Yeah!めーーーーーーーーーっちゃ

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93名無し33 ◆v0B8Gi4XY6

 里沙は頭の中で、圭織に出会った時に聞くべき事と、言うべき事を整理していた。
 今回はここから逃げ出す計画までは、練っている時間がないだろう。
 里沙の記憶は曖昧な状態で、外へ通じる道が思い出せない。或いは、はじめから知らないのかもしれないが。それに関しては、今後、ムロイに協力してもらうしかない。
 まずはお互いの無事を確認すること。
 それが一番重要なことだ。 
 しかし、ムロイはちゃんとメモを渡してくれただろうか……

 本人に渡す意思があっても、何者かに邪魔される可能性もある。それ以前に、ムロイが必ずしも協力者になってくれるとは限らない。
 これは賭けだ。
 ムロイが協力するか、メモを渡すか、天使像の前に圭織が来るのか。
 かなり分の悪い賭けだが、それでもそれに賭けるしか、里沙に、里沙達に残されている手段はない。少なくとも、里沙自身はそう考える。
 急がないといけない。
 自分たちには──

(!) 
 
94名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 10:48 ID:/EYJFLT7

 頭のてっぺんを突き上げてくる感覚に、里沙は思考を中断された。

(こんな時に!)

 脳の奥から、自分のものではないもの広がってくる。
 それに意識が支配されていく。
 里沙はまだ、自分が自分であれるうちに、行動を起こした。
 それは、紙よりも薄い願いだったが、それでも、そこに賭けるしかなかった。
 自分たちには、時間がない。 
95名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 10:56 ID:/EYJFLT7



96名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 10:57 ID:/EYJFLT7

 目覚めた時、真里の目に映ったのは自分の病室の天井だった。
 ただ寝ていたのかもしれないし、或いは里沙に交代していたのかもしれない。
 それははっきりとは分からないけれど、ぼんやりとした不安が、どういうわけか頭の中に幕を張っている。
 得体の知れない不安に胸を抑えようとして手を意識すると、そこに握られていたものに気づく。

 一枚の紙片。
 薄っぺらな紙を、くしゃくしゃに握りつぶしていた。
 知らない場所で目覚める事には慣れてしまったが、こんなことは初めてだった。
 その紙を見つめて、10秒は固まってしまう。

(とにかく、見てみよう)

 そうしないと、始まらないだろう。なにが始まるのかは知らないけれど。
 くしゃくしゃの紙を丁寧に、花占いでもするような手つきで開くと、そこには、何か書かれているようだった。
 消灯時間が過ぎているので電気を点けることはできず、磨りガラス越しの月明かりを当てて目を凝らす。
 
97名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 10:57 ID:/EYJFLT7

──こんや0じ てんしぞう
 
98名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 11:00 ID:/EYJFLT7

 書いた人間は急いでいたのか、それだけが殴り書きされていた。

(てんしぞう……天使像? って言うと、あの匣庭の……?)

 それしか思いつかない。
 そして、これを書いた人間と言えば、自分の(なつみの)中にいるというもう一人の人
物、新垣理沙しか思い浮かばない。
 となれば、これは里沙からのメッセージではないか……
 天使像がなんなのかは分からないけれど、何かを伝えたがっている雰囲気は充分すぎる
ほど感じ取れる。

(何かが、あるんだ……)

 なぜそう思うのかは分からない。
 けれど、自分はそこに行かなければ行かないような気がする。気がしてならない。
 それは漠然とした靄のような感覚で、しかし強烈に真里の心を突き動かす。まるで頭の
内側からそうしろと訴えられているようだ。
99名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 11:08 ID:/EYJFLT7

