284 :
書いた人:
・・・・・・・・・紺野あさ美 kei-ys14.00 外部電源への接続確認
−破損箇所の再確認−
・・・・・・メイン電源及び予備電源・・・修復済み
・・・両脚、未修復・・・
・・・・・・・・・両脚を除く全回路、起動可能
285 :
書いた人:03/02/16 03:24 ID:PHF1Kjt3
メモリーの保持だけに使われていたエネルギーが、
思考回路にまで流れ込み、私は意識を取り戻した。
まだ休眠状態にあることに、変わりないけれど。
286 :
書いた人:03/02/16 03:24 ID:PHF1Kjt3
まさか・・・・・・
私は闇の中で考える。
最後に保存されたメモリーを見る限り、最もあってはならない事態が生じている。
あの瞬間、二度と電源が入れられることはないと思っていたのに。
私は麻琴ちゃんを助け、そしてサスペンションライトの下敷きになった。
動力の主要部分が破損したから、電源を切ったのだ。
でも、壊れたことは問題では無い。
287 :
書いた人:03/02/16 03:33 ID:/h02MwjD
私が機械であることが、ばれた。
スタッフはいなかったから、麻琴ちゃんと会長、2人に見られている。
いくら何でも私の上皮の下にある骨組みを見れば、
事実を受け止めなければならないだろう。
・・・・・・それがどんなにおぞましいものであったとしても。
288 :
書いた人:03/02/16 03:33 ID:/h02MwjD
私が機械であったことが明らかになっても、モーニング娘。にいられるか。
答えは恐らく、NOだ。
いや可能性の樹形図をいくら広げてみても、Yesにはたどり着けない。
世界が・・・保田さんと私を放っておくはずはない。
いつか保田さんは言っていた。
『私の技術は、二足歩行ロボットの遥か上の成層圏を行っている』
だからこそ保田さんは考えられうる手段を使って、カムフラージュを行った。
289 :
書いた人:03/02/16 03:35 ID:/h02MwjD
それに・・・みんなが・・・
機械である私を受け入れてくれるはずはない。
保田さんは確かに私に対して、かなり人に近い扱いをしてくれていた。
勿論製作者として一線を引くことはあったけれど。
でもそれは、私が機械であるということを、最初から知っていたから。
290 :
書いた人:03/02/16 03:36 ID:/h02MwjD
今まで機械であることを隠し通していたのに、突然そのことを明かす。
しかも自発的にではなく、不慮の事故で明かさざるを得なくなった。
それでもみんなは表面的には、私を『紺野あさ美』として受け入れてくれるだろう。
だが私が機械であること、そしてそのことを隠していたことが、
大きく影を落とすことは明白だ。
291 :
書いた人:03/02/16 03:37 ID:zLe0V4ly
そして私自身、そんな娘。の中では目的を果たせないだろう。
『必要とされている限り、全力をもってみんなの役に立つ』
そんな感情を裏に持たれたままでは、無理だというものだ。
・・・・・・ん?
誰かが私の外部スイッチに触る。
いえ・・・・・・保田さんが、私を起動しようとしているのだ。
292 :
書いた人:03/02/16 03:38 ID:zLe0V4ly
・・・・・・・・・紺野あさ美kei-ys14.00 外部起動スイッチON
あらゆる回路に命令が下る、暖かい感触。
保田さん、あなたも分かっているはずです。
私はこの世界では、もう起動できないことを。
そうか・・・・・・本来の目的を果たすためじゃない。
・・・・・・事後収拾のために、私が必要なんですね?
それならばお分かりですね、保田さん。
これが最後の起動になることも。
293 :
書いた人:03/02/16 03:39 ID:zLe0V4ly
・・・・・・そうです・・・
私は機械。
ならば例え事後収拾でも、あなたが必要としている限り、
私は全力でお役に立ちましょう。
私を構成する全ての部品、全ての回路の皆さん。
最後のお役目・・・付き合っていただけますよね?
