今年のセンター英語出題者はモーヲタだった!?

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106not transparent just invisible
透明ヤグチ〜第6話・not transparent just invisible〜

ガスッ──。
鈍い音がして、男は宙を舞った。
そのまま、やすりでもかけるように男の体は廊下を舐めた。
勢いよく歩いていた不意を突かれたのである。
鞘に収めたままで殴ったとはいえ、その攻撃力は絶大だった。

「ええっっと……。えいっ!!」
矢口は振り上げて勢いのついた刀を、隣の男に打ち下ろした。
またも、鈍い音の後に男が倒れこむ。
間髪いれず、矢口は鞘を掴んだ右手を後ろに引くと、
反動をつけて勢いよく前に押し出した。
ミシッ──。
刀はスネをとらえて、また一人が床に膝をついた。

「な、なんだ!?何かいるぞ!!」
「まて、足跡があるっ!」
「さっき文太が、消えたとか何とか言ってたな。」
「ま、まさか…。さっきの野郎、透明人間……。」
矢口は足の裏を見た。
そういや土足だったっけ……。
107not transparent just invisible:03/02/24 23:46 ID:iDCSEbFg
「と、とにかく攻撃あるのみ!」
矢口の刀は、男のみぞおちを突いた。
「ぐえっ。」
声をあげて、男が倒れる。

「あと二人ッ!!」

──と、矢口は刀を振り上げたまま固まった。
「オ、オイラはか弱い女の子ですよ……。そんな物騒なもの。」
そのまま矢口は二、三歩あとずさる。
脂汗を流しながら、その筋の方の一人が構えたのは短銃だった。
「な、何か聞こえたか?」
「……いいや、分かんねぇ。とりあえずぶっちまえ。」
男たちに見えるわけもなかったが、矢口は両手を挙げた。
「撃つったってどこをだ……。」
「廊下は狭いんだ。見えねぇんなら、廊下中ぶちゃいいんだよ。」
そうだな。と言うと、恐怖と殺気の入り混じった目で、男は狙いを定めた。
「こ、殺される!」
矢口は、身じろぎすらできなかった。

が、次の瞬間矢口はその場で目を閉じた。
……き、きっと大丈夫──。
多分…狙えば狙うほど、あの人はオイラを『無視してしまう』。
108not transparent just invisible:03/02/24 23:48 ID:iDCSEbFg
ボスッ。ボスッ。チューン──。

弾は見事に二発、壁を貫いた。
そして、一発は柱に当たり跳弾が矢口の髪をかすめた。
「………っ!!」
矢口は全速力で奥の床の間に逃げ込んだ。
「ひぃぃぃぃ。怖いよぉ、お母さーん!」

「当たったのか……?」
短銃を持つ男の手は、『意識せずに』壁を向いていた。
「いや、分かんねぇ。逃げたかも知れねぇ。」
廊下からは、さっきの男達の声が聞こえた。
身を竦める矢口をよそに、怖い人達は外へ出て行ったようだった。
「ううぅぅ。……アレ?」
べそをかく矢口の目に床の間の刀が映った。
名刀シメサバ……?
矢口は、自分の手の中の刀を見た。
床の間の刀と恐ろしいほど良く似ている。
「……そういうことか、…えぐっ。」
109not transparent just invisible:03/02/24 23:50 ID:iDCSEbFg
矢口が外に出ると、山田はあぐらをかいて漫画を読んでいた。
無論、コートは赤色になっていたが。

「どこ行ったコラー!出てこいや!!」
怒号が響く中、山田は矢口に気付くと落ち着いて言った。
「おかえり。じゃ、帰ろうか。」
「アホー!めちゃくちゃ怖かったんだかんなー!!」
「いやぁー、それは僕もだよ。いきなり切りかかってくるとは
 思わなかったから。ホラ。」
山田の足元には、10センチ四方ほどのコートの切れ端が落ちていた。

「………。はい。これでしょ、刀。何に使うのさ。」
矢口は、刀を山田に放り投げた。
「おっと。ありがとう!
 いやぁ、一度こんな風に怪盗をやりたかったんだよね。
 スリル満点だったでしょ。」
「……それだけ?それだけの為に死にかけたの、オイラ……。」
「アレ、面白くなかった?ルパンみたいだったでし……グフゥッ。」
言い終わらないうちに、矢口の拳は山田の腹部にめり込んだ。
「コートを剥がないだけありがたいと思ってよ。」
矢口は山田を置いて屋敷を後にした。


〜第6話・not transparent just invisible〜終わり
110エピローグ:03/02/24 23:56 ID:iDCSEbFg
──あっ、それって!!
翌週、矢口は意外な所でシメサバと再会を果たした。
「ふふふ。見事だろ、真里。
 これはな、俺のじいさんが若い頃騙し取られた刀の模造刀なんだ。
 昔話をしたら、気の利く青年がわざわざ作ってくれてな。」
矢口の伯父は自慢気に刀をかざした。
「……模造刀?」
「ホンモノだったらこんな置き物なんて真っ二つさ。」
そう言うと伯父は、木彫りの熊めがけて刀を振り上げた。
「わ、ちょっとたんま!あーー!!」
伯父の家には矢口の叫び声と、二つに分かれた木彫りの熊が残った。


「赤いコートのことは大体分かった。
 でもそれ売ったら大金持ちになれるんじゃない?」
街の中を二つの赤い影がすり抜ける。
「そんなことしたら、みんなにバレちゃうでしょ。
 そんなの全然面白くないからね。
君みたいに僕が見える娘といっしょにバカやるほうが面白いじゃん。」
「オイラつきあわないよ、山田のバカには。
 ……で、結局あんたはホントは誰なのさ?」
「んー、やっぱしそれは言わないでおこ。
 まぁ、山田でも佐藤でも神崎でも
 好きに呼んでくれたらいいよ。ヤグっちゃん。」

最近、矢口はフッと楽屋から消えることが多くなった。
メンバーは、トイレが近くなったのはオバさんの証拠だと言う。

そんなことにはお構いなく、赤いチョウチョは今日も悠々と空を舞っている──。


透明ヤグチ 終わり