第13回『強く儚い者たち』
「君達は自分がモーニング娘。のメンバーだと信じているようだが、それは正しくはない
んだよ」
カガの声が、冷たい空気の張り詰めた部屋に浸透する。
世界が凍りついたような錯覚に、真里は呼吸の仕方を忘れていた。
円筒型の水槽が、20本。
薄緑色の液体。そのうち10本を満たす。
そして、それに浮かぶ10人の、いや、10個の肉体。
安倍なつみと飯田圭織を除く、モーニング娘。メンバーの形をした肉体。
紺野あさ美の肉体。
矢口真里の肉体。
自分で自分の体を、外から、他人の目で見る。
なんとおぞましい体験だろうか。
真里の思考は、何処か遠くで動いている。
あさ美の思考は、不規則にでたらめに回転する。
「君達ははじめから、この研究所で、実験用に作られた……彼女らのクローンだ」
二人の思考は現実を処理できていない。
カガの言葉も、音、空気の振動としては知覚できたが、それが意味を持つものだと言う
ことは認識できなかった。
何らかの実験に使われるために拉致されたのだと推測していたあさ美は、突然突きつけ
られた、この残酷で残虐で残忍な現実を、どうにか処理しなければいけなかった。それが
彼女の役目であるはずだ。
けれど。
こんな現実。
誰が処理できる。
展開が急すぎる。
これが何かの物語──映画やドラマ、或いは小説──だとしたら、それはすでに破綻し
ている。物語として成立しない。
呆然と、ただ呆然と、ひたすらに呆然と、現実を瞳に映しているだけのあさ美の横で、
真里が、意識などとは別のところで、呟いた。
「……なんで…………」
それは誰かに、誰かに投げかけたものではなく、ただ自動的に零れただけのものだった
が、カガは何処か楽しげに、
「この実験はね、人類が夢に見たもの、その一つの答え」
語り出す。
「それはすなわち、不老不死、だ」
「不老、不死……」
あさ美はそれを鸚鵡返しにする。どうにか、なんとか、意識的に。
「とはいえ、一つの肉体を永遠に衰えさせないと言うことは不可能だ。だから、別の体を
用意する。つまり、クローンだ」
カガは水槽に浮かぶ少女たちの肢体に目を遣りながら、恍惚とした表情を浮かべる。
「しかし、クローンを作ったところで、同じ遺伝子をもつ別人が生まれるだけで、それは
永遠の生とは言い難い。そこで、記憶や性格、いわゆる人格と言うものは、クローンの元
となった人物からコピーし、それを移植してやる。この手法で、『命を移し変える』わけ
だ」
手品の種明かしをして、その反応を見て喜ぶ子供のように、カガは笑った。
今までにない、心の底からの笑顔。
しかしそれは、ひどく歪んでいる。
「でも……」
あさ美が、その醜い笑顔に向かって、
「でも、それは、私たちが、私たちみたいに、複数の人格を一つの肉体に移植する理由に
はならない……」
声を、意志を絞り出した。
良い質問だ、と口の中で呟き、カガは、厳かに、答える。
「それは、魂の在り処を見つけるためだよ」
「たま、しい?」
「そう、そうだ。魂だ。魂とは何か、それはどこに宿るのか。肉体か? 或いは精神?
