42 :
名無し33:
『匣庭の天使像』
43 :
名無し33:03/01/07 03:51 ID:4dEoq4/U
草原だった。
どこまでも続く、果てしなく続く、地平線まで続く草原だった。
彼女、矢口真里は過ぎるほど広大な草原に一人、立っていた。
そもそも自分が何故こんなところに立っているかもわからないというのに、もう一つ、
真里を混乱させるものがある。
「えっと……ドア?」
ドアだけが、青々と茂る草むらの上に立っている。
ぐるぐるとその周囲を回ってみても、やはり、ドアだけだ。
木製で、豪奢なつくりではあるが、特別おかしなところはない……ように見える。
キョロキョロとあたりを見回す。
このドアの他には、何もない。
ただ、草原がどこまでも続いているだけだ。
44 :
名無し33:03/01/07 03:52 ID:4dEoq4/U
「入る……しかないのかな……?」
誰にともなく呟き、ドアノブに手をかける。
深呼吸を一回。
好奇心と不安とで高鳴る胸を落ち着かせ、落ち着かせたつもりになって、ノブを捻る。
ドアの向こう側は、白い部屋だった。
壁紙やカーテン、調度品、ありとあらゆる物が白い部屋。
その中央に置かれているベッド。
その脇に座り込んでいる少女の後姿を見て、真里は思わず叫んでいた。
「辻っ!?」
45 :
名無し33:03/01/07 03:53 ID:4dEoq4/U
「矢口さん……?」
真里の声に反応し、かすれた声で、少女が振り返る。
たしかに、間違いなく、モーニング娘。のメンバー、辻希美だった。
振り返った辻の表情は暗く、腫れたまぶたと充血した目、濡れた頬が、ついさっきまで流していた涙を想起させる。
ここがどこなのか、という疑問よりも、希美が泣いていることの方が真里の頭の中で優先され、口に出たのは、
「どうした? なにがあったの?」
妹を気遣う姉のような声だった。
46 :
名無し33:03/01/07 03:55 ID:4dEoq4/U
部屋に入って希美に近づく。
「なんで泣いてんの?」
口の中までその言葉を作って、飲み込む。
「なっち!?」
ベッドで横たわっている。
安倍なつみ。
寝かされている。
白いワンピースを着て、安倍なつみが、ベッドに眠っていた。
静かに、浅い呼吸で胸を上下させながら。
「なっちが、なんで? 辻、何があったの? どうなってんの!?」
47 :
名無し33:03/01/07 03:55 ID:4dEoq4/U
ベッドに駆け寄り、辻とは逆側に回り、膝をついて、なつみを覗き込む。
どういうわけか、眠っていると言う表情すらない、そう感じる。
「なっちは……」
辻が口を開く。
しかし、何か、迷いがあるように、唇を結んだ。
「黙ってちゃわかんないよ! 何があったの!? てか、ここどこ!?」
頭の中で何かが弾けたように、真里の口からは荒い語気が放たれた。
希美は怯えるように、首を振った。
「気が付いたら、この部屋にいて、なっちが寝てて、さっきまで、あいぼんがいたんだけ
ど……」
込み上げてくる嗚咽を堪えながら喋る希美の声で、真里は冷静になれた。
「加護が? で、どうしたの?」
「矢口さんと里沙ちゃんがいるはずだから探しに行くって、またそのドアから出て行って
……」
「おマメが……他のみんなは? ここにいるの?」
「わかりません……」
「そう……」
どうやら加護亜依、新垣里沙もここに、というか、どこかにいるらしいけれど、あの草
原のどこかにいるって言うのなら、探しに行った加護も迷っているのかもしれない……
分かったことと言えば──
亜依がこの部屋に来ていたこと。
亜依は里沙がここにいる事を知っているということ。
なっちは辻が来た時から眠ったままと言うこと。
他のみんなの行方はわからないということ。
そして──
ドアはもう一つある、ということ。
48 :
名無し33:03/01/07 03:56 ID:4dEoq4/U
真里が入ってきたドアの反対側の壁に、向かい合うように、同じようなドアがある。
「加護は、オイラが入ってきたドアから出てったの?」
「はい……」
「じゃあ、こっちはまだ探してないってこと?」
「……はい」
ひょっとしたら、こっちに誰かいるのかもしれない。
なんの根拠もない、直感とすら言えない、茫洋とした感覚。
草原とは逆の出口。
ただ、それだけの、思いつき。
「辻」
「はい……」
「一人でなっちのこと、見てられる?」
まるで、迷子になった子供みたいな顔。
そんな表情を一瞬だけ見せて、無理やり引っ込める。
それはとても笑顔なんて呼べないけれど、希美に出来る精一杯の笑顔で、
「はいっ」
力強く、頷いた。
真里は、ベッドの上、なつみをまたぐような形で、希美を抱き寄せる。
49 :
名無し33:03/01/07 03:56 ID:4dEoq4/U
「加護かおマメが来たら、ここから出ないように行っておいて。みんなを見つけて戻ってくるから。いい?」
「はい!」
「いい子。辻も成長したね。嬉しいよ」
「矢口さん……」
希美の呟きに、湿っぽい感情が含まれているのを感じ、真里は体を離す。
「じゃ、行ってくるから」
「はい……」
「すぐに、戻るから」
「はい……」
子供を置き去りにするような後ろ暗さを感じながら、真里は扉に向き直る。
その背中に、
「矢口さん……」
「……何?」
「あの、おみやげ、お願いします」
「分かった。いぃ〜っぱいお菓子持って帰ってくる」
振り向いて、いつもの──と、自分では思っている──笑顔を希美に向ける真里。
ドアノブに手をかけた。
ゆっくりと、しかし、はっきりとした意志で、ノブを回す。
50 :
名無し33:03/01/07 03:57 ID:4dEoq4/U
光が、白い光が、真里の視界を、意識を包み込んでいった──
51 :
名無し33:03/01/07 03:58 ID:4dEoq4/U
目を明けると、そこは薄暗い部屋だった……
清潔感はあるが、無機質な天井。それが視界いっぱいに広がっている。
(ここ、どこ……?)
寝かされている、ということは分かるが、なぜ寝かされているのかは分からない。
彼女は、周囲を見回そうと首を動かす。
(痛っ!)
ただそれだけの事で、全身に痛みが走る。
(何? 何なの?)
全身に広がる鈍痛は、重度の筋肉痛に似ている。
しかし、もっと重い、そんな感覚がある。
「先生、目を覚ましました」
(誰?)
不意に聞こえた声に、目だけを動かして、声の主を探す。
視界の端に、白い服を着た女性が立っていた。
清潔感のあるその白い服を、おそらくは誰も他の何かと間違えることはないだろう。
52 :
名無し33:03/01/07 03:59 ID:4dEoq4/U
(看護婦……さん?)
彼女もそれに漏れず、それが看護婦の制服であると言うことを認識する。
わずかな視界の中に、もう一人、白衣を着た人影が入ってくる。
男性医師だった。
おそらく30歳前後、クシすら通していないかのようなボサボサの長髪と無精ヒゲ。およそ医師と言うイメージからはかけ離れた男は、神妙な面持ちで彼女の顔を覗き込む。
「自分の名前を言えますか?」
彼女の手首をとり、脈を計りながら尋ねる声は、予想以上に優しげで、聞いている彼女に安心感を与える。
「……ぐ、ま……」
喋ろうとするが、上手く声を出せない。
まるで初めて、『話すための器官』を使おうとしているような、そんな鈍さを感じる。
「無理しなくていいですよ」
薄い唇に乗せられた笑顔は、声と同様に優しかった。
けれど、彼女はその優しさに甘えることはなかった。
彼女は肺から空気を振り絞る。それはまるで、不自由になった足腰で階段を昇る老人のような作業だ。
「や、ぐち……ま、り」
彼女は、矢口真里は、自分の名前を言うことだけで、これほど疲れたことは生まれて初めてだ、などと心の中で笑った。
それだけの余裕が生まれてきたのか、それとも、何か大切な感覚が麻痺しているのか。
医師と看護婦は、何故か奇妙な表情の顔を見合わせる。
53 :
名無し33:03/01/07 03:59 ID:4dEoq4/U
(オイラ、変なこと言ったかな……?)
二人の態度に不安を感じたが、医師はすぐに笑顔を作り、
「良かった。もう安心ですね」
その優しい笑みを見ていると、真里は自分の体の中から、力が抜けていくのを感じた。
(あれ……? なんか、急に、眠く……)
「まだ無理してはいけない。今は、ゆっくり休みなさい」
(……よくわかんないけど、メチャ疲れた……)
医師の言うままに、必死に保っていた意識の支えを、ゆっくりと外す。
と、ふと、何かが引っかかった。
(あれ、何か、忘れてるような……なんだっけ……?)
意識が深く沈んでいく。
思考が鈍っていく。
思い出せない……
(なんだっけ……えぇと……おみやげ?)
54 :
名無し33:03/01/07 04:00 ID:4dEoq4/U
「名前は矢口真里。1983年1月20日生まれ、山羊座のA型。モーニング娘。のメンバー」
「よく出来ました」
まるで幼稚園児を褒めるような口調で、担当医のタナベが言う。
しかし、それは不快ではなかった。
暖かさと言うか、心地よさを感じる。
55 :
名無し33:03/01/07 04:01 ID:4dEoq4/U
目を覚ました真里の体は、昨日の不調が嘘のように軽くなっていた。
あれからさらに丸一日、眠っていたらしい。
そう、さらに、だ。
あの時、真里が自分の名を名乗ったあの時まで、1週間も目を覚まさなかったらしい。
1週間前、何があったのか、それを告げられた真里は、頭の中身がすべて消えてしまっ
たかのような衝撃を受けた。
「事故……?」
「そう、君たちが乗っていたバスが事故を起こしてね、この病院に収容された」
タナベの声はあくまで平静で、穏やかで、その内容が事実であると言うことを嫌と言う
ほど思い知らされる。
「君達が、てことは、みんなは? みんなは無事なんですか!?」
「この病院に収容されたのは君だけだ」
「……え?」
一瞬、世界が暗転した。
56 :
名無し33:03/01/07 04:03 ID:4dEoq4/U
失いそうになった意識が、かろうじて踏みとどまれたのは、タナベの言葉に続きがあっ
たからだろう。
「いや、安心していいよ。みんな他の病院に運ばれたんだ。ベッドの数の関係でね、一箇
所に収容できなかったんだ。みんな、ケガはしているけれど、命には別状はないそうだ」
「え? あ、ああ、そうですか……良かった……」
「紛らわしい言い方をしてすまないね」
「いえ、良かった……本当に、良かった……」
額に浮き出た冷たい汗を拭おうとして、真里はそこではじめて気がついた。
顔に、何かが張り付いている。
いや、巻きつけてある。
これは……布? 包帯……?
「ああ、事故のときにね、顔にケガを負ったんだよ。けれど、一生消えないと言うわけじ
ゃない。多少の痕は残るかもしれないけれど、気にならない程度だよ」
「そう、ですか……」
なんというか、その穏やかな口調と、用意されたようなセリフが、突然、不安を感じさ
せた。
自分が出した声が、まるで他人のもののように聞こえる。
「さあ、もう休んだ方がいい。体力を取り戻さないと、仕事への復帰が遅れるからね」
「はい……」
ベッドに寝かされると、途端に眠気が這い上がってくる。
そんなに疲れていたんだろうか……?
