「私もまこっちゃんが好きだよ」とあさ美ちゃんは言った。
「友達として、ね」
先回りをしたあたしに、あさ美ちゃんは驚いた様子もなく「うん」と答える。
あたしの指が服の中に滑り込んでも抵抗しない。
指はブラジャーの上からあさ美ちゃんの乳房の曲線を確かめるように這いまわった。
「まこっちゃんは?私のこと好き?」
「さっき言ったじゃない」
「もう一度きかせてよ」
なんとも違和感を感じずにはいられない要求に、あたしは一瞬言葉を失って……、軽薄な笑いを浮かべてみせる。
「好きだよ、あさ美ちゃんのこと」と耳元で囁く。
ほかにどう返せばいいのか分からなかった
のだ。そしてそれは、本当に本当の真実だった。
そして、今度はあさ美ちゃんが言う。
「友達として、でしょ」
「そう…、友達として」
乳首に触れ、そっと撫でて、つまむ。
あさ美ちゃんの表情から堅さが抜け、濡れた溜め息が吐き出される。あさ美ちゃんは、探るような眼であたしを見た。
「じゃあ、私以外の誰かともこうゆうことしてたりする?」
「え……っ」
次の瞬間、あたしはあさ美ちゃんに口づけられていた。
表面が軽く触れ合うだけの、やわらかなキス。
でも、その感触は甘くとろけそうで、あさ美ちゃんの胸を愛撫する手が汗ばんでいるのを感じる。
甘くて苦しいキスにうっとりと身をまかせたあたしとは逆に、あさ美ちゃんは唇をすぐさま離す。
あたしの視線は、あさ美ちゃんの唇へと自然に吸い寄せられてしまう。
あたしを虜にできるのは、この唇だけ。
あたしがあさ美ちゃんを縛りつけているんじゃない、あさ美ちゃんがあたしの全てを鎖で縛っているのだ。
そう自分の都合のいいように思った。
「私、あるよ」
「だれと…?」
「愛ちゃんと柴田さん」
間を空けずにさらりと言いのけたあさ美ちゃんを、あたしは凝視した。
アイツの名前が出てきたことに、動揺を隠せそうにない。
あさ美ちゃんの瞳に映るあたしの姿が小さく見えた。
愛ちゃんがあさ美ちゃんを相手にするわけないと思っていた。彼女には他に好きな人がいるから。
愛ちゃんは石川さんが好きだから。
どうして?
「へ…ぇ。じゃ、昨日は柴田さんと」
「シたよ。私のこと好きなんだって、柴田さん」
「ふうん。そう。そうなんだ」
「すごく優しくて綺麗で。でも、気持ちには応えられないの」
「――ねえ、それって、同情でシたってことだよね?酷くない?」
「どうしたの、まこっちゃん?」
知らないうちに怒りが込み上げてきてた。
嫉妬からではなく、柴田さんの想いを知っていながらシたあさ美ちゃんに腹が立った。
あさ美ちゃんが自分を想ってないと分かっていながらも、体を重ねた柴田さん。
どんな気持ちだったのか、あたしには分かる。
心のない相手と寝ることが、どれだけ空しくやるせない事なのか、あたしが一番よく分かっている。
「自分のことを好きでもない相手とシたって柴田さんが辛いだけじゃん。柴田さんはあさ美ちゃんが好きなわけだし、余計に距離感じて寂しいと思う」
「…分かったようなこと言わないでよ」
「分かるよ、あたしには」
[柴田さんと同じように、あさ美ちゃんが好きだから]
出かかった言葉を呑み込む。
あさ美ちゃんは、ばつが悪そうにあたしの体を押し退けて立ち上がり、乱れた服を整え始めた。
あたしたち、やっぱりうまくいかないね。
たったあと一歩踏み出すだけで世界は変わるのに。素直になれない自分。
あたしは、引き金に指をかける。
的は、あたしを振り返ろうともせずに玄関に向かうあさ美ちゃんの背中。
目を見開いて、そして、強く閉じ、引き金を引いた。
「あたしも、あるよ」
あさ美ちゃんは振り返らないし、止まらない。
この弾があさ美ちゃんを貫くなんて思ってない。
ただの悪あがきにすぎない。
「石川さんと」
そう思ってた。