第11回『星に願いを』
里沙は頭の中で、圭織に出会った時に聞くべき事と、言うべき事を整理していた。
今回はここから逃げ出す計画までは、練っている時間がないだろう。
里沙の記憶は曖昧な状態で、外へ通じる道が思い出せない。或いは、はじめから知らないのかもしれないが。それに関しては、今後、ムロイに協力してもらうしかない。
まずはお互いの無事を確認すること。
それが一番重要なことだ。
しかし、ムロイはちゃんとメモを渡してくれただろうか……
本人に渡す意思があっても、何者かに邪魔される可能性もある。それ以前に、ムロイが必ずしも協力者になってくれるとは限らない。
これは賭けだ。
ムロイが協力するか、メモを渡すか、天使像の前に圭織が来るのか。
かなり分の悪い賭けだが、それでもそれに賭けるしか、里沙に、里沙達に残されている手段はない。少なくとも、里沙自身はそう考える。
急がないといけない。
自分たちには──
(!)
頭のてっぺんを突き上げてくる感覚に、里沙は思考を中断された。
(こんな時に!)
脳の奥から、自分のものではないもの広がってくる。
それに意識が支配されていく。
里沙はまだ、自分が自分であれるうちに、行動を起こした。
それは、紙よりも薄い願いだったが、それでも、そこに賭けるしかなかった。
自分たちには、時間がない。
目覚めた時、真里の目に映ったのは自分の病室の天井だった。
ただ寝ていたのかもしれないし、或いは里沙に交代していたのかもしれない。
それははっきりとは分からないけれど、ぼんやりとした不安が、どういうわけか頭の中に幕を張っている。
得体の知れない不安に胸を抑えようとして手を意識すると、そこに握られていたものに気づく。
一枚の紙片。
薄っぺらな紙を、くしゃくしゃに握りつぶしていた。
知らない場所で目覚める事には慣れてしまったが、こんなことは初めてだった。
その紙を見つめて、10秒は固まってしまう。
(とにかく、見てみよう)
そうしないと、始まらないだろう。なにが始まるのかは知らないけれど。
くしゃくしゃの紙を丁寧に、花占いでもするような手つきで開くと、そこには、何か書かれているようだった。
消灯時間が過ぎているので電気を点けることはできず、磨りガラス越しの月明かりを当てて目を凝らす。
──こんや0じ てんしぞう
書いた人間は急いでいたのか、それだけが殴り書きされていた。
(てんしぞう……天使像? って言うと、あの匣庭の……?)
それしか思いつかない。
そして、これを書いた人間と言えば、自分の(なつみの)中にいるというもう一人の人
物、新垣理沙しか思い浮かばない。
となれば、これは里沙からのメッセージではないか……
天使像がなんなのかは分からないけれど、何かを伝えたがっている雰囲気は充分すぎる
ほど感じ取れる。
(何かが、あるんだ……)
なぜそう思うのかは分からない。
けれど、自分はそこに行かなければ行かないような気がする。気がしてならない。
それは漠然とした靄のような感覚で、しかし強烈に真里の心を突き動かす。まるで頭の
内側からそうしろと訴えられているようだ。
「よしっ」
紙片は折りたたんで、入院着の胸ポケットに入れる。
スリッパを履こうとして、
「痛っ」
何かを踏む。
足元を見るとボールペンが転がっていた。それを拾い上げて、改めてスリッパを履く。
そろりと音を立てないように戸を開けて、廊下を窺う。
誰もいないか、歩いてくる気配がないか確かめて、抜き足差し足で病室を抜け出る。
耳を澄ましても、人の声や足音なんかは聞こえない。
2・3歩進んで、ペタペタいう音が気になって立ち止まり、警戒しながら音の発生源で
あるスリッパを脱いで、靴下で歩き出す。
曲がり角では、壁に背中をつけて覗き見る。映画のワンシーンにありそうだ、と思い浮
かべて、苦笑する。
曲がり角の向こうにはナースステーションがある。
暗闇の中、そこだけは煌々と明かりが点いており、どこか異世界じみた雰囲気さえ漂わ
せている。
そこさえ抜ければ匣庭まで楽に行けるのだが、そう簡単には通ればいだろうと予測して
いた。
だから、真里は自分が見たものを、一瞬、信じることができなかった。
ナースステーションの中には、誰一人、いなかったのだ。
からっぽのナースステーションは不気味だったが、そんなことを疑問に思っている余裕
はない。
いつ戻ってくるのか分からないから、一気に走り抜ける。
だから真里は気づかなかった。
その奥にいるムロイが、不安げに真里を見送ったことには──
いかに人の手が加えられているとはいえ、明かりが月光しかない匣庭は、暗闇よりも質
の悪い、恐怖を孕んでいる。
真里はごくりと喉を鳴らして唾を飲む。
奥歯が鳴るのを抑えられない。
けれど、それでも真里は、月光が作り出す木々の陰に隠れるようにしながら、匣庭の奥
へ奥へ、天使像に向かって歩き出した。
体の内側から来る寒気に、膝を震えさせて、それでも歩く。
木々の陰が切れる。
その先に、水の止められた噴水の台座の上に、月明かりをまとって青白く輝く天使が、
まるで従者を従えるように立っていた。
従者……
そう、そこには、本来あるべきではない影が、あった。
長い髪が月明かりをすくうように光り、手足の長いシルエットが、真里の足元に伸びて
いる。
思わず息を飲む。
悲鳴をあげそうになるのを、必死で飲み込む。
膝が震えて体を支えていられない。
体から力が抜ける。
カツーン、乾いた音が匣庭に響いた。
心臓が凍りつくかと思えるくらい、その音が真里の聴覚を蹂躙する。
足元を見ると、ボールペンが落ちていた。
病室から持ってきてしまっていた、あのボールペンだ。
混乱した真里はどうしていいか分からず、ボールペンを拾おうと手を伸ばす。こんなこ
とやってる場合じゃないのに、と頭の奥では分かっているのに、体の方にその指示が行き
渡らない。
「安倍さん……」
従者が、影が、懐かしい響きで、相応しくない言葉を発する。
真里が顔を上げると、影は、いや、彼女は丸くした目でこちらを見ていた。
「安倍さん、じゃなくて、里沙ちゃん?」
おかしい。
何かがおかしい。
いや、何かなんて言い方は正しくない。
何がおかしいのか分かっているのだから。
拾ったボールペンを握り潰しそうなほど、拳が強く、きつく結ばれていく。
「何……なんで? どういうこと……?」
おかしいのは、きっと自分の頭の方だ。
そんなわけがない。
そんなこと、でも、どうして……
「なんで、圭織がいるの……?」
もう何年も出会っていないような、懐かしい人物が、見慣れぬ表情で、そこに立ってい
る。
事故で助かったのは自分だけ、なつみだけだと聞いた。
では、目の前にいる彼女は何だ。
その上、なつみの姿を見て、なぜ『安倍さん』なんて呼ぶんだろう。
圭織だったらそんな呼び方しないのに。
「里沙ちゃん、じゃない、の?」
その声は震えていて、何度も途切れながら、それでも真里の耳に届いた。
「圭織は、だって、あれ? 私……ってゆうか、なっちしか助からなくって、それで、人
格が私で、おマメとかもいて、加護と辻が、待ってて……あれ? え、何……?」
ぐるぐると頭の中で、虫の大群がでたらめに蠢いているように、思考の向かう先が、一
つにまとまらない。
今見てることが、夢なのか現実なのか、それとも幻覚なのか、判断がつかない。
「ど、どうしたんですか?」
彼女が心配そうに手を伸ばす。
それに触れないように一歩下がった。
不思議そうに見つめる目は、彼女のものでありながら、違う誰かのものだった。
(まさか……いや、でも……)
そう考えるべきなのだろうか。
それが正しいと言うのか……
混乱しきっている頭の中が導き出したものだ。
筋道なんて通ってなくて、根拠なんてなくても当然だ。
開き直りか、思考の暴走か、真里が思いついたそれは、それこそが、彼女の的を射てい
た。