やっぱり、体力が戻ってないからか……
「先生……みんなとは、いつ会えますか……?」
「まずは、君の体力が快復してからだ。それから、みんなの体調のことも考えて、調整するよ」
「……はい」
急速に訪れた睡魔が、まぶたを落とす。
眠い……
57 :
名無し33:03/01/07 04:03 ID:4dEoq4/U
「あれ?」
間の抜けた自分の声で、真里は目を覚ました。
何か、夢を見ていたようだったが、思いだせない。
時計に目をやると、デジタル時計の文字盤は午前4時30分を刺していた。
「まだこんな時間……」
昼間のうちに深く寝てしまったためか、すっかり目を覚ましてしまった。
目を閉じても、ちっとも眠れる気がしない。
ふう、と溜息をついて、
「喉渇いたな……」
目をあける。
ベッドを降りて、スリッパを履く。
立とうとすると、うまく力が入らず、よろける。
ベッドに手をついて体を支えて、何とか両足に力を込める。
立てた。
リハビリって大変そうだな、と思っていたが、その心配もなさそうだ。
久しぶりに立ち上がったせいか、景色が違って見える。
目線が高くなったような気になる。
58 :
名無し33:03/01/07 04:05 ID:4dEoq4/U
壁に手をついて体を支えながら、真里は病室を出た。
蛍光灯はまだついてはおらず、非常等だけが薄暗く廊下を照らしていた。
(やっぱ、やめようかな……)
ただでさえ暗い廊下、しかもここは病院の廊下だ。
テレビで心霊特集なんか組むと、必ず一つは病院が舞台になっている。
そのことを意識してしまった真里は、
(やっぱやめとこ。朝までガマンしよ……)
そう思って引き返そうと思った真里の目に、その言葉を思い浮かべるだけでも嫌なもの
が映った、気がした。
白い、影が、窓に──
「って、オイラが映ってるだけじゃん……」
出たのかと思った、と、かろうじて“それ”の名前を思い浮かべなかった。
顔中に包帯が巻かれているおかげで、窓に映りこんだその姿は、ちょっとした恐怖映像
だ。
59 :
名無し33:03/01/07 04:06 ID:4dEoq4/U
そういえば、病室のガラスは曇りガラスだった。鏡は置かれてないし、テレビや何かを
反射するもの、姿が映りこむものは一切、病室に置かれていなかった。
それも、あのタナベ医師の心遣いなんだろうか。
こうやって包帯に巻かれた姿を見ると、嫌でも自分の顔にケガがある事を自覚させられ
る。
(……)
純粋な好奇心と言うのは、その後訪れる善悪や幸不幸なんてものには、全く無頓着に湧
き上がってくる。
包帯の端を探し当て、するすると解いていく。
生唾を飲み込みながら、心臓が何かの警報のように、体の内側をたたいている。
意外なほど簡単に、包帯は滑り落ちた。
その下から出てきた顔には、
「な……なにこれ……」
傷なんて一つもなかった。
「どう言うこと……?」
震える声は、まるで別人の声のように……いや、それは真実、別人の声。
「なんで……なんで、オイラがなっちになってるのっ!?」
ガラスの前の真里と同じ表情で、ガラスに映りこんだなつみが、悲鳴をあげた。
60 :
名無し33:03/01/07 04:13 ID:4dEoq4/U
とりあえず1回目。
改行の位置がばらついてたりして読みにくいと思うが、
がまんしてくれ(ワラ
ということで、サスペンスだか、ミステリだか、SFだか、オカルトだか、
なんだかわからん話になると思うが、暇人集まれ〜って感じで(ワラ
一回の更新でこれだけレス数を上げることも、もう2度とあるまい(ワラ
61 :
名無し33:03/01/07 15:45 ID:kKDM+lpO
>>58の「非常等」→「非常灯」
やっぱり眠い時に読み返しても意味ねぇな(ワラ
ワラいすぎ(ワラ
総合スレに報告してもいいかい?
63 :
(^¥^):03/01/07 19:16 ID:gFpX+fa3
(^¥^)
64 :
test:03/01/07 22:12 ID:X0SdSFOj
test
65 :
test:03/01/07 22:17 ID:X0SdSFOj
test
66 :
test:03/01/07 22:42 ID:kqz4pNQ6
test
67 :
test:03/01/07 22:53 ID:kqz4pNQ6
test
68 :
test:03/01/07 23:06 ID:hqDaReFi
test
69 :
test:03/01/07 23:31 ID:hqDaReFi
test
70 :
test:03/01/08 00:06 ID:+ye+z4Bs
test
71 :
test:03/01/08 00:23 ID:+ye+z4Bs
test
72 :
test:03/01/08 00:44 ID:OnmoIacd
test
73 :
test:03/01/08 01:13 ID:OnmoIacd
test
74 :
名無し33:03/01/08 01:14 ID:WvR4wxSe
>>62 ワラってごまかさせてくれ。
報告すると何かあるのか・・・?
まあ、いいけど(適当
ではmその辺はよろすく。
しかし、testに使われるとはな・・・いいけど。
ちなみにタナベのモデルは田辺誠一でよろしくよっすぃー(ワラ
75 :
test:03/01/08 09:09 ID:OnmoIacd
test
76 :
test:03/01/08 09:20 ID:6RzYArP7
test
77 :
test:03/01/08 13:39 ID:6RzYArP7
test
78 :
test:03/01/08 14:06 ID:TiXKsx5O
test
>>74 報告すると読者が増えるよ。
もう1000近いから新スレ立ったら報告するわ。
80 :
test:03/01/08 22:00 ID:TiXKsx5O
test
81 :
test:03/01/08 22:54 ID:TiXKsx5O
test
82 :
test:03/01/08 23:04 ID:TacuKoZ3
test
83 :
test:03/01/08 23:43 ID:EbD8e/e/
test
84 :
test:03/01/09 00:03 ID:N8b5QGSb
test
85 :
test:03/01/09 00:32 ID:N8b5QGSb
test
88 :
山崎渉:03/01/10 04:41 ID:wKQQgnQA
(^^)
テスト
テスト2回目
91 :
山崎渉:03/01/10 17:01 ID:AxT7Ounl
(^^)
保全
保
94 :
名無し33:03/01/13 19:00 ID:e71jKYao
くそう!
せっかく書いた2話目がエラーで消えちまった・・・
書き直してるんで、まあ、今夜中には上げて見せよう・・・たぶん
鬱だなぁ・・・
ちなみに1話目のサブタイ『寓話。』でよろしく
95 :
test:03/01/13 20:03 ID:0tBdC8Z7
test
96 :
名無し33:03/01/13 20:30 ID:e71jKYao
矢 口「これってオイラが主役なんだか、なっちが主役なんだかわかんないよね」
安 倍「そうだね……体がなっちで意識は矢口でしょ、ややこしいよね」
矢 口「演じる方の身にもなれっての」
安 倍「演じてるのはなっちだけどね」
矢 口「ま、まあ、そうだけどさ……それより、辻がちゃんと喋ってたのは笑ったよね」
安 倍「そうそう、ののもちゃんと喋ろうと思えばできるじゃん」
辻 「へいっ! つぃももう大人れす! ……あえ?」
矢&安「話の中だけかよ……」
次回『Way Out』
.kir.jp
「安倍さんっ!?」
不意に真里の耳に届く声。
目覚めた彼女が最初に見た看護婦、ウエハラだった。
(何? なに言ってんの? アベサンって何?)
ウエハラの口から出た、その言葉の意味が、いや、言葉そのものを理解することが出来なかった。
巡回の途中だったらしく、手にしていたライトを向けてくる。
光から逃げる小動物のように、真里は走り出す。
「安倍さん!!」
まただ。
また別の名前で真里を呼ぶ。
耳をふさぐ。
この世界の全ての音を聞きたくなかった。
逃げたい。
どこでもいい。
ここじゃないどこかへ行きたい。どこでもいいから、ここではない場所へ──
どこをどう走ったのか、気がついたら屋上に立っていた。
荒い息が、自分のものじゃないように聞こえて、また呼吸を乱す。
そんなわけはない。
(これはオイラの声だ。オイラの息だ。オイラの体だ。オイラの、オイラの、オイラの、
オイラの、オイラの──)
そんなわけはないはずだ。
(夢……そうだ、夢! そうに決まってるっ)
こんなことが現実であるわけがない。
いつの間にか流れていた涙が、まるで水をかぶったように頬を濡らしている。
春とは言え、冷たい夜風が頬から熱を奪っていく。
夜風は、思考に張り付いていた混乱と言う熱も奪っていってくれたようで、少しだけ、
思考を落ち着けさせてくれる。
「ここにいたのか……」
不意に背後から投げかけられた声に、真里は弾かれるようにして振り返った。
薄暗がりの屋上の扉あたりに立っているのは、タナベだった。
異常なほどに明るい月と星の明かりが、ゆっくりとその姿を浮かび上がらせる。
「来ないでっ!」
悲痛ささえ感じさせる拒絶の悲鳴は、タナベの足を止める。
立ち止まったタナベは、自分を落ち着かせるように深呼吸とも溜息ともつかない息を吐
き出し、
「落ち着いて、僕の話を聞いてくれないか?」
「聞きたくないっ!」
きっと聞きたくない話しかしてくれない。
自分にとって都合の悪い言葉しか並べられないような気がして、それを拒否する。
「頼む、この通りだ。話をさせてほしい」
頭を深く下げて、タナベは懇願するように、はっきりとした声で言った。
そこには真里を騙そうとか、言いくるめようとか言うものは感じられない。
「なんで、なんでオイラがなっちになってるの!?」
タナベはゆっくりと顔を上げると、
「言い難い事だが、まず、君に言っておくことがある……」
罪悪感のような感情がこめられたタナベの声は、真里の不安を加速させる。
「事故で助かったのは、君だけだ……」
世界が、歪んだ。
膝から下がなくなってしまったように、力が抜ける。崩れ落ちる。
「安倍さん!?」
「来ないでっ!!」
頭が痛い。
誰かが頭の中で叫んでいるように、痛い。
失いそうになった意識を振り絞って、叫ぶ。
倒れそうになる上半身を、今にも折れそうな両腕で支える。
「……続けて……」
「あ、ああ……」
真里の消え入りそうな声。しかし、鬼気迫る声に気圧されたように、タナベは続けた。
「君は憶えてない……というか、知らないと言った方が正確なんだろうけど、この事は、一度、君に伝えているんだ」
頭が痛い。
何を言っているのか良く分からない。
真里の混乱に気付かず、タナベはさらに続ける。
「これを聞いた君は意識を失い、次に目覚めた時、自分は矢口真里だと名乗った……」
頭が痛い。
「そんなわけ、ない! オイラは、小さい頃の思い出とか、ちゃんとあるもんっ! 小学生の頃の友達とか、中学の頃なにやって遊んだとか、娘。に入ってからのこととか、全部憶えてる! オイラは矢口真里だ!」
「本当に、そうかい? 矢口さんから聞いた事を、自分の記憶として摩り替えてるんじゃないか? 聞いたり見たりした事を、自分がやったことのように摩り替えることというのは、それほど珍しいことじゃない」
頭が痛い。
(……)
タナベの言葉に反論する知識も言葉も、気力すらもなく、真里はうなだれる。
(……、……)
耳鳴りがする。
「君は、安倍なつみさんだ」
タナベの声が、遠く聞こえる。
頭が痛い。
(……っ)
頭痛がひどくなってきている。
(……!!)
両手で頭を抱え込む。
(矢口さんっ!!)
白い、部屋だった。
草原の真ん中に立っていたドアをあけて入った、あの白い部屋に、真里は立っていた。
「あれ?」
「あれ、じゃないですよぉ」
出て行ったときと同じように、希美がベッドの脇に座っている。
そのベッドには、前と同じようになつみが横たわっていた。
けれど、前とは違うところが、ある。
「加護!? あんたどこ行ってたの!?」
ベッドの脇に座る希美の隣に、加護亜依が座っていた。
亜依は希美と顔を見合わせて笑い、
「矢口さん、それ前も言った」
「前?」
憶えていない。
てゆうか、前って……?