「よしっ」

 紙片は折りたたんで、入院着の胸ポケットに入れる。
 スリッパを履こうとして、

「痛っ」

 何かを踏む。
 足元を見るとボールペンが転がっていた。それを拾い上げて、改めてスリッパを履く。
 そろりと音を立てないように戸を開けて、廊下を窺う。
 
 
10033 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 11:09 ID:/EYJFLT7

 誰もいないか、歩いてくる気配がないか確かめて、抜き足差し足で病室を抜け出る。
 耳を澄ましても、人の声や足音なんかは聞こえない。
 2・3歩進んで、ペタペタいう音が気になって立ち止まり、警戒しながら音の発生源で
あるスリッパを脱いで、靴下で歩き出す。
 曲がり角では、壁に背中をつけて覗き見る。映画のワンシーンにありそうだ、と思い浮
かべて、苦笑する。
 曲がり角の向こうにはナースステーションがある。
 暗闇の中、そこだけは煌々と明かりが点いており、どこか異世界じみた雰囲気さえ漂わ
せている。
 そこさえ抜ければ匣庭まで楽に行けるのだが、そう簡単には通ればいだろうと予測して
いた。
 だから、真里は自分が見たものを、一瞬、信じることができなかった。

 
101名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 11:11 ID:/EYJFLT7

 ナースステーションの中には、誰一人、いなかったのだ。
 からっぽのナースステーションは不気味だったが、そんなことを疑問に思っている余裕
はない。
 いつ戻ってくるのか分からないから、一気に走り抜ける。
 だから真里は気づかなかった。
 その奥にいるムロイが、不安げに真里を見送ったことには──

 
102名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 11:12 ID:/EYJFLT7

 いかに人の手が加えられているとはいえ、明かりが月光しかない匣庭は、暗闇よりも質
の悪い、恐怖を孕んでいる。
 真里はごくりと喉を鳴らして唾を飲む。
 奥歯が鳴るのを抑えられない。
 けれど、それでも真里は、月光が作り出す木々の陰に隠れるようにしながら、匣庭の奥
へ奥へ、天使像に向かって歩き出した。

 
103名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 11:17 ID:/EYJFLT7

 体の内側から来る寒気に、膝を震えさせて、それでも歩く。
 木々の陰が切れる。
 その先に、水の止められた噴水の台座の上に、月明かりをまとって青白く輝く天使が、
まるで従者を従えるように立っていた。
 従者……
 そう、そこには、本来あるべきではない影が、あった。
 長い髪が月明かりをすくうように光り、手足の長いシルエットが、真里の足元に伸びて
いる。
 思わず息を飲む。
 悲鳴をあげそうになるのを、必死で飲み込む。
 膝が震えて体を支えていられない。
 体から力が抜ける。
 カツーン、乾いた音が匣庭に響いた。

 
104名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 11:18 ID:/EYJFLT7

 心臓が凍りつくかと思えるくらい、その音が真里の聴覚を蹂躙する。
 足元を見ると、ボールペンが落ちていた。
 病室から持ってきてしまっていた、あのボールペンだ。
 混乱した真里はどうしていいか分からず、ボールペンを拾おうと手を伸ばす。こんなこ
とやってる場合じゃないのに、と頭の奥では分かっているのに、体の方にその指示が行き
渡らない。

「安倍さん……」

 従者が、影が、懐かしい響きで、相応しくない言葉を発する。
 真里が顔を上げると、影は、いや、彼女は丸くした目でこちらを見ていた。

「安倍さん、じゃなくて、里沙ちゃん?」

 
105名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 11:24 ID:/EYJFLT7
 おかしい。
 何かがおかしい。
 いや、何かなんて言い方は正しくない。
 何がおかしいのか分かっているのだから。
 拾ったボールペンを握り潰しそうなほど、拳が強く、きつく結ばれていく。

「何……なんで? どういうこと……?」

 おかしいのは、きっと自分の頭の方だ。
 そんなわけがない。
 そんなこと、でも、どうして……

「なんで、圭織がいるの……?」

 もう何年も出会っていないような、懐かしい人物が、見慣れぬ表情で、そこに立ってい
る。
 
106名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 11:25 ID:/EYJFLT7

 事故で助かったのは自分だけ、なつみだけだと聞いた。
 では、目の前にいる彼女は何だ。
 その上、なつみの姿を見て、なぜ『安倍さん』なんて呼ぶんだろう。
 圭織だったらそんな呼び方しないのに。

