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187名無し33 ◆TU/JllqeAU

      第6回『水鏡』
188名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/26 05:19 ID:+NKbd1AH

「それじゃ、お大事に」
 室内へ笑顔を向け、ムロイが退室した。
 しかし、その表情は戸が閉まると同時に、強張る。

「どうでしたか?」
 声をかけたのは、クサナギだった。ムロイだ退室してくるのを、病室の前で待っていた
らしい。
 病室の住人は、彼の担当、イイダカオリだ。
 ムロイは彼女のカウンセリングを終えたところだった。

「それは……まだ、結論を出すには早い、としか言えないわ」
 ムロイの表情は、硬く、クサナギは、自分の考えが正しかったとしか思えない。
「ともかく、今日の会議で報告します。はっきりとした結果が出るまでは、進めない方が
いいわ……」
「……分かってます」

 ムロイの意見に頷きはしたものの、クサナギは悔しげに目を伏せた。
 そんな彼の肩を叩き、ムロイはその場を後にする。
 その表情は、深く、重い影がかかっているようだった。
 それはまさに、死刑宣告を受けた罪人のものだった。
189名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/26 05:21 ID:+NKbd1AH

 薄暗く、静かな部屋で、それは行われている。
 そこに集まっている人間は、5人。
 全員が清潔そうな白衣姿だ。
 一人目は、アベナツミの担当、タナベ。

「以上が、アベナツミの経過報告です。予想よりやや早く、ニイガキリサが現れています
が、表層に出現したのは一度だけでした。依然、ヤグチマリが表層人格として、安定して
います」
 書類を読み上げつつ、タナベは満足げに微笑んだ。
 満足げに微笑んだのは彼だけではなく、指を絡ませて車椅子の背もたれに見を預けてい
る二人目、フクヤマもまた、同じ表情だった。
 そして、いつも通りの他人を蔑んだような笑みで、

「クサナギ君、イイダカオリの方に問題が発生したと聞いているけど?」
 三人目は、イイダカオリの担当、クサナギだった。
 フクヤマに名を呼ばれると、一瞬、顔をこわばらせ、

「はい……予定では、オガワマコト、或いはコンノアサミが表層人格として安定するはず
が……」
「彼女はイイダカオリと名乗りました」
190名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/26 05:22 ID:+NKbd1AH

 クサナギの言葉を奪ったのは、アベナツミ、イイダカオリのカウンセリングを担当
するムロイだった。

「と、いうことは、イイダカオリの方は失敗、ですか?」
 フクヤマはムロイの報告に、眉を寄せる。
 純粋に、失敗を憂いているようにも、報告を信用してないようにも取れる。
 それにたいして、ムロイは、

「まだ、結論を出すのは早いと思います」
「と、いうと?」

 ムロイの言葉に反応したのは、五人目の人物。
 薄暗い部屋の中で、さらに暗い部分にいるその男は、他の四人の注目が集まると、照れ
ているのか、曖昧な笑みを浮かべる。
 どこか爬虫類めいた印象を受ける。
 ムロイはその表情に気圧されたように、一瞬、言葉に詰まる。
 それから呼吸を整え、

「カウンセリングの結果、思考パターン、人格構造、記憶構成など、データは飯田さんで
あるという結果が出ています」
 そこまで一息で言うと、ムロイは机に広げていた書類を閉じた。
191名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/26 05:29 ID:+NKbd1AH

 それを見て、タナベは不思議そうに、言う。

「じゃあ、答えは出てるでしょう?」
 ムロイの報告を聞く限り、それ以上、何を疑うべき点があるというのか、タナベには分
からなかった。
 フクヤマにしても、結論はすでに出ている、といった表情だ。

「……ムロイ君の言いたいことは、つまりこういうことかな?」
 口を開いたのは、五人目だ。
 耳に心地よいバリトンが、部屋に響いた。

「何者かが、イイダカオリを演じている、と」
 彼の言葉に、フクヤマとタナベは、ムロイに顔を向ける。
 二人の表情は、驚愕に固まっていた。
 それを聞いても、クサナギの表情は変わらない。いや、変わってないように見えただけ
で、心中は激しく動揺し、言葉も出ない、といったところだ。
192名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/26 05:30 ID:+NKbd1AH

「しかし、だとしたら、何の為に?」
 タナベは硬い表情のまま、タナベが呟いた。
 特に誰かに答えを求めているようではなかったが、ムロイは、重苦しい表情で、それに
答えた。

「可能性があるとしたら……この計画に気づいたから」
 瞬間、空気が、止まった。
 まるで、時間までも止まったかのような静寂。
 しかし、それも一瞬のことで、

「ばかな! そんなことはあり得ない!」
 フクヤマの声が、静寂を破る。

「だいたい、どうやってこの計画を知るというんだ? 記憶の処理は完璧だ。誰かが教え
ない限り、知りようがない!」
 タナベも頷く。
 それにはクサナギも同意見で、
「もちろん、僕はそんなこと教えてませんし、それに、目覚めてすぐにイイダカオリを名
乗ったんですよ? 誰かに聞くなんてこと、できるはずがない」
「それに、データは全てイイダカオリであると示しているんでしょう!?」
 と、タナベがクサナギの言葉に続く。
193名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/26 05:32 ID:+NKbd1AH

「……ひとつだけ、彼女が飯田さんではない、という結果が出ているものがあります」
 ムロイの言葉は、熱を持つ周囲に反して、冷静だった。
 過ぎるほどに、冷たく、静かな声で、有無を言わせぬ鋭い目つきで、

「感情輪郭に、若干のズレがあります」
「しかし、若干では……」
 あくまで否定しようというフクヤマの声を遮って、ムロイはさらに続けた。

「この結果は、飯田さんよりも、紺野さんのに近いものです」
 空気が、再び硬質化する。
 重苦しい空気を肺に吸い込んだ白衣の男たちが、表情を硬くする。
 そんななか、ただ一人、笑みを絶やさぬ人間がいた。
194名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/26 05:34 ID:+NKbd1AH

「教授(プロフェッサー)・カガ、あなたのお考えは?」
 笑みを絶やさぬ人間、カガと呼ばれた男は、そのままの表情で、ムロイの言葉を興味深
げに聞いていた。
 ムロイに名を呼ばれ、カガはやはり笑顔のままで、立ち上がる。

「ムロイ君の考えが正しいのだとしたら、我々の計画は、次の段階に進むことが出来るか
もしれない、ですねぇ」
「では……」
 どこか不安げな表情で、クサナギが呟いた。

「彼女から、目を離さぬように」
 カガはそう言って、ドアへと向かう。
 それを目で追う白衣の面々。
 ドアの前で立ち止まり、カガはまるで祈りの言葉でも捧げるように、言葉を紡ぐ。
「我々は人類史上、最も神に近い場所にいるかもしれない」
195名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/26 05:45 ID:+NKbd1AH

 (〜^◇^)「今回、メンバーの出番、一切なかったね」
  川`〜`)「うん、そだね。でも、物語の核心っぽいじゃん?」
 (〜^◇^)「核心ってゆうか……おおかた話しちゃったんじゃない?」
  川`〜`)「分かってるのはうちらだけだって」
(;〜^◇^)「作者は?」
  川`〜`)「書きながら考えるって」
(;〜^◇^)「ダメじゃん! そんなのダメダメじゃん!」
∬;´◇`)(;・e・)(そんなので、うちらの出番はあるのかな……」

      次回『晴れすぎた空』