「憶えてないんですか? おばちゃん通り越しておばあちゃんになって、ぼけちゃったの
ぉ?」
「うっさいなぁ、もう! ……でも、良かった。うん」
亜依の無事な姿を見て、起こる事を忘れる。
「それで、おマメは?」
聞くだけ無駄と言うものだろう。
亜依と希美が顔を見合わせて、暗い表情を作る。
「まだ見つかってないんだ……ほかのみんなも?」
『みんな』という言葉に、目が眩むような感覚を覚えたが、それがどうしてか分からな
かった。
「はい……ひょっとしたら、そっちのドアの向こう側にいるかもしれないです。そっちは
開けられなかったんで」
「開けられない?」
「はい」
亜依はドアノブに手をかけ、ガチャガチャと回す。
かなり乱暴に押したり引いたりするけれど、微動だにしない。
まるで壁と一体化したみたいだ。
「あれ? おっかしいなぁ……前は開いたのに」
「それも前言いましたよ」
「え? ん〜……」
『前』ということについてあまり深く考えない方がいいかも知れない。
考える振りをしながら、真里はドアの前に立った。
別に、これと言っておかしなところはない。
ガチャリ、と、ノブを回す。
それほど力を入れずに押す。
すんなりと、意外なほど軽く、ドアが開く。
(なんだ、開くじゃん)
『外』からは、目も眩むような白い光が、差し込んでくる。
自分が全く知らない場所に立っていることに気付いたのは、突然だった。
真里は反射的に周囲をキョロキョロと見回す。
自然のものとは思えない緑が、広がっている。
良く手入れされた木々が立ち並ぶ、その向こうには、白い壁があった。
よくよく見れば、それはおそらく病棟で、白い壁は庭園を囲む形で四方に立っている。
四方を壁に囲まれて、うそ臭く、作られたものだと一目でわかる緑は、まるで匣庭を思
わせる。
建物に囲まれているとは思えないくらい明るくて、陽の光が暖かい。
思わず伸びをして、ふと、気付く。
意外なほど平静な真里は、知らないうちに知らない場所に立っている自分と、もう一つ
の異変に気付いた。
屋上にいたのは、まだ陽が昇らぬ時間だったはずだ。
だが今は、もうずいぶんと陽が高くなっている。昼くらいだろうか。
わけがわからないというのに、ずいぶんと落ち着いていられる自分が不思議だった。
(まあ、いいか)
どこか開き直りにも似た感情で、真里は疑問をどこかその辺の草むらに捨てて、歩き出
す。
どうやらそこは病院の中庭らしく、想像以上に緑に溢れ、ちょっとした公園くらいの広さがあった。
こんなにいい天気だと言うのに、誰も見当たらないのは、今は外出していい時間じゃないとか、昼食の時間とか、きっとそんなところなんだろう。
しばらく歩くと、水の音が聞こえてきた。
訳もなく引き寄せられるようにその水音に近づくと、開けた場所に出る。
その中央に、噴水。水音の源はここだ。
噴水の中央の台には、像が建てられている。
よく見る小便小僧や水瓶を抱えた像ではなく、掌に鳥を乗せた女性像だ。女性の背にも鳥のような羽があることから、それが天使像であろうと想像できる。
匣庭の天使像──
「ここにいたのか」
不意にかけられた声に振り返る。
前にも聞いたセリフだな、と真里が微笑むと、前にも同じ言葉をかけた人物が、立っていた。
真里の笑顔をどう取ったのか、タナベは苦笑するように表情をゆがめ、
「あまり一人で出歩くのは感心しないな……」
近づいてくる。
その表情が可笑しくて、真里は微笑を向けたままタナベの顔を見つめる。
その微笑が凍りつくのは、次のタナベのセリフが原因だった。
「さ、病室の戻ろうか……新垣さん」
安 倍「なに? なっち、おマメまでやんの?」
矢 口「大変だね、なっち」
安 倍「でも、意識はまた矢口だね」
矢 口「そだね……」
安 倍「作者はナチマリマンセーな人なの?」
加 護「カオマリマンセーな人らしーです」
矢&安「カンケーないじゃん……」
次回『荊』
更新乙です
なちのの、なちまりマンセーの人かと…
なっちってどうなっちゃったんですか?
また改行メチャメチャだ・・・スマソ
ちなみに言うまでもないが、看護婦ウエハラは上原多香子で(ワラ
これくらいの量を更新できれば、週一か十一くらいで良いだろうか・・・?
はい。そのくらいが丁度いいと思います。
作者さんのペースにお任せします。更新頑張って下さい。
test
t
e
e
test
117 :
あげ:03/01/17 17:36 ID:7FwH2/LS
あげ
(^$^)
ユニークな保全だなw
120 :
名無し:03/01/19 16:01 ID:r0U7tqJb
保全
>>109 まあ、そう思われても仕方ない展開だったわけで・・・
どうなってるかは、これからのお楽しみ(ワラ
>>111 じゃあ、そのくらいのペースで。
って、守れるかどうかは漏れ次第(ワラ
・・・いや、書けよっ
>>121 週11・・・そんなペースで書いてみてぇ・・・
週に11レス付けてけばいいのか・・・なら何とかなるか(ワラ
そろそろ1週間だから、更新しないとなぁ
というわけで、今日明日中には更新予定・・・
いろんな保全ありがとう(ワラ
更新楽しみに待ってます♪
スマソ
更新できそうにない・・・
今週中って事にしてくれさい
>>123 楽しみにしてたのに申し訳ねぇ
>>124 サンクヌ
126 :
名無し:03/01/26 14:07 ID:EpZnho9/
保全するぜぇ!
言い訳はしない!
横アリは楽しかった、とだけ言っておこう(ワラ
・・・スマソ
128 :
山崎渉:03/01/28 14:03 ID:qb5eKxgn
∧_∧
ピュ.ー ( ^^ ) <これからも僕を応援して下さいね(^^)。
=〔~∪ ̄ ̄〕
= ◎――◎ 山崎渉
第3回 『荊』
屋上での一件から、すでに3日が経っているそうだ。
病室に戻った真里は、タナベからそう説明を受けている。
事態は真里の理解どころか、想像の範疇さえも大きく逸脱してしまっている。
自分の体がなつみであることは理解できる。それは動かしようのない事実。
けれど、真里は自分の事を矢口真里だとしか認識していない。出来ていない。
他の何者でもない、『モーニング娘。』の矢口真里だ。
そして、もう一人、というのが正確なのかはわからないが、真里以外にもなつみの体で
ありながら、別の名前の持主がいるらしい。
屋上で意識を失った瞬間から、新垣里沙を名乗っていた。
全くもって意味不明な状況だ。理解不能な展開だ。
なつみの体、真里と里沙の意識、そして──
(なんだっけ? 大切な事を忘れてるような……?)
何かが引っかかるけれど、それが何かはっきりと思い出せない。
忘れている何かを思い出そうとして、顔をしかめていると、病室の扉がノックされた。
「あ、はいっ」
反射的に返事をすると、思い出そうとしていたことはとりあえず頭の奥の方に引っ込め
る。
「失礼しまーす」
扉を開けて入ってきたのは、30代後半くらいの、清潔感のある白衣を着た女医。決し
て美人とは言えないが、愛嬌があり、好感の持てる顔立ちだ。
その後ろからタナベが入ってくる。
何事か、と真里がぽかん、と口を開けていると、
「精神科医のムロイです。今日からあなたの担当になりました」
「精神科医……?」
「ええ、あなたの治療に……」
「オイラをなっちに戻すためですか……」
どこか諦めにも聞こえる、絶望の混じった声色で、呟く。
なつみに戻る、ということは、つまり、『矢口真里』は消えてなくなるわけだ。
それを、『死』とは呼べないだろうか……?
自分が死ぬ事を進んでやるだなんてことは、正気の沙汰とは思えない。
思いつめた表情の真里に、
「そうしなければ、日常生活に支障が出る場合もある。この間のように、突然意識を失っ
て、気がつけば別の場所にいる、なんてことが起こる可能性もある」
タナベが、気を使っているつもりなのか、そんなことを言うが、まるっきりなんの慰め
にもなっていない。
「だから……」
「勘違いしないで」
タナベの言葉を遮って、ムロイが口を開く。
唇には、優しい笑みを乗せながら。
「勘違い?」
「そう、あなたは勘違いしてる。私はね、安倍なつみさんの治療をしに来たんじゃない。
あなたを治療しに来たのよ、矢口真里さん」
「え?」
「あなたの心を治療することが、私の仕事」
ぐらついていた自分と言うものが、ようやくどこか落ち着ける場所にたどり着いたよう
な、そんな安心感と安定感が、その声には確かに、あった。
自分と言うものを、矢口真里という人格を、認められた。
安倍なつみが生み出したのかもしれないが、矢口真里という人格を、一人の人間として
初めて、認められた。
涙が、頬を、伝う。
それは衝撃ではなく、抱擁。
包み込まれるような、感動。
生まれて初めて憶えるような感動が、真里を思考を包み込み、停滞させた。
ベッドのすぐ隣で、タナベとムロイが言葉を交わしているような気配があるが、そんな
こと、意識できない。
真里は、ただ、泣く事でしか感情を表現することが出来なかった。
ムロイが担当医になってから、5日経っていた。
相変わらず、真里は真里のままで、いくつかの心理テストを受けたり、カウンセリング
を受けていた。
はっきり言ってしまえば、これを受けることによって、何が治療されていくのか分から
なかったが、安倍なつみではなく、矢口真里を治療すると言うムロイの言葉を信じて、訳
のわからない図形を見たり、箱庭遊びみたいなことをしたり、意味不明な質問をされたり
して、いつの間にか時間が過ぎていた、という感じだ。
その間、外の情報を手に入れることが出来なかったのは、真里を不安にさせた。
治療の邪魔になるから、ということで、テレビや新聞、週刊誌やラジオなどを一切禁じ
られていた。というより、病室はもちろん、病棟のどこにも置かれていなかったので、禁
じるどころの話ではなく、そこまで徹底されると、もう、諦めるしかない。
外の情報はタナベやムロイ達の口から伝えられるものしかなく、どれほどまでが信じら
れるのか分からない。
プロデューサーのつんく♂やマネージャー、事務所の社員にスタッフ、そしてハロプロ
のメンバーは、どうしているだろうか……
それに、
(お父さんとお母さん、心配してるだろうなぁ……)
そう考えて、顔をゆがめる。
苦痛に耐えるように、うずくまる。
両親に心配をかけていることへの罪悪感ではなく、
(誰の親に心配かけてるんだろ……)
思い浮かべた親の顔は、矢口真里の両親。
しかし、この体は安倍なつみのものではないか。
そう思い至ると、真里は自虐的に笑った。
なつみの頬を、涙に濡らして──
コツコツコツ、と、硬い音が廊下に響いている。
書類を抱いたムロイが、薄暗い廊下を歩いている。
その表情は、夜よりも暗く、まるで罪に耐えかねる罪人のようだった。
キィキィ、と金属がこすれあう音が、ムロイの耳を刺激する。
音の正体を悟り、不快感をあらわにする。
視線の先には、車椅子に乗った白衣の青年が、唇を嘲るような形に歪ませていた。
「ドクター・フクヤマ……」
ムロイの呟きは、彼に対する心象を表すに十分な響きを持っていた。
軽蔑、というのが一番近いのだろう。
真里に対するものを考えると、信じられないくらいに、乾く、冷めた声だった。
しかし、フクヤマはそれを全く意に介さず、ムロイに近づいた。
「どうですか、彼女らは?」
「順調、ということになりますね、あなた方からすれば」
ムロイのその答えに、フクヤマは、ふふ、と笑い、
「まるで他人事のようですね」
舌打ちしそうになるのを堪えるので必死、というムロイの表情を可笑しそうに見て、彼
女に向かって手を差し出す。掌は上に向けられている。
ムロイは何も言わずに、胸に抱えていた書類を差し出した。
それを開いたフクヤマが、満足そうに頷きながら、微笑んだ。
「ニイガキリサが予想以上に早く、表層に出てますね……やはりヤグチマリで安定してい
ますか」
「辻さんと加護さんは深層から出てこないのも、安倍さんが目覚めないのも、全て予想通
り、ですか」
ムロイの言葉に、フクヤマの唇が、歪んだ。
いや、満足げだった笑みが、人を嘲る形に戻った、というべきか。
「安倍さん、ね」
「何か?」
「いえ。まあ、予定通り、ですね。これからも、よろしくお願いしますよ」
不快極まりない、という表情で差し出された書類を受け取ったムロイは、返事もせずに
フクヤマの脇を通り抜ける。
「あ、そうそう、もう一方の彼女らの方は、どうなってます?」
今、思い出した、というよりは、わざわざこのタイミングを見計らったような言いよう
は、ムロイの神経を逆なでする。
それでも、ムロイはきわめて事務的に、応える。
「いまだに、目覚める様子はありません」
「そうですか……そろそろ、目覚める頃合でしょうから、気をつけておいて下さいね」
キィキィと車輪の回る音が、静寂を侵食する。
その音が、まるで彼の存在の一部であるように、ムロイは耳に残るその音を、消し去って
しまいたかった。
しかしそれは、決してはがれることなく、彼女の頭蓋骨の裏に張り付いて、不快感を加
速させた。
安 倍「ムロイは室井滋さんだって」
矢 口「心療内科医・涼子のイメージね」
安 倍「フクヤマは福山雅治さんなんだって」
矢 口「古畑任三郎に犯人役で出てたときのイメージだって」
安 倍「そのうち中居君とかも出てくるんじゃない? 白い影ん時の」
紺 野「あれは見てないから出さない、だそうです」
安&矢「そんな理由かよ……」
矢 口「……え? 紺野?」
次回『雲路の果て』
待たせたな!
