだったし……。帝国が魔物達の巣窟に なってるとはいえ、カオリの元まで辿り着ければ……」 「……倒せるのか?」 「……儀式の最中なら、スキはある。きっと……」 「違う。宰相の事じゃない」 真里の言葉をさえぎり、保田は立ち上がった。 「あの吉澤と石川という二人の魔人の事だ。あいつらはおそらく儀式中の宰相を 守る為、そばにいるはずだ」 「……」 保田に言われ、真里は口を結び俯いた。 確かにそうだ。 あの二人もカオリが召喚した魔族である以上、カオリを倒されれば魔界に 帰る他ない。 当然全力でカオリを守るだろう。
「あたしも行くよ」 「! 紗耶香!?」 「あいつら、本気になればあの新垣って奴より強いんだろ? 普通にやったんじゃ まず勝てないけど、あたしがあいつらを抑えてる間に矢口が宰相を倒せばこっちの 勝ちだ」 「そりゃそうだけど……」 「それに」 市井は剣の鞘を握り締めた。 「あいつ……吉澤とかいうやつ、あたしが斬りかかった時笑いやがったんだ。 馬鹿にしたように、な。負けっぱなしってのはどうも性に合わないから」 保田はしばし考えた後、苦笑して頷いた。 「わかった。それじゃ矢口と紗耶香。それに無傷の反乱軍兵士を何人か連れて、 帝国にいってちょうだい。私もなるべく軍の再編を急ぐけど、おそらく帝国に 攻め入る頃には儀式は終わっちゃうだろうしね。少数で潜入し、なんとか 儀式だけは止める事」 「おっけー!」 市井と真里は頷き合い、親指を立てた。
「それじゃ、さっそく出発しようぜ。あたしが目をかけてる奴が何人かいる。 そいつらをつれていこう」 「うん。それじゃ、オイラ達を合わせて六、七人位かな。あんまり数がいても しょうがないし……」 真里が言うと同時に、扉がバタンと開いた。 「もちろん、なっちも数に入ってんだべな?」 「うちらも行きたいなー。な、のの?」 「へい」 「なっち!?」 「加護! 辻!」 真里と市井が驚いて振り向くと、開け放たれた扉の外になつみ、辻、加護の 三人の姿があった。
朝日も届かない薄闇の中、聞こえてくるのは魔獣の唸り声のみである。 かつては繁栄し賑わった帝国城下の街並みも、今はそこを行き交う人の姿は無い。 人々を食らい、それが果てた後には同族同士ですら食らい合う魔物達。 その黒い影が跋扈する帝国は、最早魔界のそれと大差無い魔都と化していた。 (今この国に存在する「人間」は三人) 紺野は神殿の門の前で一人空を仰いだ。 帝国宰相、飯田。 未だ地下牢に封じられし中澤。 そして、僧兵団長である自分のみである。 (いや、今や宰相を人と呼ぶことは間違いかもしれない) 帝国の力を盤石とする為に魔神の召喚などという暴挙に出た彼女の姿が、 脳裏に浮かぶ。 (今となっては宰相が何を望んだのか、解らない) カオリは已然儀式の最中である。 魔神を呼ぶための生贄を門とし、現世に召喚された魔物達は、彼女が守るべき 国その物を廃墟と化してしまった。 (もしや、始めから宰相はそのつもりで……?) 馬鹿な、と紺野は頭を振り邪推を打ち消そうとする。 だが視界にある魔都を見るたび、その懸念は心の中で渦巻き、肥大化する。 (そんな事をして何になる? 自らの国を、ましてや住む世界を壊す? 馬鹿馬鹿しい) ガッと門柱に拳を叩きつける。
その音に近くを徘徊していた魔獣がピクリと反応し、のそのそと紺野に近づいてくる。 (わからない……宰相の真意が……。私は……どうする……?) 魔獣を気にも留めず思案する紺野に、背後から鋭い牙を並べた魔獣の巨大な口が迫る。 ガッ! 「ッギャッ!?」 後ろを向いたまま、紺野の手が魔獣の口から大きく飛び出した牙の一本を握り、 その攻撃を止める。 「……私に近寄るな」 ゆっくりと振り向きながら睨みつける紺野の右手が霞んだ。 グシャッ! 鈍い音を立て、魔獣の頭部が肉片を撒き散らし、四散する。 紺野が数歩歩いた時、背後で魔獣の倒れる音が響いた。 おそらくは自身が死んだであろう事すら認識できないまま頭部を失い屍となった 魔獣に、数匹の魔獣が群がりその肉をついばみ始めた。 その様子を振りかえる事も無く、紺野は王城へ向かった。
「ちょっと、可哀相だったかなぁ?」 帝国まであと少しというところまで来たあたりで、なつみは西の都の方角を見て呟いた。 「何いってんだよ。あたしらは死ぬかもしれない戦いに行くんだぜ。子供なんて足手まとい 以外のなんにもなりゃしねぇ」 市井はなつみの同情的な表情に呆れたといった顔をした。 真里と三人の反乱軍兵士も同意というようにうんうんと首を縦に振った。 一行はあの後すぐに荷物をまとめると、西の都を旅立った。 なつみは自分の力で自分の身は守れるという事で同行することになったが、加護と辻は 当然の如く置いて行く事になった。 二人は最後の最後まで駄々をこねたが、保田の一喝で大人しく避難所へ帰っていった。 「そもそもあたしはあんたがついてくる事も反対だったんだけどね。いくら伝説の天使の 力が使えるからって、体術もろくに使えないってのに。魔物の巣窟よ? 不意打ちされたら 即死なのよ」 市井に言われ頬をふくらませるなつみとの間に、真里は苦笑して割って入る。 「大丈夫だって。その点はオイラが充分注意するからさ」 「ま、いいけどさ。足手まといにはなんないでよ」 市井はふいと前を向くと、そのまま歩き出した。 「むー。やな奴。そういう事言ってるといざって時助けてやんないから」 前を行く市井になつみがべーっと舌を出す。 「まぁまぁ、なっちも機嫌直せよ。オイラはちゃんと頼りにしてるからさ」 なつみを宥めつつ、真里は「でも」と心の中で呟く。 (確かに紗耶香の言う通り、この戦い一瞬の油断が命取りになる) 真里は気を引き締め、正面を向いた。 遠くに微かに見える帝国王城の影が、かつて自分が暮らしていた場所とは思えない 異質の空間のように感じる。 無意識に握り締めた真里の手に、汗が滲んでいた。