コピーした人格、複製した肉体にも、それは宿るのか? その答えを知るためだよ。君た
ちも興味があるだろう?」
熱に浮かさせたように、陶酔したように語るカガの声は、好奇心に満ちた子供のような
口調だった。
放っておけば踊り出すかもしれない。
それほど、カガは浮かれている。
カガとは対象的に、現実に追いつこうとしているあさ美。
その隣で、真里は重く沈んだ思考が、現実の地平に足をつけた。
「興味って、あんた、たったそれだけのために……?」
「それだけ……? そう、それだけだ。それだけで充分だろう」
「ふざけんなっ!」
カガの言葉尻を蹴り飛ばす勢いで、真里が叫ぶ。
「オイラ達はそんなことのために生まれてきたんじゃないっ!」
隣で震えることすら忘れて、現実に押し潰されようとしていたあさ美の手を硬く、痛い
ほどに硬く握り、カガに怒りをぶつける。
しかし、そんな様子にも動じず、カガはニタリ、と、唇を歪ませた。
「当然だ。君たちは『生まれた』のではなく、『作られた』のだからね」
「!」
悪戯に成功した子供のような顔。そんな顔を睨みつける。
怒りを掻き消されることはなかったが、しかし、それに対する言葉は出てこなかった。
自分と言う存在の意味、理由、自己や自我と言ったものが崩される。
破壊され、粉砕され、微塵され、崩壊される。
けれど、それでも、真里はカガを認めなかった。
認めるわけにはいかなかった。
目の前の現実を認めない。信じない。
それだけが、唯一、この馬鹿げた設定に歯向かえる唯一の手段のように思えたから。
「さて、では今回のようなことがなぜ起こったのか、調べさせてもらおうか。ひょっとし
たら、『魂』というものについて、なにか分かるかもしれない」
カガが、二人の背後に目線を送った。
それに答えて、足音が響く。
あまりにもあまりな現実のおかげで、すっかり存在を忘れてしまっていたが、そういえ
ば、背後にはタナベとムロイが控えていたのだった。
首を僅かに捻ってタナベを見遣る。
タナベは拳銃を構えて二人に近づいてくる。
ムロイはといえば、入り口近くで立ったまま、拳銃を握っていた。
真里の立っている位置から見れば、ムロイは部屋全体を見渡せる位置にいるため、その
銃口は4人のうちいったい誰に身けられているのか判断できない。
真里は、できれば自分に向かっていて欲しい、と思う。
後輩であり、親友であるあさ美、圭織を傷つけたくはない、と感じたからだが、よく考
えてみれば自分の体ではないから、この体も傷つけて欲しくない。
自分は何処か壊れてしまったのだろうか。こんな時に、そんなことしか考えられないな
んて。或いは、そんなことが考えられるなんて。
視界の端で、ムロイが動いた。
音も無く、腕を伸ばす。拳銃を持っている手を、だ。
その行動に真里の意識が向いた時には、それは起こっていた。
パン、と、何かが破裂するような音。
直接鼓膜の叩かれたような音の衝撃。
一瞬、ほんの一瞬、火を噴いた銃口。
そして、
崩れ落ちる、
タナベ。
信じられないようなものを目の当たりにしたような顔で、しかし、その目には何も映されず、タナベの生は突然幕を閉じた。
事態が飲み込めないことばかり続いていたおかげで、意外なほど真里の意識は冷静でいられた。
あさ美もそれは同様だった。ただ単純に、現実にまだ追いついていないだけだが。
「まさかとは思うが」
カガは目の前で起きた殺人に対して、まったく動揺していない。
ただ、その声には何処か失望が含まれている。
「君が、記憶の処理に細工でもしたのか?」
タナベの生命を奪った銃口が向けられても、カガは僅かたりとも表情を変えない。そし
て実際、なにも感じてない。
カガの問いに、ムロイは答えなかった。
それが肯定なのか否定なのか、カガにとっては重要なことで、自分の部下が、タナベが
殺されたと言う事実よりも、その質問に答えないムロイに、不快感を露にした。
「答えたまえよ、ムロイ君。これは重要なことなんだよ」
カガの声に、初めて楽以外の感情が含まれていた。
それは苛立ち。
今にも爆発しそうな感情を押さえつけて震えている。
しかし、それでもムロイは無表情のまま、無反応だった。
「まあ、いい……」