って、何で偉そうやねん!
・・・はっきり言って、スマソ
以降、気をつけるよ・・・
更新乙です。なっちは15役する事になるのかなぁ〜
(●´ー`)<なっち大変だべさ
室井滋キターーーーーーーーーーーーーー!!!!
>>139はAA使った方が効果的と思われ。
143 :
ななし:03/01/31 20:03 ID:ui0H2xr5
(^\^)
144 :
名無し:03/02/02 20:51 ID:acadkZD5
ほ
↑お願いします♪保全
147 :
名無し募集中。。。:03/02/06 10:53 ID:nSrOKJiU
(^&^)
おもしろいね。これからが楽しみです。
俺はなちヲタだから、なっち本人に早く出てもらいたいです。
保全するぜぇ!!
作者は嫌いだけど小説はおもしろいから早く更新してくれ!!
そろそろ更新しなきゃな・・・
もう少し待っとくれ スマソ・・・
>>141 なっちは・・・まあ、見てて(ワラ
>>142 AAでやろうかとも思ったけど、セリフずれるからなぁ、と思ってね・・・
まあ、次は試してみるよ
>>145 矢口の身長番オメ(ワラ
そういう事をやってくれる人がいると嬉しいので、今後ともよろしく
>>148 なっちは・・・ええと・・・
まあ、読んでて(ワラ
>>150 おお! こういう発言はかなり好きだぞ!
おまいさんからしたらかなり不本意だろうけど(ワラ
もうちょっと時間をくれさい・・・
第4回『雲路の果て』
視界を覆うほど鬱蒼と茂る木々。
葉の間を縫って射す光。
どうやら自分が森の中にいることだけはわかる。
けれど……
(どうなってんの……?)
彼女、吉澤ひとみは、自分の置かれている状況を全くの見込めなかった。
茫然自失。
あまりにもおかしな風景は、彼女から思考力を奪い取る。
前後の記憶が全くない。
周囲を見回しても、あるのは視界を邪魔するようにそびえる木々ばかりだ。
「なんなの……?」
呟いてみても、返ってくる答えはない。
聞こえるのは自分の声と、不安で荒くなった呼吸だけ。
耳鳴りがするほどの静寂が、森の中に満ちている。
……
いや、何か聞こえた。
耳を澄ましてみる。
……ぁ……のぉ……
確かに聞こえた。
人の声、しかも、聞き覚えがある人物の声。
普段は耳障りにさえ思うこともある、少し高すぎる感のある声。
その人物は──
「梨華ちゃんっ!?」
ひとみは彼女の名を力いっぱい叫んだ。
……よっすぃーっ……
応えた!
間違いない。
同じモーニング娘。のメンバー、石川梨華だ。
「梨華ちゃん、どこーっ!?」
……よっすぃーこそ、どこ……
声のした方に足を向ける。
よく考えれば、目印もない場所でどこにいるのか聞いたところで無意味なこと。
声のした方に、したと思う方に歩いていくしかない。
それで間違っていたら、なんてこと、この時のひとみは全く考えていなかった。考える余裕がなかったというのが、正確なところだが。
「梨華ちゃ〜ん!」
声を上げる。
返事を待つ。
……よっすぃー!
さっきより近くなった気がする。近くなっている。
「梨華ちゃ〜んっ!」
もう一度、彼女の名を呼ぶ。
向こうが見つけてくれるかもしれない。
「……よっすぃー……」
さっきよりも、はっきりと聞き取れた。
かなり近いはず。
もう一度、声を出そうとして、空気を肺に吸い込む。
「梨……」
「よっすぃー!」
「……華、はぁっ!?」
背中に衝突してくる柔らかな物体。
肺に溜め込んだ空気が一気に吐き出される。
完全な不意打ち。その衝撃に耐え切れず、前のめりに倒れる。
「いったぁ……」
「よっすぃー!」
倒れてもなお、抱きついているのは、捜し求めていた人だった。
だが、ようやく出会えたことに喜ぶよりも、
「梨華ちゃん……痛いし重い」
不満の方が先に出て、喜びなんてものは奥に引っ込んでしまった。
「だってだってぇ……」
「だってじゃなくって、とにかくどいて!」
甘えた声でまとまりつく梨華を、払いのけるようにして立ち上がる。
渋々、といった感じで、梨華は体を離す。
心細かったのはひとみも同じだが、だからと言って背中にタックルを食らわすのは
どうかと思う。
「よっすぃー、ごめんね……」
「……うん、いいよ」
背中はまだ、痛いけれど。
ともかく、知らない場所で、知っている顔を見られるというのは、心強いものだ。
「ここ、どこ……?」
梨華が問い掛ける。彼女も、どうして自分がここにいるのか、わかっていない様子だ。
これでは、事態の解決には至らない。
「あたしだってわかんないよ」
力なく、答える。
「どうしよう……」
「……」
ひとみは、梨華の問いに対する答えなんて持っていなかった。
どうしていいか分からない。どうするのがいいのか、わからない。
一人でなくなっただけまし、とも考えられるが、梨華の表情を見ていると、不安が2倍
になった、とも感じられてしまう。
見上げても見回しても、見えるのは木と木漏れ日。
どこへ向かうべきなのか分からない。
いったんは立ち上がったひとみだが、すぐにまた腰をおろす。下は土だけど、そんなこ
と気にならなかった。
立っていることさえ不安だった。
そんなひとみに、梨華が不安そうな顔を向ける。
その表情と同じく、不安を訴えようと開かれた梨華の口はしかし、別の言葉を出すこと
になる。
(……)
「今、何か聞こえなかった?」
「え?」
梨華が不思議そうな顔であたりをうかがう。
それに倣ってひとみも耳を澄ます。
(……)
「ほんとだ……声、だよね?」
ひとみの言葉に、頷く梨華。
たしかに、誰かの声が聞こえた。
誰か、いや、この声は聞き覚えがある。
よく知っている、あの人の声。
「飯田さん、だよね……?」
梨華がその名を口にする。
「うん、そうだった」
モーニング娘。のリーダー、飯田圭織。彼女の声だった。少なくとも、二人にはそう聞
こえた。
「こっちだって……」
「うん、言ってた」
一瞬しか聞こえなかった声。
ぼんやりとしか聞こえなかったが、二人にはその意思がはっきりと感じ取れた。
「行こう、梨華ちゃん」
「うん!」
立ち上がり、梨華の手を取るひとみ。
さっきまでの不安は、嘘のように消えてなくなっている。
それを不思議と感じることもなく、二人は歩き出す。
それが森の奥か外かは分からないけれど、進む方向には確信を抱いていた。
リーダーの言葉だから。
おそらくはそれだけではないのだが、二人がそれを気に留める様子はない。
はあはあと荒い息を吐きながら、愛は森の中を歩いていた。
「まるっきし、世話の焼けるんだからの」
思わず故郷の言葉が出た彼女のその背には、同期の小川麻琴が眠っている。気を失って
いる、という表現がより正確だ。
いかに小川がスレンダーな体型とは言え、同年代の女の子一人を背負って、しかも足場
の悪い森の中を歩くのは、運動に慣れている愛でもかなりの重労働だ。
けれど、それももうすぐ終わる。
愛の向かう先に、ドアが立っていた。
森の中に、突然立っているドア。
お伽話に出てくるように、大木にドアがついているわけじゃあなく、ドアだけがそこに
ある。
愛はドアの前で麻琴を背負い直し、ドアに向かって、
「保田さぁん! 戻りました〜!」
声をかける。
しばらくすると、ドアが中から開いた。
それに応え、中から出てきたのは、モーニング娘。サブリーダー、保田圭だった。
「おかえり。あ、小川が見付かったんだ」
「はい。寝とるけど」
「そっか。ま、とにかく入んな」
圭はドアを抑えながら愛を促す。ども、と礼を言って中に入る愛。
森の中にはドアしかないのだが、しかし、ドアの向こう側は森ではなく、青い部屋だっ
た。青空の青で塗られた部屋。
部屋の中央には、ベッドが置かれている。
そこには──
規則正しく胸を上下させている、飯田圭織が、眠っていた。
( `.∀´) 「あんたの福井訛りはあってんの?」
川’ー’川 「福井弁のサイトで調べたらしいです」
( `.∀´) 「方言は書けてもアクセントが表現できないのが辛いとこよね」
川’ー’川 「でも、訛りは抜けとるよ」
(;`.∀´) 「いいわね、そういうキャラが出来てて」
∬;´◇`;∬ 「セリフ、ヒトコトモナカッタヨ・・・・・・」
(;`.∀´)川;’ー’川「・・・・・・」
次回『樹海の糸』
とりあえず今回はここまで。
やっぱりAA使うとずれるなぁ・・・
更新乙です
おしごと取られちゃいましたね…
でも私のよりずっと分かりやすいので、活用させていただきます。
更新乙です。もしかしてかおりんも…
次の更新も楽しみにしてますね♪
>>164 あ、いつもの人と違うのか。
まあ、ともかく、サンクヌ
>>165 で、こっちの方がいつもの人。
いつもアリガトさん。今後ともよろしく
>>166 かおりんも・・・実は・・・
これからの続きを見てくれ(ワラ
第4回『雲路の果て』
ま、間違えた・・・鬱
本当はこっち
第5回『樹海の糸』
「飯田さんは、眠ったままですか?」
愛は小川を下ろしながら、圭に問うた。
ベッドは圭織が占領しているので、部屋の隅にあるソファに寝かせている。
「ん〜、さっき一回起きてなんかやってたみたいだけど、やっぱり圭織じゃないとダメだ
からね」
ドアを閉めた圭が、愛の問いに答えた。
愛はソファの、麻琴のそばに腰を下ろして、ふう、と溜息をつく。落胆の溜息。
「でも、いい知らせもあるのよ」
「なんですか?」
圭の微笑みに、期待で顔が綻ぶ。
「紺野が見付かったの」
「ほんとですか!?」
「うん。ただし、あっち側、だけどね」
圭はそう言って、困ったような表情で腕を組み、顎をしゃくる。
その先に目をやる愛。
愛が入ってきたドアと向かい合うように、それがまるで当然だと主張しているような雰
囲気さえ感じさせる、木製のドア。
青い部屋に、対になるように、向かい合うドアの片割れ。
圭はその先を指している。それが何を意味するものか、愛は理解できているつもりだ。
「事情は圭織が説明しておいたらしいから、あっち側のことは、当分、紺野に任せるしか
ないね」
「大丈夫やろか、あさ美ちゃん……」
不安そうに呟く愛。
同期の中では、一番おっとりしていて、テンポも遅くって、ちょっと、いや、かなりズ
レてて……そんな紺野に任せて大丈夫だろうか、という不安と、彼女自身の事を心配して
の思いが込められている。
そんな愛に、
「ぼーっとして見えても、頭のいい子だから、何とかしてくれるでしょ」
圭は励ますように、声をかけた。それは、愛のためだけでなく、自分に言い聞かすため
でもあったのだが。
圭の言葉を聞いても、愛はまるで、その向こう側を見るような目で、ドアを見つめたま
まだった。
「私たちは、待ってるしかないんですね」
「……そうね。信じて、待つしかないのね」
できることなら、今すぐ変わってやりたい。
圭の声にはそんな意思が感じられる。
何も出来ない自分に対しての憤り。
それは、暴風雨のように、圭の心の中を荒れ狂う。
それでも圭は、部屋の中で待つしかなかった。
ここにいることが、自分の役目と信じて。
思いつめるような圭には、愛の小さな呟きは耳に入らなかったようだった。
「あさ美ちゃん、安倍さんたちを見つけられるかな……」
「今、先生を呼びますね」
それが、目覚めた彼女が初めて聞いた声だった。
白衣を着込んだ女性看護師。少し前なら看護婦と呼んでいたはすだ。
看護師が出て行くと、彼女は体を起こし、室内を見回した。
清潔感はあるけれど、無個性な部屋。
看護師がいた事を考えれば、ここが病室であることは容易に想像がつく。
室内の確認が済んだら、今度は体をぺたぺた触りだす。