鈍く光る魔法陣の中心で、カオリは詠唱を続けていた。 数日間に渡る儀式による疲労で、その頬はこけ、精気が無い。 ただ禍禍しく光る赤い双眸が、どす黒い妖気と狂気を放っている。 「……来たね……」 カオリの後方、扉に寄りかかって儀式を眺めていた吉澤が、不意にボソリと呟いた。 真里達が、である。 もちろん石川も真里達が先程帝国の城下に到着した事に気づいていたが、わざと ビックリしたような表情をした。 「あれ? 予想よりちょこっと早かったね。儀式まだ終わってないのに……。 どうしよう? よっすぃー」 眉を歪め、大げさに困ったというようなポーズで吉澤の顔を見上げる石川。 もっとも、本当に困っているのではないだろう。 むしろ石川の顔は、新しい玩具を与えられた子供のようである。 「……わかってるくせに」 吉澤も石川を見て、ニヤリと笑う。 「もちろん、盛大にお持て成ししてあげなきゃ」
「とりあえず、城内を徘徊している魔物達は相手にしないで、儀式を行っている 部屋まで突っ込む。おそらくそこにはあの吉澤と石川の二人がいるだろう。あたし 達があいつらを引きつけてる間に矢口が宰相を倒す。オッケー?」 真里達は城壁の外側、木が生い茂り周りから視角になっている所にしゃがみ込み、 作戦の最終確認をしていた。 帝国に潜入していた反乱軍のスパイから、儀式を行っている場所は調べが ついている。 その詳細を記した地図を広げ説明する市井に、一同は真剣な顔で頷いている。 「ねぇ、なっちは?」 「邪魔にならないように後ろにいろ」 市井に即答されムッとするなつみの肩に真里が手を置き、 「なっちはあいつらが魔法を使ってきたら、防御障壁を張って。あとは怪我を した人に片っ端から癒しの力。よろしくね」 「うー。わかった」 まだ多少不服そうな表情で頷くなつみ。 細かい進路を確認し終えた一同が、腰を上げる。 「よし! それじゃいくよ!」 市井の号令に全員が城内に突入しようとしたその時、 「キャ――!!」 「えっ!?」 突然、城下町の方で悲鳴があがった。 「ちょっと……今の声」 「……なんか聞き覚えが……」 「加護!?」 真里達は顔を見合わせ、慌てて声の上がった方向へ駆け出した。
「ののっ! ののーっ!!」 加護は泣き叫びながら、崩れ落ち意識を失った辻を抱き抱える。 血の気が失せ真っ青な顔をした辻の右肩から、止めど無く血が流れ落ち、地面に 赤い水たまりを作っている。 低く唸りながら二人をゆっくりと包囲する魔獣達に、加護は辻を抱いたまま いやいやをするように首を振った。 「「加護っ! 辻っ!」」 そこへ走りこんできた市井が、剣を抜くと同時に一頭の魔獣の首を刎ね飛ばす。 「加護、あんたなんでここに……」 「ぁ……うぁぅ……」 駆けつけた市井に加護が口を開こうとするが、恐怖と驚きの為声にならず、ただ 涙を流しながらあえいでいる。 「! ののちゃん! ひどい怪我……」 なつみが加護の胸に抱かれた辻を見て驚きの表情を浮かべる。 突如現れた敵に一瞬後ずさりしたものの、魔獣達は再び彼女らを包囲しつつ じりじりと近づいてくる。 「なっち! こいつらはオイラ達に任せて、早く辻の手当てを!」 真里の叫びになつみはハッと我を取り戻し、慌てて辻の肩に手を添え祈り始めた。 と同時に魔獣達が咆哮を上げ真里達に襲いかかった。
ソファーに埋もれるように深く腰掛けた高橋は、窓の外、遥か遠くに霞む 帝国王城の影をぼんやりと眺めていた。 帝国北の国境に設けられた関所の一室で、無気力に日々を過ごしている。 かつて帝国の騎士団を従え、王の為に、国の為にその身を奉げ奮闘した日々が、 まるで遠い夢の中の出来事のように思える。 「団長、何か暖かい物でもお入れいたしましょうか?」 精気の抜け落ちた亡骸のような高橋に、側近が心配そうに声をかけるが、 高橋は黙って焦点の合わない瞳で外を見ていた。 帝国の現状は高橋も知っている。 かつての面影は最早無く、魔物が跋扈する廃墟となりはてている事。 その元凶が宰相飯田である事。 そして、かつての仲間達。 紺野は一人帝国に残っている。 新垣は闇に魂を売り魔人と化した。 小川……高橋の大切な想い人は、未だ未確認ではあるが恐らく殺されたで あろう事も、報告が入っている。
「私は……」 身動きせぬまま、ポツリと口を開く。 「……私のしてきたことは一体何だったのだろう……」 「……団長……」 側近の騎士は何と言ってよいかわからず、気まずい空気から逃げる様に「お飲み物を 用意いたします」と部屋を出て行った。 「私は……何がしたかった? 何をすべきだった? ……何時からこのような……」 高橋の左手が無意識に腰に伸びる。 そこには、かつて自分と共に死地を超えてきた愛剣はない。 帝国を出る時、小川に渡したままだ。 「私は……」 高橋の頬を涙がつたう。 その時、帝国の空を覆うように広がっていた暗雲が、にわかに赤く輝きだした。 「……何だ?」 高橋は涙を拭うと立ち上がり、窓に駆け寄った。 「団長! 帝国の空に異変がっ!」 高橋が窓を開くと同時に騎士が飛びこんで来た。 「何があった!?」 「いえ、その……ここの物見塔からでは詳しい事はわかりませんが……」 騎士と高橋は揃って赤い空を見つめる。 何が起こっているのかは解らない。が、得体の知れない嫌な気配が胸に広がり、 高橋は不快感に顔をしかめた。
どしゃっ! 最後の魔獣が地に伏し動かなくなったところで、市井はふぅと息を吐きキッと 加護を睨みつけた。 「馬鹿っ! 一体何を考えてるんだっ!! ついてくるなと言っただろうが!!」 市井に怒鳴られ、ビクッと体をすくめ「だって、だって」としゃくりあげる加護。 「あたし達が来なかったらお前等二人とも死んでたんだぞっ! 帝国が今危険な 状況にあるのは何度も話しただろっ!!」 本気で怒っている市井に、流石に真里も口出しできず、ただ黙って泣きじゃくる 加護を見つめている。 「……ん……」 その時、辻の眉がピクリと動いた。 「! ののちゃん!? 大丈夫!?」 肩の傷口に手を当て、癒しの力を使っていたなつみが、辻の体を軽く揺さぶる。 「……ぁ……あたし……?」 「ののっ!」 まだ状況が呑み込めず、ぼおっとした表情で辺りを見渡す辻を、加護が力いっぱい 抱きしめた。 「ごめん! ごめんな、のの。うちがこんなトコまで連れ出したばっかりに……」 「あいぼん……? あれ? 市井さん達まで……??」 相変わらず困惑したままきょろきょろと自分に集中する視線を見つめ返す辻。 「ったく……」 多量の出血の為まだ顔こそ青白いものの、目に光りの戻ってきた辻を見て、一同は とりあえず安堵のため息をついた。
☆★☆ 【魔神召喚】セーブポイント(Converted) ★☆★
プロローグ .
