「…来たぞ…五体目…。」
田代がそう言い終わる前に、加護ちゃんは側にあった警報ボタンを叩き押していた。
とたんに下からけたたましい音が響いた、おそらく地下ではみんな慌ててるに違いない。
「私、出ます!」
加護ちゃんがそう言って走り出そうとしたのを、田代が制した。
「[大耳]は今解体整備中だ!クソ!のんきに発進口でこいつ組み立てるんじゃなかった!」
田代はまだうろたえてる私の方を向き、
「こいつ、四号機は一応動ける!五人目!戦わなくていい、
他の発進口がまだ出来てないんだ!お前が出たらすぐに[黒帯]…三号機を出す!
それまで、逃げるだけでいい、出てくれ!!」
「え…で、でも・・俺…・」
今日来たばっかで、さらに俺からはパイロットになるなんて、
一言も言ってないんだぞ?
こんなのに乗れる訳…
俺がウダウダ考えている間に
今までどこに行ってたのだろう?
作業服や白衣を着た男性女性が忙しなく回りの機械をいじっていた。
「こいつの操縦は、どんな馬鹿でも出来るようになってる!
ようはセンス…才能の問題だ!お前にはそれがある!あるから呼ばれたんだ!
って言うかもう設定がお前になっちまってる!お前のサイズに合わせちまってんだよ!
アシスタントシステムからなにからな!乗るしか、守る方法はねぇんだよ!!」
「守る…?何を…」
「あぁ?てめぇにもあるだろ?守りたい物!ヒト!!
言っとくがあいつらは遊び来てるんじゃねぇんだ!うちらが持ってるもん探し当てるまで
暴れまくるぞ!」
ふと、頭の中に梨華ちゃんの顔が浮かんだ
梨華ちゃんは小川君と真っ直ぐ帰ったろうか?
今日は学校が休みだから、この辺をウロウロしていないだろうか?
「梨華ちゃん…」
一回だけだ、これに一回乗ったら、やっぱり無理です。
とか何とか言って辞めさせてもらおう。
設定したからって、ちょっと時間をかければ書き換えられるだろう
そしたらまた、別な娘を当たってもらえばいいじゃないか…
一回なら、いい経験だ。
…………ヨシ!!!
「・・・やってみます!」
「よぅし!じゃあオラ!ついて来い!」
加護ちゃんが俺の事を心配そうに見てる
「大丈夫だよ!ちゃんと見ててね!って言っても、俺は何にもしないんだけどさ!」
「怪我…しないでね…。」
「だいじょぶだいじょぶ!じゃあ!また後でね!」
そうだ、大丈夫!あんなちっちゃな中学生にも出来るんだ!
お姉さんである俺が、ビビっててどうする!
加護ちゃんに手を振りながら、田代と一緒にエレベーターに乗り込む
田代が5Fのボタンを押し、エレベーターは心なしかさっき乗った時よりも
早く、上に上がっていった。
[ピーン]
エレベーターの到着音が鳴り、ドアが開く、
そこには、さっきまでまで見上げるだけだった尖がり帽子の赤い顔があった。
「コクピットは口の中だ、ほら、取りあえず乗れ」
エレベータから降りると、意外と広い足場が設けられていて
四隅にちょこちょこっと、機械類が置いてあり、その回りを
五・六人の人達が忙しそうに行き来していた。
「田代、やっぱり吉澤使うんか?」
つんく♂だった。用事って、ここに来てたんだ
「他がいないんです。矢口はまだ帰って来てないんでしょ?