「か、圭織、じゃないの? ひょっとして、誰か別の……」
彼女はその言葉に、身を硬くした。
「……わ、わた、し、小川、です。小川麻琴です」
目が眩む。
世界がたわむ。
この状況を、この事実を受け入れろと言うのか。
いったい誰が、こんなことを。
もしも神様がいるのだとして、こんな運命を用意していたのだとしたら、きっと、とて
つもなく底意地が悪いに違いない。
「小川……そう、なの、そうか。オイラ、矢口だよ。なっちでもおマメでもなくて、矢口
真里」
「や、ぐち、さん……?」
圭織の唇から、圭織の声で、圭織のものではない言葉が生まれる。
麻琴は何をすればいいのか分からなくなってしまった。
もともと、里沙に会うために、あさ美の代わりをしただけなのだ。
こんな状況になっているなんて考えもしなかった。
理沙に会うまでは、と支えてきた心が、グラグラと揺らいでいる。
必死で堪えてはいるが、今にも崩れそうになっている。
泣き出しそうな麻琴の(圭織の)顔を見ていると、何かを言わないといけないような気
にさせられるのだが、真里の口はパクパクと開閉するだけで、麻琴にかけてやれる言葉な
んて、何も出てこない。
言葉をかけてやろうにも、自分だって、こんな状況に混乱しているのだ。
ば良いというのだろう。
死んだと思っていた圭織が生きていると知って、その中にいるのが麻琴だと知って、そ
れで、どうすれば良い。
「どうしろってのよ……」
答えてくれる者はない。
唇を噛む。
俯くと、滲んでいた涙が、足元にポツリと落ちた。
「矢口」
ふと麻琴が、真里の名を呼ぶ。
いや、違う。
麻琴じゃない。
麻琴とは違う。
この声は。
「圭織……?」
躊躇いがちに呟いて、顔を上げる。
そこには、
「矢口って意外と泣き虫だよね」
いつもの顔で、
「元気だった?」
いつもの笑顔で、
「ほら、いつまでも泣いてないの」
彼女が、飯田圭織が、そこにいた。
(0^〜^)「ねえ、梨華ちゃん」
( ^▽^)「何、よっすぃー?」
(0^〜^)「うちら、本当に登場の予定ないみたいじゃない?」
(;^▽^)「そ、そんなことないって! 信じて待ちましょう!」
(;0^〜^)「この作者、うちらの事8割くらい忘れてるって」
(;^▽^)「そう言われると……」
(;●´ー`)「セリフあっただけマシでしょ! 私なんて、私なんて……」
( ´D`)「寝てるだけって楽れすね」
(;●´ー`)「のの……」
(;0^〜^);^▽^)「……」
次回『カウントダウン』
まさか落ちてるとはなぁ・・・まいったまいった。
突然こんなところで再開してみたはいいが、前回の読者たちに陳謝
また、しばらくはこられんだろうから、保全をよろしくお願いしまする・・・
33氏の飛込みにより混迷を増してきたが、どうするのやら
116 :
a:03/04/21 23:00 ID:wZD/GXSv
ゞ:;ヾソゞ____| ヾヽ::ヾソ;;;:;ヾ ゞゞ:;::;;;;ゞゞ:;ゞ ;;;;;ヾヾヾゞ:;
_;;;ヾゞ/ ;;;;;;;;| |[][]| |[][ゞ:;ヾソ ゞ:; :;ヾ ゞゞ:; ゞゞ:; ::: ;;;;;
| ヾ;ヾ/ ;| |[][]| |[][]|ゞ:;ヾ ゞゞ:;ヾ ソゞ :::ゞ:;ヾ ゞ
|__:::ヾ;''=====| ヾゞ:;ヾ :::ソゞ :ゞゞ:;;:;ヾ ゞ ゞ:;ヾ ゞゞ:;
エエエエヾゞ;. _,__.___.| |\_ _ _ ./| ゞヾヽ :;ヾ ゞゞ: ;:::ゞ:;ヾ ゞ ゞ:;
); ,(;;| |≡| |≡| |iiiii| |iiiii| ゙|ヾ;;; ;;ゞゞ:;ヾソ ゞゞ :;ヾ ソ/ゞゞ:;
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|≡≡|;;;ll,|≡|iニi;;|≡| |iiiii|.ノノ*^ー^),|iiiii| ゙||≡| |≡||__|__ :;;;ゞゝ:::ヾヽ
iiiiIIIiiiiIIIiiiil ' ̄ ̄ ̄ ̄| |/ ̄  ̄  ̄ .\| ゙|  ̄  ̄  ̄'||/;;;;;ヽ ヾ;li/:::ゞ:;ヾ ゞ
_______.| |________,|__KAME__||_ \ 'li|ヾ:li|
____________| | Cafe pattsun,| = = = |\ / |li| li|
pattsun,,,| , ' ⌒ ヽ |  ̄ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ | \/ ヽli//
 ̄ |/\l| | ::l | | ~|"~"~"||~"~~''|"'|:|口口| | / || | ;il|
 ̄ | ̄ ̄l| | ::l | | ヾ;;ソゞ || ヾ;ゞ;;ミ|:|口口| || ||;;\ | ;il|
// | // l| | ::l | | ;;;ヾ || ヾノ;;; |:|口口| || || ; ';,\ | ;il|
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;" ' ";" ' ";" ';" ' ";;" ' ";" ' ";" ';" ' ";;" ' ";" ' ";" ';" ' ";;" ' ";" /
=============================''"
こちらこそ保全できなくてすいませんでしたm(_ _)m
今度こそばっちしさせていただきます。
ハラドキしながら待ってますね
保全
从●´ー`从人(^◇^〜)
|D`)つξξξξ
|ノ ( ‘д‘)
あ
第12回『カウントダウン』
「今は圭ちゃんに変わってもらってるから、少しだけ出てこられたの」
「え?」
真里を安心させるように微笑む圭織。
しかし、その言葉の意味を理解するほどには、真里は冷静ではいられなかった。
「どういう……?」
真里の戸惑いに、圭織は少し困ったように眉を寄せる。
「私たちはね──」
「こんな時間に、何をしているのかな?」
闇の中に半ば溶け込むような声は、圭織の言葉を遮って光の下に現れた。
圭織はとっさに、真里を背中に庇うようにして、一歩踏み出す。真里はと言うと、いまだに現状へ適応できず、ただただ混乱するばかりだ。
コツコツ、と硬い靴音が匣庭に響き、声の主が月明かりの下に現れる。
「こんなことは初めてだ」
硬質の笑顔を貼り付けたその男は、白衣をまとい、手を後ろで組んでいる。
真里は初めて見る顔だった。
圭織の中の記憶では、この人物は確か……
「私は気がおかしくなりそうなほどに嬉しいよ」
この施設の、そして、この実験の責任者。
圭織達の『敵』──
金属のような冷たい笑顔のまま、
「初めまして、と言うべきなのかは判らないが、私はカガ。一応、教授と、呼ばれている
がね」
男はカガと名乗った。
親しみを微塵も含まれない、しかし、何処か満足そうな笑顔を二人に向ける。
その表情は笑っているのではなく、そういう形の覆面でもつけているような印象を受け
る。
真里は、カガの出すこの世ならざる気配に怯え、圭織の服を掴む。掌に滲んだ汗が染み
込んでいくが、それに気づくほどの余裕もない。
「君達の行動と言うものの意味するところが、私の望んでいる通りのものだとしたら、私は
真実、気が狂ってしまうかもしれない」
何処か楽しげに、誰にともなく、まるで自分以外に誰もいないかのような喋り方。爬虫
類的な獰猛さを感じさせるカガの声は、真里の心臓を弄ぶようだ。
「あんたたちの思い通りにはならない!」
真里を背中に隠すようにしながら、圭織がカガを睨みつける。
しかし、その声は震えていて、鋭さを感じさせない。
「『君』が『誰』なのかはこの際どうでもいいことだが、表層安定率はそう高くないね?
