67 :
透明に:
矢口はトイレの個室で紙袋を開けると『白い』ビキニを取り出した。
そして自分の服を脱ぐと、一気にソレを身に着けた。
もう何度も触っていたため、スイッチの位置も分かっていた。
腰ッ──。
ビキニの横っちょを操作すると、
カチリと音がして一瞬でビキニが白から『赤』へと変わる。
でも、オイラは透明にならないんだよね、やっぱり。
矢口は自分の両腕を前に出して、まじまじと見つめた。
あとは…ストールッ──。
「ん……?ストールじゃなくてマント!?」
矢口がストールだと思っていた布は、
膝まではあろうかというマントであった。
しかしここまで来て引き返すわけにはいかない。
矢口はマントを広げ、肩からかけた。
これで、オイラは透明になってるんだよね…。
矢口は鏡の前で立ち止まった。
なにせ矢口の顔はもろだしで、ヘソも出ているのだ。
確かに山田もコートから顔を出してはいたが、いざ自分となると不安になる。
いつぞや、ダウンタウンの松本が言っていたように
顔だけ浮いているという状況になる可能性は大いにある。
ふぅう、よしっ──。
覚悟を決めると、矢口はズンッと重いトイレのドアを押した。
68 :
透明に:03/02/18 23:32 ID:zvDwbCRF
「矢口さん、どこに行ったんだろうね。」
当たり前だが、驚いた。
誰一人として、矢口の姿に気付いていないのである。
受付嬢は、普段通り正面を向いて座っているし、
忙しそうに歩き回るスタッフも真っ直ぐ前を見ている。
辻と加護は携帯を探すのをあきらめたのか、椅子に座って足をパタつかせている。
そう、誰一人矢口の滑稽なマント姿に気がつかないのである。
矢口はまるで、一人離れた所で映画を見ているかのような錯覚に陥った。
「きっと逃げたんだよ、ウチらが必死で探してる間に。」
「そうだねー。いっつも口ばっかなんだから。」
──こ、こいつらー!!
呑気に話す辻と加護を怒鳴りつけようとして、ハッと気付いた。
ここで声を出したら透明になっているのがばれてしまう。
それ以前に、こんなトコで油売ってる場合じゃない。
矢口は、掲げた拳をそっと降ろすと、玄関へ向かった。
シュウウウウ。
自動ドアは矢口を認識するらしい。
いつになく、まじまじと自動ドアを見た後、
遂に矢口は外界への一歩を踏み出した──。