とんとん拍子で話しが進められてしまい、
つんく♂の居場所も聞けなかった俺は、単身エレベータで
1階に向かった。
一階に着くと、そこにはもうロボットの姿はなく、
だらしなくコードが垂れ下がっているだけだった。
「誰もいない…帰ったのかな?」
その時、出入り口付近で何やら
怒鳴り合うような声が聞こえて来た。
「…なんだろ?」
興味をそそられ近づいて見ると
何人かの警備員の制服を着た男達が、
誰かを両脇で抱え込んで、引っ張って来ているようだった。
先頭を歩いている警備員に見覚えがあった。
「歩部さん!!」
思わず叫んでしまう。
歩部さんも俺に気づいたらしく
軽く手を挙げた。
「なんかあったんですか?」
がっちり誰かを捕らえている二人の警備員に
なんとなく気まずさを覚えたので、
歩部さんだけに聞こえるよう、小声で聞いた。
しかし歩部さんはそんなの気にするでもなく
単調に答えた。
「ちょっとした問題があったんだYO
でもヨシザワには全く無カンケ〜イ!
ささ!お帰りDEしょう?お急ぎアルネー。」
最後の方で中国人になったのはいいとして、
歩部さんは明らかに作った笑顔を見せていた。
…辞めていく人間として
この会社の【裏】というか…大人な部分は
あまり見たく無かったので、俺としては
知らない奴が羽交い締めにされようが何されようが
知らん振りしてさっさと帰りたかった…
そう、今思えば帰れば良かったんだ。
少なくともこの時点ならまだ、帰れた。
もしかしたらそのままここを辞められていたかもしれない。
でも見ちゃったもんは仕方ない……(よなぁ?)
にっこりと、いびつな笑いを見せている歩部さんの後で
二人がかりで羽交い締めにされていたのは、
黒髪の少年…虚ろな目をした少年…
「…小川…くん?」