もう、限界なのではないかな? 顔色が悪いよ」
カガの指摘した通り、圭織の顔の白さは、月明かりのせいだけではなかった。
イイダカオリの表層安定率はE判定で、本来、自分の意思で体を動かすことはできない
はずなのだ。辛うじて、それができるようになったのは、数度の実験を経た際の、進歩と
すら言い難い、バグのようなもの。
「矢口、私はそろそろ限界……」
カガを睨みつけたまま、乱れはじめた呼吸を押さえつけて出した声。そんな声で、真里
に伝える。
「こいつらの言いなりになっちゃダメ……そんなの、娘。らしくないから」
振り向いて、微笑む圭織。
その笑顔と目が合う真里。
ここでなければ、こんな状況でなければ、
その笑顔を安心して見られたのに。
笑顔を返すことができたのに。
圭織の表情が抜け落ちる。
同時に、体からも力が抜け、崩れ落ちる。
反射的に、頭が指示を出すより早くその体を支え、
「圭織っ!?」
悲鳴にも似た声で呼びかける。
けれど、圭織はその声には応えず、しかし、代わりに、
「すみません、飯田さんじゃなくて」
乱れた呼吸を整えて、彼女は真里の手から離れて、自身の力で、足で立つ。
その声の持つ雰囲気は、圭織のものに近いように思える。
けれど、もっと柔らかい……いや、いっそ緩いと言ってもいい質を持っている。
麻琴ではない。
なんというか、安定している感じがする。
この感じ、彼女のこの雰囲気は、直感でしかないけれど、
「紺野……?」
真里は何処か確信めいて、呼びかける。
彼女は少し驚いたように振り返って、頷いた。
「なんで、分かったんですか?」
「なんとなく、だけど。そんな感じがしたから……」
上手く答えられないけれど、そうとしか言いようがない。
「表層安定率判定の順から言えば、オガワマコトの方かと思ったが、そうか。コンノアサミが優先して現れるとは……どうやら、意思の疎通ができているようだね」
突然の再会、それに対する感動も感慨も、カガの平坦な声によって断ち切られた。
向き合わせていた顔をカガに向け、表情を引き締める。
カガは、クククと声を出して笑い、
「まったく、思い通りにはならないものだ。だからこそ面白いんだが、ね」
後ろで組んでいた手を解き、右手を二人に向けて伸ばした。
二人はそれを見て息を飲む。
右手ではなく、右手に握られているものを見て、身を強張らせる。
「まあ、出来れば、こんなものは向けたくはなかったんだけどね。この状況は、そうも言
ってられない」
月明かりを反射して凶暴に光る拳銃。
見るのは初めてだったが、とても偽物とは思えない威圧感がある。
「なんで……」
恐怖と不安と、再開の喜びと、いろんな要素が入り混じり、奇妙な色の感情が、真里の
張りすぎた緊張の糸を断ち切った。
感情の暴発。
「なんなの!? あんたたち、いったいなんなのよっ!! うちらが何したっての!? なに、
なんなの?」
「矢口さん……落ち着いてください」
「わかんない、なに、どうなってんのよっ!」
「矢口さん! 落ち着いてください! 私の話を聞いてください!!」
「なんなのよ……」
あさ美の声が届いたのか、吐き出した感情が尽きたのか、真里の声は弱々しく消えてい
く。
「矢口さん。私たちは人格を移植させたんです。安倍さんと飯田さんの体に、それぞれ分
割されて」
「……いしょく?」
「事故に遭ったって聞かされたと思いますけど、そんなの嘘です。私たちは彼の、彼らの
実験に使われているんです」
「じっけん……」
あさ美の言っている意味を、真里は理解できない。理解しようとすら出来なかった。
暴発した感情のせいで、思考そのものが損傷したようだ。あさ美の顔を、ぼんやりと見
つめ返すだけだった。
「複数の人格を移植した場合の、反応を調べるために、私たちを使っていたんです」
「それだけでは、ないがね」
自分の存在を忘れられていることに抗議するように、カガが会話に割って入る。
「さて、そろそろ二人に真実を教えてあげよう」
手品の種明かしをする子供のような口調で、カガは笑う。
二人に向けて微動だにさせなかった拳銃を、下ろす。
その行動に困惑し、とっさに行動できなかったが、その答えはすぐに明らかになった。
カガが拳銃を向けるまでもなく、いつの間にかカガの背後に立っていた二つの人影が、
彼に代わって拳銃を構えていた。
拳銃を構える二人とも、よく知っている人物。
「タナベ先生……」
真里の担当医であるタナベ。青白い光を反射する銃口を、真里に向けている。
そしてもう一人。
「……ムロイ、先生……」
二人の担当カウンセラー、精神科医ムロイが、やはり銃口を向けている。
「なんで……」
「今夜の事を教えてくれたのは彼女でね。忠実な部下を持つ上司は安心できる、というも
のだね」
真里を嘲笑うカガの声はしかし、呆然と。この光景を理解できない真里の耳には届いて
いなかった。
あさ美はムロイを睨みつける。
ただムロイに対してだけでなく、警戒を怠った、肝心なところで役に立てなかった自分
に対しての怒りが、留まることなく溢れてくる。
忠実な部下にして二人を裏切ったムロイは、その表情は、罪悪感や後悔など浮かんでお
らず、それどころか愉悦や嘲笑すらもない。まったくの無表情。
「では、ついてきたまえ」
そういって踵を返すカガ。
促すように道を開ける二人の医師──いや、研究者。
選択肢は用意されていない。
真里達はカガに続いて歩き出すしかない。
二人の研究者が、門番のように、儀仗兵のように真里達を通す。
拳銃を突きつけられ、選択することを奪われ、自分たちの存在意味すらも握られ、それ
はまるで人形のようで、真里は惨めな気持ちになる。
通り過ぎる時、ムロイを睨みつける。
ムロイはそれに応じず、表情を固めたまま目線をそらす。
二人の背後に回って、この場で絶対的強者の象徴たる拳銃を背中に突きつけて、歩き出
した。
死刑台に向かう死刑囚、というよりは、祭壇に運ばれる生贄のように、真里は、すべて
を諦めていた。
カガがエレベーターの前で待っていた。塵ほども感情の込められていない笑顔で。
エレベーターのボタンを押すと、あらかじめ呼び寄せておいたのか、重苦しい機械音を
唸らせて、扉が開いた。
明かりの存在しない廊下に、ほっかりと切り取られたように灯る光。
カガに促されて光の中に乗り込む。
それを確認してから、白衣の三人が入ってくる。
どこへ連れて行かれるのか、不安げにお互いの手を繋ぐ。
そのぬくもりだけが、二人の安心できる唯一のものだった。
それにすがるように、強く握り締める。
カガが懐から鍵を取り出すと、文字盤の下にある鍵穴に差し込む。
点検や整備のためのものだろう、とぼんやりと思い込んでいた二人は、そこから現れた