カガは苛立ちを抑えながら呟き、懐に手を入れる。
「動くな!」
それを静止させようとしてムロイが叫ぶ。
しかし、それは失敗だった。
警告などしないで、撃つべきだったのだ。タナベの時のように。
緩やかなメロディが、流れた。
部屋の中に満ちた空気にはそぐわない、優しい、暖かなメロディ。
真里とあさ美は、同時にカガに目をやった。
パッヘルベルのカノン。
カガの懐から響いてくるそれは、場違いに優しく、心癒す旋律が、戦慄で満ちた部屋に
溢れる。
パン、と、銃声。
今度は誰も倒れやしない。
天井を通っているパイプに跳ねただけだ。
ムロイに振り返る。
ムロイが両手で頭を抱えて、蹲っていた。
苦しげに意気を洩らす。
何が起こったのか、起こっているのか、起ころうとしているのか、真里には、あさ美に
は理解できない。
カガは満足げに、二人に近づいてきた。
「彼女の脳の中には、スイッチが仕掛けられている。まあ、いわゆる暗示というものさ。
この曲を聞くと──」
突っ込んだままの手を、懐から抜き出すと、古めかしいテープレコーダーが握られてい
る。曲はそこから流れていた。
「──まあ、見ての通りだ」
カノンは流れつづける。
ムロイは苦しむ。
カガは二人と2、3歩の距離を開けて立ち止まる。
勝ち誇って立つカガ。
しかし、そこは、そこには、彼にとって望むものは何もかも無く、むしろ奪い去られる
べくして、まるで何者かが設定した、鬼門。
銃弾が跳ねた、パイプの、その真下。
スプレーでも吹きかけたような噴出音が、流れるカノンを掻き消した。
カガの手から零れたテープレコーダーが、床で弾けて機能を停止する。
そのカガはといえば、意味を為さない声で喚き、床をのたうち回っている。
ただ流れる状況の中に、身を任せるどころか、完全に置いてけぼりをくらった二人は、
驚愕を通り越えて茫然自失。
鳴り響く警報音すらも、非常灯の赤も、水槽に浮かぶ自分たちも、苦しむカガも、横た
わるタナベだった物も、何もかも、何一つ、彼女らの意思で動かせるものは何も無く、出
来の悪い映画を見ているような気にさえなる。
「早く、ここを出るわよ!」
二人の意識が、辛うじてその方向性を得たのは、ムロイがそれを示したからだった。
いつの間に近寄っていたのか、ムロイは真里の手を握り、走り出す。
逆の手には拳銃を握ったままで、あさ美はさらに、真里が握った手に引っ張られて走り
出した。
非常灯の赤に照らされた室内を見て、もうこの部屋は、物語にとって必要なくなったの
だな、と、真里はぼんやり思った。そしてそれはその通りだった。
部屋を出て、一直線の廊下を走る。
3人が(あの時は5人だったが)来た方向とは逆に向かっている。
廊下を血のように赤く染める非常灯が、けたたましく鳴り響く警報が、真里の、あさ美
の思考をようやく現実の地平に降り立たせた頃、3人はエレベーターの前に立っていた。
降りてきたときに使ったものと同じ、装飾やら美観など欠片も感じさせない、そっけな
い扉が、ゆっくりと開いた。
瞬間、ムロイが拳銃を跳ね上げる。
肩と同じ高さまでそれがあがると、銃声。
ただし、二つ重なって。
ムロイが拳銃を落として倒れる。
真里はムロイが倒れた衝撃で手を離したが、それに引きずられてバランスを崩す。あさ
美がそれを支え、体勢を立て直した。
倒れたムロイは肩を押さえていた。
指の隙間から溢れる血は、は非常灯に照らされた赤い空間の中でも、はっきりそれとわ
かる。
冗談のように、溢れてくる血に、あさ美は一瞬、気が遠のく。右ひざがうずいた。
真里はエレベーターに目を向けた。
短い間に見る2つ目の死体は、見たことの無い青年だった。
まるで当然のように白衣をまとう彼は、右眉の少し上から血とそうではない液体を流し
ている。
手には銃口から煙を吐く、拳銃が握られている。
空ろな目は、すでに何も映していない。ただ反射させるだけの鏡面。
「もたもたしないで、早く行くよ……」
拳銃を拾い、撃ち抜かれた方を庇って片手で体を支えて、ムロイが立ち上がる。
顔は苦痛に歪んでいる。
しかし、それでも、ムロイはエレベーターに乗り込んだ。
青年の死体はできるだけ見ないように、真里もそれに続いた。
