亀井絵里はどうよ

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543作者エリ
喉が唐辛子みたいにヒリヒリ痛い。
声が出なかった。
どれだけ唄っても、どれだけ声を張り上げてもそれは届かない。
わかっている。一日二日の練習で変われるなら、誰も苦労なんてしない。
無理なんだ…。

「エリにセンターなんて無理なんだよ…」

いつしか私は壁に寄りかかって泣き崩れていた。
高橋さんとの勝負の日はもう明日である。結果の見えた勝負。
どうして逃げなかったのだろう?どうして譲らなかったのだろう?
勝てる訳がないのに…。私なんかが…。

「勝てる訳ないのに…」

頬を伝って床に落ちた涙が小さな水溜りを作っていた。
不安、怯え、後悔、恐怖、諦め、負の感情ばかりが頭をよぎる。
もう帰ろうと思った。私はゆっくりと立ち上がった。廊下に誰かいた。
保田圭さんが怖い顔して立っていた。
544作者エリ:03/04/05 07:39 ID:aFWS5hBq
「保田さ…!」
「加護がねぇ、賭けになんないからケメちゃん参加してだって」

保田さんは唐突に話始めた。脱退して以来顔を合わすのは初めてのことだ。
どうして彼女がここにいるのか分からず、私はうろたえた。
そんなことはお構いなしに保田さんは、勝手にまくしたてる。

「そんで気がついたら、亀井に2万も賭ける羽目になってた」
「そんでどんなもんかと様子見にきたら、勝てる訳ないって言ってやんの」
「アタシャ取られ損かよ。そりゃねえよ」
「ご、ごめんなさい保田さん」
「泣くなよ。泣きてえのはこっちだバカアー」

保田さんは泣き真似して廊下を走っていった。10mくらい先で止まり振り返った。

「もう、勝てなくてもいいからせめて笑って唄え」
「え?」
「そんな顔して唄っても全然楽しくねえぞー」

それだけ言うと保田さんは逃げるように走っていった。変な走り方だった。
545作者エリ:03/04/05 07:40 ID:aFWS5hBq
(笑って…唄う…)
鏡を見た。泣き顔のエリがいた。私はずっとこんな顔で唄っていたのだ。
(違うよ、こんなの違うよ。こんなのエリじゃないよ)
(小さい頃から歌うことが大好きだったんだ。楽しくて楽しくて仕方なかったんだ)
(だから本当に楽しそうに歌ってるモーニング娘に入りたいって思ったんだ)
(いじめられたくないからとか、センター取られたくないからとか)
(そんなの違うんだ。エリはただ歌を…大好きな歌を…)
目から再び涙が溢れ出てきた。でもそれはさっきの涙とは違った。


「フーン…いい先輩だ」

建物から出てきた保田圭を待っていたかの様に、後藤真希が声をかけた。

「ごっつぁん!あんた何でここに?見てたの?」
「ちょっとハッパかけてやろうかなって。でも余計なお世話だったみたい」
「馬鹿!私はそんなんじゃないわよ。2万ムダにしたくないだけで…」
「はいはい、そういうことにしといたげる。フフフ〜」
「何よその顔!コラ後藤!待てっ!」
「んあ〜久しぶりに圭ちゃんに怒られたよ〜」