ものを、一瞬、理解できなかった。
それは単純なものだ。
よく見ているもの。
階層を指定するためのボタン。
それが、薄い金属板の下から現れた。
その反応を楽しむように、カガが二人の顔を覗き込む。
満足したように笑い、隠されていたボタンを押す。
エレベータの扉が閉まると、まるで世界から隔離されたように感じられる。
いや、おそらく。
その感覚は正しい。
ここから先は、外の世界とは違う空気を持っている。
エレベーターが、目的地に到着した事を知らせるように低く唸ると、体内の異物を吐き
出すように扉を開ける。
カガが先導し、真里達がついて歩き出し、ムロイ達がそれに続く。
背後でエレベーターの扉が閉まると、そこはまさに別の世界に来てしまったようだ。
薄暗い照明の廊下を、カガの先導で歩く一行は、冷たい靴音を立てるだけで一言も発す
ることはなかった。
しばらく進むと、カガの足が止まる。
そこには、扉が、あった。
扉の脇にはスリットの入った機械が据え付けられている。
カガはポケットの中からカードを取り出し、そのスリットを通した。
カードを確認したらしく、電子音が、隣にいる人物の鼓動すらも聞こえてきそうな静寂
に響いて、消えていく。
扉が、二人を迎え入れるように、開く。
ゆっくりと、重厚に、荘厳ささえ感じさせるように開いた扉の向こうに、真里とあさ美
が視線を向ける。
そして、その視線は、縛り付けられた。
「おかえり」
カガが不意に呟いた。
しかし、その言葉が耳に届くより先に、二人の思考は完全にフリーズした。
部屋の中には、円筒型の水筒がいくつも設置されていた。
薄緑色の液体の中に、まるで眠るように浮かんでいるそれは、
「ここが、」
最も慣れ親しみ、しかし、目にする機会は少ない、
「君達の、」
円筒の水槽の中に浮かぶ、
「生まれ故郷だ」
自分たちの体だった。
「君達はここで生まれ……いや、作られたんだ」
賛美歌を歌うように澄んだ声で、
世界の終わりを告げる天使のように微笑んで、
二人の世界の終わりを告げた。
川o・-・)「作者の予定では、もう3回くらいで完結するそうですよ」
(〜^◇^)「ホントかよ。そう言ってだらだら続けるんじゃないの?」
川o・-・)「広げた風呂敷を畳むのに失敗してですか?」
(〜^◇^)「まあ、そんなかんじで」
川o・-・)「外伝とか続篇とか」
(〜^◇^)「そうそう。書きたいこと書ききれずに」
川o・-・)「森の中をさまよい続けるイシヨシの話とか?」
;〜^◇^)「そ、それは……」
;0^〜^0);^▽^)「うちら、マジで……!?」
次回『強く儚い者たち』
>>115 え、なんかまずかった…?
>>117 いやいや、すまんね
たぶん、今度の更新は来月頭になってしまいそうなので
それまで、よろしくお願い島する
予告のようなものでも言ったように
あと3回くらいで終わる予定。
まあ、来月中には終了予定。
すべて予定。
148 :
_:03/04/28 17:34 ID:UtKogiOb
更新乙です。最後まで目が離せないっすね♪
从●´ー`从<なっちはいつでてくるんだろー
川 `〜`)||<さぁ知らない。
ho
152 :
:03/05/05 21:02 ID:zh8NPHKT
ほ
153 :
:03/05/06 03:19 ID:7+Y/c2BE
保
ほ
ho
f
157 :
:03/05/09 01:29 ID:FpopjUyB
ho
158 :
:03/05/10 00:40 ID:OSBH3L3B
ho
159 :
:03/05/11 02:27 ID:ORKgg3CD
ほ
第13回『強く儚い者たち』
「君達は自分がモーニング娘。のメンバーだと信じているようだが、それは正しくはない
んだよ」
カガの声が、冷たい空気の張り詰めた部屋に浸透する。
世界が凍りついたような錯覚に、真里は呼吸の仕方を忘れていた。
円筒型の水槽が、20本。
薄緑色の液体。そのうち10本を満たす。
そして、それに浮かぶ10人の、いや、10個の肉体。
安倍なつみと飯田圭織を除く、モーニング娘。メンバーの形をした肉体。
紺野あさ美の肉体。
矢口真里の肉体。
自分で自分の体を、外から、他人の目で見る。
なんとおぞましい体験だろうか。
真里の思考は、何処か遠くで動いている。
あさ美の思考は、不規則にでたらめに回転する。
「君達ははじめから、この研究所で、実験用に作られた……彼女らのクローンだ」
二人の思考は現実を処理できていない。
カガの言葉も、音、空気の振動としては知覚できたが、それが意味を持つものだと言う
ことは認識できなかった。
何らかの実験に使われるために拉致されたのだと推測していたあさ美は、突然突きつけ
られた、この残酷で残虐で残忍な現実を、どうにか処理しなければいけなかった。それが
彼女の役目であるはずだ。
けれど。
こんな現実。
誰が処理できる。
展開が急すぎる。
これが何かの物語──映画やドラマ、或いは小説──だとしたら、それはすでに破綻し
ている。物語として成立しない。
呆然と、ただ呆然と、ひたすらに呆然と、現実を瞳に映しているだけのあさ美の横で、
真里が、意識などとは別のところで、呟いた。
「……なんで…………」
それは誰かに、誰かに投げかけたものではなく、ただ自動的に零れただけのものだった
が、カガは何処か楽しげに、
「この実験はね、人類が夢に見たもの、その一つの答え」
語り出す。
「それはすなわち、不老不死、だ」
「不老、不死……」
あさ美はそれを鸚鵡返しにする。どうにか、なんとか、意識的に。
「とはいえ、一つの肉体を永遠に衰えさせないと言うことは不可能だ。だから、別の体を
用意する。つまり、クローンだ」
カガは水槽に浮かぶ少女たちの肢体に目を遣りながら、恍惚とした表情を浮かべる。
「しかし、クローンを作ったところで、同じ遺伝子をもつ別人が生まれるだけで、それは
永遠の生とは言い難い。そこで、記憶や性格、いわゆる人格と言うものは、クローンの元
となった人物からコピーし、それを移植してやる。この手法で、『命を移し変える』わけ
だ」
手品の種明かしをして、その反応を見て喜ぶ子供のように、カガは笑った。
今までにない、心の底からの笑顔。
しかしそれは、ひどく歪んでいる。
「でも……」
あさ美が、その醜い笑顔に向かって、
「でも、それは、私たちが、私たちみたいに、複数の人格を一つの肉体に移植する理由に
はならない……」
声を、意志を絞り出した。
良い質問だ、と口の中で呟き、カガは、厳かに、答える。
「それは、魂の在り処を見つけるためだよ」
「たま、しい?」
「そう、そうだ。魂だ。魂とは何か、それはどこに宿るのか。肉体か? 或いは精神?
