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236名無し33 ◆TU/JllqeAU


      第9回『焼け野が原』
237名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/03/26 12:00 ID:UtDDf8uY

 気が付いたら見覚えのない場所に立っているのも、いいかげん慣れてきた気がする。
 真里はぼんやりとそんなことを考えていた。
 どうやら、トンネルのようだ。
 それも、植物でできたトンネル。
 奥へ行けばトトロでもいそうだな、と思いついて小さく笑う。

「矢口さん」
 不意にかけられる声に、真里は飛び上がるほど驚いて、振り返る。
 しかし、すぐにその声の持ち主に思い当たる。

「おマメ!?」
 行方の知れなかった後輩、新垣里沙だ。
 真里は里沙に駆け寄り、その肩を掴む。
 
238名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/03/26 12:01 ID:UtDDf8uY

「あんた、どこに行ってたの? 心配してたんだよ!」
「私なら、ずっとここにいましたよ」
「え?」

 あまりにも当然のこと、といった風に、里沙は答える。
 その答えに、気の抜けた返事を返してしまう真里。

「この前だって一生懸命呼んだのに、矢口さんぜんぜん気づいてくれないんですもん」
 そう言って、小さな唇を尖らす。
 そんな姿を、もう何年も見ていないような感覚で見ていると、里沙がふっと真剣な眼差
しを送ってきた。

 突然の変化に戸惑いつつも、
「どうした?」
 真里は問い掛ける。
 
239名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/03/26 12:02 ID:UtDDf8uY

「矢口さん、『外』のこと憶えてます?」
 真剣そのものの表情でそう問う里沙だったが、真里にはその意味するところが分かりか
ね、眉を寄せる。

 その表情で察したのか、里沙は軽くため息をついて、
「じゃあ、『前』のことは?」
「何言ってるの? 外とか前とか……」

 さっぱりわけがわからない。
 そんな言葉を返すと、里沙は俯いて、何か呟いている。
 真里にはそれが聞き取れず、耳を傾けようとした途端、里沙が顔を上げ、
「じゃあ、ここで待っててもらえますか? 私が行ってきますから」

 何か重大なことを決意した顔。
 とても真里よりも年下とは思えないようなしっかりした声で、表情で、そう告げた。

「ちょ、どこ行くつもり?」
「『外』ですよ。それから、みんなを探して、外へ出るんです」
 
240名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/03/26 12:05 ID:UtDDf8uY

 彼女の言っていることがさっぱり分からない。
 けれど、みんなを探すという言葉には、なにか引っかかるものがある。
 自分もそれを目的としていたはずだが……

「早くしないと……」

 里沙が呟く。
 追い込まれているような、切羽詰った人間が浮かべる表情で、彼女が歩き出した。
 真里はそれを追いかけることができず、立ち尽くす。
 引きとめようとするのだが、どういうわけかそれはしてはいけないような気がしてなら
ない。
 里沙に任せるしか、それしか方法がない。
 理屈ではなく直感、いや、それほど明確ではない漠然とした感覚で、察する。

「気をつけるんだよ」

 遠くなっていく里沙の背中にかける、頼りない言葉。
 振り返って、里沙が笑う。
 年相応の少女の笑顔で、

「大丈夫ですよ! みんなも一緒ですから」

 年不相応の力強い声で。
 彼女は、トンネルの出口へと向かっていった。
 そう、
 そちら側が『外』であると、真里には分かっていた。
241名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/03/26 12:05 ID:UtDDf8uY

 屋上にいる真里を見つけたのは、もうすぐ検査が始まろうとする時間だった。彼らはア
ベナツミと呼ぶのだが、どうしてもそんな気にはなれないムロイは、彼女を真里として認
識している。
 フェンスを前にして立ち、中庭ではなく外を見つめているようだった。
 ムロイは背後から驚かそうと言う、子供っぽいいたずら心を持って背後から忍び寄る。

 しかし、
「ムロイ先生」
 その思惑はあっさりと打ち破られた。
「真里ちゃん、ほんとに勘が鋭いねぇ。かくれんぼの鬼とか強くなかった」

 軽口で近づくムロイだったが、振り返った彼女の表情を見て、浮かべていた笑顔が奥の
方にに引っ込んでいく。
242名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/03/26 12:06 ID:UtDDf8uY

「真里ちゃん……?」
 それがまるで別人のように見え、ムロイは一瞬ひるむ。
 しかし彼女は、ムロイの呼びかけにまるで反応せず、口を開いた。

「ムロイ先生、飯田さんはどこですか?」

 それは、あってはならないはずの、ありえないはずの言葉。
 驚愕と同時に恐怖が湧きあがる。
 肌が粟立つ。
 呼吸が乱れる。

「何、言ってるの? 彼女は……」
「ここに、この研究所のどこかにいることは分かってるんです」
243名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/03/26 12:08 ID:UtDDf8uY

 病院ではなく、研究所。
 そう、たしかにここは病院などではない。
 けれど。
 けれど、それを彼女が知るわけがない。

「あなた、真里ちゃんじゃないの?」

 データでは統合適正は低いが、表層安定率が高かったのは、ヤグチマリと、もう一人。
244名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/03/26 12:10 ID:UtDDf8uY

「……新垣、さん?」

 ムロイの言葉に、彼女はゆっくりと、頷いた。
 しかし、だからと言って、そんなことはありえない。
 記憶の処理は完全なはず。
 だから、彼女が憶えているわけがない。
 ないはずなのに……


「あなたなら、協力してくれますよね」
「まさか、あなた……」

 そんなはずない。
 そんなわけない。
 そんなこと、あってはならない。
 けれど、そう思いつつも、それがありえている現実を理解してしまっていた。
 そして、それを肯定するように、彼女は、頷く。

「憶えてます。『前』の実験のこと、あなたたちが何をしようとしているかも、あなたが
間違いに気づきながら、あの人たちに協力してることも」

 それは、死刑宣告と似ていた。
 ムロイは、自分に残されている道は、ひとつしかないと悟った──
245名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/03/26 12:10 ID:UtDDf8uY

 ( ・e・)「やりました矢口さん、センターです!」
(〜^◇^)「やったな、おマメ!」
 ( ・e・)「はい! この調子でもっと活躍したいです!」
(〜^◇^)「おお、その意気だ! けど、オイラの出番も残しとけよ!」
 ( ・e・)「一緒にがんばりましょう!」
(〜^◇^)「ところで、おマメのAAって、まゆげないよね」
(;・e・)「そういえば、トレードマークなのに!」
 ∬´◇`)(おマメはいじりどころ満載でいいなぁ……)

      次回『雨ふらし』