「クサナギ……さん」
あさ美の呟きが、青年の名を唱えたが、しかしそれは、何の意味も為さない。
死体は死体であって、人間じゃあなかった。
ムロイは良心の呵責などと言うものとは無縁で、ただただ、激痛に耐える表情で、エレ
ベーターのボタンを押した。
ゆっくりと重力がかかる感覚がして、エレベーターが動き出す。
「貴女たち、車は運転できる?」
ムロイが訊いた。
2人は顔を見合わせ、それからムロイに向き直り、首を横に振る。
ムロイは溜息をつく。
「オートマだし、ナビもついてるから、なんとかなるわ」
ムロイが扉に目を向けると同時に、扉が開いた。
拳銃を構えた。
その、銃口の向かう先に、その男がいた。
真里の(つまりなつみの)の目線よりもさらに下に、彼のにやけた顔があった。
嘲るような、蔑むような、見るものに不快感を与える笑み。
その笑みは、車椅子に座っている。
「まあ、いろいろと、よくやってくれたね」
「そこをどいて。出ないと撃つわよ、フクヤマ」
ムロイは冷酷に、車椅子の男、フクヤマに対して告げた。
けれどフクヤマは薄く笑って、
「その出血の量では、意識を保っているのもやっとだろう? 銃を撃てるほどの力は、君
には残っていないよ」
見透かした声で言った。
その言葉に、ムロイは眉を苦しげに歪める。
単に痛みに耐えているだけかもしれないが、この場合は、フクヤマの言葉が正鵠を射て
いたのだろう。拳銃を持つ腕が、震えていた。
膠着。
それがほんの数瞬続き、フクヤマは車椅子を操って道を開けた。
呆然と、首を傾げる真里、あさ美。
訝るムロイ。
「どういう、つもり……?」
「望んだように生きればいい。どうせ本部からは、とうに見捨てられているからな、この
施設は」
3人の方を見もせず、フクヤマは何処か虚しさを感じさせる呟きを、宙に溶かした。
「どういう……こと?」
「君には知らされていなかったが、ここでの実験は、すでにその意義を終了している。も
う実用化されているんだ、『クローンと人格移植による永遠の生』はね。世界各国の要人
や富豪に対して実行されている。それ以上のことは望まれていないんだよ、この施設は」
そう言って、フクヤマは溜息をつく。虚しさを吐き出したような表情だ。
「じゃ、じゃあ、私たちは、何のために……?」
真里が呟いた。
本部と言うものがどういうものかは知らないし、知ろうとも思わないが、すでに終わっ
たものに縛られていた自分たちは、いったい何のために……
フクヤマは、心底、馬鹿馬鹿しいといった口調で、答えた。答えは本当に馬鹿馬鹿しか
った。
「カガの独断、というよりは、『ちょっと気になるから試してみよう』とか、その程度のことだ」
「そんな理由で……」
自分たちは作り出され、幾度にも渡る実験に使われ、命を弄ばれたのかと思うと、怒り
を通り越えて、憎悪すら超越し、ただ、運命を呪い、絶望するしかない。
それは真里の感情なのか、あさ美の感情か、或いは、他の誰かのものか。
空虚な、荒涼とした絶望だけが、心に広がる。
瞬間。
振動が足元を、建物そのものを揺るがせた。
フクヤマは冷静に、
「地下で爆発、といったところかな」
まるで「何か言った?」程度の口調で言う。
ムロイの顔が、出血のためだけでなく、青白くなる。もっとも、非常灯に照らされた空
間の中では、それも判断できなかったが。
「早く行けよ。ここは危ない」
「あんたは……?」
真里の問いかけに薄く笑う。
「僕も逃げるさ、後始末をしてからね」
その不敵な笑みは、いったいどこから浮かび上がってくるのか、どういう思いでそんな
表情になれるのか、真里にはもちろん、あさ美にも、ムロイにも分からなかった。
ムロイは二人を促し、歩き出した。
二人は手を握り合って、それに続く。
フクヤマの前を通り過ぎる時、彼が、告げた。
「 、 、 。 、
」
爆発。
振動。
衝撃。
カガの言葉が世界の終わりなら、フクヤマの言葉もまた、それだ。
ただ、フクヤマのものは、より直接的で、しかし、世界が終わっても、それでも続く苦
痛を告げられた気がした。
赤い空間を走り抜け、やがて扉が見えてくる。
しかし、それは解放の扉などではなく、束縛された運命の続きでしかなかった。