顔の形、髪の長さ、胸を大きさ、腕の太さ、腰の細さ、脚の長さ。
やがて、小さく溜息をついて、ベッドに倒れこむ。
見知らぬ天井は、限りなく無個性、無機質で、彼女の不安を掻き立てている。
「目が醒めたようですね」
ボーっとしていたせいか、気がついたらベッドの脇に白衣の男性が立っていた。その後
ろにさきほどの看護師が立っている。
白衣のボタンをきっちりと留めた彼は、どこか作り物めいた印象を受ける顔を、どうや
ら笑顔に崩しているらしい。表情が読みにくい顔だ、というのが、彼に対する彼女の第一
印象だった。
白衣の胸につけられた名札には『クサナギ』と書いてある。
クサナギは彼女の手首を取り、脈を計りながら、
「自分の生年月日と名前を言えますか?」
と、尋ねてくる。
彼女はその作り物めいた表情を見たまま、
「1981年8月8日生まれ。飯田圭織です」
と、答える。
その答えに、クサナギの表情が、一瞬、こわばるのを感じ取る。
彼女の顔を奇妙な目でちらりと見、しかし、表情をすぐに笑顔に戻し、
「脈も安定してますし、大丈夫でしょう。一応、検査結果が出るまで、入院していただく
ことになりますけど」
「みんなは、どうしたんですか? 私たち、事故にあった、と思うんですけど……」
クサナギは看護師と顔を見合わせ、
「別の病院に運ばれました」
やはり、作り物のような笑顔で答えた。
「そうですか……」
「今日はゆっくり休んでください。一日も早く快復して、皆さんに会いに行きましょう」
その声はあくまでも優しく、計算されたように、優しい声だった。
彼女はその声に答えず、目を閉じる。
その彼女を、自分の言葉を素直に聞き入れたと判断したクサナギは、看護師とともに、
部屋を後にした。
二人分の足音が部屋を出たのを確認すると、彼女は目をあける。
その目には、鋭い光が宿っている。
決意。
その光に名をつけるなら、それが最も相応しい。
「安倍さんを、捜さないと……」
彼女の呟きは、世界から切り離された部屋の中で、確かに存在の主張していた。
強い感情がこめられたその声は、彼女自身の心にも響く。
彼女、紺野あさ美の心にも。
川`〜`) 「・・・・・・」
川o・-・) 「・・・・・・」
川゜皿゜) 「・・・・・・」
川o・∀・) 「・・・・・・」
川゜〜゜) 「じゃ、まかせたよ、紺野」
川o・-・) 「はい。ちゃんと言われた通りに」
(;〜^◇^) 「オ、オチ! オチはどこ!?」
次回『水鏡』
というわけで今回はここまで。
分割の話をあらかじめ知ってた内部のものではないのであしからず(ワラ
177 :
名無し募集中。。。:03/02/13 02:12 ID:0tSdJ184
内部のもの
*・゜゚・*:.。. . 『匣庭の天使像』 目次 *・゜゚・*:.。*
*
>>42-59 一話「寓話」 *
* [01.07更新](
>>96 次回予告) *
*
>>98-106 二話「way out」 *
* [01.14更新](
>>107 次回予告) .*
*
>>129-138 三話「荊」 .*
* [01.29更新](
>>139 次回予告) .*
*
>>152-161 四話「雲路の果て」 .*
* [02.11更新](
>>162 次回予告) .*
*
>>169-174 五話「樹海の糸」 *
* [02.13更新](
>>175 次回予告) .*
*・゜゚・*:.。*・゜゚・*:.。*・゜*゚・*:.:.。*・゜゚・*:.。*・゜゚・*:.。*
更新乙です!!わくわくどきどき……
交信乙です!
クサナギはやっぱクサナギですか?
>>175 いや、ちゃんとヲチてますよ。ワラタ
ほぜむ
182 :
ななす:03/02/16 22:05 ID:ZcUbm6g8
金ダム少々がああああ.
は早くうpしてえええ。
ほ
ちょっと時間をくれ〜
いきなり詰まった〜(ワラ
>>作者
いちいちレスに“(ワラ”つけるなよな。
読者をバカにしてる感があるぞ。でも作品はいいからこれからも読んでやる。(ワラ
第6回『水鏡』
「それじゃ、お大事に」
室内へ笑顔を向け、ムロイが退室した。
しかし、その表情は戸が閉まると同時に、強張る。
「どうでしたか?」
声をかけたのは、クサナギだった。ムロイだ退室してくるのを、病室の前で待っていた
らしい。
病室の住人は、彼の担当、イイダカオリだ。
ムロイは彼女のカウンセリングを終えたところだった。
「それは……まだ、結論を出すには早い、としか言えないわ」
ムロイの表情は、硬く、クサナギは、自分の考えが正しかったとしか思えない。
「ともかく、今日の会議で報告します。はっきりとした結果が出るまでは、進めない方が
いいわ……」
「……分かってます」
ムロイの意見に頷きはしたものの、クサナギは悔しげに目を伏せた。
そんな彼の肩を叩き、ムロイはその場を後にする。
その表情は、深く、重い影がかかっているようだった。
それはまさに、死刑宣告を受けた罪人のものだった。
薄暗く、静かな部屋で、それは行われている。
そこに集まっている人間は、5人。
全員が清潔そうな白衣姿だ。
一人目は、アベナツミの担当、タナベ。
「以上が、アベナツミの経過報告です。予想よりやや早く、ニイガキリサが現れています
が、表層に出現したのは一度だけでした。依然、ヤグチマリが表層人格として、安定して
います」
書類を読み上げつつ、タナベは満足げに微笑んだ。
満足げに微笑んだのは彼だけではなく、指を絡ませて車椅子の背もたれに見を預けてい
る二人目、フクヤマもまた、同じ表情だった。
そして、いつも通りの他人を蔑んだような笑みで、
「クサナギ君、イイダカオリの方に問題が発生したと聞いているけど?」
三人目は、イイダカオリの担当、クサナギだった。
フクヤマに名を呼ばれると、一瞬、顔をこわばらせ、
「はい……予定では、オガワマコト、或いはコンノアサミが表層人格として安定するはず
が……」
「彼女はイイダカオリと名乗りました」
クサナギの言葉を奪ったのは、アベナツミ、イイダカオリのカウンセリングを担当
するムロイだった。
「と、いうことは、イイダカオリの方は失敗、ですか?」
フクヤマはムロイの報告に、眉を寄せる。
純粋に、失敗を憂いているようにも、報告を信用してないようにも取れる。
それにたいして、ムロイは、
「まだ、結論を出すのは早いと思います」
「と、いうと?」
ムロイの言葉に反応したのは、五人目の人物。
薄暗い部屋の中で、さらに暗い部分にいるその男は、他の四人の注目が集まると、照れ
ているのか、曖昧な笑みを浮かべる。
どこか爬虫類めいた印象を受ける。
ムロイはその表情に気圧されたように、一瞬、言葉に詰まる。
それから呼吸を整え、
「カウンセリングの結果、思考パターン、人格構造、記憶構成など、データは飯田さんで
あるという結果が出ています」
そこまで一息で言うと、ムロイは机に広げていた書類を閉じた。
それを見て、タナベは不思議そうに、言う。
「じゃあ、答えは出てるでしょう?」
ムロイの報告を聞く限り、それ以上、何を疑うべき点があるというのか、タナベには分
からなかった。
フクヤマにしても、結論はすでに出ている、といった表情だ。
「……ムロイ君の言いたいことは、つまりこういうことかな?」
口を開いたのは、五人目だ。
耳に心地よいバリトンが、部屋に響いた。
「何者かが、イイダカオリを演じている、と」
彼の言葉に、フクヤマとタナベは、ムロイに顔を向ける。
二人の表情は、驚愕に固まっていた。
それを聞いても、クサナギの表情は変わらない。いや、変わってないように見えただけ
で、心中は激しく動揺し、言葉も出ない、といったところだ。
「しかし、だとしたら、何の為に?」
タナベは硬い表情のまま、タナベが呟いた。
特に誰かに答えを求めているようではなかったが、ムロイは、重苦しい表情で、それに
答えた。
「可能性があるとしたら……この計画に気づいたから」
瞬間、空気が、止まった。
まるで、時間までも止まったかのような静寂。
しかし、それも一瞬のことで、
「ばかな! そんなことはあり得ない!」
フクヤマの声が、静寂を破る。
「だいたい、どうやってこの計画を知るというんだ? 記憶の処理は完璧だ。誰かが教え
ない限り、知りようがない!」
タナベも頷く。
それにはクサナギも同意見で、
「もちろん、僕はそんなこと教えてませんし、それに、目覚めてすぐにイイダカオリを名
乗ったんですよ? 誰かに聞くなんてこと、できるはずがない」
「それに、データは全てイイダカオリであると示しているんでしょう!?」
と、タナベがクサナギの言葉に続く。
「……ひとつだけ、彼女が飯田さんではない、という結果が出ているものがあります」
ムロイの言葉は、熱を持つ周囲に反して、冷静だった。
過ぎるほどに、冷たく、静かな声で、有無を言わせぬ鋭い目つきで、
「感情輪郭に、若干のズレがあります」
「しかし、若干では……」
あくまで否定しようというフクヤマの声を遮って、ムロイはさらに続けた。
「この結果は、飯田さんよりも、紺野さんのに近いものです」
空気が、再び硬質化する。
重苦しい空気を肺に吸い込んだ白衣の男たちが、表情を硬くする。
そんななか、ただ一人、笑みを絶やさぬ人間がいた。
「教授(プロフェッサー)・カガ、あなたのお考えは?」
笑みを絶やさぬ人間、カガと呼ばれた男は、そのままの表情で、ムロイの言葉を興味深
げに聞いていた。
ムロイに名を呼ばれ、カガはやはり笑顔のままで、立ち上がる。
「ムロイ君の考えが正しいのだとしたら、我々の計画は、次の段階に進むことが出来るか
もしれない、ですねぇ」
「では……」
どこか不安げな表情で、クサナギが呟いた。
「彼女から、目を離さぬように」
カガはそう言って、ドアへと向かう。
それを目で追う白衣の面々。
ドアの前で立ち止まり、カガはまるで祈りの言葉でも捧げるように、言葉を紡ぐ。
「我々は人類史上、最も神に近い場所にいるかもしれない」
(〜^◇^)「今回、メンバーの出番、一切なかったね」
川`〜`)「うん、そだね。でも、物語の核心っぽいじゃん?」
(〜^◇^)「核心ってゆうか……おおかた話しちゃったんじゃない?」
川`〜`)「分かってるのはうちらだけだって」
(;〜^◇^)「作者は?」
川`〜`)「書きながら考えるって」
(;〜^◇^)「ダメじゃん! そんなのダメダメじゃん!」
∬;´◇`)(;・e・)(そんなので、うちらの出番はあるのかな……」
次回『晴れすぎた空』
>>178 ごくろうさんです。
今後ともよろしく。
>>179 今回もワクワクドキドキだと嬉しい(ワラ
>>180 クサナギは草g剛だ。
「僕の生きる道」の感じな
>>182 金ダム少々って何かと思ったら、禁断症状か(ワラ
遅れてスマソ
>>185 ありがと。
おかげで助かったよ
>>186 ワラってごまかさせてくれ。
適度にならかんべんしてくれ。
その他、保全感謝。
思ったより時間食ったなぁ、今回。
次回もこんなペースかもしれんが、長い目で見守ってくだされ。
カガは加賀丈史のイメージで。「振り返ればやつがいる」の時の外科部長的。
ちなみに、ムロイの言ってる「思考パターン」だのなんだのは、
作者の妄想の産物で、実在したとしてもそれらとは関係ないものなのでよろしく。
ふけぇ…。
加護しく続きキボソヌ。
ハラハラドキドキ
保全
お待たせしております、『匣庭の天使像』第7回は、近日中に公開予定です。
皆様、今しばらく、お待ちください。
>>196 いつもご苦労さんです
>>199 @ノハ@
( ‘д‘)<はげちゃうわ!