>>15-17 (Converted From Save@2002.12.23)
一章「出会い」
>>18-35 (Converted From Save@2002.12.24-2002.12.29)
二章「帝国の騎士」
>>36-52 (Converted From Save@2002.12.31-2003.01.05)
三章「反乱軍」
>>53-66 (Converted From Save@2003.01.09-2003.01.17)
四章「覚醒」
>>67-87 (Converted From Save@2003.01.21-2003.02.16)
五章「帝国潜入」
>>88-100 .(Converted From Save@2003.02.27-2003.03.14)
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
102 :
名無し :03/03/17 23:22 ID:33fI2JDl
保全しなきゃ
というわけでこれからはここでマターリ。 ……あらためてまとめられると色々とつっこみ所が…。 もっと文章力欲しい…(〜T◇T) 次回更新は多分週末の連休中です。
104 :
丈太郎 :03/03/19 12:54 ID:2xGeW2oE
すーさん、復活おめでとうございます。 展開のスピードとキャラクター設定の巧さが好きです。 がんがってください!
105 :
名無し :03/03/20 16:01 ID:G5fpM50j
保全
106 :
:03/03/21 22:39 ID:KcrV6ymA
保
107 :
名無し :03/03/22 12:19 ID:ZTHdtsjh
保全
闇の中、中澤は徐々に強まる邪な波動を感じていた。 結界を成す魔術文字が刻まれた壁が、呼応するように微かに揺れている。 (矢口……早くせな間に合わんで) 胡座をかいた中澤に焦りの色が浮かぶ。 そっと右手を動かしてみる。 この部屋に幽閉された時から何千、何万回と試してきた事をもう一度繰り返す。 体内の魔力を集中させ、己の力のみで結界を打ち破ろうとする。 が、右手には何の変化も起きない。 「……くそっ!」 ガッと握り締めた拳を床に叩きつける。 今の自分の無力さに苛立ちを覚え、中澤はギリッと歯軋りした。 「……誰もいないね……」 そっと壁から顔を覗かせ、なつみが呟く。 「どうなってんだろ?」 真里も首をひねる。 辻と加護を助けた後、一同は二つのチームに分かれて城内に侵入した。 あの場から辻と加護二人だけで帰らせる事は危険との判断から、しかたなく二人も 連れて行く事になった。 だが八人もの人数で潜入しては魔物に見つかる可能性が非常に高くなる。 そこで真里、なつみ、反乱軍兵士一人の計三人のチームと、残り五人のチームに 分かれ(こちらの人数が多いのは、辻と加護を守る兵が必要だった為である)、 別々のルートで儀式の間に通じる謁見の間へ向かう事にしたのだ。
「なっち、もっと魔物がうじゃうじゃしてるのかと思ってたのに」 なつみの言うように、事前の情報では城内のいたる所に魔物の軍が徘徊しており、 隠密行動をとったとしても数回の戦闘は覚悟していたのだが。 「まぁ、実際いっぱい出てこられても困るけどさ」 なつみの呟きに真里も相槌を打つ。 理由はどうあれ、真里にとっては好都合である。 一同の中でも特に真里にはカオリを倒すという重要な役割がある。 仮にこちらに魔物がいない分、市井達の方に魔物が集中していたとしても、そのぶん 真里が儀式の間に早く辿り着ける為、こちらにとってはありがたい。 そして予想通り、真里達は一度も魔物達と会うことなく一足先に謁見の間へ辿り着いた。 扉を開け、謁見の間へ入る。 無人の空間。空席の玉座。 その向こうには儀式の間へ通じる隠し階段のある通路の入り口がある。 「……向こうのチームが気にはなるけど、とにかく先にいくよ」 真里の言葉になつみと兵士がこくりと頷く。 だが、通路へ向かおうとした三人の足がぴたりと止まる。 通路の入り口に、人影があった。 「お待ちしてましたー」 人影がゆらりとこちらに歩き出す。 「もうチャーミー待ちくたびれちゃいましたよー。よっすぃーはどっか行っちゃうし」 「……石川……」 かまえる真里達の数歩前で止まった石川が手を振るう。 何もない空間に闇が生まれ、そこから巨大な鎌が出現する。 それを握り締め軽くポーズをとる石川の口が、ニヤリと禍禍しく歪む。 「さ、それじゃやりましょうか」
