452 :
書いた人:
かなり前に書いたのが、FDから発見されましたのではってしまいます。
・・・・・・時期がぎりぎりっぽいんで。
題名は「ユキノヒ」
453 :
書いた人:03/03/15 00:46 ID:TV1ALoBI
雪は、音を消して。
控え室の窓から見える1メートル四方の東京の街は、既に白い絵の具に浸され始めて。
止めることが怖いかのように絶えない雑踏や、車の騒音も、
今日は白色絵の具に塗りつぶされていた。
いや、確かに雪が消していたんだ。
雪は、音を消して降りつづけて。
454 :
書いた人:03/03/15 00:45 ID:TV1ALoBI
雪は、音を消して。
控え室の窓から見える1メートル四方の東京の街は、既に白い絵の具に浸され始めて。
止めることが怖いかのように絶えない雑踏や、車の騒音も、
今日は白色絵の具に塗りつぶされていた。
いや、確かに雪が消していたんだ。
雪は、音を消して降りつづけて。
455 :
書いた人:03/03/15 00:47 ID:TV1ALoBI
「・・・・・・雪、か・・・」
わざわざ音声にする必要なんて無いのに、思わず呟いてしまうのは、
「雪?」
「マジで?」
「おおぉ〜、かっけ〜!!」
「すごいねぇ〜」
いつも、どんな小さな声にでも反応してくれる仲間たちがいるから。
456 :
書いた人:03/03/15 00:48 ID:TV1ALoBI
窓辺に駆け寄ってきた、11人の仲間達に私は微笑みかける。
「ええ、雪・・・・・・ですね」
この人たちなら、例え私の声を雪が消してしまっても、きっと見つけてくれる。
そう信じて余りある、11人。
・・・・・・いや、みんな私の声に答えてくれた人たち。
そして
私はみんなの声に答えられたのだろうか、答えられているのだろうか?
モーニング娘。に入って1年経つけど・・・・・・どうだろう?
457 :
書いた人:03/03/15 00:50 ID:TV1ALoBI
「あ〜、東京大雪警報だって」
保田さんが携帯の画面を覗きながら呟いた。
「まぁ・・・・・・レコーディング大体終わってるからいいでしょ。
みんな終わったら、さっさと帰んないとダメだよ〜」
飯田さんの声に、そこそこから気の抜けた返事が聞こえる。
私はまだ窓の外を見ていた。
東京でこんな降り方を見るなんて。
まるで義務みたいに降る雪は、既にかなり積もり始めていた。
458 :
書いた人:03/03/15 00:51 ID:TV1ALoBI
・・・・・・雪合戦とか、したいなぁ。
北海道にいたころは散々やったこと。
あの頃は、私は雪が大好きだった。
いや、もちろん今でも好きだ。
でも・・・・・・・・・
いつからだろう?
心の隅で『雪が降ると、大変だなぁ』って、声が聞こえ始めたのは。
楽しかったはずの雪が、どこか面倒なものに感じられたのは。
459 :
書いた人:03/03/15 00:51 ID:TV1ALoBI
「紺野ちゃん・・・・・・北海道はもっと降るの?」
耳元で辻さんの抑えた声が聞こえる。
この控え室に雪が降っているわけではないけれど、
どこか辻さんの声も抑えて聞こえたのは、
多分、ぴんと張り詰めた冬の空気のせい。
「うん・・・・・・降るよ」
振り向いて返事をした私に、辻さんは満足そうに頷いた。
460 :
書いた人:03/03/15 00:53 ID:TV1ALoBI
「雪・・・懐かしい?」
「うん」
「じゃあみんなでさ・・・・・・・・・雪合戦、しようよ」
さっきの言葉は声に出さなかったはずなのに。
辻さんの提案にはっとする。
ニコニコと笑顔を湛えたままで、
でもどこか心配そうに、彼女は私の返事を待っている。
私が雪を見て、ホームシックにかかったとでも思っているのかな。
461 :
書いた人:03/03/15 00:54 ID:TV1ALoBI
私の沈黙を諾ととらえたのか、辻さんは飯田さんのところへ飛んでいった。
なにやら相談している。
まさかOKされるはずは・・・・・・と思っていたら、
意外と飯田さんや安倍さんがやる気まんまんで。
気がついたらモーニング娘。全員で、スタジオの屋上で雪合戦、ということになっていた。
勢い込んでコートを抱える辻さんに、保田さんが呼び掛けた。
「あぁ、でも辻」
「ん?」
「あんただけまだレコーディング終わってないでしょ?
待っててあげるから、雪合戦は終わった後、ね」
辻さんが機嫌を悪くしないように、気を使い使い話しているのが分かる。
でも、当の本人は・・・
462 :
書いた人:03/03/15 00:55 ID:TV1ALoBI
「・・・・・・じゃあ、私はあとから行く!」
大人の返事に、保田さんは目を丸くした。
辻さんの目は、堅い意志とそして暖かいものを秘めて。
それに押されたのか、
「どうする?圭織?」
「まぁ・・・辻がいいなら、いいんじゃない?
細かい所だけだから、30分もかからないでしょ?」
部屋を出る私たちに、辻さんは軽く笑って見せた。
・・・・・・その笑いが、私に向けられているように見えたのは、どうしてだろう?