実は深くないかも・・・
>>200 キリゲトオメ
次回もハラハラドキドキしてくれると嬉しい。
>>201 サンクヌ
第7回 『晴れすぎた空』
朝の日差しが、天使像の白い肌を輝かせ、真里は目を細める。
まるで本物の天使のように、それは光を反射していた。
噴水脇に設置されたベンチに腰を下ろし、光る天使を見つめる。
どこからか小鳥のさえずりが流れてくる。
都会の喧騒の中では決して味わえなかった安らぎと穏やかさが、呼吸するたびに肺に染
み渡り、体に溶け込んでいく。それを実感できる。
それを思えば、ここでの生活も、そう悪くない。
かさり、と草を踏む音で、真里は思考を中断させた。
音のしたほうへ顔を向けると、
「ムロイ先生……」
愛嬌のある笑顔で、ムロイがそこに立っていた。
「なぁ〜んだ、驚かそうと思ったのに、見つかっちゃった。鋭いね、真里ちゃん」
子供みたいな、いたずらっぽい笑みを唇に乗せ、ムロイはベンチに座った。
ここ数日、二人はずいぶんと親しくなっていた。
カウンセリング以外でも顔を合わせ、他愛もない話をするうち、ムロイは真里のことを
名前で(ちゃん付けで)呼ぶようになった。
「先生、ひとつ、聞いていいですか?」
「なに?」
「オイラ、ここに来てまだ他の患者さんにあったことないんですけど……」
「ああ、そのこと」
天使像にまぶしげな目を向けながら、ムロイは笑う。
「ここはね、特別病棟なのよ」
「特別、病棟?」
鸚鵡返しに真里が呟くと、ムロイは頷き、
「あなたのような有名人が、他の患者さんと一緒だと、いろいろと、ね、騒がれるでしょ
う? だから、一般の患者さんとは違う病棟にしてあるの。今は他に特別な患者さんがい
ないから、この病棟はあなたの貸切ね」
できそこないのウィンクをしながら、ムロイが微笑む。
見る人間を落ち着かせるような、安心感を与える笑顔だ。
そういえば、
(そういえば、なっちの笑顔もこんな感じだったかなぁ)
なつみの、この体の本来の持ち主のことを思い、真里の表情が翳る。
体から力が抜け、俯く。
「どうした?」
その表情に気づいたムロイが、気遣わしげに、真里に囁く。
「先生……」
「ん?」
「オイラ……退院できるのかな?」
空気が、止まる感覚がした。
ムロイの顔から、それまであった優しげな笑みも、気遣わしげな笑顔も抜け落ちた。
そこには、暗い影が寄生していた。
責め苦を負う罪人の顔。俯く真里に、その表情は見えていない。
ムロイの手が真里の肩に伸びる。しかし、置かれる寸前、何かに怯えるように引っ込め
られ、拳を作ってひざの上に置かれた。きつく結ばれた拳は、痛々しい。
それから決意したように顔を引き締め、深刻さを感じさせないように気をつけながら、
「正直に言えば、難しいでしょうね。あなたの場合、矢口さんとしても、安倍さんとして
も、今まで通りの日常生活を送ることは……」
それが、いつか、告げられるであろうことは、分かっていた。
けれど、実際にそれを聞いた、今の衝撃は、想像していた以上。
工事現場で使われる掘削機を直接脳に突っ込まれたような、重い上に激しい振動が、頭
蓋骨の内側に響いている。
それでも、
それでも真里は薄く笑う。
余裕があったわけじゃあない。
押しつぶされた感情が、出口を探している。それが、笑みという形で漏れ出しただけ。
「そうですよね。どっちの家に帰ったらいいのか分からないし」
冗談とも、本気とも取れないように、でもできるだけ冗談にして、空気を解きほぐそう
と、笑い混じりに真里は言う。しかしその笑いは、ずいぶんと湿度が高かったが。
湿っぽい冗談を聞いたムロイは、悲しげに眉を寄せる。
罪状を読み上げられる被告人。
彼女は間違いなく、罪を負っている。
しかも、真里に対して、深い罪悪感を感じている。
そして、それでも、罪を犯しつづけねばならない苦悩に、心を傷つけている。
「やっぱり、オイラはいない方がいいのかな。そうすれば、なっちは自分の家に帰れるし
……あ、でも、おマメもいるから、そう簡単じゃないか」
はは、と乾いた音が、真里の口から漏れた。それは声にすらなっていない。
ムロイの拳が、解けた。
ゆっくりと持ち上げられ、真里の肩を、力強く、掴む。
はっと、顔を挙げる真里。
その目には、強い意志の光を宿した、ムロイの顔が映った。
「それは、自殺するってことと同じだよ」
ムロイの鋭い意志が、真里の目から入って視神経を通り、脳髄を射抜いた頃には、ムロ
イは次の言葉を紡いでいた。
「あなたはね、安倍さんが救われたいと思って生み出された存在なの。だから、あなたは
あなた自身を救わないといけないわ! だって、それが安倍さんが救われるってことだも
の」
ムロイの目に浮かんだ光は、天使像がそうするように、朝の日差しを反射してキラキラ
していた。
真里はそれをぼんやりと見て、我知らず囁いた。
「オイラが、オイラを救う……?」
ムロイはわざとらしいほど大きく頷く。
「そうよ! そのために、そうなるための答えを探しましょう! どうすればあなたが、
安倍さんが救われるのか、考えましょう!」
力強いその声は、贖罪を求めているようにも聞こえる。
しかし、脳内をムロイの意志が駆け巡っている真里には、その響きに気づくことなく、
ただ、感情だけが加速されてゆく。
心臓がつかまれたように苦しい。
呼吸が、乱れる。
表情が、崩れていく。
瞳から、涙が、零れ落ちた。
頬を濡らす涙が、どこか心地よく感じられ、真里はそれを拭おうともせず、泣いた。
何かが、弾けたように、泣き続けた。
ようやく泣き止んだ真里の肩を抱いて、ムロイは病室まで付き添った。
真里の部屋は当然個室で、高級そうなベッドが部屋の中央に置かれている。
そのベッドの端に座り、真里は薄く笑う。ムロイはそれに笑顔を返す。
そんな言葉のないやり取りだけでも、真里の心は安らぐ。
しかし、ふっとムロイの表情が変わった。
なんともいえない奇妙な表情で、真里の胸の辺りを、じぃっと見ているのだ。
その視線を追って、自分の胸を見る。
「真里ちゃん、ボタン取れてるよ」
「ほんとだ……」
たしかに、入院着のボタンがひとつ、なくなっていた。外れているのかと思って触って
みたが、どうやら本当に取れているらしい。
「いつの間に取れたんだろ?」
病院から借りているものなので、少し、罪悪感が沸く。
「あとでウエハラさんに言っとくわ。新しいボタンを持ってきてくれるでしょ。うちの病
院のやつだから、替えはいくらでもあるから」
(替えのボタンだけ持ってこられても、オイラ、お裁縫苦手なんだけど……)
なんていう心の独白を聞き取ったように、
「ああ、大丈夫よ。ウエハラさん、裁縫得意だから」
ムロイは笑って言う。
真里としては、
「あ、そうですか」
なんて照れ笑いするしかなかった。
この時の真里は、自分が消えるかもしれないという事、周囲から拒絶されるかもしれな
いという事、そんないろんな事を考えなかった。考えられなかった。
たぶん、こんな生活もありだ。
おそらく待っているであろう、外での生活に比べれば。
(●´ー`)「なんか、前回の謎のシーンが一切、生かされてないね」
(〜^◇^)「うん、オイラの社会復帰への第一歩、て感じだよね」
(;●´ー`)「え? でも、体はなっちでしょ?」
(;〜^◇^)「でも、心はオイラだよ?」
(;●´ー`)「演じてるのはなっちだべ?」
(;〜^◇^)「なっちはオイラを演じてるんだから、オイラの社会復帰じゃん」
∬;´◇`;)(私もどっちが主役かなんて事を言い争ってみたい……)
川;o・-・)(まこっちゃん……このコーナーには結構出てる……)
次回『ポロメリア』
あんまりハラドキな内容ではなかったな・・・
さて、次ははやめにあげられると思うんで、待っててくれ。
では、次回まで〜
こころがあったかくなりました♪
第8回『ポロメリア』
(ここも違う……)
病棟内を歩き回っていたあさ美が、頭の中で呟いた。
目を覚ましてから数日間、午前中は検査に潰され、病棟内を歩き回れるのは午後からだ
けだった。
窓から傾いた太陽の光が差し込む。
どうもここはおかしいことになっている。
どれだけ歩いても、病棟の外への出入り口がない。あるのは中庭に出るものだけだ。
中庭は四方を病棟に囲まれている。であるのに、どれだけ歩いても中庭を囲む病棟の2
面、L字型の部分だけしか歩くことができない。
あちら側に行くにはどうすれば良いんだろう?