それにもう、サイズはこの娘に合わせちゃってますから、
書き換えには一週間かかりますし…」
「そうか…まぁええやろ、吉澤には確実に才能があるからな。
にしても、吉澤!」
「は、はい」
なんか誉められて、変に緊張しちまったよ…
「ありがとうな。実際チョット不安だったんや、お前、他の娘達と
ちょっと最初の反応が違ってたからなぁ…はは」
昨日の、ちょっと俺が発狂しかけた時の事を言ってるんだと解かって
恥かしかった。
「おい、もう時間がねぇ!簡単に説明すっから、乗れ!」
「じゃ、頑張ってな!」
そういうとつんく♂はくるりと向きを変えて、
白衣の人達が数人溜まっているパソコンの前に行ってしまった。
「ほら、早くしろぉ!」
田代氏急かされて、俺はついに、尖がり帽子の顔、2mの所まで接近した。
ここまで来ると顔だかなんだかわかんないな…
大口を開けている尖がり帽子は、パイロットが乗り込みやすいように、この、
飛び込み台みたいな搭乗口に、首を伸ばして(本当に伸ばして)顔をくっ付けていた。
まずは中を覗き込んでみる、別に口の中って感じじゃなかった
コードや機械器具が折り重なっている所に少しばかりのスペースがあり、
そこに座席が置かれていた
「思ってたより、ボタンとかは少ないんだね。」
「シンプルな方が使いやすいだろ?」
全くその通りだ。
俺は思いきって中に入ってみた、搭乗口の回りについている、
唇とも牙とも取れる装甲の裏には恐らくこれがこいつの視界なのだろう
座席を中心に200度ほど(微妙だな…)の弧を描いた長方形のスクリーンがあった。
左上にはこのロボットの状態を表すための計測器具がデジタル画面で現されている。
右上にもう一つ画面があったが、電源が入っていないのか
ただただ暗いブラウン管に俺のさえない顔が反射して映るだけだった。
そして、真ん中には小さな窓があり外の様子が肉眼で確認できるようになっていた。
「先ずは席につけ」
田代に言われるままに座席に座る。
「ベルトを締めて首輪を付けろ」
「く、首輪!?」
少し首を曲げて座席の右肩あたりを見てみると、
一本の細いコードで繋がれた金属質な首輪が掛けてあった。
「そう、それだ。大丈夫、自分で外せるようになってるから!早く!」
試しに外れるかチェックしてから俺はそれをはめてみた
「ちょっときつくない?」
「そんくらいでいいんだ。息が出来ないって事はないな?」
深呼吸をしてみる、呼吸するには影響ないみたいだ
首を動かす障害にもならない
「大丈夫・・・」
「よし、じゃあ今度は両腕を肩まで横についてるコントロールアームに通してくれ、
まぁ今こいつには左手はついてないから、入れるのは右だけでいいんだが・・・
カッコがつかんだろ?」
コントロールアームと呼ばれたそれは、鎧のような形をしていた。
上下からスライド式のパイプで支えられて中に手を入れると
自由自在とまではいかないが、関節が動かせるようになっていた
「それに連動して、腕や指が動くようになってる、その首輪もそうだ
お前の向いた方向にこいつの首も動く。
次ぎは足だ、足元に固定されてる靴に履き替えろ」
下を向くとプレ○テのアナログスティックのようなもの二本の上に
それぞれ靴が置かれていた、取りあえず履いていたローファーを脱ぎ、
その無機質な靴を履いてみた。
お、ぴったりだ
「ここらへんが一番重要で解かりにくい、よく聞けよ!」
俺はうんうん、と頷いた
「いいか?まずそのスティックを前に持ち上げながら倒して軽く押し込む。」
以外にも簡単に足が上に持ち上がるようになっていてそのまま前に倒して押し込んだ。
上に持ち上げるよりも下に沈めるのは弾力があるようだ。
「そう、それを左右交互にやって、歩く動きだ。」
「引っ張り上げないでそのまま前に倒したらどうなるの?」
「足を曲げて上げると言う動きをしない事になる、つまり足を引きずって歩く。
ちなみに押し込むと言う行為は地面を押す行為に当たる、
強く押し込めばそれに応じて高くジャンプだって出来る。
まぁ覚えちまえば普通に俺達が歩いたりしてるのと共通点があるからな
どんどん簡単になるはずだ。」
「ってことは…同時に引っ張り上げれば、しゃがめるの?」
田代がニヤリと笑った。
「物分かりがいいな、加護ちゃんはこれの原理を覚えるのに3ヶ月かかった。
そこまで仕組み理解できたならもう分かってると思うが
今と同じで右に持ち上げて右に押し込めば右に進んだり左に進んだりも出来る。」