463 :
書いた人:03/03/15 00:56 ID:TV1ALoBI
屋上の扉を開くと、頬に冷気が触れる。
その感覚が何だか心地よくて、私は目をつぶった。
充分に降り積もった雪の上を、一歩一歩踏みしめる。
足元を見ながら、ギュッギュッという音を身体中で感じた。
久しぶりの感覚。
・・・・・・・と、私の後頭部を、突然衝撃が襲う。
吉澤さんの投げた玉が、私に当たったから。
後から襲ってくる冷たさに構わず、私は足元から雪をすくって投げ返す。
・・・・・・それが合図だった。
464 :
書いた人:03/03/15 00:58 ID:TV1ALoBI
雪合戦に・・・ルールなんてなかったかな?
ただひたすら、雪を握っては投げるだけ。
時に石川さんに集中攻撃をして、
時に吉澤さんの固く握った球が当たって。
キレ気味の飯田さんのフォームは、なぜか異様に型にはまっている。
私も反撃しようと、素手で必死に雪を固めていた。
・・・・・・しまった。
手袋忘れちゃった。
465 :
書いた人:03/03/15 00:58 ID:TV1ALoBI
気づいた時には、もう私の手は真っ赤にかじかんでいた。
軽い痺れと、指先の内側から来る痒さ。
霜焼けかな?
20分近く手袋無しでやっていたのだから、当然といえば当然。
・・・・・・・・・・・・弱ったなぁ。
466 :
書いた人:03/03/15 00:59 ID:TV1ALoBI
「あ!のの!」
加護さんの嬌声で、飛び交っていた雪が一気に止まる。
その視線の先に、雪だるまみたいに着膨れした辻さんが立っていた。
「終わったよ〜。よかったぁ、まだやってて」
そう笑いながら、辻さんは私に黒い物を差し出す。
楽屋に忘れた、私の・・・・・・手袋?
467 :
書いた人:03/03/15 01:00 ID:TV1ALoBI
「あぁ!ありがとう!」
「紺野ちゃん、忘れちゃダメだよ・・・・・・へへ」
厚い布に包まれた私の手は、もうさっきのもどかしい感覚からは解放されて。
飯田さんや安倍さんに誉められて、辻さんは照れくさそうに笑っていた。
468 :
書いた人:03/03/15 01:02 ID:TV1ALoBI
・・・・・・・・・
更に30分もやっただろうか。
雪合戦が終わった頃には、もうみんな息をつかせていて。
猛烈な疲れも、どこか楽しくて。
上気する頬に、思わず手をあてた。
そうか・・・・・・
雪を煩わしい、なんて思っていたのは、私が東京で一生懸命になりすぎてたから。
北海道の時の感覚を忘れてた。
雪が降れば電車が遅れて、道が混んで・・・・・・
そんなことしか考えられなくなってたんだ。
469 :
書いた人:03/03/15 01:03 ID:TV1ALoBI
でも、私はいつでも戻れるだろう。
だってこの50分で、私は雪をこんなにも楽しいものだと思えたんだから。
また昔を忘れても、それを取り戻してくれる仲間がいるんだから。
一列になって、私たちは階段を下った。
470 :
書いた人:03/03/15 01:03 ID:TV1ALoBI
元のように控え室に戻り、みんなはそれぞれに上着を脱ぎ始めた。
私もストーブの近くに行って、凍えた身体を溶かす。
遅れて襲ってきた猛烈な疲れに、少し楽屋が静まり返っていた。
バン!
大きな音を立てて、入り口のドアが開かれる。
辻さんが私たちを見て、少し悲しげな目を向けていた。
「あぁ・・・・・・やっぱり、もう帰ってきちゃったんだ」
471 :
書いた人:03/03/15 01:05 ID:TV1ALoBI
「なぁ〜に言ってるの?一緒にさっきまでやってたでしょ?」
石川さんの言葉に、辻さんは大きくかぶりを振った。
「今、やっとレコーディング終わったんだもん」
「まさかぁ・・・・・・・・・みんな、一緒だったもんね?」
石川さんがすがるような目付きで私たちを見た。
それぞれに頷く私たちに、辻さんの瞳はますます悲しげになる。
頬を膨らませて、涙目になって。
でも・・・・・・
「なんや?辻?やっぱもう終わってたんか。
レコ長引かせてスマンかったな」
472 :
書いた人:03/03/15 01:06 ID:TV1ALoBI
辻さんの後ろから顔を出したつんくさんの言葉に、空気が止まった。
混乱した矢口さんがつんくさんに詰め寄る。
みんなが自分のいた状況をひたすら主張する。
収拾するはずのない喧騒。
辻さんは雪合戦にも、レコーディングにもいた?
一気に騒然とした控え室で、私は膝に置いた手袋を見た。
手袋はまだ濡れたまま。
473 :
書いた人:03/03/15 01:08 ID:TV1ALoBI
外を見ると、まだ雪が降っていた。
室内の喧騒以外は、外からは何も聞こえてこない。
雪は、音を消すから。
今度は私が、みんなの声に答えられるようにならなくっちゃ。
例え雪で言葉が消されても、絶対答えて見せるんだから。
474 :
書いた人:03/03/15 01:09 ID:TV1ALoBI
辻さんは・・・・・雪合戦だけじゃない、手袋まで、私の声に答えてくれた。
今、私の胸に、辻さんの声が痛いほど伝わってくる。
今なら答えられる。
今こそ、答えるときなんだ。
心の中で頷いて、私は辻さんの弁護をしに立ち上がった。
みんなが納得する言葉じゃ、到底ないとは思うけど。
今私に言えるのは、これなんだ。
475 :
書いた人:03/03/15 01:09 ID:TV1ALoBI
もう一度、みんなで雪合戦やりましょうよ、ね。
476 :
書いた人:03/03/15 01:11 ID:TV1ALoBI
「ユキノヒ」 おわり