「えぇっと・・・誰から先に行けばいいやら…」
加護ちゃんはしばらくキョロキョロしながら当ても無く歩いていたが
不意に思い当たったらしく、小走りにこの部屋の中でも一番巨大な
スクリーンの方に向かいだした
「あ、いたいた!お〜い!飯田さ〜ん!」
張り上げられた声に気づき、巨大スクリーンの少し右寄りの位置にある
座席群から、一人の女性が振り返った。
あれ…この人…?
「吉澤さんですね?さっきの戦闘は御疲れ様でした。」
近くに行って、声を聞いてやっと思い出した
「あ…さっきの通信の人…」
戦いの最中、田代との通信が途絶えた時に
少しではあるが、お世話になった髪の長い綺麗なお姉さんだ。
飯田さんっていうのか…
「こんにちわ。本当は二号機の専属なんですが
あの時は、まぁ・・・オペレーター係の田代さんが一瞬動けなかったので
その間通信に割り込ませていただきました。オペレーターの飯田香織です!」
軽く会釈を交わしながら俺も自己紹介をする。
「あ、えっと、今回新しく入りました、パイロットの吉澤です。
その節はどうもです…。」
「でもねぇ…いくら急だったからって、田代さんもなにか履かせるべきだよね〜?」
ね〜?の部分を加護ちゃんに聞いて、飯田さんは困った顔をした。
「ですよね〜…」
加護ちゃんも困った顔で相づちを返したので、俺もさすがに気になった。
「あの…ところで、田代さんが動けなくなった理由って…?」
飯田さんは困った笑い見せて、
「ん、知らないんだったら知らないままの方がいいかもね…?
でもまぁ一つ言いたいのは、今度から緊急時に備えて、
常時下になんか履いてた方がいいよ!うん」
加護ちゃんも[うん]っと頷いたので
大体なんだか察しが付いた。
そう言えばさっきから、従業員さん達の目線がキツイ…
俺が冷や汗をかいてるのを見て、飯田さんは気を利かせて話題を変えてきた、
「オペレーターがマンツーマンで付いてるのは、試作機から二号機までの三機だけなの、
三号機と四号機は、アシスタントシステムの性能がかなり良いから、
オペレーターなんて必要ないの。」
この時、一瞬加護ちゃんの表情が曇ったのだが…
その時の俺は気がついてあげられなかった。
「でも、こまったときはアシスタントを通して香織とも繋がるし、
いざって時は、こっちから連絡するから安心してね!」
「はい!」
まぁ、辞めるんですけどね…
でもなんか、ちょっとここの雰囲気は好きだな…
俺の…ううん、ちっちゃい子なら誰でも持ってるヒーロー願望…
その理想的な姿が、ここに揃ってるんだもんな。
俺の心が少し揺らいでいる時、隣にいた加護ちゃんは
何かを話すための、話しの区切り目を探していたらしく、
それを今、ここに見つけたようで、
「じゃあ、飯田さん!私たち他にもいろんな人のとこ回るんで…」
と、唐突に切り出した。
「あら、そう…それじゃ、二人とも、これからも宜しくネ!
一緒に平和のためにガンバロー!!オーー!」
う〜ん…こういうチョット変わった人も、
秘密組織ではお約束なんだろうな…。
来た時と同じように加護ちゃんは手を振っていたが
どうも怒ってるようだった、
「…」
「どうしたの?加護ちゃん、ムスっとして」
加護ちゃんは、何でもないと言うように首を横に振った、
しかしその後小声で
「よっすぃ〜にじゃ…ないから…」
と言っていた。
じゃあ飯田さんに?なんか気の触るような事でも言ってたっけ?
加護ちゃんは俺の次に出る質問から避けるように、
「あ!あの人も紹介してあげる!」
と言って小走りに行ってしまった。
急いで俺も後を追っていくと、加護ちゃんは
自販機の前にいる、2mはゆうにあるであろう
ガタイの良い黒人の男性の前にいた。
「よっすぃ〜!この人は歩部さん!
警備員なの、見た目は怖いけど優しいんだよ!ねぇ〜。」
「NE〜!」
確かに愛敬のある笑顔で笑いかけては来ていたが、
やっぱりかなりおっかなかった。
「あなたが新しいパイロットの方デスカ?」
どこかぎこちない日本語で、はるか頭上から声がする
「あ、はい…」
「OH〜!やっぱり!加護サンもワタシも楽しみに待ってたんですYO!」
「お〜…そりゃどうも…」
こんなぎこちない会話をしばらく続けていたが、
またもや急に加護ちゃんが、話しにピリオドを付けて来た。
「えっと…よっすぃ〜、これで大体私が紹介できる人は終わったから…・
えぇっとぉ…あ、あと私、昨日から家帰ってないから、いったん帰らなきゃ!
うん、それじゃあ!多分、あとで私のケータイの番号とかも
教えられるはずだから、終わったら電話して…ね。」
「えっ?だってまだ二人…・」
そこまで言ったが、さっきの事もあったし
何か思う事でもあって、一人になりたいのだろう…
「うん!じゃあ後で電話するYO!」
「加護さん、お帰りですか?じゃあワタシも
仕事に戻りマス!出口まで送ってきますヨ。」
「うん、ありがと。よっすぃ〜!それじゃ、またね!」
「おぅ!気を付けて帰りなよ!」
振り返りざまに 「ごめんね…」
と、言い残して加護ちゃんは歩部と一緒に、エレベータの方に
歩いていった。
「さてと…」
こしにてを当てて、どうするかを考えていると、
思いのほか早く、次のイベントがはじまった。
「お〜!吉澤いたいた!あれ?加護ちゃんは帰っちゃったのか?」
「ん?あぁ田代…さんか。
加護ちゃんは今、帰りましたよ。
それより、用事は済んだんですか?」
さっきの飯田さんの話しを思い出して、
自分でも分かるくらい軽蔑の眼差しで田代を見た。
「まぁいいか…
そうそう!その[用事]が完成したんだ!
渡すから来てくれ。」
「あ、はい…」
さて、この時の俺は、
心のどこかで [やっぱりここにいたい!]
と、思っていたわけだけど…・。