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152名無し33 ◆TU/JllqeAU

      第4回『雲路の果て』
153名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/11 02:53 ID:ZddJgLq1

 視界を覆うほど鬱蒼と茂る木々。
 葉の間を縫って射す光。
 どうやら自分が森の中にいることだけはわかる。
 けれど……

(どうなってんの……?)
 彼女、吉澤ひとみは、自分の置かれている状況を全くの見込めなかった。
 茫然自失。
 あまりにもおかしな風景は、彼女から思考力を奪い取る。
 前後の記憶が全くない。
 周囲を見回しても、あるのは視界を邪魔するようにそびえる木々ばかりだ。

「なんなの……?」
 呟いてみても、返ってくる答えはない。
 聞こえるのは自分の声と、不安で荒くなった呼吸だけ。
 耳鳴りがするほどの静寂が、森の中に満ちている。
154名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/11 02:53 ID:ZddJgLq1

 ……

 いや、何か聞こえた。
 耳を澄ましてみる。

 ……ぁ……のぉ……

 確かに聞こえた。
 人の声、しかも、聞き覚えがある人物の声。
 普段は耳障りにさえ思うこともある、少し高すぎる感のある声。
 その人物は──

「梨華ちゃんっ!?」
 ひとみは彼女の名を力いっぱい叫んだ。

 ……よっすぃーっ……

 応えた!
 間違いない。
 同じモーニング娘。のメンバー、石川梨華だ。
「梨華ちゃん、どこーっ!?」

 ……よっすぃーこそ、どこ……

 声のした方に足を向ける。
 よく考えれば、目印もない場所でどこにいるのか聞いたところで無意味なこと。
 声のした方に、したと思う方に歩いていくしかない。
 それで間違っていたら、なんてこと、この時のひとみは全く考えていなかった。考える余裕がなかったというのが、正確なところだが。
155名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/11 02:57 ID:ZddJgLq1

「梨華ちゃ〜ん!」
 声を上げる。
 返事を待つ。
 ……よっすぃー!
 さっきより近くなった気がする。近くなっている。

「梨華ちゃ〜んっ!」
 もう一度、彼女の名を呼ぶ。
 向こうが見つけてくれるかもしれない。
156名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/11 02:58 ID:ZddJgLq1

「……よっすぃー……」
 さっきよりも、はっきりと聞き取れた。
 かなり近いはず。
 もう一度、声を出そうとして、空気を肺に吸い込む。

「梨……」
「よっすぃー!」
「……華、はぁっ!?」
 背中に衝突してくる柔らかな物体。
 肺に溜め込んだ空気が一気に吐き出される。
 完全な不意打ち。その衝撃に耐え切れず、前のめりに倒れる。

「いったぁ……」
「よっすぃー!」
 倒れてもなお、抱きついているのは、捜し求めていた人だった。
 だが、ようやく出会えたことに喜ぶよりも、
「梨華ちゃん……痛いし重い」
 不満の方が先に出て、喜びなんてものは奥に引っ込んでしまった。
「だってだってぇ……」
「だってじゃなくって、とにかくどいて!」
 甘えた声でまとまりつく梨華を、払いのけるようにして立ち上がる。
 渋々、といった感じで、梨華は体を離す。
 心細かったのはひとみも同じだが、だからと言って背中にタックルを食らわすのは
どうかと思う。
157名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/11 02:59 ID:ZddJgLq1

「よっすぃー、ごめんね……」
「……うん、いいよ」
 背中はまだ、痛いけれど。
 ともかく、知らない場所で、知っている顔を見られるというのは、心強いものだ。

「ここ、どこ……?」
 梨華が問い掛ける。彼女も、どうして自分がここにいるのか、わかっていない様子だ。
 これでは、事態の解決には至らない。
「あたしだってわかんないよ」
 力なく、答える。
「どうしよう……」
「……」