コピーした人格、複製した肉体にも、それは宿るのか? その答えを知るためだよ。君た
ちも興味があるだろう?」
熱に浮かさせたように、陶酔したように語るカガの声は、好奇心に満ちた子供のような
口調だった。
放っておけば踊り出すかもしれない。
それほど、カガは浮かれている。
カガとは対象的に、現実に追いつこうとしているあさ美。
その隣で、真里は重く沈んだ思考が、現実の地平に足をつけた。
「興味って、あんた、たったそれだけのために……?」
「それだけ……? そう、それだけだ。それだけで充分だろう」
「ふざけんなっ!」
カガの言葉尻を蹴り飛ばす勢いで、真里が叫ぶ。
「オイラ達はそんなことのために生まれてきたんじゃないっ!」
隣で震えることすら忘れて、現実に押し潰されようとしていたあさ美の手を硬く、痛い
ほどに硬く握り、カガに怒りをぶつける。
しかし、そんな様子にも動じず、カガはニタリ、と、唇を歪ませた。
「当然だ。君たちは『生まれた』のではなく、『作られた』のだからね」
「!」
悪戯に成功した子供のような顔。そんな顔を睨みつける。
怒りを掻き消されることはなかったが、しかし、それに対する言葉は出てこなかった。
自分と言う存在の意味、理由、自己や自我と言ったものが崩される。
破壊され、粉砕され、微塵され、崩壊される。
けれど、それでも、真里はカガを認めなかった。
認めるわけにはいかなかった。
目の前の現実を認めない。信じない。
それだけが、唯一、この馬鹿げた設定に歯向かえる唯一の手段のように思えたから。
「さて、では今回のようなことがなぜ起こったのか、調べさせてもらおうか。ひょっとし
たら、『魂』というものについて、なにか分かるかもしれない」
カガが、二人の背後に目線を送った。
それに答えて、足音が響く。
あまりにもあまりな現実のおかげで、すっかり存在を忘れてしまっていたが、そういえ
ば、背後にはタナベとムロイが控えていたのだった。
首を僅かに捻ってタナベを見遣る。
タナベは拳銃を構えて二人に近づいてくる。
ムロイはといえば、入り口近くで立ったまま、拳銃を握っていた。
真里の立っている位置から見れば、ムロイは部屋全体を見渡せる位置にいるため、その
銃口は4人のうちいったい誰に身けられているのか判断できない。
真里は、できれば自分に向かっていて欲しい、と思う。
後輩であり、親友であるあさ美、圭織を傷つけたくはない、と感じたからだが、よく考
えてみれば自分の体ではないから、この体も傷つけて欲しくない。
自分は何処か壊れてしまったのだろうか。こんな時に、そんなことしか考えられないな
んて。或いは、そんなことが考えられるなんて。
視界の端で、ムロイが動いた。
音も無く、腕を伸ばす。拳銃を持っている手を、だ。
その行動に真里の意識が向いた時には、それは起こっていた。
パン、と、何かが破裂するような音。
直接鼓膜の叩かれたような音の衝撃。
一瞬、ほんの一瞬、火を噴いた銃口。
そして、
崩れ落ちる、
タナベ。
信じられないようなものを目の当たりにしたような顔で、しかし、その目には何も映されず、タナベの生は突然幕を閉じた。
事態が飲み込めないことばかり続いていたおかげで、意外なほど真里の意識は冷静でいられた。
あさ美もそれは同様だった。ただ単純に、現実にまだ追いついていないだけだが。
「まさかとは思うが」
カガは目の前で起きた殺人に対して、まったく動揺していない。
ただ、その声には何処か失望が含まれている。
「君が、記憶の処理に細工でもしたのか?」
タナベの生命を奪った銃口が向けられても、カガは僅かたりとも表情を変えない。そし
て実際、なにも感じてない。
カガの問いに、ムロイは答えなかった。
それが肯定なのか否定なのか、カガにとっては重要なことで、自分の部下が、タナベが
殺されたと言う事実よりも、その質問に答えないムロイに、不快感を露にした。
「答えたまえよ、ムロイ君。これは重要なことなんだよ」
カガの声に、初めて楽以外の感情が含まれていた。
それは苛立ち。
今にも爆発しそうな感情を押さえつけて震えている。
しかし、それでもムロイは無表情のまま、無反応だった。
「まあ、いい……」
カガは苛立ちを抑えながら呟き、懐に手を入れる。
「動くな!」
それを静止させようとしてムロイが叫ぶ。
しかし、それは失敗だった。
警告などしないで、撃つべきだったのだ。タナベの時のように。
緩やかなメロディが、流れた。
部屋の中に満ちた空気にはそぐわない、優しい、暖かなメロディ。
真里とあさ美は、同時にカガに目をやった。
パッヘルベルのカノン。
カガの懐から響いてくるそれは、場違いに優しく、心癒す旋律が、戦慄で満ちた部屋に
溢れる。
パン、と、銃声。
今度は誰も倒れやしない。
天井を通っているパイプに跳ねただけだ。
ムロイに振り返る。
ムロイが両手で頭を抱えて、蹲っていた。
苦しげに意気を洩らす。
何が起こったのか、起こっているのか、起ころうとしているのか、真里には、あさ美に
は理解できない。
カガは満足げに、二人に近づいてきた。
「彼女の脳の中には、スイッチが仕掛けられている。まあ、いわゆる暗示というものさ。
この曲を聞くと──」
突っ込んだままの手を、懐から抜き出すと、古めかしいテープレコーダーが握られてい
る。曲はそこから流れていた。
「──まあ、見ての通りだ」
カノンは流れつづける。
ムロイは苦しむ。
カガは二人と2、3歩の距離を開けて立ち止まる。
勝ち誇って立つカガ。
しかし、そこは、そこには、彼にとって望むものは何もかも無く、むしろ奪い去られる
べくして、まるで何者かが設定した、鬼門。
銃弾が跳ねた、パイプの、その真下。
スプレーでも吹きかけたような噴出音が、流れるカノンを掻き消した。
カガの手から零れたテープレコーダーが、床で弾けて機能を停止する。
そのカガはといえば、意味を為さない声で喚き、床をのたうち回っている。
ただ流れる状況の中に、身を任せるどころか、完全に置いてけぼりをくらった二人は、
驚愕を通り越えて茫然自失。
鳴り響く警報音すらも、非常灯の赤も、水槽に浮かぶ自分たちも、苦しむカガも、横た
わるタナベだった物も、何もかも、何一つ、彼女らの意思で動かせるものは何も無く、出
来の悪い映画を見ているような気にさえなる。
「早く、ここを出るわよ!」
二人の意識が、辛うじてその方向性を得たのは、ムロイがそれを示したからだった。
いつの間に近寄っていたのか、ムロイは真里の手を握り、走り出す。
逆の手には拳銃を握ったままで、あさ美はさらに、真里が握った手に引っ張られて走り
出した。
非常灯の赤に照らされた室内を見て、もうこの部屋は、物語にとって必要なくなったの
だな、と、真里はぼんやり思った。そしてそれはその通りだった。
部屋を出て、一直線の廊下を走る。
3人が(あの時は5人だったが)来た方向とは逆に向かっている。
廊下を血のように赤く染める非常灯が、けたたましく鳴り響く警報が、真里の、あさ美
の思考をようやく現実の地平に降り立たせた頃、3人はエレベーターの前に立っていた。
降りてきたときに使ったものと同じ、装飾やら美観など欠片も感じさせない、そっけな
い扉が、ゆっくりと開いた。
瞬間、ムロイが拳銃を跳ね上げる。
肩と同じ高さまでそれがあがると、銃声。
ただし、二つ重なって。
ムロイが拳銃を落として倒れる。
真里はムロイが倒れた衝撃で手を離したが、それに引きずられてバランスを崩す。あさ
美がそれを支え、体勢を立て直した。
倒れたムロイは肩を押さえていた。
指の隙間から溢れる血は、は非常灯に照らされた赤い空間の中でも、はっきりそれとわ
かる。
冗談のように、溢れてくる血に、あさ美は一瞬、気が遠のく。右ひざがうずいた。
真里はエレベーターに目を向けた。
短い間に見る2つ目の死体は、見たことの無い青年だった。
まるで当然のように白衣をまとう彼は、右眉の少し上から血とそうではない液体を流し
ている。
手には銃口から煙を吐く、拳銃が握られている。
空ろな目は、すでに何も映していない。ただ反射させるだけの鏡面。
「もたもたしないで、早く行くよ……」
拳銃を拾い、撃ち抜かれた方を庇って片手で体を支えて、ムロイが立ち上がる。