ザシュッ! 市井が剣を振るう度に魔物の首が落ち、辺りにどす黒い血が飛び散る。 「ちぃっ!」 次々に沸いてくる魔物達に苛立ち、市井は舌打ちした。 中二階の小ホールを埋め尽くさんばかりに魔物の群れが押し寄せていた。 ここまで順調に進んできた市井達をまるで待ち構えていたかのように出現した魔物達の 猛攻に、兵士二人は無数の傷を負い、市井自身も怪我こそ無いものの、疲労が蓄積されて きたのか動きが鈍くなってゆく。 (くそっ! このままじゃやばい!) 背後から襲いかかった魔物を横薙ぎに切り捨て、市井は周囲を確認した。 すでに兵の一人は地に伏し、もう一人も辻と加護に魔物が近寄らないよう防戦するのが 精一杯のようだ。 (……しょうがない) 市井は振りかえりざまに周りの数匹の首を刎ねると、走り出した。 「逃げるぞ! 走れっ!」 市井の声に一同は頷き、元来た道を駆け出した。
(っ痛……) 通路を走りながら、辻は顔をしかめた。 ズキズキと波の様に押し寄せる痛みに意識が飛びそうになる。 なつみに直してもらった傷口が開いたのかと手を当てるが、違うようだ。 だが傷口の奥から焼けるような鈍痛が広がる。 「のの、大丈夫?」 横を走る加護が心配そうに顔を覗きこむ。 辻は無言で頷き、青ざめた表情で無理に笑う。 しかし意識は混濁し、夢の中にいるようなふわふわとした感覚が襲う。 (どうしちゃったんだろう、あたし……傷が……うずくよぉ……) 視界が薄れていき、倒れそうになった瞬間、追いついてきた市井の手が辻の肩をつかむ。 「辻!?」 「……え?」 ぼんやりと見返す辻を市井が引っ張る。 「聞いてなかったのか? この部屋に隠れるぞ」 市井の指差す先に扉があった。 辻は無意識に頷くと、市井に続きおぼつかない足取りで部屋に入った。
すーさん、キタ━━━ヽ(ヽ(゚ヽ(゚∀ヽ(゚∀゚ヽ(゚∀゚)ノ゚∀゚)ノ∀゚)ノ゚)ノ)ノ━━━!!!!
ののの心のセリフに萌えてしまったオレは逝ってよしでつか?
保
保
117 :
名無し :03/03/26 23:40 ID:B/iZOMQv
保全
イ呆
119 :
丈太郎 :03/03/28 17:27 ID:euhNSwls
保全
120 :
:03/03/29 23:29 ID:dqBv0pzi
保
丈太郎ハケーン!
122 :
丈太郎 :03/03/30 09:15 ID:nhAWiN2w
そこは質素な部屋だった。 小さなベッドと、飾り気の無い机。 壁際には小箪笥が置かれ、その上で写真立てが埃をかぶっている。 「お前達はこの部屋で待て」 市井は手拭で剣に浮いた魔物の体液を拭いながら言った。 先程のホールを通るルートは使えない。 ここまで退却した事で、真里達との差は開いている。 一刻も早く合流するには、自分一人でさらなる別ルートを駆けるしかなかった。 「ここならば万一魔物が来たとしても扉だけ守ればいい。あたしが迎えに来るまで 絶対にここを動くな。二人を、頼んだ」 最後の一言は傷ついた兵士に向け、市井は剣を鞘に収めると、扉を開き出て行った。 残された三人は扉に鍵をかけると、緊張から開放されたように絨毯の敷かれた床に へたり込んだ。 「市井さん……」 加護は心配そうに市井の出て行った扉を見つめながら、朦朧としたままの辻の手を そっと握り締めた。
ヒュオッ! 鋭く大気を引き裂き振り下ろされた大鎌を、真里は紙一重でかわす。 そのまま体をひねって石川の顔面に蹴りを放つが、すでにそこに石川の姿は無い。 石川は鎌を振り下ろしざまに真里の横に周りこんで第二撃を放とうとしていた。 そのスキを兵士の剣が捉える。 ギィンッッ! が、素早くその気配を察知し、勢い良く引き戻した石川の鎌が、剣とぶつかり鈍い 金属音を響かせる。 「邪魔よっ!!」 標的を真里から兵士に変えた石川の体がふわりと宙に舞う。 と同時に鎌の先端が煌く。 「っ!」 一閃。 壁に灯った蝋燭の光が反射し、一筋の線が見えたかと思うと、兵士の右腕が肩口から 切り跳ばされた。 「ぁあああぁぁ――――っ!!」 激しく血を吹く肩口を押さえ叫ぶ兵士。 だがその時すでにその頭上には石川の鎌が迫っていた。 ザヴァッ! 「――っ!」 藁束を切り裂いたような音と共に、兵士の絶叫がかき消される。 ぐらり。 縦に真っ二つに割られた死体が、支える力を失って崩れ落ち、その血と臓物を 周囲に撒き散らした。
「うっ!」 それを見てなつみは胃から逆流しそうになる物に耐える様に口を抑えると、 目をそむけた。 まさに一瞬の出来事だった。 なつみが癒しの力を使う間も無く、その命は失われた。 天使の力は万能ではない。 傷ついた者を癒す事はできても、失われた生命を再び呼び戻す事はできない。 もっとも、石川もその事を知っていたからこそ、なつみに介入する隙を与えぬ様、 止めをさしたのだろうが。 「……まず一人」 何時の間にか兵士の死体から距離を置いた所にいた石川が、微笑みながら呟いた。 その様子に戦慄を覚えながら、真里はゴクリと唾を呑み込んだ。 ――強い。 解りきっていた事ながら、真里は改めてその事を思い知らされていた。 同時に二人を相手にしながら、尚且つこちらに反撃の隙も与えぬ間に、一人を 絶命させる。 その恐るべき反射速度と戦闘能力は、まさに魔と呼ぶに相応しい。 (……格が違いすぎる……) 余裕の表れからか、鎌を軽々と振り回しこちらをニヤニヤと眺めている石川を 睨みながら、真里は心の中で舌打ちした。
