亀井絵里はどうよ

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421作者エリ
めちゃくちゃ怒られました。
無断でレッスンさぼって、メンバーやスタッフの皆さんに迷惑かけたのだから当然です。
何人かの娘はいい気味だという顔で私を嘲笑っていました。
それ以外の人も、私を軽蔑する目で見ている気がしました。
でももう逃げる気はありません。ここがエリのスタート地点なのだから。
私が戻ったときにはレッスンが終了し、次のスケジュールが詰まっていたので、
それからの行動は大慌てでした。仕事が終わるのは21時頃でした。
解散が告げられると、私は急いで荷物をまとめレッスン場へと走りました。
もう誰もいないはずなのに、まだ明かりが点いています。

(後藤さんの言った通りだ…)

明かりの漏れる窓からダンスホールを覗くと、辻さんと加護さんがいました。
あの二人は今日私より一時間ほど早く仕事を終えたはず、それからずっとここで…
汗だくでダンスの復習をしている二人の姿に、私の胸は鼓動を早めました。
意を決した私はダンスホールのおもむろに扉を開けました。
二人は驚いた顔で、こちらに目を向けました。
深呼吸をひとつ、私は精一杯の声で言いました。

「わ、私も一緒に練習します!」
422作者エリ:03/03/24 00:27 ID:wrlCrAWi
辻さんと加護さんは互いに顔を向き合わせ、すぐにまた練習に戻った。
私の言葉には何の反応も示してくれませんでした。
昼間のサボり事件により、二人の軽蔑はさらに深まったのでしょう。

(わかってる。言葉で認めてもらおうなんて思ってない)

私はホールの隅に荷物を置き、練習用ジャージに着替えました。
そして辻さんと加護さんの後ろに立ち、見よう見まねで練習を始めました。
昼間練習を抜けたので、新曲の振り付けは全然わかりません。
だから二人の動きを後ろで見て、それに付いていくことしかできないのです。
だけど今の私のとってはそれすら難解なことでした。

(凄い、加護さんのソフトな動き、辻さんのシャープな動き)
(私なんか全然及びも付かない、追いつくことなんてできるのかな…)
(ううん、考えない。今はできる限りのことを精一杯やるだけ!)

こうして三人での練習は深夜にまで及びました。
辻さんと加護さんはあえて私に教えることもなかったけど、
だけど邪魔する様なこともありませんでした。
423作者エリ:03/03/24 00:29 ID:wrlCrAWi
時計の針は23時を回りました。辻さんと加護さんは練習を止め、着替え始めました。
途中、加護さんがチラリと私の方に目をやりました。

「ののぉ、明日なんやったけ」
「朝からハロモニ収録。遅刻しちゃダメらよ、あいぼん」
「せえへんわ。ほな行こか」
「あーおなかペコペコらー、もー」

二人はダンスホールを後にしました。結局、私には一言も声をかけてくれませんでした。
疲れと孤独から私はまた泣きたくなってきました。

(ううん、もう泣かないんだ。泣いちゃダメだエリ!)
(泣く暇あったら努力しろ!みんなを見返すくらいに!…ですよね。後藤さん)
(辻さんと加護さんに追いつくには、二人より頑張らなきゃいけないんだ!)
(みんなに認めてもらうには、もっともっと頑張らなきゃいけないんだ!)

さっきの二人のイメージを頭に思い浮かべ、私はまた踊り始めた。
静かな夜、私の足が奏でる下手なタップ音だけがいつまでも聞こえ続けました。