こちらの病棟には、なつみどころか、他の患者が一人もいない……
(飯田さんの言った通りだ……)
だが、圭織に言われたのはこの状況までで、安倍さんがいるところがどこなのかとか、
この病棟の構造自体は分からないようだった。
だから、あさ美には病棟内を歩き回ることくらいしかできなかった。
何度目かの行き止まりに着いて、ふう、とため息をつくと、背後から声がかかる。
「どうしました?」
振り向くと、そこにはあさ美が目覚めた時、病室にいた看護士がいた。
不審な目を、あさ美に向けている。
「あ、えと、中庭に出ようと思ったんですけど、道に迷っちゃって」
と、照れ笑いを浮かべながら、言った。
自分にしてはうまく演じられた、と思う。
看護士は、ふ、と笑い、
「こちらですよ」
と言って歩き出した。
あさ美はそれに続く。
言ってしまった以上、結構です、とも言いづらい。
どうせなら、中庭のことを調べておこう。
先を行く看護士の背中を見つつ、そんな考えを巡らせていた。
中庭の出入り口で看護士と別れ、あさ美はそれまで作っていた柔和な笑みを消した。
我ながら役者になったものだ、と思う。
それを生かす機会は、おそらく永遠に訪れないことを少し、寂しく思いながら、あさ美
は夕日に照らされた中庭の歩道を歩いた。
まだ一度しか来た事はないけれど、手入れの行き届いた、不自然な緑に包まれている。
しかし、自然であろうと人の手によるものであろうと、緑は良い、とあさ美は思う。
ちょっとした森林浴気分だ。
中庭の空気を、肺いっぱい、体いっぱいに吸い込む。
圭織から頼まれていた、なつみ捜しの緊張が、少しほぐれた気がする。
思えば、目を覚まして以来、気を張りっぱなしだった。
少しだけ気分が良くなったあさ美は、中庭の調査などではなく、単純に散歩がしたくな
った。
石造りの歩道を歩きながら、くるくると辺りを見回す。
病棟の窓から見た通り、中庭の四方は白い壁の病棟に囲まれているため、夕日を反射し
て、まるで赤い光を閉じ込めたような、幻想的な光景が広がっていた。
(この石造りの歩道、病棟の窓からは見えなかったなぁ)
石の堅い踏み心地が、気分を弾ませる。そういうことも計算されているんだろうか?
そういえば、中庭から見る病棟の方も、壁は見えるけれど、窓は見えづらい。
何か、胸騒ぎのようなものが、あさ美の胸をよぎる。
緊張を忘れて散歩していたつもりが、結局、中庭の観察をしている。良くも悪くも真面
目な彼女らしい、といえばそれまでだが。
まるで隠されているような、計算され尽くした中庭の配置。
そんな暗い予感が、あさ美の思考を支配する。
やがて、水音が耳に届く。
中庭の中央にある噴水。それの音。
「わぁ……」
それは、あさ美の思考を中断させるのに、充分すぎる光景。
夕日に照らされ、白い肌の天使像が、赤く染まっていた。
まるで、もとからそうであったように、赤い天使が、そこに立っていた。
きらきらと光る水も、夕日の赤を掬い上げ、天使を称えている。
あさ美は幻想的な中庭の光景の中でも、とびっきりのファンタジーに、しばし、考える
ことを忘れて、感動していた。
導かれるように、誘われるように、天使像に近づいた。
噴水脇のベンチに腰を下ろす。
(ん?)
あさ美の感動は、ベンチに下ろしたお尻の違和感によって遮られた。
立ち上がり、ベンチを確認すると、そこにあった物を手に取った。
「飯田さん」
とっさに、手にしたそれを握った手の中に隠し、弾かれたように声の主に顔を向けた。
そこに立っていたのは、クサナギだった。
彼の着ている白衣まで、赤く染まっているのには、感動を通り越えて笑えてしまう。
「そろそろ、病室に戻る時間ですよ」
優しい声で、クサナギは促す。
「はい」
できるだけ感情を含めずに、答えた。
あさ美が自分の前まで歩いてくるのを待って、クサナギは歩き出した。
2、3歩先を行くクサナギの背中に向かって、あさ美は、
「あの、聞いてもいいですか?」
「なんです?」
立ち止まり、回れ右をしてあさ美に向き直ったクサナギが、不思議そうな表情を浮かべ
る。
「あの、他に患者さんはいないんですか?」
「ああ、そのことですか」
当然のような顔をして、クサナギが答える。
「ここは特別病棟なんです。政治家や、大企業の幹部、それから、騒がれたくない芸能人
の方の為の病棟なんですが、今はあなただけしかいないので、他の患者さんに会わないの
は当然です」
「そうなんですか、他に誰も……」
その言葉を、あさ美は頭の中でよく吟味する必要があった。
「さ、そろそろ、冷えてきますから。病室に戻りましょう」
「あ、はい」
クサナギに促され、あさ美は歩みを進める。
しかし、頭の中は彼の言葉の意味を考えるのでいっぱいだった。
自分の他には、患者はいない。
では、あさ美の手に握られている、これはなんなのだろう。
それは、彼女自身よく見るものだった。
クサナギに見えないように、そっと手を開く。
それは、ひとつのボタン。
あさ美が着ている、病院から与えられた簡素な入院着のボタンと、同じ物だった──
( ^▽^)「今回は紺野が大活躍だね」
(0^〜^)「今回はうちらの出番なしだね」
( ^▽^)「なんか、探偵物っぽくってわくわくしない?」
(0^〜^)「なんか、最終回まで森でさまよってそうでハラハラしない?」
(;^▽^)「もう! なんでそうやってチャチャいれるの!?」
(;0^〜^)「放置されてるのに、なんでそうやってはしゃいでいられるの?」
∬´◇`)(二人の放置され方なんて、まだまだだよね)
(;・e・)(私なんて、名前だけしか出てない……)
次回『焼け野が原』
第8回更新終了・・・
ハラドキしてくれたらいいんだが
次回はまたちょっとかかると思われ
ワク×2ハラ×2ドキ×2
225 :
:03/03/15 00:48 ID:ODyJOLlF
:ik
(●´ー`)< 保全 >(^◇^〜)
(●´ー`)<ほぜむ
ほ
229 :
,:03/03/19 11:50 ID:vPRwt9nx
229
すまんが、出張のおかげで
週末か来週頭まで更新できそうにない・・・
更新を待ってた方々には海よりも深く詫び入る。。。
では保金
わくわくしながら待ってます保全
保全しますね
謙虚な作者を待ちわびるスレはここでつか?
副題がすべてCoccoの曲名のままなのは何か意味があるのれすか?
第9回『焼け野が原』
気が付いたら見覚えのない場所に立っているのも、いいかげん慣れてきた気がする。
真里はぼんやりとそんなことを考えていた。
どうやら、トンネルのようだ。
それも、植物でできたトンネル。
奥へ行けばトトロでもいそうだな、と思いついて小さく笑う。
「矢口さん」
不意にかけられる声に、真里は飛び上がるほど驚いて、振り返る。
しかし、すぐにその声の持ち主に思い当たる。
「おマメ!?」
行方の知れなかった後輩、新垣里沙だ。
真里は里沙に駆け寄り、その肩を掴む。
「あんた、どこに行ってたの? 心配してたんだよ!」
「私なら、ずっとここにいましたよ」
「え?」
あまりにも当然のこと、といった風に、里沙は答える。
その答えに、気の抜けた返事を返してしまう真里。
「この前だって一生懸命呼んだのに、矢口さんぜんぜん気づいてくれないんですもん」
そう言って、小さな唇を尖らす。
そんな姿を、もう何年も見ていないような感覚で見ていると、里沙がふっと真剣な眼差
しを送ってきた。
突然の変化に戸惑いつつも、
「どうした?」
真里は問い掛ける。
「矢口さん、『外』のこと憶えてます?」
真剣そのものの表情でそう問う里沙だったが、真里にはその意味するところが分かりか
ね、眉を寄せる。
その表情で察したのか、里沙は軽くため息をついて、
「じゃあ、『前』のことは?」
「何言ってるの? 外とか前とか……」
さっぱりわけがわからない。
そんな言葉を返すと、里沙は俯いて、何か呟いている。
真里にはそれが聞き取れず、耳を傾けようとした途端、里沙が顔を上げ、
「じゃあ、ここで待っててもらえますか? 私が行ってきますから」
何か重大なことを決意した顔。
とても真里よりも年下とは思えないようなしっかりした声で、表情で、そう告げた。
「ちょ、どこ行くつもり?」
「『外』ですよ。それから、みんなを探して、外へ出るんです」
彼女の言っていることがさっぱり分からない。
けれど、みんなを探すという言葉には、なにか引っかかるものがある。
自分もそれを目的としていたはずだが……
「早くしないと……」
里沙が呟く。
追い込まれているような、切羽詰った人間が浮かべる表情で、彼女が歩き出した。
真里はそれを追いかけることができず、立ち尽くす。
引きとめようとするのだが、どういうわけかそれはしてはいけないような気がしてなら
ない。
里沙に任せるしか、それしか方法がない。
理屈ではなく直感、いや、それほど明確ではない漠然とした感覚で、察する。
「気をつけるんだよ」
遠くなっていく里沙の背中にかける、頼りない言葉。
振り返って、里沙が笑う。
年相応の少女の笑顔で、
「大丈夫ですよ! みんなも一緒ですから」
年不相応の力強い声で。
彼女は、トンネルの出口へと向かっていった。
そう、
そちら側が『外』であると、真里には分かっていた。
屋上にいる真里を見つけたのは、もうすぐ検査が始まろうとする時間だった。彼らはア
ベナツミと呼ぶのだが、どうしてもそんな気にはなれないムロイは、彼女を真里として認
識している。
フェンスを前にして立ち、中庭ではなく外を見つめているようだった。
ムロイは背後から驚かそうと言う、子供っぽいいたずら心を持って背後から忍び寄る。
しかし、
「ムロイ先生」
その思惑はあっさりと打ち破られた。
「真里ちゃん、ほんとに勘が鋭いねぇ。かくれんぼの鬼とか強くなかった」
軽口で近づくムロイだったが、振り返った彼女の表情を見て、浮かべていた笑顔が奥の
方にに引っ込んでいく。
「真里ちゃん……?」
それがまるで別人のように見え、ムロイは一瞬ひるむ。
しかし彼女は、ムロイの呼びかけにまるで反応せず、口を開いた。
「ムロイ先生、飯田さんはどこですか?」
それは、あってはならないはずの、ありえないはずの言葉。
驚愕と同時に恐怖が湧きあがる。
肌が粟立つ。
呼吸が乱れる。
「何、言ってるの? 彼女は……」
「ここに、この研究所のどこかにいることは分かってるんです」
病院ではなく、研究所。
そう、たしかにここは病院などではない。
けれど。
けれど、それを彼女が知るわけがない。
「あなた、真里ちゃんじゃないの?」
データでは統合適正は低いが、表層安定率が高かったのは、ヤグチマリと、もう一人。
「……新垣、さん?」
ムロイの言葉に、彼女はゆっくりと、頷いた。
しかし、だからと言って、そんなことはありえない。
記憶の処理は完全なはず。
だから、彼女が憶えているわけがない。
ないはずなのに……
「あなたなら、協力してくれますよね」
「まさか、あなた……」
そんなはずない。
そんなわけない。
そんなこと、あってはならない。
けれど、そう思いつつも、それがありえている現実を理解してしまっていた。
そして、それを肯定するように、彼女は、頷く。
「憶えてます。『前』の実験のこと、あなたたちが何をしようとしているかも、あなたが
間違いに気づきながら、あの人たちに協力してることも」
それは、死刑宣告と似ていた。
ムロイは、自分に残されている道は、ひとつしかないと悟った──
( ・e・)「やりました矢口さん、センターです!」
(〜^◇^)「やったな、おマメ!」
( ・e・)「はい! この調子でもっと活躍したいです!」
(〜^◇^)「おお、その意気だ! けど、オイラの出番も残しとけよ!」
( ・e・)「一緒にがんばりましょう!」
(〜^◇^)「ところで、おマメのAAって、まゆげないよね」
(;・e・)「そういえば、トレードマークなのに!」
∬´◇`)(おマメはいじりどころ満載でいいなぁ……)
次回『雨ふらし』
山が動き出しましたね。
保
豆は何を知ってるんですか?ハラドキっす!!
