611 :
作者エリ:
エリは会場近くの公園にいた。
「二人きりで話しがあるの。とっても大事な話。聞いてくれる?」
今までの藤本とはまるで異なる優しく不安気なしゃべり方に、エリは騙された。
油断もあった。辻加護に高橋と…みんなが自分を認めてくれ始めていたから。
藤本さんともようやく仲直りできるんだと、エリはそう誤解して公園へ向かった。
人で埋め尽くされた会場付近と異なり、この公園はまるで人気が無かった。
「藤本さん」
エリは小声で呼んだ。
しかし返事はない。エリはもう一度、少し声音を上げ藤本を呼んだ。
「藤本さ…」
そのとき、右の道から近づいてくる男の姿が見えた。
10台後半か20前後の、髪を金色に染め上げた男であった。
エリの本能が危険を察知した。エリは左の方へ歩き出した。
…が、エリはすぐに足を止めた。左の道からも別の男が近づいてきたのだ。
サングラスをかけているので視線はわからないが、口元がいやらしい笑みを浮かべている。
612 :
作者エリ:03/04/19 11:53 ID:u3MjnHrB
エリは向きを変え、正面の大通りの方へ駆け出した。
すると右の道から来た金髪男と、左の道から来たグラサン男も走り出した。
エリは速度を上げた。走りながら、大通りへ向かって大声で叫ぼうと考えた。
まさにそのとき正面の草むらから二人の男が飛び出してきた。
背の高い大男と比較的小柄な男だ。小柄な男がそのままエリの方へ飛び掛ってきた。
ななめ後ろへ飛びのき、間一髪でエリはそれを避けた。
すぐに起き上がりエリは逆方向へ逃げた。大男が物凄い勢いで追ってきた。
左右はすでに、さっきの金髪男とグラサン男に囲まれている。
(やだ…怖い…なにこの人たち?怖い…怖いよ…なんで?なんでエリを追いかけるの?)
形振り構わず走っていたエリは、勢いがつき過ぎて突然現れた何かに激突した。
「いてぇ」
分厚いタイヤにぶつかった感触だった。エリが顔を上げると声を発した者が見えた。
ガタイのよい強面の男だった。次の瞬間、エリは後頭部を掴み取られた。
口に何かタオルの様な物を押し込まれた。悲鳴も声を出ない。
(助けて!やだ!誰か!誰か助けて!!)
髪を引っ張られた。あの小柄な男が蛇の様な細い目つきでエリを眺め回した。
「かわいい〜」
613 :
作者エリ:03/04/19 11:54 ID:u3MjnHrB
飯田圭織は会場裏口で藤本美貴を見つけた。
「ミキティ!こんな所で何してるの?もう時間は過ぎてるのよ!」
「ごめんなさいリーダー。同期の子達がいないから私探していたの」
藤本は泣きそうな顔で答えた。もちろん嘘である。
だが時間も余裕も無い飯田はそれで納得した。
「六期だけじゃないの!なっちと矢口、それに石川と吉澤までいないのよ!」
「え!本当ですか!」
この驚きは本当だった。藤本は考えた。
(安倍と矢口か…あいつらも何か企んでやがるな。フン)
(逆に好都合かもしれない。この機に誰がエースかはっきりさせとくか)
「わかりました。私も時間稼ぎしておきます。その間に皆を…」
「お願いね。ミキティ」
藤本は悠々とステージへ歩き出した。ミニモニの曲が終わろうとしている。
(さぁ!藤本美貴withモーニング娘。の開演だ!)