今年のセンター英語出題者はモーヲタだった!?

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36ユデタマゴ
透明ヤグチ〜第2話・ユデタマゴ〜

「どうですか、その後何か見える?」
「え、いや…。まぁ。大丈夫です。」
正直、ムッと来た。
「あの事」が終わりもう一週間ほどたっている。
矢口は「チョウチョ」も「男」も、
今では幽霊だったのではないかと考えている。
もう忘れかけていたことだ。
それなのに、この男は興味津々という目で、
まるで変人でも見るかのように笑って蒸し返したのである。
「そうですか。見えませんか。」
大体この男は何だろう。
ハロモニ。収録の合間に、矢口に唐突に話し掛けてきた男。
顔馴染ではない。短髪でメガネをかけた男である。
年の頃は22、3といったところか。新しいスタッフだろうか…。

「暑くありません?それ。」
矢口はなるたけ腹立たしさを隠し、他愛も無い会話を心がけた。
「これ?やっぱり暑いね。」
男は着ていた紺のコートの端を、ヒョイと持ち上げた。
じゃ、なんでそんなの着てんだ……。
37ユデタマゴ:03/02/15 00:59 ID:AtIEPlET
「矢口さーん。収録始まりますよー。」
「…ホラ、辻ちゃんが呼んでますよ。行かなきゃ。」
男に促され辻を一瞥した矢口だったが、
再び男をに向き直ると「あっ。」っと声を上げた。
矢口は「あの男」と再会した──。
ついさっきまで紺だったコートが、その色を赤く変えていたのだ。
「あ、あなた一体…?」
「ふふっ。僕と話していると、また病院行きですよ。」

「矢口さん、どうしたんですか?行きますよー。」
空中を見る矢口に、辻は小走りに駆け寄った。
矢口の頬を嫌な汗が伝った。
「辻ぃ、そこ見てみ。」
「うん?……どうしたんですか?何かあるんですか?」
「………。」
汗はあごのところで玉を作った。
「いや、何でもない…。ちょっと先行ってて。」
「え、…はい。」
辻は怪訝そうな顔をしたものの、また小走りで駆けていった。
その後ろをコートの男がスキップで追いかける。
「ちょっと待てぇい!」
「なんですか?」
辻は振り返って、キョトンとした表情を矢口に見せた。
「いや、あんたはいい…。」
矢口はガックリと肩を落とした。
38ユデタマゴ:03/02/15 01:02 ID:AtIEPlET
「僕を呼んだんですか?」
男はつまらなそうな素振りで戻ってきた。
「…あなた、一体誰なの?……お化け?
 それとも、オイラの頭の中の人?」
「やっぱ、辻ちゃんって可愛いよね。
 いや、もちろんヤグっちゃんも可愛いよ。」
矢口の質問などお構いなしといった感じである。
「もう。ちゃんと答えなさいよ!あんた誰よ!」
「さっき言った内のどちらでもないな。
 強いて言うなら後者のほうだが…。
 普通の人間だよ、僕は。」
「何で普通の人間が誰にも見えないんだよ!」
もともと、相手が正体の分からない男だけに
その口調は乱暴になる一方だった。
「見えてんじゃん。ほら。」
男は矢口の前でくるりと回って見せた。
「何でオイラ以外には見えないんだよ!」
「運命でしょ。」
「あーー!ムカつくわ、お前!」
のらりくらりとかわす男に、矢口の怒りは爆発した。
39ユデタマゴ:03/02/15 01:04 ID:AtIEPlET
「しー。みんな見てるよ。」
周りを見渡すと、4、5人のスタッフが
矢口のほうを不安そうに見ている。
「あ、はは…。えーっと、今日の台本ってこんなもんかなー。」
矢口はポリポリと頭を掻いて見せた。
「って、言うかホントにあんた誰?」
矢口は小声で男のほうに向き直った。
「あっ、いねぇー!」
男の背中は既に収録スタジオへ向かっていた。

「ちょっと、待ちなさいよー。」
「だってもう収録始まっちゃうでしょ。」
男のコンパスは割と大きいらしく、
矢口はトテトテと男のあとをついていった。
「そうだけど…、あんた私の質問に半分も答えてないでしょ。
 あんたといい、赤いチョウチョといい、何なのよ。」
「赤い………チョウチョか…。」
男は急に立ち止まると、真剣な顔で人差し指をくわえた。
「わっ、とと。急に止まんないでよ。」
「やはりな。君もバタフライが見えるんだな。」
「やはり?君も?…バタフライ?」
矢口の頭を疑問符が埋め尽くした。
が、収録時間はすぐそこまで迫っている。

幸い男は、撮影に臨む辻の姿に夢中になっている。
矢口はスタッフに促され収録を行うことにした──。