真里とて多少の体術は会得している。 魔術師にとって、戦いにおいて最大のネックとなる物の一つに、呪文の詠唱時間の 長さが上げられる。 体内の魔力のみで発動する、詠唱無しの魔術もあるが、それでは多少魔術への耐性を 持つ者にはたいしたダメージは期待できない。 そこで魔術師は、動きを鈍らせる程度に相手を痛めつける為、体術を駆使する事になる。 詠唱無しの魔術、体術、そして詠唱魔術。 この三つを使い分けるのが、魔術師の戦闘方法である。 だが、真里が帝国の魔術師団の頂点に立った存在とはいえ、相手は、石川は戦闘の、 殺戮の専門家というべき魔人である。 当然真里の、常人からすれば脅威となるその体術も、石川から見れば遊戯に等しい。 真里本来の実力とも言うべき魔術を使う隙を見出せない限り、勝ち目は無いだろう。 その為に前線で敵を食い止める肉弾戦のエキスパート、剣士や騎士が、市井がこの場に いないのが悔やまれる。 (なんとか……石川の動きを止める方法はないか……) ゆっくりと、畏怖すら覚える美しい微笑を絶やさぬまま、石川が間合いをつめてくる。 「ふふ……打つ手無し、ですかねー。なら……」 膨れ上がり、鋭く身を引き裂く刃のような殺意。 魔界の殺戮自動人形が、獲物を狙う狩人の様にすっと目を細めた。
通路を自分の駆けぬける足音が甲高く響く。 (! 見えた!) 市井の視線の先に、上へ続く階段が見えてきた。 魔物達のひしめくホールを避けた為、随分と遠回りになってしまったが、目前に迫った 階段を昇り角を曲がれば、謁見の間へ続く通路に出るはずである。 市井の足が更に加速する。 そのまま一気に階段を駆け上がり、躍り場を織り返し――その足が止まった。 「おいおい。せっかく君の為にホールに魔物達を用意しておいてあげたのに、戦わずに 別ルートを来るなんて反則だよ」 おどけたように肩をすくめる影が、階段の終わりを塞ぐ様に立っていた。 「……はっ、悪いけど、あたし達はやる事があってわざわざここまで来たの。あんたの お遊びにつきあってる暇ないんだよね」 「ふふ、そう言うなよ。あの時言ったろ? 帝国で待ってる、って」 階段の上から市井を見下ろし、影が、吉澤が笑った。 「……ここは狭いな。君もこんなところで死ぬのは本望ではないだろう?」 吉澤が腕を振るう。 ゴッ! 風が、闇の圧力が大気を震わせる。 「っ!」 どっ、と市井の体が踊り場の壁に激突する。 闇の圧力はそのまま市井ごと壁を押し潰すかのように迫り、壁が音を立ててひび割れる。 ガゴォッ! 壁が破裂するように外に崩れ落ちた。 「!」
一瞬の浮遊感と共に市井の体も城外に弾かれた。 落ちる――! 市井がそう思った次の瞬間、市井の下には地面があった。 いや、そこは屋上だった。 中二階程度の高さの、城から突き出したテラスのような場所。 紫色の空を仰ぎ、市井は体を起こす。 強い風に闇色のマントをはためかせ、崩れた踊り場の穴から吉澤が出てくる。 「ふむ。ここもさして広いとも言えないが、剣を振るう隙間もない階段よりは全然マシだろう?」 「……わざわざどうも」 市井は憮然とした表情で吐き捨てた。 吉澤を警戒しながら、素早く周囲に目を走らせる。 二十メートル四方程度の、石造りの屋上。 当然柵など無く、高さは十四、五メートルといったところか。 落ちても運が良ければ死にはしないが、逃げ道にはならないだろう。 つまり――。 「結局あんたを倒さなきゃ、先には行けないってわけね」 市井が剣を抜く。 「そうだね。でも、それも不可能だよ」 それを見て、吉澤が嬉しそうにマントから両腕を出し、構える。 「君は今から私に殺されるのだから、ね」
129 :
:03/03/31 15:02 ID:lI35XoqJ
保
130 :
:03/04/01 18:39 ID:wBiREYz8
保
ho
ho
133 :
:03/04/03 23:15 ID:L0/73byN
ほ
ほ
ほ
ho
ほ
ほ?
139 :
:03/04/08 00:57 ID:nAnX/26m
ホ
ほ
ho
142 :
:03/04/10 22:20 ID:8kyKaS6N
ほ
保
144 :
:03/04/12 00:48 ID:a9sduRKL
ほ
ほ
完璧です!
147 :
ぬなし :03/04/13 06:28 ID:EOvyDLf6
よっすぃー怖えー保全
ほ
保全は、完璧です!
