「加護!!!」
『ししょぉ…げふっげふっ。きのぉは、ごめんなさい…。』
「あ、あのね、これ…」
『あ…。』
私は加護の前に履歴書を広げた。
『あかんの…正体がばれてしもた…』
「え??」
『神様とのお約束やねん…ばれたら元の場所にもどらなあかん…。
まだ若いうちに神様がくれたプレゼントやってん。憧れの…ししょぉのところへ。って』
「…憧れの?」
加護のからだが微かに光を帯び始めた。
私はそれが何を意味しているのか悟った。
「加護…消えちゃう…。」
『うちな、ずっとモーニング娘。が憧れやってん、入りたくってママにも内緒で
オーディション送った!けどな、ちょっとして、うち病気やってわかった。』
「なんの!?」
『心臓のやって。そんなにたくさん説明されなかったけど、うちきっともうすぐ…。』
「…そんな…。」
『本当のうちは大阪の病院のベッドでねてんねん、きっともう何日も。』
「……。」
『そやから…お別れや…。』
「え!待って!イロイロ…私なんか話したいことあったような…。」
『…へ…??』
加護の小さなカラダが光を放った。
「加護!待って!!!!」
『おおきに、ねぇ生まれ変わったら、うちししょぉの子供になれるかな?』
「なっ、なれるよ!!!ねぇ、ごめんね!昨日!!!」
『うちもごめんなさい、今度会ったらきっとたくさん話すんや。』
「当たり前だよ!!!加護…。」
ぱしゃっ!!!
水がはじけるような音がして、
加護が消えた。
光の粒がキラキラ、ベッドの上で光って消えた。
「加護ぉぉ…。」
私は次の日、市井ちゃんと話す決意をした。
逃げていたんだ、私は。
そりゃ市井ちゃんがいなくなるのは辛いけど…。
それでも加護みたいにいきなり離せなくなるのは嫌だ!!
加護はそれを教えてくれたの…??
「圭ちゃん、圭ちゃん、私ね、市井ちゃんと話すよ。」
「…ふぅん。」
「!なぁんだ、ほめてくれると思った!!」
「ばっっかねぇ。それが当たり前でしょ〜。あんたが聞かなかっただけ!」
「…ま、そなんだけどね。」
「あ、さやか来たよ。いっといでよ。」
「…うん、話聞いてくれてありがと。」
「ううん、…なんかあったの?」
「何で??」
「すっきりした顔!」
「…そうかなっ!大事な事を教えてくれた子がいたの!!」
「市井ちゃん。」
「…後藤…。」
「市井ちゃん、お話聞かせて!!」
「…うんっ!」
私たちは自販機が並んでいる前にある椅子に座った。
「なんか飲む??」
「じゃあ…くー。」
私はQOOのオレンジ。市井ちゃんはウーロン茶。
一口飲んで市井ちゃんが ふうっ と息をはいた。
「ごめんね、後藤になんにもいわなかったこと。」
「…私こそ…聞こうとしなかったし…。いつでも話せるって、思ってた。」
「うん。」
市井ちゃんはウーロン茶を口のところに持ってって、止まった。
「私ねぇ、シンガーソングライターになりたいんだ。」
「…うん。」
「自分の言葉でみんなに伝えたいの。」
「それは…娘。じゃ出来なくなっちゃったの?」
「うん。きっと私がメインになれる事はないわけよ。」
「プッチがあるじゃん!?」
「伝えたいもの違いかな。はは。」
市井ちゃんは止めていた缶を口につけてかたむけた。
「けどさ、シンガーソングライターになった時にさ。」
「うん。」
「自分の言葉でみんなに伝えられるの!わかる?」
「そりゃわかるけど…。」
「私は今からそれが楽しみでさぁ…。」
私は市井ちゃんをチラっとみて思った。
何て素敵な顔で笑うんだろう。
「う〜ん、止めても無駄だってわかった。」
「うん、わかってくれたか、ありがとう!」
「頑張ってよね!がんばらないと承知しないから。」
「当たり前でしょ、誰があんたみたいに生意気な子を育ててきたと思ってるの。」
「はは。」
「根性はあるからさ。母さん頑張る。ふふ。」
市井ちゃんが一息ついて言った。
「私がさ、今一番気がかりなのはあんただよ。」
「…私??」
「いい先輩になりなよ。」
「…うん。なる。」
「うん。よし。じゃあみんなのとこ戻るか!」
「待って、頭なでなでして。」
「…甘えん坊さんねぇ〜、おいで。」
市井ちゃんの手が頭をなでてくれる。
それがもうグッときてしまった。
「ひぐ。えぐえぐ。」
「もぉ〜。泣き虫さんなんだから…。」
「最後はっ、笑顔でっ、送りだすもん、えぐえぐ。」