亀井絵里はどうよ

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395作者エリ
「まぁ理由くらい聞かせてよ。何で死のうって思った?仕事つらい?」

エリは静かに首を振った。
確かに加入以来目が回るくらい忙しかったけれど、仕事を辛いと思ったことは一度もない。
だってそれは自分が望んだことで、好きなことだったから。

「じゃあ何で?後藤には話せない?後藤は他人か」
「そ、そんなことないです。後藤さんはとても尊敬できる先輩です。だけど…」
「だけど?」
「これは私の問題ですし…多分いじめられる方にも責任があると…」
「へぇ、いじめねえ」
「あっ!」
「そういや新曲、亀井がセンターだってね。なるほどそれで…」

うっかり口を滑らせてしまったことを恥ずかしく思った。
だけどなぜか、この後藤真希という人には隠し事ができない気がする。
エリは全てを後藤に話す決意を固めた。
(この人なら…この人ならば…)
396作者エリ:03/03/22 17:01 ID:zouoXpt5
五期と六期によるいじめ。安倍と矢口の策略。飯田の誤解。辻加護の仕打ち。
エリはこれまで自分に起こった全ての事を後藤に伝えた。
その間、後藤はほとんど表情を変えず、ただ小さく相づちを打つのみであった。
それでも、誰かに話すというだけで、エリは少し楽になった気がした。
話が終わると後藤は「そっか」と小声で言い、そして黙った。
しばらく沈黙が続いた。
エリは胸をドキドキさせながら後藤の応えを待った。
やがて後藤は口を開いた。

「いじめはあったよ…昔も。私の知ってるあの子も最初いじめられていたから」
「…!」
「その子も加入してすぐセンターに選ばれたんだ。当然、上の人はおもしろくないよね。
 実力もないくせにどうして前へしゃしゃり出るんだってね。その子は毎日睨まれてた。
 そして毎晩毎晩泣いてたんだ。モーニング娘なんかもう辞めたいってね」
「どうしんですか?その人…」
「一人の先輩がね、いつまでもメソメソ甘えてるその子に言ったんだ。
 『泣くな!泣く暇あったら努力しろ!みんなを見返すくらいに!』ってね。
 それで、その子は目が覚めた。頑張って頑張って…今は…えっと、まぁそんな話」
「みんなを…見返す…」
397作者エリ:03/03/22 17:02 ID:zouoXpt5
「亀井は何かした?歌やダンスや、何か努力したか?」
「いえ…だって、みんなが邪魔をして何もできないんです」
「邪魔するからできない。言い訳だね。やろうと思えば何処でもできるはずだよ」
「で、でも…」
「あいぼんとののがシカトした理由が分かったよ。亀井、二人に何て言った?」
「え、えっと…助けて…と」
「だと思った。あいぼんとののはね、まだ一度もソロのセンターはないんだ」
「…あ!」
「あの二人はね。一見ふざけてる様で、実は誰より努力してるんだよ。
 あいぼんとののが毎晩遅くまで残ってボイトレしてるなんて知らないでしょ。」
「う、嘘…」
「二人共センターを取る為に、毎晩真夜中まで努力しているんだよ。
 なのに何の努力もせず、ただ誰かの助けを待っているだけの様なあんたに、
 簡単にセンターを取られてどう思う?いい顔するはずないでしょ」

エリは言葉がでなかった。何も言い返せなかった。
何もせずに、ただ誰かの助けを待っていただけの自分を歯がゆく思った。

「あんたはどうする?亀井」
398作者エリ:03/03/22 17:03 ID:zouoXpt5
いじめられっこの瞳が一人の夢見る少女の瞳に戻った。
静かに川から上がると、エリは後藤に深々と頭を下げた。

「後藤さん!ありがとうございました!私、戻ります!」
「よしっがんばれ!東京っ子!」

後藤は親指をグッと立ててウインクして見せた。
エリも同じポーズを返した。そして裸足のまま走り出した。
その背が見えなくなるまで、後藤はエリを見送り続けた。
そして小さく独り言を呟いた。

「後藤の先輩っぷりもなかなかのもんでしょ」
「ねっ、いちーちゃん♪」