お久しぶりです。すーです。 風邪をこじらせて1週間ほど入院してました。 時期が時期だけに「まさかSARSか!?」とかガクブルでしたが どうやら違ったようで無事退院してきました。 そんなわけで保全してくれてた方々ありがとうございました。 更新の方はもう少し時間がかかりそうです。すいません (多分週末くらい……
152 :
丈太郎 :03/04/15 20:42 ID:IsPcr9vU
そうだったんですか… お大事に…
153 :
:03/04/16 00:23 ID:6KkDaWxb
アホ
155 :
:03/04/17 21:30 ID:UYxNHQXW
ほ
保全
闇の中、声が途切れた。 カオリは無言で立ち上がり、台座の上に横たわる真希を見つめる。 すでに生命活動を休止して数日経ったはずのその身体は腐敗もせず、 恐ろしいほど美しいままその形を保っていた。 胸に生える銀の剣が鈍く光を放ち、まるで鼓動の様に微かに上下する。 透き通る白い肌にはほんのりと赤みがさし始め、何も知らない者が見れば、 それはただ眠りについているだけだと思うだろう。 「……あとはただ待つのみ、か……」 カオリは無表情に呟いた。 何処からか感じる強大な瘴気は次第にその色を濃くし、室内を圧迫していった。
「雷よっ!!」 魔力を開放した真里の周囲に無数の雷球が具現化し、石川をめがけ飛来する。 その表面が石川の肌に触れた瞬間、勢い良く爆ぜる。 だが、光の渦から石川が飛び出し、鎌を薙ぐ。 「っ!」 銀の光が微かに真里の頬をかすめ、一筋の血が流れた。 「真里っ!!」 悲鳴にも似たなつみの声に返す余裕もなく、石川の斬撃をかわしながら、 真里は歯軋りした。 (くそっ! やっぱ詠唱無しの魔法じゃ肌を焦がす程度かよっ!) 鋭さを増す攻撃に、徐々に追い詰められて行く焦りが生まれる。 ガッ! 「っ!?」 不意に何かに足を取られ、真里の身体が傾く。 「ちぃっ!」 それは先程石川に切り捨てられた兵士の半身だった。 石川の斬撃の凄まじさに、周囲への注意がそれていたのだ。 「終わりよっ!!」 一瞬の隙を見逃さず振り下ろした石川の鎌が、真里の頭上に迫る。
(だめっだ!! 避けられないっ!) 「真里――っ!!」 思わず目をつぶり叫ぶなつみ。 ドゴォッ!! ぶつかり合うような轟音。 石川の鎌が真里の体を両断した――そんな場面を想像し、ジワリと涙の浮かんだ 眼を恐る恐る開いたなつみの視界には、衝撃に吹き飛ぶ石川の姿が映っていた。 「……ぇ?」 視線をそのまま移動させる。 よろけた状態の真里の傍らに立つ、もう一つの人影。 「っ!」 ザッと態勢を立て直して地に立った石川が、人影を睨む。 「……なによ、あんた。邪魔する気?」 「……邪魔なのはあなたです」 冷たい中に微かに怒気をはらんだ声で石川の視線を受け流し、振り向く。 その顔に、呆然としていた真里の表情が、驚きのそれに変わった。 「っ! おっ、お前……紺野……か?」 真里の狼狽ぶりが可笑しかったのか、紺野が目で微かに微笑む。 「お久しぶりです、矢口さん」
160 :
丈太郎 :03/04/19 21:36 ID:BW3iYGxD
こっちも更新来てたー! 嬉しすぎる。
161 :
山崎渉 :03/04/19 22:48 ID:a6SdgGKj
∧_∧ ( ^^ )< ぬるぽ(^^)
交信キテタ━━━(゚∀゚)━━━!!!! コンコンキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!
163 :
山崎渉 :03/04/20 02:05 ID:TDc+cHX1
∧_∧ ( ^^ )< ぬるぽ(^^)
保
165 :
:03/04/23 20:30 ID:53wkksbY
ほ
ほ
ほ
ほ
169 :
:03/04/27 14:58 ID:EjGdN6t/
ほ
ほ
ほ
ほ
ほ
174 :
:03/05/01 00:47 ID:F0iBelF1
ほ
175 :
:03/05/01 20:53 ID:Dbshw7WP
ほ
ほ
ほ
178 :
:03/05/03 02:40 ID:9zVmIiY9
ho
ほ
180 :
丈太郎 :03/05/04 11:11 ID:RIS0GHRW
保全します
ho
182 :
:03/05/05 21:02 ID:zh8NPHKT
ホ
183 :
:03/05/06 23:28 ID:nCT/9JB7
ho
184 :
:03/05/07 20:05 ID:ZfGAg89v
185 :
:03/05/08 00:49 ID:cLbcGxe1
ho
∬ ´◇`)<ぷるるるるぅ〜
続きが気になるな。。。
188 :
tetu :03/05/08 21:05 ID:GBudziG0
ほ
190 :
:03/05/10 00:39 ID:OSBH3L3B
ほ
更新まだ?
「その人誰だべ? 真里」 「帝国僧兵団の団長を務めさせて頂いている、紺野あさ美と申します。 初めまして」 なつみの問いに真里が答える前に、振り向いた紺野が一礼する。 そのまま視線を石川に戻し、再び構える。 「矢口さん、安倍さん。こいつは私に任せて、早く儀式の間へ。宰相は すでに儀式を完成させてしまっています」 「「なっ!?」」 真里となつみの驚愕の声が重なる。 「後は魔神の降臨を待つのみです。もう時間がせまっています。残された 道は降臨の前に依り代である後藤皇帝の肉体を破壊するしかありません」 淡々とした紺野の言葉に、真里の顔から血の気が引く。 「っ!! まさか……皇帝の身体を媒介に……!? ていうか、紺野、 あんたなんでそんな事まで知って……」 「後で話します」 真里の言葉を遮り、紺野が跳んだ。
「!」 「っぃああぁっ!!」 ガシイィッッ!! 「くっ!」 一足飛びに間合いを詰め繰り出した紺野の蹴りが、辛うじてガードした 石川の両腕に食い込む。 「こっ、こいつっ!! 人間の癖にこのスピードとパワー……ば、化物かっ!?」 「矢口さん! 急いでっ!!」 反撃する間を与えず石川を攻撃しながら叫ぶ紺野に、真里はハッと我に帰り 頷いた。 「わかった! いくよ、なっち!」 「あ……う、うん!」 「ちっ! 行かせるかっ!!」 奥の通路に向かって走り出す二人に、石川が魔力を開放しようと腕を伸ばす。 だが、瞬時に紺野がその腕を極める。 「あなたの相手は私だと言った」 ビキィィッッ!! 「っっ!!!」 遠慮無く極めた肘間接を折る。 そのまま投げ飛ばされた石川の身体が地面に叩きつけられ、鈍い音を響かせる。 (く……つ、強いよこいつ……。何でこんな人間が……よっすぃー……助け……)
