823 :
作者エリ:
(もうやめて!逃げて!紺野さん!)
そう叫ぶつもりだったが、口内にタオルが詰め込まれているので言葉にならない。
エリは泣きながら必死で身を悶えさせた。
しかしリーダー格の男が体を押さえつけている為、身動きが取れない。
「ううあぁぁ!!」
また悲鳴があがった。紺野さんが右脇を抱え苦しんでいる。
自分を助けにきた先輩が痛めつけられる所を見るのは、自分がやられるより辛かった。
地面に小柄な男が転がっている。
紺野さんは極真空手の茶帯である。
それを知らず、いいカモが来たとその男が無造作に近寄った。
ローキック、そして正拳一発。それだけで紺野さんはその男を倒してのけた。
「亀井を放せ!」
空手の構えで、紺野さんはそう叫んだのだ。
すると残りの男達の内3人が同時に立ち上がった。
あいつらは、格闘技経験者と気付くなり、3人がかりで紺野さんに迫った。
16歳の女の子相手に、三方から襲い掛かったのだ。
824 :
作者エリ:03/04/29 17:38 ID:3Yebm161
どれだけ技を知ろうが、どれだけスピードがあろうが、勝負にはならない。
まずパワーが圧倒的に違う。体格差も圧倒的にある。なにより一対三である。
奴らはまるで楽しむ様にじわじわと紺野さんを痛ぶっていった。
(もういいよ…逃げて、紺野さん…)
そのとき目が合った。優しい目をしていた。いつもの優しい紺野さんの目。
それが合図だった。紺野さんは低い体勢から飛び込んで来た。
男達が止めようと殴りかかる。
紺野さんは背中を強く叩かれた。それでも動きを止めなかった。
そのまま私とリーダー格の男の所まで突っ込んできた。
三人がもんどりうって転がる。
私を押さえつけていた男も転がり、私は手足が自由になった。
口の中の物を取り出し、すぐに立ち上がった。隣に紺野さんもいた。
二人で同時に走り出そうとした。しかし男達が物凄い形相で迫ってくる。
紺野さんは立ち止まり振り返った。
「ここは私に任せて!行って!」
(そんなの行ける訳ないよ…。)
825 :
作者エリ:03/04/29 17:38 ID:3Yebm161
「紺野さんも!」
「いいから!早く!」
男が飛び込んで来た。紺野さんは空手の技でそれを受け流す。
「どうして?こんな?こんな無茶するの?エリなんかの為に…!?」
次の男が横から飛び掛る。紺野さんはそれをかろうじて避けた。
「あんたがいじめられているとき、私は見て見ぬ振りしてた!」
「そんな自分が許せなった!かわいい後輩を見捨てる自分が許せなかった!」
「だから今度は!今度こそあんたを助けるの!もう逃げないんだ!」
「紺野さん…」
優しい目をしていた。悲しい程優し過ぎる人だった。
その気持ちがどんな暴力より痛すぎて、私の胸を締め付けてくるんだ。
(助けたい。この人だけは…。お願い、神様。エリは、エリはどうなってもいいから…)
(紺野さんを…これ以上傷つけないで下さい…)
願いとは裏腹に、男達は四人がかりで周りを囲み始める。もう逃げ場もなかった。
そこへ…