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170名無し33 ◆TU/JllqeAU

「飯田さんは、眠ったままですか?」
 愛は小川を下ろしながら、圭に問うた。
 ベッドは圭織が占領しているので、部屋の隅にあるソファに寝かせている。

「ん〜、さっき一回起きてなんかやってたみたいだけど、やっぱり圭織じゃないとダメだ
からね」
 ドアを閉めた圭が、愛の問いに答えた。
 愛はソファの、麻琴のそばに腰を下ろして、ふう、と溜息をつく。落胆の溜息。

「でも、いい知らせもあるのよ」
「なんですか?」
 圭の微笑みに、期待で顔が綻ぶ。

「紺野が見付かったの」
「ほんとですか!?」
「うん。ただし、あっち側、だけどね」
 圭はそう言って、困ったような表情で腕を組み、顎をしゃくる。
 その先に目をやる愛。
 愛が入ってきたドアと向かい合うように、それがまるで当然だと主張しているような雰
囲気さえ感じさせる、木製のドア。
 青い部屋に、対になるように、向かい合うドアの片割れ。
 圭はその先を指している。それが何を意味するものか、愛は理解できているつもりだ。
171名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/13 01:39 ID:YJAHvrsY

「事情は圭織が説明しておいたらしいから、あっち側のことは、当分、紺野に任せるしか
ないね」
「大丈夫やろか、あさ美ちゃん……」
 不安そうに呟く愛。
 同期の中では、一番おっとりしていて、テンポも遅くって、ちょっと、いや、かなりズ
レてて……そんな紺野に任せて大丈夫だろうか、という不安と、彼女自身の事を心配して
の思いが込められている。

 そんな愛に、
「ぼーっとして見えても、頭のいい子だから、何とかしてくれるでしょ」
 圭は励ますように、声をかけた。それは、愛のためだけでなく、自分に言い聞かすため
でもあったのだが。
 圭の言葉を聞いても、愛はまるで、その向こう側を見るような目で、ドアを見つめたま
まだった。

「私たちは、待ってるしかないんですね」
「……そうね。信じて、待つしかないのね」
 できることなら、今すぐ変わってやりたい。
 圭の声にはそんな意思が感じられる。
 何も出来ない自分に対しての憤り。
 それは、暴風雨のように、圭の心の中を荒れ狂う。
 それでも圭は、部屋の中で待つしかなかった。
 ここにいることが、自分の役目と信じて。
 思いつめるような圭には、愛の小さな呟きは耳に入らなかったようだった。

「あさ美ちゃん、安倍さんたちを見つけられるかな……」
172名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/13 01:41 ID:YJAHvrsY




173名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/13 01:43 ID:YJAHvrsY

「今、先生を呼びますね」
 それが、目覚めた彼女が初めて聞いた声だった。
 白衣を着込んだ女性看護師。少し前なら看護婦と呼んでいたはすだ。
 看護師が出て行くと、彼女は体を起こし、室内を見回した。
 清潔感はあるけれど、無個性な部屋。
 看護師がいた事を考えれば、ここが病室であることは容易に想像がつく。
 室内の確認が済んだら、今度は体をぺたぺた触りだす。
 顔の形、髪の長さ、胸を大きさ、腕の太さ、腰の細さ、脚の長さ。
 やがて、小さく溜息をついて、ベッドに倒れこむ。
 見知らぬ天井は、限りなく無個性、無機質で、彼女の不安を掻き立てている。

「目が醒めたようですね」
 ボーっとしていたせいか、気がついたらベッドの脇に白衣の男性が立っていた。その後
ろにさきほどの看護師が立っている。
 白衣のボタンをきっちりと留めた彼は、どこか作り物めいた印象を受ける顔を、どうや
ら笑顔に崩しているらしい。表情が読みにくい顔だ、というのが、彼に対する彼女の第一
印象だった。
 白衣の胸につけられた名札には『クサナギ』と書いてある。
 クサナギは彼女の手首を取り、脈を計りながら、

「自分の生年月日と名前を言えますか?」
 と、尋ねてくる。
 彼女はその作り物めいた表情を見たまま、
「1981年8月8日生まれ。飯田圭織です」
 と、答える。
174名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/13 01:45 ID:YJAHvrsY

 その答えに、クサナギの表情が、一瞬、こわばるのを感じ取る。
 彼女の顔を奇妙な目でちらりと見、しかし、表情をすぐに笑顔に戻し、
「脈も安定してますし、大丈夫でしょう。一応、検査結果が出るまで、入院していただく
ことになりますけど」
「みんなは、どうしたんですか? 私たち、事故にあった、と思うんですけど……」

 クサナギは看護師と顔を見合わせ、
「別の病院に運ばれました」
 やはり、作り物のような笑顔で答えた。

「そうですか……」
「今日はゆっくり休んでください。一日も早く快復して、皆さんに会いに行きましょう」
 その声はあくまでも優しく、計算されたように、優しい声だった。
 彼女はその声に答えず、目を閉じる。
 その彼女を、自分の言葉を素直に聞き入れたと判断したクサナギは、看護師とともに、
部屋を後にした。
 二人分の足音が部屋を出たのを確認すると、彼女は目をあける。
 その目には、鋭い光が宿っている。
 決意。
 その光に名をつけるなら、それが最も相応しい。

「安倍さんを、捜さないと……」
 彼女の呟きは、世界から切り離された部屋の中で、確かに存在の主張していた。
 強い感情がこめられたその声は、彼女自身の心にも響く。
 彼女、紺野あさ美の心にも。
175名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/13 01:46 ID:YJAHvrsY

  川`〜`)  「・・・・・・」
  川o・-・)  「・・・・・・」
  川゜皿゜) 「・・・・・・」
  川o・∀・) 「・・・・・・」
  川゜〜゜)  「じゃ、まかせたよ、紺野」
  川o・-・)  「はい。ちゃんと言われた通りに」
(;〜^◇^) 「オ、オチ! オチはどこ!?」

      次回『水鏡』