吉澤鉄筋系。

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144THE・地蔵 ◆jizouMjYBU

「ほんとだ、ちゃんと銃口もついてる。」

「見とれてる場合じゃないぞ!
ネズミさんもいい加減痺れを切らしたらしい…」

銃を降ろして視界を開けてみると、巨大ネズミがこっちに向かって
のそのそと歩いて来ている

「遅いな・・・警戒してるのか?吉澤、一発撃ってみろ。」

メインモニターに向けてピストルもどきを構える。
仕事とはいえ生き物を殺すのはいい気分じゃない、
それがたとえ、人の命を奪うような凶暴な物でも…

っく…手が震える…
落ち着け、守るためなんだ!ごめんな

「死んでくれ。」

一気に引き金を引いた。

[タァン]

コクピットから聞いてるせいかもしれないが
独特な軽い音がした。

145THE・地蔵 ◆jizouMjYBU :03/01/12 16:10 ID:RsCf5t5p

「…あ、当たったか?」

撃つ瞬間、とっさに目を閉じてしまったので
弾道が解からなかった。

「あれ?ネズミは…?」

「馬鹿野郎!下だ!」

田代の声を聞いてすぐに下を向く、そして首はそのままに
上目遣いでメインモニターを見てみた。

「うっ…」

巨大なネズミの頭が今まさに尖がり帽子の胴体にぶつかろうとしていた。

[ズンッ]

重い衝撃が走り、グラリと機体が傾く
大きな音を立てて、今度は仰向けに倒れてしまった

「っ畜生!!」

立ち上がろうと腕を脇腹まで持っていくがその先が動かない。
ネズミが腹に乗ったままなのだ

「このヤロ・・・降りろ!」

もちろん頼んだ所で降りてくれない。
146THE・地蔵 ◆jizouMjYBU :03/01/12 16:11 ID:RsCf5t5p

[ガシ、ガシ]

硬い物がぶつかり合うような音がコクピットに響いた、

「吉澤!齧られてるぞ!早く振りほどけ!」

んな事言ったって動けないんだからしょうがない

「身動きが取れない…!」

だんだん音がでかくなってる気がする。

「まずいな…胸部ショットガンには弾が入ってないし…
味方機がもうすぐ着くはずなんだが」

すっかり忘れてた、味方、援護があるんだ。

「いつ頃到着するんだ?」

「一分前に発進した。もうそろそろ…」

一分前!?俺がここに来るのに10分はかかったのに…

[ベキッ、ベリィ…]

いやな音がして下の映像を見ると、
左胸の装甲が一枚、無残に剥がされていて、
残された一枚の薄い鉄板の、ネズミの歯にやられたと見られる
穴から、中の機械がむき出しになっていた。
147THE・地蔵 ◆jizouMjYBU :03/01/12 16:12 ID:RsCf5t5p

「南無三…」

そう口にした直後、突然軽い揺れと共にモニターから
ネズミの姿が見えなくなった。

「…・?」

取りあえず胴体を起こしてあたりを見渡し、
状況を確認する。

「ジィィィィィィッ!」

左から、奇妙な鳴き声が聞こえて、
首を向けてみる

そこには、生々しく脇腹から
血を流している先ほどの巨大ネズミと、
全身真っ白のボディに、真っ黒な腰のパーツが
美しく映えている、楕円形の頭をした巨人…いや、
ロボットが、お互いにらみ合って対峙していた。

148THE・地蔵 ◆jizouMjYBU :03/01/12 16:13 ID:RsCf5t5p

「到着したみたいだな。あとは[黒帯]に任せて、お前はそのまま待機していろ。」

「…うん…。」

田代の言葉を聞き流して、俺は
[黒帯]と呼ばれたロボットに視線を注いでいた。

始めに動いたのはネズミの方だった。
今まで見せなかった素早い突進で黒帯の白い機体に
飛び掛かった
しかしネズミが動いた瞬間、既に黒帯は地面を蹴って
高く飛びあがった。
目標を失ったネズミは前方にあった高層ビルにぶち当たる、
そこへすかさず、降りて来た黒帯がネズミの背中に向けて蹴りを入れた。

「ギィィィィィ・・・」

苦しそうな声を上げて、ネズミの体が更に深くビルのコンクリートに埋まる。

[シュゴォ!]

黒帯の肘から炎が噴き上がり、その反動を利用した
音速の正拳突きが、ネズミの頭を直撃した。

その間約5秒、本当に一瞬だった。
149THE・地蔵 ◆jizouMjYBU :03/01/12 16:16 ID:RsCf5t5p

しばらくピクピク痙攣していたネズミの足も
次第に静かになっていき、戦闘の終了を感じさせた…。

「よぉし!ご苦労さん。二人とも、テレビとかに細部まで見られないうちに
速やかに帰還しろ。」

それを聞いて、俺はようやく目線を黒帯達から外して、立ち上がった。
黒帯は尖がり帽子より背が低く、
こちらの悪役っぽいデザインとは違い、
丸っこく純白の顔立ちには、愛着さえ持てた。

ネズミが完全に事切れたのを確認してから、
黒帯はゆっくりと元はビルだったコンクリートの固まりから
右手を引き抜いた。

グロテスクに潰れたネズミの頭部を背景に
ゆっくりとこちらを向いた黒帯の姿は
幼いころ夢見ていた、無敵のロボット、そのままだった…。