(●´ー`)<次も楽しみに待ってるべさ
(〜^◇^)<わくわく♪
252 :
:03/04/01 13:10 ID:VtIdREy/
253 :
、:03/04/01 22:37 ID:Takjfm6c
ほ
ho
256 :
;:03/04/04 15:43 ID:OfS/XThn
l,/
保
第10回『雨ふらし』
朝から続く検査が一段落し、もうすぐカウンセリングの為にムロイが来る頃だろう。
指の先でボタンをもてあそび、あさ美は溜息をついた。
自分の入院着と同じボタンを手に入れ、この施設のどこかになつみがいるであろうこと
は想像できるのだが、確信に至るだけの証拠がない。
それに、それを探そうにも、行動を怪しまれては、いったい何のために圭織を演じてい
るのか……
圭織から聞かされた話が真実ならば(間違いなく真実だろうが)、のんびりしているひ
まはないと言うのに、何もできていない自分が歯がゆい。
苛立ち、奥歯をかみ締める。
──トントン、とドアをノックする音。
「あ、はい」
ボタンをポケットに隠しつつ、あさ美はその音に応えた。
「失礼します」
そう言って入ってきたのは、予想通り(というか時間通り)精神科医・ムロイだった。
相変わらずの笑顔……とは言いがたい。
(あれ?)
どこがとは答えられないが、どこか浮かない顔をしていると言うか、いつもの笑顔に陰
がかかっている。いるように思う。
「どうかな、調子は……って、いつも聞いてるね」
などと軽口で近づいてくる。
それに薄く笑って答える。
「ええ、良いです」
いつも通りの会話。
ムロイに感じた違和感は、気のせいだったかもしれない。
だいたい、出会って間もない間柄で、多少の変化に気づくと言うのも、不自然な話だろ
う。
きっと気のせいだろう。
なつみ探しが進展しないせいで、気が滅入っているのは自分の方だ。それが相手の表情
を通して見えたんだろう。きっと。
あさ美はそう思うことにして、小さく溜息をつく。
今日もいつも通りのカウンセリングが始まる。
カウンセリングとは名ばかりの、データ収集が。
今のところは付き合って置かないといけない。
なつみを見つけるまでは。
ぼんやりと、しかし、しっかりと圭織としての演技をしつつ、ムロイの相手をしている
うちに、カウンセリングは終了した。
いつも通り。
いつも通り、終了するはずだったが……
「じゃあ今日は、これで終わり」
ムロイがそう言ってあさ美の手を握ってくる。
不自然だ。
違和感がある。
あさ美は圭織の手でそれに応えるが、その違和感に戸惑っていた。
「がんばってね」
「え?」
そう言い残して、ムロイはあさ美に背を向ける。
残されたのは激励の言葉と、手の中の紙片。
いったい何を意味するのか……
「じゃあ、私たちは……」
自分のいる場所、置かれている状況、そして自分たち自身のことを教えられた麻琴は、
目が眩む思いがした。
視界が歪み、頬を濡れる。
しかし、麻琴は自分が泣いていることにすら気づかないほど、強烈な衝撃で頭を混乱さ
せていた。
「まこっちゃん……」
そんな麻琴の肩に手を置いて、慰める言葉を探すが、上手くまとまらない。なんと声を
かければ良いのか分からない。
そんな二人を見て、小さく溜息をついた圭は、
「泣いてる場合じゃないでしょ」
冷たく乾いた声で、麻琴に言い放つ。
愛は弾かれたように顔を振り上げ、圭を睨みつける。
「ほんな言い方しなくてもっ!」
射抜くような視線を平然と受けつつ、圭はさらに冷めた声を投げつけた。
「いい? 私たちは、自分が望んだ生き方をしたくて娘。に入ったんでしょ? こんなの
は、こんな状況は望んだ生き方じゃない。だったら、今、私たちがすることは、泣くこと
なんかじゃないはずよ」
そこまで言われて、愛が気づく。
保田圭というサブリーダーは、こんな状況に置かれていようとも、自分の役割を果たそ
うとしている。
そんな姿に打たれたのか、麻琴が顔を上げた。
泣き顔のまま、それでも、顔を上げて圭を見つめ返した。
それに満足したように、圭が微笑む。
瞬間、扉が開いた。
まるでそのタイミングを見計らったかのように。
『外』への扉が、派手な音を立てて開いた。
「あ、あさ美ちゃん!?」
「紺野……どうした?」
息を切らせて飛び込んできたあさ美の後ろで、扉が閉じる。
それを合図に、息を整え、
「安倍さんから、あ、いや、おマメから連絡がありました!」
「ど、どういうことっ!?」
圭は語気も荒く、あさ美に問う。
連絡があったことに驚いていると言うわけではない。いや、もちろんそれにも驚いてい
るのだが、それ以上に、どうやって連絡を取ったのか、そしてそれ以前に、どうして連絡
を取ろうと思ったのか?
つまり、以前のことを覚えているということだろうか。
圭織以外にも、『記憶の処理』を免れていたメンバーがいた……
「えと、ムロイさんがメモを届けてくれたんです」
「ムロイ?」
その名前を聞いて、圭の混乱していた思考が、わずかでも平静を取り戻す。
ムロイといえば、精神に関するデータを取っているはず。
であるならば、あさ美の演技に最も気づきやすい立場にある。
「何か企んでるってことは……?」
何かの実験の一環。
そう考えるのが自然ではないか?
「けど、たしかにおマメの字でしたし、こんなことをして、特別に得られるデータがある
とも思えません」
あさ美の言葉に、顎をつまんで考え込む圭。
たしかに、あさ美の演技に気づいたと言うのなら、わざわざそんな手の込んだことをす
る必要はないように思える。
娘。達が何かに気づいたと言うことを知れば、全員の記憶を処理してもう一度はじめか
ら実験をやり直せば言いだけの話だ。
だったら、これは。
けれど、確信を得ることができない。
情報が少なすぎる。
「で、そのメモにはなんて書いてあったの?」
思考を練っている圭の邪魔にならないように小声で、愛が聞いた。
けれど、その声は圭の耳にも届き、あさ美の顔を見つめ、言葉を待っている。
「『今夜0時、天使像の前』って書いてあった」
圭が見ていることに気づかなかったのか、同輩に語る口調で、あさ美は答えた。
時間感覚のないこの部屋では、0時までにどれだけの時間があるか分からない。
だったら──
「虎穴に入らずんば、ってヤツね」
意を決した圭が言うと、
「そうですね。行くしかないと思います」
あさ美が頷く。
「じゃあ」と口に出そうとしたところで、それはかき消された。
「あさ美ちゃん!?」
頷いたそのままの姿勢で、あさ美が前のめりに倒れこんだ。
麻琴と愛が、肩を抱き、体を起こすが、目を開ける様子はない。
それどころか、規則正しく胸を上下させている。
「寝、てる……?」
「疲れたんでしょ。休ませてあげよ」
落ち着いているように見えて、まだ子供なのだから、一瞬でも隙を見せられないような
状況では、神経をすり減らしても当然だろう。
しかし、このままでは。
「どうするんですか? 今夜0時って……」
愛の不安そうな声に、圭は考え込んだ。麻琴はどうしていいのか分からず、二人の顔を
交互に見ている。
「小川」
「は、はいっ」
愛に向けようとした顔を、慌てて圭に向ける。
「あんた、あのドアが開けられるか試してみて」
圭の言った意味を理解するのに、たっぷり10秒ほどかかって、
「そ、そんなっ! 私には無理です!」
「私にも高橋にも開けられなかった。あとは、あんたしかいないんだよ」
「で、でも……」
やっと止まった涙が、再び滲んできた。
そんなことが自分にできるはずがない。
意味や理由があるわけじゃない。
直感や予感なんて感覚でもない。
漠然とした不安と、それが引き連れてくる恐怖が、麻琴の心を萎縮させる。
圭から視線を外し、俯く。
「このチャンスを逃したら、次はないかもしれない。だから──」
麻琴に歩み寄り、震える肩を掴む。
「あんたがやるしかないんだ」
力強い言葉。
責めているわけではない、その言葉に含まれているのは、信頼。
それを感じ取り、麻琴は濡れた頬のまま顔を上げた。
「でも、ドアが開かなかったら?」
「そん時はそん時よ」
泣き顔の麻琴に、笑顔でウィンクを投げる圭。
ただでさえ濡れていた袖口に、さらに水分を含ませると、(かなり無理矢理だけど)笑
顔を返す。
「がんばってね」
麻琴の手を握り締めて、愛が少し心配そうに、けれど笑顔で応援する。
同期の応援に、元気を取り戻しつつある笑顔で頷き、立ち上がる。
『外』への扉の前に立ち、ノブをゆっくりと、少し、ほんの少し躊躇いがちに回す。
(回っちゃった……)
思うのも束の間、麻琴を青い光が包み込んだ。
まるで波打つように広がるそれは、懐かしいような新しいような、不思議な感情を呼び
覚ます。
そして──
∬;´◇`;)「うわぁぁぁぁぁぁぁん」
( `.∀´)「どうした? 小川」
∬´◇`)「どうも作者は私の泣き顔が好きらしいので、泣いてみました」
(;`.∀´)「そ、そう。良かったわね」
∬´◇`)「思ったより放置されなくて嬉しいです」
川;’ー’川(その分私が……)
(;0^〜^)(;^▽^)(……)
次回『星に願いを』
と言うわけで更新終了。
今回はこんな感じ。
>>247 いつもご苦労サンクヌ
>>248 山かぁ…
山くらい大きければ良いんだが
>>250 ニイガキは…まあ、そのうち(ワラ
ほぜん感謝
実は引越しがケテーイ。
今週中はまず更新無理。勘弁してくれさい。
できるだけ早くネット繋げて更新するでよ
*・゜゚・*:.。*・゜゚・* 『匣庭の天使像』 目次 *・゜゚・*:.。*・゜゚・*
* >42-59 一話「寓話」 .[01.07更新] *
* >98-106 .二話「way out」 .[01.14更新] *
* >129-138 三話「荊」 [01.29更新] *
* >152-161 四話「雲路の果て」 [02.11更新] *
* >169-174 五話「樹海の糸」 .[02.13更新] *
* >187-194 六話「水鏡」 ..[02.26更新] *
* >203-209 七話「晴れ過ぎた空」 [03.08更新] *
* >214-220 八話「ポロメリア」 [03.11更新] *
* >236-244 九話「焼け野が原」 .[03.26更新] *
* >258-271 十話「雨ふらし」 .[04.06更新] *
*. =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= *
* >96 >107 >139 >162 >175 >195 >210 >221 *
* >245 >272 次回予告集 *
*・゜゚・*:.。*・゜゚・*:.。*・゜*゚・*:.。*・゜゚・*:.。*・゜゚・*:.。*・゜゚・*:.。*
更新乙です
どんな展開になるのか蛍原ドキドキ
(〜^◇^)<小川がんばれ!
从●´ー`从<まけるなまこっちゃん!
保全
ho