月明かりが、見えた。
外だ。
外に出ると、駐車場らしい広場に出た。
駐車場らしい、というのは、その広さに不釣合いに、数台の車しか止まっておらず、し
かも雑然と、適当に止めたいところに止めた感がある。
そのうちの一台の隣に、ムロイが立つ。
フォルクスワーゲン社のニュービートル、というのだが、車の知識がない真里にもあさ
美にも、それはわからないことだった。
「乗って」
ムロイが運転席のドアを開け、真里を見た。
「え? オイラが!?」
突然の氏名に、戸惑う真里。
「右のペダルがアクセルで、左がブレーキ。それだけ分かれば、何とかなるわ」
「で、でも……」
「早くしなさい。もう、私は……」
その先は、言わなくても判っていた。
月明かりに照らされたムロイの体は、半身が赤く染められていた。
まるで前衛芸術のような、或いは宗教画の一部のような彼女のその姿は、2人に死を予
感させるには充分すぎた。
ドサリ、とムロイの体が地面に落ちた。
「ムロイ先生っ!?」
2人はムロイに駆け寄り、呼びかける。
その声にムロイは薄く、儚く笑う。
「まだ、先生って、呼ん、でくれる……んだ」
乱れた呼吸で、ムロイは、
「……ごめんね……」
最期に、涙を流した。
呼吸を止めた。
鼓動が止まった。
瞳を閉じ、涙を一筋、流した。
彼女がいったい何をしたというのだろうか。
2人を実験に使っていたのは判るけれど、でも、それでも、ムロイはそれを悔いて、悩
んで、苛まれていた。
だから、
だけど、
「……行こうか」
真里が立ち上がる。涙は流れない。
そう言われても、あさ美はどうしていいのか判らなくなって、ムロイの死体と真里の顔
を交互に見比べる。
そのあさ美を強い視線で見据え、
「行こう。みんな、それを望んでるはずだから」
はっきりとした口調で、告げた。
みんな……
そうだった。
あさ美は真里の言葉に強く頷いた。
この体はあさ美だけのものではない。
みんなが、メンバーが宿っているんだ。
ここで、立ち止まっているわけにはいかない。
真里が運転席に乗り込むのを見て、あさ美は急いで助手席に回った。
シートベルトをして、真里の方を見ると、キーを回し、エンジンをかけているところだ
った。
エンジンの唸り声がして、低い振動を感じる。
キーを回したは良いが、真里は車を発進させない。させられない、というのが正しいの
かもしれないが。
ぶつぶつと呟きながら、ルームライトをつけて、足元を見たり、ハンドルの周りを確認
したり、ナビの画面をいじっていたりと、隣で見ているあさ美を不安にさせることを次々
とやってくれた。
「あ、あの、本当に、大丈夫ですか、運転?」
あさ美の問いに、真里は真顔で、
「……」
無言だった。
「返事を……」
「だ、大丈夫だって! 見たことはあるし」
人がやるのを見ることと、自分でやることの間にはずいぶん開きがある。と、あさ美は
思ったが忘れることにする。
「それに、ゴーカートなら運転したことあるし」
「全然違いますよ……」
それで安心させようとしたんだろうか。
しかし、少しだけ、本当に少しだけ、あさ美は不安を拭えたように感じた。
に、と歯を出して笑って見せる真里が、あさ美は心強かった。
「じゃあ、行こうか。時間も、あまり無いことだし」
「はい」
真里の言葉に、あさ美が頷く。
サイドブレーキを解除して、右足をゆっくりと踏み込んだ。
意外と上手く行った、と真里はほっとする。
ナビを見て、道を確認する。
施設は山の中にあり、麓まではほとんど一本道で、見る必要なんて無かった。
見る必要なんて無い。
どこへ行けばいいのかなんて、分からないのだから──
けど、
だけど、
それでも2人は、
それなのに12人は──
;^▽^)「……」
;^〜^0)「……」
;^▽^)「…………」
;^〜^0)「…………」
(〜^◇^)「どしたの、あの2人?
川゜〜゜)「本気で出番が無いって事を知って、ショックなんだって」
川o・-・)「でもそれを言ったら、一部を除いて全員出番は少しでしたよ」
(〜^◇^)「だよね」
(●´ー`)「良かったね矢口、紺野。除かれる一部で」
川;o・-・);〜^◇^)「……!」
次回『星の生まれる日。』