顔は苦痛に歪んでいる。
しかし、それでも、ムロイはエレベーターに乗り込んだ。
青年の死体はできるだけ見ないように、真里もそれに続いた。
「クサナギ……さん」
あさ美の呟きが、青年の名を唱えたが、しかしそれは、何の意味も為さない。
死体は死体であって、人間じゃあなかった。
ムロイは良心の呵責などと言うものとは無縁で、ただただ、激痛に耐える表情で、エレ
ベーターのボタンを押した。
ゆっくりと重力がかかる感覚がして、エレベーターが動き出す。
「貴女たち、車は運転できる?」
ムロイが訊いた。
2人は顔を見合わせ、それからムロイに向き直り、首を横に振る。
ムロイは溜息をつく。
「オートマだし、ナビもついてるから、なんとかなるわ」
ムロイが扉に目を向けると同時に、扉が開いた。
拳銃を構えた。
その、銃口の向かう先に、その男がいた。
真里の(つまりなつみの)の目線よりもさらに下に、彼のにやけた顔があった。
嘲るような、蔑むような、見るものに不快感を与える笑み。
その笑みは、車椅子に座っている。
「まあ、いろいろと、よくやってくれたね」
「そこをどいて。出ないと撃つわよ、フクヤマ」
ムロイは冷酷に、車椅子の男、フクヤマに対して告げた。
けれどフクヤマは薄く笑って、
「その出血の量では、意識を保っているのもやっとだろう? 銃を撃てるほどの力は、君
には残っていないよ」
見透かした声で言った。
その言葉に、ムロイは眉を苦しげに歪める。
単に痛みに耐えているだけかもしれないが、この場合は、フクヤマの言葉が正鵠を射て
いたのだろう。拳銃を持つ腕が、震えていた。
膠着。
それがほんの数瞬続き、フクヤマは車椅子を操って道を開けた。
呆然と、首を傾げる真里、あさ美。
訝るムロイ。
「どういう、つもり……?」
「望んだように生きればいい。どうせ本部からは、とうに見捨てられているからな、この
施設は」
3人の方を見もせず、フクヤマは何処か虚しさを感じさせる呟きを、宙に溶かした。
「どういう……こと?」
「君には知らされていなかったが、ここでの実験は、すでにその意義を終了している。も
う実用化されているんだ、『クローンと人格移植による永遠の生』はね。世界各国の要人
や富豪に対して実行されている。それ以上のことは望まれていないんだよ、この施設は」
そう言って、フクヤマは溜息をつく。虚しさを吐き出したような表情だ。
「じゃ、じゃあ、私たちは、何のために……?」
真里が呟いた。
本部と言うものがどういうものかは知らないし、知ろうとも思わないが、すでに終わっ
たものに縛られていた自分たちは、いったい何のために……
フクヤマは、心底、馬鹿馬鹿しいといった口調で、答えた。答えは本当に馬鹿馬鹿しか
った。
「カガの独断、というよりは、『ちょっと気になるから試してみよう』とか、その程度のことだ」
「そんな理由で……」
自分たちは作り出され、幾度にも渡る実験に使われ、命を弄ばれたのかと思うと、怒り
を通り越えて、憎悪すら超越し、ただ、運命を呪い、絶望するしかない。
それは真里の感情なのか、あさ美の感情か、或いは、他の誰かのものか。
空虚な、荒涼とした絶望だけが、心に広がる。
瞬間。
振動が足元を、建物そのものを揺るがせた。
フクヤマは冷静に、
「地下で爆発、といったところかな」
まるで「何か言った?」程度の口調で言う。
ムロイの顔が、出血のためだけでなく、青白くなる。もっとも、非常灯に照らされた空
間の中では、それも判断できなかったが。
「早く行けよ。ここは危ない」
「あんたは……?」
真里の問いかけに薄く笑う。
「僕も逃げるさ、後始末をしてからね」
その不敵な笑みは、いったいどこから浮かび上がってくるのか、どういう思いでそんな
表情になれるのか、真里にはもちろん、あさ美にも、ムロイにも分からなかった。
ムロイは二人を促し、歩き出した。
二人は手を握り合って、それに続く。
フクヤマの前を通り過ぎる時、彼が、告げた。
「 、 、 。 、
」
爆発。
振動。
衝撃。
カガの言葉が世界の終わりなら、フクヤマの言葉もまた、それだ。
ただ、フクヤマのものは、より直接的で、しかし、世界が終わっても、それでも続く苦
痛を告げられた気がした。
赤い空間を走り抜け、やがて扉が見えてくる。
しかし、それは解放の扉などではなく、束縛された運命の続きでしかなかった。
月明かりが、見えた。
外だ。
外に出ると、駐車場らしい広場に出た。
駐車場らしい、というのは、その広さに不釣合いに、数台の車しか止まっておらず、し
かも雑然と、適当に止めたいところに止めた感がある。
そのうちの一台の隣に、ムロイが立つ。
フォルクスワーゲン社のニュービートル、というのだが、車の知識がない真里にもあさ
美にも、それはわからないことだった。
「乗って」
ムロイが運転席のドアを開け、真里を見た。
「え? オイラが!?」
突然の氏名に、戸惑う真里。
「右のペダルがアクセルで、左がブレーキ。それだけ分かれば、何とかなるわ」
「で、でも……」
「早くしなさい。もう、私は……」
その先は、言わなくても判っていた。
月明かりに照らされたムロイの体は、半身が赤く染められていた。
まるで前衛芸術のような、或いは宗教画の一部のような彼女のその姿は、2人に死を予
感させるには充分すぎた。
ドサリ、とムロイの体が地面に落ちた。
「ムロイ先生っ!?」
2人はムロイに駆け寄り、呼びかける。
その声にムロイは薄く、儚く笑う。
「まだ、先生って、呼ん、でくれる……んだ」
乱れた呼吸で、ムロイは、
「……ごめんね……」
最期に、涙を流した。
呼吸を止めた。
鼓動が止まった。
瞳を閉じ、涙を一筋、流した。
彼女がいったい何をしたというのだろうか。
2人を実験に使っていたのは判るけれど、でも、それでも、ムロイはそれを悔いて、悩
んで、苛まれていた。
だから、
だけど、
「……行こうか」
真里が立ち上がる。涙は流れない。
そう言われても、あさ美はどうしていいのか判らなくなって、ムロイの死体と真里の顔
を交互に見比べる。
そのあさ美を強い視線で見据え、
「行こう。みんな、それを望んでるはずだから」
はっきりとした口調で、告げた。
みんな……
そうだった。
あさ美は真里の言葉に強く頷いた。
この体はあさ美だけのものではない。
みんなが、メンバーが宿っているんだ。
ここで、立ち止まっているわけにはいかない。
真里が運転席に乗り込むのを見て、あさ美は急いで助手席に回った。
シートベルトをして、真里の方を見ると、キーを回し、エンジンをかけているところだ
った。
エンジンの唸り声がして、低い振動を感じる。
キーを回したは良いが、真里は車を発進させない。させられない、というのが正しいの
かもしれないが。
ぶつぶつと呟きながら、ルームライトをつけて、足元を見たり、ハンドルの周りを確認
したり、ナビの画面をいじっていたりと、隣で見ているあさ美を不安にさせることを次々
とやってくれた。
「あ、あの、本当に、大丈夫ですか、運転?」
あさ美の問いに、真里は真顔で、
「……」
無言だった。
「返事を……」
「だ、大丈夫だって! 見たことはあるし」
人がやるのを見ることと、自分でやることの間にはずいぶん開きがある。と、あさ美は
思ったが忘れることにする。
「それに、ゴーカートなら運転したことあるし」
「全然違いますよ……」
それで安心させようとしたんだろうか。
しかし、少しだけ、本当に少しだけ、あさ美は不安を拭えたように感じた。
に、と歯を出して笑って見せる真里が、あさ美は心強かった。
「じゃあ、行こうか。時間も、あまり無いことだし」
「はい」
真里の言葉に、あさ美が頷く。
サイドブレーキを解除して、右足をゆっくりと踏み込んだ。
意外と上手く行った、と真里はほっとする。
ナビを見て、道を確認する。
施設は山の中にあり、麓まではほとんど一本道で、見る必要なんて無かった。
見る必要なんて無い。
どこへ行けばいいのかなんて、分からないのだから──
けど、
だけど、
それでも2人は、
それなのに12人は──
;^▽^)「……」
;^〜^0)「……」
;^▽^)「…………」
;^〜^0)「…………」
(〜^◇^)「どしたの、あの2人?
