790 :
作者エリ:
辻希美は思った。
どうしてみんないなくなったのだろう?
あんなに楽しくて、いつも一緒に笑っていたのに、どうしていなくなったのだろう?
安倍さん。矢口さん。梨華ちゃん。よっすぃー。
モーニング娘が嫌になっちゃったのかなぁ…。
そんなのヤダ。ののはヤダ!絶対ヤダ!
待ってるもん!みんなが来るまでののはここで待ってるもん!
藤本美貴の後ろで辻希美は踊っていた。
今にも泣き出したい顔を、必死で笑みに変えながら…。
――――――――――――――そのとき、消えた。
音が消えた。視界が消えた。突然何も見えなくなった。聴こえなくなった。
隣にいるあいぼんが見えなくなった。その先にいる愛ちゃんも見えなくなった。
前にいるミキティも見えなくなった。声援を上げる大観衆も見えなくなった。
急にひとりぼっちになった気がした。何もかもが消えてしまった気がした。
「いやあああああああああああああああああああああ」
辻希美は悲鳴をあげた。
791 :
作者エリ:03/04/27 16:37 ID:RrQgVfGa
加護亜依も悲鳴をあげた。
高橋愛も悲鳴をあげた。
藤本美貴は固まっていた。
会場中の全てのライトが、マイクの音が…一瞬にして消えた。
膨大な明かりを灯していたライトが消え、視界は一転して闇に落とされる。
大音量の声を通していたスピーカーの音が消え、世界は一転して静けさに満ちる。
「なんだよこれ!」
「どうなってんだ!」
観客達のざわめきが大きな唸りとなって、ステージに立つ四人に襲い掛かる。
どれだけ闇に包まれていただろうか。あるいはほんの数秒だったかもしれない。
明かりは突然ついた。消えたはずのライトが新しい色で輝き出した。
その瞬間、世界は再び姿を変えた。
ざわめきが今度は溜息にかわった。美しいものを感じたときに思わず出る溜息だ。
「きれい…」
誰かが言った。
792 :
名無し募集中。。。 :03/04/27 16:38 ID:4hJiZWWJ
どこが荒らしなの?
こんなの荒らしって言う奴はファンサイトでも行ってろ
キモイから辞めて欲しいって普通の意見だろ馬鹿
荒らしを勘違いしてる新参多すぎ
793 :
作者エリ:03/04/27 16:38 ID:RrQgVfGa
種が舞っていた。
天井から何千何万という数の、ハートのリボンをつけた大粒の種が舞い落ちてきた。
それは言葉にならないくらい圧倒的な光景であった。
暗闇から一転して、美しき幻想世界に誘い込まれた感覚に惑わされる。
世界がピンクに満ちていた。
世界がハートに満ちていた。
世界が愛に満ちていた。
辻希美の元にも、ふわりふわりと種が舞い降りた。
それを手のひらで受け取る。
何処からともなく優しい音楽が流れ出した。
辻希美は動けなかった。手のひらに種を乗せたまま立ち尽くした。
後方に大きな気配を感じた。
聞いたこともないくらいの大歓声がそれを教えていた。
だけど辻は、振り向いてそれを見ることができなかった。
それを見てしまったら、終わってしまう気がしたから…振り向けなかった。
種を手のひらに乗せたまま、肩を震わせ、小刻みに首を振り続けた。
(ののは…待って…)
やがて大好きなあの人の声が辻希美の耳に届いた。
「モーニング娘は生まれ変わります!」
794 :
作者エリ:03/04/27 16:39 ID:RrQgVfGa
「愛の種…」
巨大モニターの前で飯田圭織はそう言った。
始まりの歌だった。すべての始まりの歌。モーニング娘の始まりの歌。
愛の種が降り注ぐ中、優しい音楽と共に5人が現れた。
その5人の中に自分の姿はなかった。
「福ちゃん!?何で?それに矢口…石川…ごっつぁんまで…」
5人の中央に彼女はいた。笑ってはいなかった。
モーニング娘の歴史を刻んできたその笑顔は、笑ってはいなかった。
「なっち…」
自分はモーニング娘。のリーダーである。
自分は今何をしている?自分は今ここで何をしている?
リーダーって何?何もできず、ただここでこうして成り行きを見守っているだけだ。
必要のない、形だけの、何もできない、リーダー…。
飯田圭織は絶望の淵に落ちかけた。
落ちかけたそのとき、両腕を誰かが掴んだ。そして呼ばれた。