・・・・・・ありがとうございます。
私はあなたたちと一緒に仕事ができることを、誇りに思っていますよ。
294 :
書いた人:03/02/16 03:40 ID:zLe0V4ly
ゆっくりと目を開く。
いつもの調整室。
カーテンのすき間から、赤い光が差し込んでいる。
それが夕焼けなのか、それとも朝焼けなのか・・・・・・どうでもいいことだ。
「紺野・・・・・・おはよう」
295 :
書いた人:03/02/16 03:41 ID:7NvREpvc
枯れた声で呟く私の製作者。
眼鏡が光っていて、その表情を読みとるのは難しい。
でも・・・・・・憔悴しきっていることは、一目瞭然。
「おはようございます・・・・・・・・・私、どれくらい・・・」
「あれから、七日経った」
保田さんはこめかみに手をやりながら、答えてくれた。
多少その声に安堵の調子が混ざっているのは、私の応答が通常のものだったからでしょう。
296 :
書いた人:03/02/16 03:42 ID:7NvREpvc
「・・・・・・紺野、すまなかったな」
頭を下げる保田さんに、当惑する。
私が機械であることをご存知なら、分かるはずでしょう?
あくまでもロボット三原則を守っただけだってことを。
自分の目的が少しでも果たせて、嬉しいことを。
そして・・・そんな気持ちを理解してくれるはずの、唯一の人に分かってもらえない寂しさも。
297 :
書いた人:03/02/16 03:43 ID:7NvREpvc
いつもは・・・ここで私もキレて、微妙な空気になってしまう。
今日は保田さんの気持ちを理解してみよう。
彼女は何に『すまない』と思っているのか。
・・・・・・私に痛い思いをさせたから?
まさか、私が機械である以上、痛覚なんてものは人間並に不快には感じません。
・・・・・・最後の起動が辛い思いをするから?
機械は動き始めた瞬間から、止まる時が来ることを分かっています。
しかもそのことについて、人間みたいなセンチメンタルな心を持ちません。
みんな保田さんの頭脳なら、分かっているはずのこと。
298 :
書いた人:03/02/16 03:44 ID:7NvREpvc
「はぁ・・・・・・」
思考回路の努力にも関わらず回答が出なかったので、気が抜けた返事になってしまった。
保田さんも恐らく私の口から、それに対する的確な答えが出るとは思っていなかったのだろう、
すぐに次の話に移った。
多分『すまない』という言葉には、保田さんが自分自身に向けた悔悟の念があったのだろうか。
口調はいつもの通りだった。
299 :
書いた人:03/02/16 03:46 ID:tiPDHCwo
「お前が機械であることは・・・・・・小川と、会長にばれた」
「やはりそうでしたか・・・配線と骨組みが見えてしまいましたから」
「お前は怪我で、娘。を離れたことにしてある・・・・・・小川と会長には口止めをしてある」
「・・・それは、信用できますか?」
私の問い掛けに、保田さんの唇の端が釣り上がったように見えた。
さっきから充電器に腰掛けたままで、ずっと保田さんを見上げているから、
微妙な表情の変化が読みとりにくかった。
でも、この顔はあからさま。
300 :
書いた人:03/02/16 03:46 ID:tiPDHCwo
「ああ・・・大丈夫だ。安心しろ、小川は絶対秘密を守るって約束してくれた。
それに会長は・・・・・・まだこのことを明るみに出すことが、自分に有益か不利益か、
判断がつきかねているみたいだしな」
最後の言葉は吐き捨てるように。
日頃から保田さんが彼に対して抱いていた感情が、容易に分かる。
301 :
書いた人:03/02/16 03:47 ID:tiPDHCwo
「いずれにせよ・・・・・・お前をこのまま起動しておくことは不可能だ」
「はい。分かってます」
私の返事を聞いて安心したのか、保田さんは大きく息を吐いた。
機械である私が取り乱すはずなんてないのに。
それだけ保田さんも、私と人間との境界を見失っていたのでしょうか。
「うん・・・・・・あの二人が秘密を守るとして・・・同じことがいつ起きるか分からない。
今回はたまたま私が一緒にいたから良かったけれど、
いくらお前の能力を上げても、その危険からは永遠に解放されないから。
・・・・・・・・・・・・すまない」
もう一度、保田さんは頭を下げる。
302 :
書いた人:03/02/16 03:48 ID:tiPDHCwo
何に対して謝っているかは、まだ分からないけれど、
それでも『謝りたい感情状態にあること』は、辛うじて分かる。
「いいんですよ、保田さん。
これまでも十分、いろいろ出来たと思いますし・・・それに最後に、
まこっちゃんを助けることができましたから。」
「そうか・・・もっと早く、お前の反応能力を上げておければよかったが。
これも結果論だな」
そう言って苦笑い。
だいぶ割り切ることができてきたみたい。
303 :
書いた人:03/02/16 03:50 ID:VTEXVDij
「それで・・・今回起動なされたのは・・・どうしてですか?」
核心に、触れたようだった。
保田さんの眉が、ぴくんと跳ね上がる。
「うん・・・・・・世間には怪我で芸能活動を続行できないから、ってことで何とかする。
問題は二つあってな・・・・・・一つは会長だ。
あのオヤジ、引退の話をするなら紺野を同席させろ、って聞かなかった。
恐らく・・・・・・何か駆け引きを持ってくるつもりだろうな」
保田さんはそう言いつつも、目元が笑っていた。
勝てない駆け引きはしないつもりなのでしょう。