 ひとみは、梨華の問いに対する答えなんて持っていなかった。
 どうしていいか分からない。どうするのがいいのか、わからない。
 一人でなくなっただけまし、とも考えられるが、梨華の表情を見ていると、不安が2倍
になった、とも感じられてしまう。
 見上げても見回しても、見えるのは木と木漏れ日。
 どこへ向かうべきなのか分からない。
 いったんは立ち上がったひとみだが、すぐにまた腰をおろす。下は土だけど、そんなこ
と気にならなかった。
 立っていることさえ不安だった。
 そんなひとみに、梨華が不安そうな顔を向ける。
 その表情と同じく、不安を訴えようと開かれた梨華の口はしかし、別の言葉を出すこと
になる。
158名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/11 03:01 ID:ZddJgLq1

(……)
「今、何か聞こえなかった?」
「え?」
 梨華が不思議そうな顔であたりをうかがう。
 それに倣ってひとみも耳を澄ます。

(……)
「ほんとだ……声、だよね?」
 ひとみの言葉に、頷く梨華。
 たしかに、誰かの声が聞こえた。
 誰か、いや、この声は聞き覚えがある。
 よく知っている、あの人の声。
159名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/11 03:07 ID:ZddJgLq1

「飯田さん、だよね……?」
 梨華がその名を口にする。
「うん、そうだった」
 モーニング娘。のリーダー、飯田圭織。彼女の声だった。少なくとも、二人にはそう聞
こえた。
「こっちだって……」
「うん、言ってた」
 一瞬しか聞こえなかった声。
 ぼんやりとしか聞こえなかったが、二人にはその意思がはっきりと感じ取れた。

「行こう、梨華ちゃん」
「うん!」
 立ち上がり、梨華の手を取るひとみ。
 さっきまでの不安は、嘘のように消えてなくなっている。
 それを不思議と感じることもなく、二人は歩き出す。
 それが森の奥か外かは分からないけれど、進む方向には確信を抱いていた。
 リーダーの言葉だから。
 おそらくはそれだけではないのだが、二人がそれを気に留める様子はない。
160名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/11 03:09 ID:ZddJgLq1
 はあはあと荒い息を吐きながら、愛は森の中を歩いていた。

「まるっきし、世話の焼けるんだからの」
 思わず故郷の言葉が出た彼女のその背には、同期の小川麻琴が眠っている。気を失って
いる、という表現がより正確だ。
 いかに小川がスレンダーな体型とは言え、同年代の女の子一人を背負って、しかも足場
の悪い森の中を歩くのは、運動に慣れている愛でもかなりの重労働だ。
 けれど、それももうすぐ終わる。
 愛の向かう先に、ドアが立っていた。
 森の中に、突然立っているドア。
 お伽話に出てくるように、大木にドアがついているわけじゃあなく、ドアだけがそこに
ある。
 愛はドアの前で麻琴を背負い直し、ドアに向かって、

「保田さぁん! 戻りました〜!」
 声をかける。
 しばらくすると、ドアが中から開いた。
 それに応え、中から出てきたのは、モーニング娘。サブリーダー、保田圭だった。
161名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/11 03:10 ID:ZddJgLq1

「おかえり。あ、小川が見付かったんだ」
「はい。寝とるけど」
「そっか。ま、とにかく入んな」
 圭はドアを抑えながら愛を促す。ども、と礼を言って中に入る愛。
 森の中にはドアしかないのだが、しかし、ドアの向こう側は森ではなく、青い部屋だっ
た。青空の青で塗られた部屋。
 部屋の中央には、ベッドが置かれている。
 そこには──
 規則正しく胸を上下させている、飯田圭織が、眠っていた。
162名無し33 ◆TU/JllqeAU :03/02/11 03:11 ID:ZddJgLq1

( `.∀´) 「あんたの福井訛りはあってんの?」
川’ー’川  「福井弁のサイトで調べたらしいです」
( `.∀´) 「方言は書けてもアクセントが表現できないのが辛いとこよね」
川’ー’川  「でも、訛りは抜けとるよ」
(;`.∀´) 「いいわね、そういうキャラが出来てて」
∬;´◇`;∬ 「セリフ、ヒトコトモナカッタヨ・・・・・・」
(;`.∀´)川;’ー’川「・・・・・・」

      次回『樹海の糸』