今年のセンター英語出題者はモーヲタだった!?

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53ユデタマゴ
それにしても変な気分だった。
今日会った男とこうして焼肉を囲んでいるのだ。
男は焼肉の油が飛ぶのを気にしてか、
眼鏡をはずして目を細めている。

「で、大体分かったと思うけど、今僕は『見えて』るよね。」
「はい。…でも、ニッポンほうその方だったんですね、山田さん。」
「はっ、んな訳ない。ウソだよ。ウソ。」
「はぁ!?じゃ、じゃあ…、あなたは?」
「それは言えない。まぁ、山田でも佐藤でも呼んでくれ。」
「はぁああ!?」
依然として全くつかみ所が無い男を前に、
矢口はここへ来たことを少し後悔していた。

「ヤグっちゃんは、バタフライが──僕はそう呼んでるんだけど、
 チョウチョが見えるって言ってたよね。」
やっと進みだした会話に、矢口はコクリと頷いた。
「で、そのチョウチョは他の人には見えない。んで、僕のコートが…。」
「チョウチョと同じ色ですよね。……だから他の人から見えない?」
矢口は答えを待つように、男の顔を凝視した。
にやりと笑うと男は口を開いた。
「ご名答。なかなか切れるねー。」
男の喋り方に、無性に殴りたくなるのを矢口はすんでのところで抑えていた。
54ユデタマゴ:03/02/16 23:07 ID:AL53YxUi
「…でも今、僕は『見えて』る。それは、このせい。」
男はバッと高らかに右手を上げた。
その手首にはリストバンドが巻かれていた。
おもむろに男がリストバンドを触る。
「あっ!」
すると、どうだ。みるみるうちにコートが紺から赤に変わった。
「…これで、僕は君にしか見えない。」
そう言うと、男はすぐにまたリストバンドを操作して紺のコートに戻した。
「ほら、もう肉焼けてるよ。」
ポカーンと口を開けている矢口に、男は焼肉を促した。
「えーっと、それで、まあこの服があれば透明人間になれるってトコかな。」
「でも、矢口には見えますよ。な、何で…。」
「それは、やっぱり運命としか言えないんだけどな。
 僕も、『これ』が見える人には、初めて会ったしね。」
その回答では、矢口の疑問は全く晴れなかった。
「一気に教えちゃうと面白くないからなぁ。じゃあ、ヒント。
 強烈な事件の後、その関係者の記憶はどうなるでしょうか。」
「えっ?」
「だからぁ…。……ま、今日はここまでにしときましょう。」
男は焼肉を口いっぱい頬張ると、すっと立ち上がった。
55ユデタマゴ:03/02/16 23:09 ID:AL53YxUi
「あっと、…いけね。忘れる所だった。」
男はどこからとも無く紙袋を取り出すと、矢口の隣に置いた。
「それ、ヤグっちゃんの分ね。」
「へ?」
「それさえあれば、どこでもフリーパス。
 遊園地も、博物館も、男湯だってね。」
ま、まさか──。
「ちょっ、山田さんって。コレってもしかして。
 ……こんなん置いてっても、矢口着ませんよ。」
「そんなコト言わずに、一度着てみ。ヤミツキだって。」
オ、オイラが透明に──?
信じられないことだが、さっきまで実際に見てきたことだ。
「じゃ、ここはごちそうさま。」
そう言うと、男は『赤い』コートを翻して行ってしまった。
当然の様に、周りの者は誰一人として男に気付かなかった。
「あっ、ちょっ………。ここ、オイラのおごりかよっ。」

焦げすぎた焼肉の匂いの中、矢口は呆然と山田のいた場所を眺めていた。
「透明になるコート…。」
矢口は紙袋を前にゴクリと生唾を飲み込んだ。
おそるおそる、指先で紙袋を開いてみる。
「……や、山田。コラーー!!」

『赤い』ビキニとストールがそこにはあった。


〜第2話・ユデタマゴ〜終わり