泣くだけ泣いて、圭ちゃんと私は荷物の置いてある場所に戻った。
市井ちゃんのカバンはもうなくて
他のメンバーももう帰ろうとしていた。
辻ちゃんが心配そうな顔で私を見ていた。
「大丈夫。」
そういうと少しホッとしたような顔でお疲れ様です。と言って
帰って行った。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫…ほんと。」
「うん…じゃあまた明日の撮影でね。」
「お疲れ様。」
本当は誰かと居たかった。
本当は誰かに話を聞いていてほしかった。
帰れば…加護に会える。
「ただいま。」
しん、とした家の中。
ユウキはこんな時間までどこに行っているんだろう。
こんな日に限ってお母さんもお店らしい。
私は足早に部屋へと入った。
「…加護?」
返事がない。寝ているんだろうか??
「加護?」
もう一度呼んでベッドの方に歩いてゆく。
「…んん…」
「寝てんのか。…はぁ。」
もうあんなに泣くほどではなくなったけれど
冷静に考えれるようになったから余計辛い気がする。
確かシンガーソングライターになるためだっけ??
シンガーソングライターってなんだよ。
このままうちらと一緒にいて何がまずいんだよ。
ねぇ。なんでやめちゃうの?
ねぇ。なんで?
「ふっ…」
また涙が出てきた。
私が悪いだけ。
私はあのあと泣きつかれたらしく机につっぷして寝ていた。
それに気づいたのは朝方の事。
『…ぉ、ししょ、ししょぉ〜』
「んあ!?」
『風邪ひくで!』
「…加護、何で昨日寝てたの?」
『え?』
「あんた、居候の身でしょう?主人が帰ってくるまで起きてなさいよ!」
『…へ?』
「自分ばっかり話したがって何で私が話ししたいときだけ寝てんのよ!!」
『…ごめ、な、さ…』
加護が泣いた。
「あ…ごめ…ちがう…。」
最悪だ。もう何もかもが最悪だ。
あのあと私はメイクもしずに昨日帰ったカッコウのまま家をとびだした。
そういえば財布も携帯も置いてきちゃった。
「あはは。」
なぜか笑いがこみあげた。
多分加護は私を嫌いになっただろう。
もうあの楽しい関係には戻れないんだ。
妹が出来たみたいで楽しかったな。
市井ちゃんの話もきいてあげられなかった。
加護にもやつあたりしてしまった。
「あはは、私駄目駄目だ。」
私は歩いて事務所まで向かった。
今日は4時から。充分間に合うよ。
よく見てみるとサンダルだし、ユウキのだし。
ショップのウィンドウにうつる私はひどい顔をしていた。
「アイドル失格じゃん。」
無事に4時までにはついたものの酷い顔だった分
メイクさんに迷惑をかけ、結局は時間は押してしまった。
迷惑かけこだ、私は。
途中市井ちゃんが話しかけてこようとしていたのを
避けてしまった。
怖い、今は。怖いの。
市井ちゃんがいなくなるのも。加護に嫌われるのも。
撮影が終わって事務所に戻ると辻が声をかけてきた。
「後藤しゃん。」
「…辻、どしたの??」
「面白いもんが見れるのれす、こっちきてくらさい!」
私は辻にひっぱられるがままに連れて行かれた。
着いたのはいつもの応接室だ。
「何があんの?」
「これれす、すごいれすねぇ…。」
それはたくさんの履歴書とテープの山だった。
「これ…。」
「それな、オーディション落選したやつの。」
「つんくさん。」
「元気ないんやて??これみてみ、後藤には負けませんってのがいっぱいおる。
今の後藤じゃこの子ら負けてしまうかもしれんなぁ。」
「…。」
私は辻と一緒に履歴書に目を通した。
「この子、つぃとおないどしなのれす。かわいい。」
「おっ、辻、お目が高いな。その子最終審査までのこっとった子やねん。」
「どの子?」
私は履歴書を見て自分の目を疑った。
「その子なぁ…病気やったんやて、今入院してんねん、俺目つけてたんやけど。」
「こっ…これ、貸してください!お疲れ様でした!!!!!!!」
どうゆうこと?!だってこれ…。
加護じゃん!!!!!!