「オーケー!わっかた!以外と簡単なのな。」
「口で言うのは簡単なんだよ!あぁ、それから、ベルトにもセンサーがついてるから
前にかがめばこいつも腰を折ってくれるからな。」
すごい・・・ホントに、こんなに自由に動かせちゃうんだ…。
「武器とかは?なにかないの?」
田代は少し苦笑いをした。
「何しろまだ作りかけなんでな、あんまり付けてないんだ。」
その時、田代の後ろから、さっきの技術者の一人と思われる女性の声が聞こえた。
「田代さん!五体目の[暴種]が、この地区の地下に侵入してきました!」
「解かった!よし、吉澤!後の説明は通信でする。
とにかくこれはまだ作りかけなんだ、武器もフル装備じゃないし
何せアシンスタントシステムが後一歩で詰めなかった。
無理はするなよ!すぐに味方が来るから、そいつに任せればいい!」
「わかった。」
アシスタントシステムと言うのが少し気になったが、
時間が無いらしいので聞くのは後にしておいた。
「じゃ、俺らも全力でバックアップするから、通信をしっかり聞いて、敵を見失わない
ようにしろよ!頑張れよ!」
「わかった。」
その時の田代は、なんだか始めて会社に出勤する
子供を見送るお父さんみたいだな。
そう思うとなんだか少し、田代に親しみがもてるような気がした。
[コクピット閉まります]
機械じみた女性の声がして、勢いよく尖がり帽子の口が閉じ
首が元の胴体の上へと縮まっていくのがわかった。
っと、その時いきなり
ブシュゥゥゥゥ と空気の音がして、腕が入っている
鎧の中が急に狭くなった。
「っう…・!!?」
一瞬、手が潰れるかと思ったら、すんでの所で止まった、
保健所とかにある、血圧を測る機械のちょっとソフトな奴を
腕全体にかけてる感じだ…
「すまんすまん。言ってなかったな、それは使用だから
そんなに心配すんな。」
右上の画面に田代の顔が映ってる
通信用の画面だったのか。
「もう電源は全部はいってるから、今は下手に動くなよ。
一つしかない発射口を早々ぶち壊したくない。」
[ハッチ開きます。]
ロボットの格納庫である建物が横にスライドするように開く、
久しぶりに外に出た気がした。
高い…いい眺めだ。
回りの景色がメインカメラの画面にパノラマに映る。
昼時の太陽の光を浴びて、赤い機体が光っているのが目に浮かんだ。
「目標は十二時の方向…そのまま真っ直ぐいけば鉢合わせできるぞ?
奴は今、見当違いなところで暴れまわってる。
ここらの住民は我が秘密企業が使えるの最初で最後の
避難警告を出して移動してもらってる。
[怪物が出ました!]ってな。
そろそろテレビカメラも回ってるはずだ、
これは我が社最初の国民アピールでもあるんだ!!
今までは戦闘の場所が海底だったり樹海だったりしたからな!
この作戦が成功するかしないかで俺らが正義の会社になるか、
銃刀法違反及び爆発物所持…その他もろもろの
犯罪をやらかしてる悪の大企業になっちまうかが決まるんだ!
気合い入れてけぇ!!!」
なるほどね…味方が来るまで突っ立てるんじゃ駄目なのか…
まぁこいつに乗るのも最初で最後なんだ、
「・・・カッコよくいこうぜぇ!」
さっきやったみたいに…右足を上げて…
すると思った以上に尖がり帽子の方の足が持ち上がってしまったらしく、
バランスを崩しそうになった、慌てて足を下げてバランスを保った。
「あぶねーあぶねー…でも、まず一歩だ…
田代…さん、今みたいなのでいいんでしょ?」
「……・・・・・・・・・・・・・・・・・・・……おー…・」
「…?田代さん?おーい!」
この時、俺は気づいてなかったんだ、
こっちからあっちの顔が見れるように、あっちからもこっちが見えている。
さらにあっちは、こちらを管理、監視する係でもあるのだ。
当然、このコクピットについてるカメラも一つじゃない訳で…
司令室のモニターで俺の初陣を見ていた加護ちゃんは、
頭を抱えていた。
「よっすぃ〜…・・・・・・・パンツ丸見え…。」
田代は俺がさん付けで呼んでやってるにも関わらず
「いやぁ…やっぱりあそこにカメラ置いて正解だった…
にしても、17才だろ?17才でまだこんなのはいてんだ…
…(・∀・)イイ!」
つんく♂も大画面で映し出されている俺のそれを見て
「ははっ…やっぱり他の娘と違うわ…!」
と、回りの男性作業員達に混じって意味の無い拍手をしている。
そんな事などつゆ知らず、俺はよろよろと歩いて
少しずつ敵に向かって行っていた。