川゜〜゜)「本気で出番が無いって事を知って、ショックなんだって」
川o・-・)「でもそれを言ったら、一部を除いて全員出番は少しでしたよ」
(〜^◇^)「だよね」
(●´ー`)「良かったね矢口、紺野。除かれる一部で」
川;o・-・);〜^◇^)「……!」
次回『星の生まれる日。』
YahooBBなんて大嫌いだ。
書き込みましたって出るのに更新されてねーし
これがうわさになってるやつなのか?
まあ、更新できただけ良しだな。
予定では次回で最終回。
というか、決定事項。
読んでくれてる皆々様方、最期までよろすく
>>191 更新乙です
いよいよですね、楽しみに待ってまつ
むはぁ〜、交信乙!
最終回楽しみにしとりますです。
更新乙です!!次で最終回ですか…寂しいっす。どきどきしながら待ってます
195 :
:03/05/13 00:41 ID:UEAjYORT
ho
最終回『星の生まれる日。』
ビルの壁面に設置された大型ビジョンに、モーニング娘。たちが映し出されている。
私は思わず足を止め、それを見上げた。どうやら新曲のPVらしい。
駅前の広場は人で溢れており、足早に歩くサラリーマンたちや、待ち合わせをしている
らしい女の子、タイルを敷かれた広場に座り込んで笑っている男の子たち、そして、私み
たいに画面を見上げる人たち。
別行動を取っている彼女が来るまでの間、私は画面をぼんやりと見ていた。
切ない詞と曲は、娘。っぽくないと言えるかもしれないけれど、昔の娘。をちょっとだ
け思い出す。ほんの少しだけ。
私は泣きそうになった。
あそこにいる私たちは、ここにいる私たちのことなんて知らないだろう、と考えると、
悲しくて、寂しくて、胸が苦しくなった。
それまで繋いでいた手が離れて、親とはぐれてしまった子供みたいに、世界中の誰から
も忘れ去られたような気になる。
「お待たせ、矢口」
「圭織……」
誰が忘れても、彼女だけは、私のことを忘れないだろう。
私はそれでいいと思う。
彼女さえ、私を忘れなければ。
「遅いぞぉ。何やってたんだよー」
湿っぽくなった気持ちを振り払って、私はそんなふうにおどける。
約束の時間にはなっていないが、早く着いてしまった私としては、ずいぶんと待たされ
た気になっている。
私が責めると彼女は、特徴的な唇を尖らせて、
「しかたないでしょ。飯田さんですよねー、とか言って絡まれたんだから」
子供っぽく言った。
それは仕方ない。
なにしろ、少なくとも生物学上というか遺伝子的には、私たちは本人なんだから。
そう言われると文句は言えない。
というか、はじめから約束の時間には遅れていないんだから、私に文句を言う筋合いは
無い。圭織はそれに気づいてないみたいだけど。
「あー、そっかー」
圭織が不意に呟いた。
画面を見上げている。
「新曲、出たんだね」
画面に流される新曲のPVを発見して、圭織は何処か寂しそうだった。
私と同じ気持ちになったのかもしれない。
「ねえ、圭織……」
「ん?」
画面も見ずに、私は足元に目線を落とした。
とてもじゃないけれど、見ていられない。
「うちらって、誰なんだろ……」
たぶんそれは、
言ってはいけない言葉。
聞いてはいけない現実。
抱いてはいけない疑問。
自分が誰なのか、画面に映る彼女らに問うても、答えは返ってこないかもしれない。
けれど、同じ『答えられない』でも、彼女らと私たちとでは違うものだ。
はじめから『自分』として生まれた彼女ら。
はじめから『偽者』として生まれた私たち。
私たちは、
いったい、
ダレナノ──
「うちらはうちらだよ」
圭織が、笑う。
でも、その笑顔は、圭ちゃんのようでもあり、よっすぃーや梨華ちゃんにも似ていて、
高橋と小川、紺野の笑顔にも見えた。
圭織は多分、『そういう個人』になったんだろう。
圭織の中にいるみんなが、初めから一つの人格だったような、そんな一個の人格を得た
のかもしれない。
だけど、私は──
涙が零れそうになって、空を見上げる。
夜空には、星が浮かんでいた。
都会には星が無い、なんて言葉を良く聞くけれど、そんなのは、見ようとしない人の都
合だ。
星は、ちゃんと見えている。
「死んだ人は星になるって、聞いたことない?」
私は街の光に負けまいと輝く、夜空の星たちを見上げたまま、言った。
圭織も空を見上げて、頷く。
「うん。空から生きてる私たちを見守ってくれてるって」
「ねえ、圭織。オイラには、星になれる『魂』があるのかな……」
あの星に、私はなれるんだろうか。
圭織たちを見守っていけるんだろうか。
不意に、手に感じるぬくもり。
太陽に当てたみたいに、暖かい。
圭織の手が、私の手を包んでいた。
微笑む。
圭織が。
私が。
この手のぬくもりだけが、
この手のぬくもりさえあれば、
それだけで、いい。
もう、いいよ。
私はもう、大丈夫だから。
意識の底から、白い光が広がってくる。
大丈夫、もう、大丈夫。
私はきっと。
あの星になれるから。
あの星になっても、私はみんなと一緒にいられるから──
ゆらゆら。
ゆらゆら。
揺れている。
揺れてる?