自分より強い存在。 自分の本来居るべき魔界ならばそれは存在した。 だが、今自分がいるのは脆弱な、石川自身から見れば虫けらのような存在でしか ない人間の住む世界。 カオリが呼び出そうとしている魔神を別にすれば、一緒に召喚された吉澤以外に、 自分より強い者など存在しえない。 その根底を覆すモノ、紺野あさ美という「人間」に、石川は恐怖を覚えていた。 (そうよ……わたしは魔人……人間なんて……こいつは誰?……ワタシハ……怖ィ…… やダ……何が?……虫けラ……) 錯乱する頭の中を処理できないまま、石川は震える身体を起こそうと力を込める。 視界がゆがむ。 焦点の合わない視線を敵に向けながら首だけを起こした石川の眼前に、何かが 迫っていた。 「終わりです」 誰かが呟いた気がした。 視界を遮る物。 敵はどこ? わたしは――。 ゴキィッッッ!!! 衝撃が襲った。 痛みは無かった。 ただ、自分というモノが失われた事だけをなんとなく理解しながら、石川の意識は 闇に消えた――。
ヒュッ! 空を裂く音と共に、見えない何かが市井を襲う。 それを気配のみでかわしながら、市井は吉澤の隙をうかがっていた。 「どうしたのかな? 攻めなきゃこの状況は変わらないよ。君達には時間がないんじゃ なかったかな?」 笑みを崩さず挑発してくる吉澤に、市井は心の中で舌打ちした。 全く隙を見せず、こちらが攻めこもうとするとあの見えない何かが空を切り裂く。 (くっそ! これじゃぁ埒があかねぇ。でも相手の攻撃手段が見きれないまま 飛び込んでも玉砕するだけだし……) 焦る市井の頬を一筋の血が流れ落ちた。 先程の攻撃をかわし損ねたのか。 それを鬱陶しげに手の甲で拭きながら、市井はちらりと視界の隅にあった大樹を見た。 (……よし、こうなったらアレで……) 剣をしっかりと握りなおし、深呼吸すると市井は大樹に向かって走り出した。 「……? おいおい、まさかあの樹に飛び移って逃げようってのかい? 距離にして 5,6メートル、届かなければ地面にまっさかさまだよ」 「うるせーバーカ! てめぇみたいな奴とまともにやってられっか!」 捨て台詞を吐き大樹に向かって一直線に走る市井に、吉澤は軽くため息をついた。 「……やれやれ、しょうがないな」 市井が飛ぶ! その瞬間、吉澤のかざした腕から空気を切り裂く何かが放たれた。
「へっ! かかったな!」 「何!?」 大樹に向かって飛ぶ。そう思わせておいて、瞬時に市井は体を沈めて勢いを殺し、 真後ろに跳んでいた。 ズシャアッ! 大樹に向かって市井が飛んでいたならそこにいたであろう空間を、見えない何かが 切り裂いた。 大樹から突き出た枝葉が切り刻まれ、破片となって宙に散らばる。 (見えた!) 吉澤の放った「何か」が枝葉を切り裂く様を真横から目撃し、市井は確信の 笑みを浮かべた。 「なるほどね。予想はしてたけど、これではっきりしたよ」 後方に着地し、ニッと笑う市井。 「あんたの武器は鋭い切れ味を持った極細の鉄線のような物だ。標的を四方から 包み込み、一気に切り裂く。真正面からだと見えない位置から襲ってくるから、 かわすのは困難だけど、そうと解れば対策はある」 「……やるね。まさか逃げると見せかけてこっちの武器を見極めようとしていたとは 思わなかったよ。でも、はたしてその対策とやらがあたしに通用するかな?」 ひゅっと腕を振るい鉄線を手元に戻した吉澤が、市井に向き直る。 「通用するさ。お前みたいな戦いを舐めた甘ちゃんにならな」 市井が腰を沈め、剣を水平に構える。
「いくぜっ!!」 気合いと共に地を蹴り、吉澤に向かって鋭い突きを放つ。 「ふっ! なるほど、剣を振るうよりも突く方がスピードも速く、しかも本体を 絡めとろうとしても剣を投げれば相討ちにはできるか! だがっ!!」 ギャッ! 空を裂き、吉澤の腕から鉄線が放たれる。 「ならばその剣と腕を絡め取るまでよっ!!」 鉄線が凄まじい勢いで近づいてくる市井の剣と右腕に襲いかかる。 瞬間――、 「だからお前は甘ちゃんだっつったんだよ」 市井の右手が握っていた剣を離し、体を沈める。 「っ!?」 鉄線が市井の右腕のみを絡め取る。 「馬鹿なっ!? 右腕を犠牲にっ!?」 「はっ! てめぇの隙をつく為だ! 右腕くらいくれてやらあっっ!」 ブチイッッ!! 鉄線が市井の右腕を引き裂いた――と同時に、落ちた剣を左手で掴み、 下から切り上げる。 「がら空きだぜっ!!」 「ちいいいぃっっ!!」 ズバアアァッッッ!! 確かな手応えと共に、逆袈裟に切り上げた市井の剣が、吉澤のわき腹から 胸にかけ切り裂いた――。
やっと更新できました……。 お待たせして本当にすいません。 そのわりにシリメツな文章ですいません。 前回の更新から三週間も経ってるのね……。 保全してくれてた方々、本当にありがとうございました。
乙
何かやっぱり文が変だ…。推敲してからうpればよかった(;´Д`)
更新お疲れさまです。 続きも楽しみにしてます
ほ
すーさん、庚辰乙。 こちらはマターリ待っとりますんで、ごゆるりとうpってくだせぇ。
ほ
ほ
206 :
:03/05/14 23:45 ID:pL4qEags
ほ
207 :
:03/05/16 02:13 ID:4Z5rGbeg
ho
ほ
ほ
ho
211 :
:03/05/19 01:19 ID:usyqpsy5
保
212 :
:03/05/19 23:59 ID:4GGPtiLH
保
213 :
:03/05/20 21:49 ID:2b8AGnt6
ほ
214 :
:03/05/21 20:50 ID:qqtf8Y0f
ほ
KIZの間奏を歌い続けるスレはここですか?
216 :
名無し募集中止。。。 :03/05/22 12:17 ID:ophcD7Bb
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| | モーヲタは包茎! | | モーヲタは童貞! | | モーヲタは悪臭! | |_________| 二二 ∧ ∧ || ≡≡(,, ゚Д゚)⊃ キモイ... 三三〜(, / | ) ) ∪
ほ
218 :
丈太郎 :03/05/25 00:05 ID:PM6u7TC7
さしみの小説が落ちた… こっちをおとしてはならない!
さしみのはどうでも良いよ
さしみって何?