まぁ・・・・・そういうところの智恵は悪代官より賢いから、多分大丈夫でしょう。
会長の命が心配です・・・・・・合掌。
304 :
書いた人:03/02/16 03:50 ID:VTEXVDij
「・・・・・・それで、もう一つは?」
保田さんは私の前にかがみこむと、視線を同じ高さに合わせた。
一瞬下を向くと、言いよどみつつ話してくれた。
「ああ・・・実はな、小川のことだ。
外見上は気丈に振舞っているけれど、やっぱり親友が機械だったっていうのが、
かなりショックだと思う・・・それに、そのことを秘密にさせているからな。
心に掛かっている負荷は、かなりのものだろう」
「・・・でしょうね」
「だから・・・お前の電源を落としてしまう前に、最後にもう一度、
小川と話をしてやってくれ・・・大切なのは現状認識だ。
今のあいつには、現状を認識するだけのファクターが足りん」
305 :
書いた人:03/02/16 03:51 ID:VTEXVDij
まこっちゃんの顔を思い出す。
私に相談を持ちかけてきた、沈痛な顔。
一緒にお買い物をしていた時の、嬉しそうな顔。
ステージにいたときの、生き生きとした顔・・・・・・
多分・・・ダンスよりも歌よりも、そして今まで課されたどんな課題よりも、
私にとっては辛く、そして難しい課題だろう。
306 :
書いた人:03/02/16 03:52 ID:VTEXVDij
でもやってみよう。
私は機械なんだから。
与えられた責務は、必死になってこなせばいい。
その言葉を噛みしめながら、私は保田さんの目を見た。
「・・・分かりました。それが最後のお仕事なら・・・全力でやります」
その言葉に、保田さんは満足そうに頷いた。
「うん・・・よろしく頼むぞ」
「はい!」
立ち上がりかけた私を、慌てて保田さんが抑える。
「おいおい・・・・・・まだ脚は修理してないんだから。
今回は・・・これに乗ってもらうぞ」
そう言って車椅子に私を抱き上げてくれた。
307 :
書いた人:03/02/16 03:54 ID:rPykyvo9
「紺野・・・・・・それじゃ、行こうか」
「はい!」
私はこの時、保田さんは完全に製作者の顔に戻っていると思っていた。
でも気付かなかったのだ。
憂いを帯びた眉に。
涙を浮かべた目尻に。
308 :
書いた人:03/02/16 03:58 ID:rPykyvo9
10章が長くなりそうだったので、分けました。
今回はここまでです。
お読み頂いている方、ありがとうございます。
>>276 279
ありがとうございます。
一言って、味があって好きです。
>>278 ようやく海底到達ですな。圧縮も何とか免れた模様です。
>>277 279-282
保全してくださいまして、ありがとうございます。
=-=-=-=-=-=-= 紺野あさ美─kei-ys WORKING LOG SHORTCUT =-=-=-=-=-=-=
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>>36-50 . .第1章「キカイノココロ」 (2002.12.25) ver12.32 ***
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>>66-83 . .第2章「デジタル」 (2003.01.05) ver12.33 ***
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>>90-103 .第3章「シンパシー」 (2003.01.13) ver12.34 ***
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>>106-124 第4章「好き」 (2003.01.19) ver13.00 ***
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>>130-159 第5章「目的」 (2003.01.28) ver13.00 ***
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>>164-183 第6章「光は闇でこそ輝く」 (2003.01.29) ver13.00 ***
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>>189-216 第7章「美意識」 (2003.02.05) ver13.00 ***
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>>221-246 第8章「永続性」 (2003.02.11) ver13.00 ***
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>>250-272 第9章「いつか来るべき瞬間」 (2003.02.13) ver13.00 ***
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>>283-307 第10章「最終課題」 (2003.02.16) ver14.00 ***
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=-=-=-=-=-=-=-= ###Now Running/Condition:GOOD### =-=-=-=-=-=-=-=-=-=