「矢口……」
誰かが呼んでる。
聞き覚えがある声。誰だっけ?
「矢口ってば!」
うるさいなぁ……
「矢口、起きろっ!」
「うわっ!」
耳元で叫ばれて、ついにオイラは目を覚ました。
目の前には、なっちの顔がある。
ほっぺたをつついてやりたい。
「やっと起きた。ほら、着いたよ」
「え? 何が?」
はあ、と盛大に溜息をつかれた。
周囲を見回すと、どうやらバスの中らしかった。
「何が、じゃないでしょ、会場に着いたって言ってんの!」
そう言われても、オイラの頭の中には、薄い幕でも張っているように、いまいち状況を
把握できていない。
「会場……って、なんの?」
「はあっ!?」
はあって、そんな驚かなくても良いじゃん。
「圭ちゃん、聞いてー」
なっちは振り返って、降りる準備をしていたらしい圭ちゃんを呼んだ。
なんで圭ちゃんに話振るんだ?
「なに?」
「会場に着いたよーって起こしてあげたら、何の会場? だって」
「ええーっ」
圭ちゃんまで、ナニヨ。
「あんた、私の卒業コンサートでしょうが! 忘れんなよ」
「え? あ……あー、えぇと。あ、うん、そうそう。知ってる知ってる」
「知ってるとか言うなよ、他人事みたいに」
圭ちゃんは頬を膨らました。
全然、かわいくない。
けれど、オイラはようやく頭がすっきりしてきた。
そうだった。
埼玉スーパーアリーナだ。
圭ちゃん卒業の日だった。
「ごめん、ちょっと変な夢見てた」
「変な夢? どんな?」
なっちが興味津々って感じで聞いてきた。
「ん〜とね……忘れちゃった」
「なんだよっ! 忘れんなよっ!」
「そんなこと言ったってさぁ……まあ、いいじゃん」
夢を見ていた感覚はあるんだけど、内容がさっぱり思い出せない。
なっちは圭ちゃんと一緒に、ぶつぶつと文句を言いながら降りていった。
てゆうか、なんで人が見てた夢のこと、そんなに気にしてんだよ。
オイラは立ち上がって、体を伸ばす。
座ったまま寝てたせいか、あちこちが痛い。
荷物を肩にかけてバスを降りる。
ああ、ここで──
「圭ちゃん、卒業しちゃうんだね」
オイラは一人、呟いた。
圭ちゃん圭ちゃん──
終わってしまえば、あっという間だった。
うん。あっという間だった。
けれど、会場はまだ、終わった気にはなっていないらしく、いまだに圭ちゃんの名を呼
び続けている。
花束を持った圭ちゃんを、みんなが囲んでいて、オイラは少し離れたところから、それ
を見ていた。
今の、こんなぐちゃぐちゃの顔は見せられない。見せたくない。
何か言ってあげたいけど、何も思いつかない。
ただ、涙が溢れて、溢れて、止まらない。
タオルに顔を押し付けたオイラの肩に、ぽんと手を置いた圭織。
何も言わないけれど、泣きはらして赤くなった目で、笑ってくれた。
オイラを安心させてくれるような笑顔。
そんな顔をされたら、余計に泣いてしまう。
後輩やスタッフのいる前で、情けないくらい、恥ずかしいくらい、泣いた。
涙は止まらない。
「矢口」
圭ちゃんがオイラを呼んだ。
けど、顔を上げることもできない。
泣いたまま、タオルで顔を隠したまま、オイラは圭ちゃんの腕に抱かれた。
圭ちゃん、
がんばろう、なんて言ったけど、
おめでとう、なんて言ったけど、
やっぱり、一緒にいたいよ──
ずっと一緒に、
ずっと、ずうっと……
「卒業しちゃったね、圭ちゃん」
「そうだね……」
街角のショーウィンドウに映されたワイドショーで、圭ちゃんの卒業が流れていた。
私と圭織はそれを見て、溜息をつく。
私たちの記憶の中にも、圭ちゃんの卒業はあったけれど、それどころじゃなくて、現実
感がないというか、たぶんもう、私たちにとっては他人事なんだろう。
「じゃ、行こっか、圭織」
「そうだね」
私が手を差し出すと、圭織は一瞬、きょとん、とした顔でそれを見る。それから微笑ん
で、握り返した。
「私たちだけになっちゃったね……」
「うん、でも、みんな、ちゃんと見ててくれてるよ」
「そうだね。ずっと一緒だしね」
少し寂しく、切なく、微笑む。
圭織の手のぬくもりが、優しく伝わってくる。
「どこう行こうか」
「どこでもいいよ……」
私が笑うと、圭織も笑う。
笑顔を返してくれる人がいるから、私はまた笑える。
どんなに深い森の中で迷っても、何もない草原に立たされても。
子供みたいに繋いだ手を振っていると、楽しくなってきて走り出す。
「ちょ、ちょっと」
いきなり走り出したものだから、圭織は躓きながら、文句を言う。
あの日、研究所から逃げ出す時にフクヤマが言っていたことを、私は思い出す。
私は一つになって、私たちは2人になって、この世界で、たった2人の私たちは、それ
でも生きてる。
私は他の誰でもない私だし、圭織も圭織以外の誰かじゃない。
もう、彼女らのコピーじゃない。
私たちは、私たちになった。
笑いながら、私は、私たちは街の人ごみの中にまぎれていった。
「そうだ、君たちはたぶん、元々の体の持ち主の人格に統合されてるだろうよ。それも、
そんなに遠いことじゃない」
「待ってよ、なっちー!」
「待たなーい!」
ああ きのうを 許せるように
ああ あしたを 愛せるように
cocco『星の生まれる日。』より
もう、いつものAAも必要あるまい、ということで今回はなし
ここまで読んでくれた皆に感謝を。
脱稿おめでとうございます。ほんとにお疲れさまでした。
すごい不思議な気持ちになっちゃいました。もし次の作品とかあったら
ぜひぜひうpして下さい。そのときはなちまりで…
娘。小説としては珍しい話で面白かったです。
何となくメフィスト賞受賞作という感じ(褒め言葉になってるかわかりませんが)
また新作書かれたら読ませてください。
正直最後の最後で矢口がなっちになった理由が分からん
>>219 それは分かるが話としての必然性は?
あまりに唐突な気がしますが
てs
222
ss
mmm
内容は兎も角
オレはこういう乗っ取り系は大っ嫌い
面白かった。
久々に良作を見た。
うm
テスト
.
230 :
a:03/05/25 19:15 ID:IUehpi/W
〆〃ハハ
∬∬´▽`) ドキドキ
( ∪ ∪
と__)__)
231 :
名無し募集中。。。:03/05/27 00:42 ID:4BlPB/6z
hozen
232 :
山崎渉:03/05/28 09:02 ID:cVbNjm5C
∧_∧
ピュ.ー ( ^^ ) <これからも僕を応援して下さいね(^^)。
=〔~∪ ̄ ̄〕
= ◎――◎ 山崎渉
〆〃ハハ
∬∬´▽`) ドキドキドキ
( ∪ ∪
と__)__)
236 :
a:03/06/07 01:59 ID:q0e8nBz2
237 :
test:03/06/07 19:41 ID:lm3BGveR
238 :
a:03/06/08 04:38 ID:4of9jaXF
なんだかなぁ
ほ
ん?
242 :
名無し募集中。。。:03/06/10 17:58 ID:WWhc8Wto
あ
このスレまだ生きてたんだ・・・