亀井絵里はどうよ

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631作者エリ
(もう30分超えとるで飯田さん)

いくらミニモニといえど、これ以上の時間稼ぎは難しかった。
一旦盛り上がった観客達にも徐々に不信の色が浮かびだす。
何故三人しかでないのか?他の娘達はどうしたのだと。
加護が苦虫をかみ締めた表情で舞台袖を見た。するとそこに意外な人物がいた。

「はーい!みんなーお待たせー!ミキティの出番だよー!」

大きな歓声が沸きあがる。派手な衣装のミキティが颯爽と現れたのだ。
加護、辻、高橋は複雑な笑みを浮かべた。だが彼女のおかげで助かったのは事実だ。
「ロマンティック浮かれモード」の前奏と共に会場は再びヒートアップする。
プロであった。こと客を乗せる事に関して、藤本のそれは三人を凌駕していた。

「加護さん、辻さん、高橋さん。バックダンスとコーラスをお願いね」
「ちょっ…何やってそれ!」
「あら責任放棄するの高橋さん?モーニング娘の為よ」

「モーニング娘の為」その言葉の魔力に三人は逆らうことができなかった。
辻と加護と高橋を従えてのソロライブ。エースの名に相応しき舞台は完成した。
632作者エリ:03/04/21 10:18 ID:2GAh8t94
「たいした女ですなアレは。辻加護高橋を自らのアピールに利用している」

黒いスーツの男は言った。二十台後半の外見をしているが実際の年齢は読みきれない。
ある大手事務所の幹部であり、新生モーニングの協力者である。
しかし端正な顔立ちの裏に隠された真意を読み取ることはできない。

「藤本がこうくるとは思っていなかったべ」
「予定を変更して、そろそろ出ますか?安倍さん」
「準備は?」
「コンサートスタッフの買収は済んでいます。いつでもOKですよ」

冷笑を浮かべたまま男は答えた。その声を合図に安倍なつみが立ち上がる。
そしてロケバスに待機する仲間達の顔を見た。これから新しい伝説を創り上げる顔達だ。

「種を巻こう!…もう一度」

それだけ。それだけを言って安倍なつみはロケバスを降りた。
矢口真里が!福田明日香が!石川梨華が!後藤真希が!立ち上がった!
ついに新生モーニングが動き出した!
633作者エリ:03/04/21 10:19 ID:2GAh8t94
なっちに続いて福田明日香がロケバスを降りた。終止無言であった。
矢口真里は出口前で立ち止まり、後部座席で顔を埋める一人の娘に言った。

「よっすぃー。嫌ならおいらは強制しない。来なくてもいいよ。でもね。
もう他に道はないから。この世界で生き延びるにはもうこの道しかないんだよ!」

それだけ言って矢口はロケバスを飛び降りた。
吉澤にはその小さな背中が、何故だかとても悲しそうに見えた。
スーツの男達も次々に降りてゆく。やがて残るは石川後藤そして吉澤の三人だけとなった。

「………」

沈黙が続いた。三人が三人とも言いたい想いがある。しかし口に出せない。
石川にも後藤にも、大切な親友である吉澤を騙したという罪悪感があったのだ。
二人の感情に気付いて気付かずか、最初に口を開いたのは吉澤であった。

「ごっちん。梨華ちゃん。ごめん。アタシ…無理だわ」
「…!」
「よっすぃー…」
「これしかなくてもさ。ののとか…あいぼんとか…もう妹みたいで…見捨てられないよ」
634作者エリ:03/04/21 10:20 ID:2GAh8t94
吉澤が泣いていた。いつも勝気で男っぽい彼女が、恥も外聞も捨てて泣いていた。
喉から搾り出された様なか細い声だった。それが精一杯の声なのだ。

「……見捨てられなひよ」

両手で頭を押さえたまま、吉澤は両足の間に顔を落とし呻いた。
石川も泣きそうな顔になっていた。後藤は顔をそむけていた。
吉澤の泣き顔を見たくないのか、自分の顔を見られたくないのか。
顔をそむけたまま後藤は必死で言葉を作り上げた。

「ゴトーはね…ゴトーはただね…もう一度……もう一度一緒に…」

そこから先は言葉にならなかった。後藤は顔をそむけたままロケバスを駆け下りた。
(もう一度よっすぃーと一緒に歌いかった、笑いたかった)
後藤の走り去る音を聞いて吉澤は顔を上げた。石川梨華だけが残っていた。
石川は潤んだ瞳で吉澤を見つめていた。やがて静かに回れ右し歩き出した。
何の言葉も無い。石川は吉澤に背を向けたままロケバスを後にした。

ただ一人残されたロケバスの中、モニターからは藤本美貴の歌声が流れ続けていた。
しばらくするとそれが悲鳴に変わった。