221 :
:03/05/26 01:27 ID:AwEjp+zQ
ほ
222 :
:03/05/26 21:03 ID:79esgF6x
ほ
ho
ho
225 :
山崎渉 :03/05/28 09:23 ID:YiI8kCfd
∧_∧ ピュ.ー ( ^^ ) <これからも僕を応援して下さいね(^^)。 =〔~∪ ̄ ̄〕 = ◎――◎ 山崎渉
ほ
ho
ho
真里となつみの足音が、闇へと続く階段に反響する。 そのまま飲み込まれてしまいそうな漆黒の先から感じる邪な波動に、 二人の顔が緊張に強張る。 「……紺野さん、大丈夫だべか?」 駆けながらなつみが心配そうに後ろを振り返る。 「……あいつなら大丈夫。帝国内であいつと近接戦闘で渡り合えるのは、 元騎士団長の高橋くらいなもんだから」 先を行く真里が振り返らずに呟く。 だがその声が震えている事になつみは気付いていた。 「……それに、オイラ達にはやんなきゃならない事がある。あいつがわざわざ 石川を引きうけてくれたんだ。絶対魔神の召喚を阻止しなくちゃ」 「……そうだね。絶対!」 闇の中、なつみは小さく頷き、拳を握り締めた。 ズンッッ!! 「「!!」」 その時、城内が大きく揺れた。 「な……!?」 二人の足が止まる。 瞬間―― ゴオオォッッ!! 「っ!!」 地響きのように断続的に地が揺れ動く中、闇をどす黒い瘴気が吹き抜けた――。
グッ! 「!」 吉澤を切り裂いた剣の切先が、その胸の中央で固定される。 「くっ!」 市井が剣を抜こうと力を込めるが、まるで吉澤と剣が一体化したかのように それは微塵も動じない。 「フ……フフフフッ……やっぱりキミ、なかなかやるよ。この私に手傷を負わせた 人間は、キミが初めてだ」 胸から剣を生やしたまま、吉澤が楽しげに笑う。 「馬鹿なっ!! 致命傷のはずだっ!」 剣は確実に心臓を切り裂いたはず。 呆然と見上げる市井に、吉澤が笑みを貼りつけたまま朗々と語り出す。 「剣の腕はそこそこだが、我々魔族に対する知識には乏しかったようだね。我等は 人間と違い、心臓という物が無い。魔の生命エネルギーを作り出す核を潰さぬ限り、 我等を倒す事は不可能なんだよ」 ズルリと剣を引きぬき、立ちすくむ市井に近寄る。 ゴキィィッ! 「!」 吉澤に殴り飛ばされ、市井の体が地を転がる。
「っかはっっ!」 うずくまり血を吐く市井。 (くっ! 右腕まで犠牲にしたってのに、このザマかよ。ったく、わりに あわねえなぁ) 左手の甲で血を拭い、立ち上がろうと足に力を込める。 「ククク……まだやる気かい。いいねぇ。もう少し楽しませてもらおうか」 吉澤が右手を振るい、再び鉄線を閃かせようと動かし――、 不意にその手が止まる。 「?」 眉をしかめた市井を無視し、暗雲の渦巻く空を見上げた吉澤の口が 今まで以上に楽しげに歪む。 「……来たか……」 「……何?」 吉澤がそう言った瞬間、縦揺れの衝撃が襲い、立ち上がった市井の体が 再び地に転がる。 総毛立つような瘴気に、市井の全身から冷たい汗が噴き出した。 「……ま、まさか……」 世界が揺れ動く中、市井の最悪の予感を裏付けるように吉澤が 満足げに微笑み、囁く。 「魔神の、降臨だ――」
「っあああぁぁぁあぁっっ――!!」 「のの!? のの!! しっかりしいやっ!」 地鳴りの中必死で辻の体を押さえつける加護の声を遠く感じながら、辻は身体中を 駆けぬける不快感に絶叫した。 (何これっ!? やだっ! やだよぉっっ!) 先ほどまでうずいていた傷口から、邪な何かが入り込み、身体中を侵食していく ような感覚。 自分を蝕む黒い熱が、魂を食い千切って行くような絶望感。 (気持ち悪いっ! いやっ! ののを消さないでっっ!!) 闇に飲まれる。 自分が失われる。 目の前に居る愛しい人が、記憶から薄れてゆく――。 意識も無く嘔吐を続ける辻の双眸から、絶え間無く涙が流れ続けた――。 ―― 五章 帝国潜入 ―― 完 次回【六章 魔神降臨】
――「うざいと思う人は飛ばして下さい」な前半のあとがき―― ……長かった……。やっと五章終了です。 更新間隔が開いていたというのもありますが、それ以上にこの章は 予定外の方向に走り続け、気がつけば枚数が他の章よりぜんぜん 多くなってしまったという間抜けっぷり。 ちなみに前半のあとがきと称してますが、後半がこれまでの分と同じくらいか どうかは解りません(長くなるか、短くまとめて終わるかは未定 ともあれ、いつも保全して下さっている皆さんに感謝しつつ、引き続き 頑張って書きますのでどうかよろしくお願いします。
更新お疲れさまです。 次回の更新までまた楽しみに待ってます。
ほ
236 :
:03/06/02 20:38 ID:3Yc+0Quc
ほ
すーさんキテタ━━━ヽ(ヽ(゚ヽ(゚∀ヽ(゚∀゚ヽ(゚∀゚)ノ゚∀゚)ノ∀゚)ノ゚)ノ)ノ━━━!!!!
239 :
:03/06/05 01:19 ID:K5tlyTLz
ho
ほ
ほ
ほ
d
dあ
ほ
246 :
:03/06/09 00:36 ID:juCGRoFT
ho
247 :
:03/06/09 01:26 ID:vqTeua+Y
ほ
ho
ほ
250 :
:03/06/11 00:38 ID:bSvaPOiq
ほ
ho
ノノ*^ー^)人(’ー’*川
ほ
ほ
j
d
ほ
d
d
e
どんまい
どんとまいんど
test
ここまで下がったか
test ♡
d
テスト
d
269 :
丈太郎 :03/06/15 23:57 ID:ExZ6jDyP
保全
保
271 :
:03/06/16 18:44 ID:S3Yd3hra
ほ
272 :
:03/06/16 18:58 ID:S3Yd3hra
tt
.
274 :
丈太郎 :03/06/17 01:14 ID:Bg3zXQ/P
保全
ほ
d
ss
po
てすとん