「里沙ちゃん、じゃない、の?」

 その声は震えていて、何度も途切れながら、それでも真里の耳に届いた。

「圭織は、だって、あれ? 私……ってゆうか、なっちしか助からなくって、それで、人
格が私で、おマメとかもいて、加護と辻が、待ってて……あれ? え、何……?」

 ぐるぐると頭の中で、虫の大群がでたらめに蠢いているように、思考の向かう先が、一
つにまとまらない。

 
107名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 11:27 ID:/EYJFLT7

 今見てることが、夢なのか現実なのか、それとも幻覚なのか、判断がつかない。

「ど、どうしたんですか?」

 彼女が心配そうに手を伸ばす。
 それに触れないように一歩下がった。
 不思議そうに見つめる目は、彼女のものでありながら、違う誰かのものだった。

(まさか……いや、でも……)

 そう考えるべきなのだろうか。
 それが正しいと言うのか……

 
108名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 11:28 ID:/EYJFLT7

 混乱しきっている頭の中が導き出したものだ。
 筋道なんて通ってなくて、根拠なんてなくても当然だ。
 開き直りか、思考の暴走か、真里が思いついたそれは、それこそが、彼女の的を射てい
た。

「か、圭織、じゃないの? ひょっとして、誰か別の……」

 彼女はその言葉に、身を硬くした。

「……わ、わた、し、小川、です。小川麻琴です」

 目が眩む。
 世界がたわむ。
 この状況を、この事実を受け入れろと言うのか。
 いったい誰が、こんなことを。
 もしも神様がいるのだとして、こんな運命を用意していたのだとしたら、きっと、とて
つもなく底意地が悪いに違いない。
109名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 11:35 ID:/EYJFLT7

「小川……そう、なの、そうか。オイラ、矢口だよ。なっちでもおマメでもなくて、矢口
真里」

「や、ぐち、さん……?」

 圭織の唇から、圭織の声で、圭織のものではない言葉が生まれる。
 麻琴は何をすればいいのか分からなくなってしまった。
 もともと、里沙に会うために、あさ美の代わりをしただけなのだ。
 こんな状況になっているなんて考えもしなかった。
 理沙に会うまでは、と支えてきた心が、グラグラと揺らいでいる。
 必死で堪えてはいるが、今にも崩れそうになっている。
 泣き出しそうな麻琴の(圭織の)顔を見ていると、何かを言わないといけないような気
にさせられるのだが、真里の口はパクパクと開閉するだけで、麻琴にかけてやれる言葉な
んて、何も出てこない。
 言葉をかけてやろうにも、自分だって、こんな状況に混乱しているのだ。

 
110名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 11:36 ID:/EYJFLT7
ば良いというのだろう。
 死んだと思っていた圭織が生きていると知って、その中にいるのが麻琴だと知って、そ
れで、どうすれば良い。

「どうしろってのよ……」

 答えてくれる者はない。
 唇を噛む。
 俯くと、滲んでいた涙が、足元にポツリと落ちた。
111名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 11:41 ID:/EYJFLT7

「矢口」
 
112名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 11:41 ID:/EYJFLT7

 ふと麻琴が、真里の名を呼ぶ。
 いや、違う。
 麻琴じゃない。
 麻琴とは違う。
 この声は。


「圭織……?」


 躊躇いがちに呟いて、顔を上げる。

 そこには、
「矢口って意外と泣き虫だよね」
 いつもの顔で、
「元気だった?」
 いつもの笑顔で、
「ほら、いつまでも泣いてないの」
 彼女が、飯田圭織が、そこにいた。
 
113名無し33 ◆v0B8Gi4XY6 :03/04/21 11:45 ID:/EYJFLT7

(0^〜^)「ねえ、梨華ちゃん」
 ( ^▽^)「何、よっすぃー?」
(0^〜^)「うちら、本当に登場の予定ないみたいじゃない?」
 (;^▽^)「そ、そんなことないって! 信じて待ちましょう!」
(;0^〜^)「この作者、うちらの事8割くらい忘れてるって」
 (;^▽^)「そう言われると……」
(;●´ー`)「セリフあっただけマシでしょ! 私なんて、私なんて……」
 ( ´D`)「寝てるだけって楽れすね」
(;●´ー`)「のの……」
(;0^〜^);^▽^)「……」

      次回『カウントダウン』